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モンスターサーヴァント  作者: 桑島ヨシカズ
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――今朝、××県××市内のホテルで、女性が血を抜かれた状態の死体が発見されました。

 警察は最近連続してる事件と同様の手口から、同一犯とみて、調べを進めております・・・・・・




 世間を賑わしている、“吸血鬼犯行事件”。

 ニュースでもワイドショーでも同じようなネタが取沙汰されているテレビ番組を、少々うんざりしながら、翠は眺めていた。

 とはいえ、他に話題がないのか、あることないこと風潮すれば視聴率取れるのか、全く別のことやるか、択一なのだろう。

 結果としてコメンテーターも昨日とは別の局で言っていたことを、翌日は他局で同じことを言う、の繰り返しなのだ。


「最初は九州だったけど本州にも来たんだ?」


 口調はまるで輸入船に紛れ込んできた危険外来生物の様な言い回しだった。


 所詮はそんなものだ。

誰しも自身に危険が及ばなければ、対岸の火事と同じだ。


 他人事と言っていられたのはこの頃までだった。ひと月もすると状況が変わった。



  ◇ ◇◇◇◇ ◇  



 雪川家の家族構成は義兄妹2名で構成されている。

 翠の両親は、まだ乳児の頃に事故死している。

 旅行の際、預けられていた父方の兄夫婦の家にそのまま引き取られた。

 翠の従兄であり、兄夫婦の息子である8つ離れた義兄は俊文といい、現在刑事職にあたっている。

 初給与で両親に旅行をプレゼントしたところ、弟夫婦と同様事故に巻き込まれて亡くなった。

 俊文は成人していたが、親類は義妹である当時十四歳の翠の扱いに困り果てていた。

 何処の家も引き取りを拒んだ。施設に送られる所を義兄が引き取り、今に至る。

 当時翠は親類の声に怯えて引き籠っていたため、経緯は知らないが俊文が相当な啖呵を切ったらしく、以降親類は口出しをしてこなくなった。

 まだ二〜三年間の話だ。



  ◇ ◇◇◇◇ ◇  



「犬拾った?」


 隣県で起きた例の“吸血鬼犯行事件”の応援要員として一週間。出張していた義兄が連れ帰ってきたのは濃い茶色の毛並みをした一匹の大型犬だった。

 犬種に関しては全く興味がないのでわからない、多分雑種だろう。


「ああ、アパート(ここ)の管理会社にも許可取ってある」

「ご近所は」

「既に了解得ている。吠えないし鳴かないし躾も行き届いてる」


 家族の了承の前に、外堀は埋めてあるようだ。


「はぁ‥‥何でまた犬なの」

「ああ、犬だ」


 答えになってないことに、翠は顔をしかめた。

 こういう義兄なのである。


「元々怪我していたのを保護したもんだから、健康診断やら予防接種やら済ませてある」


「ほぅ‥‥。で?」

「トイレも専用でなく、人間用(ウチ)ので充分使える。躾も行き届いている。この怪我だから、当面は風呂や散歩は不要だ。」

「ふぅーん。 で?」

「食餌の心配も要らない。俺たちとおんなじ物出してやればいい」

「へぇー。 で?」


 まだ肝心の一言が向けられていないのに、翠は生返事を繰り返した。


「‥‥‥‥‥名前、何にする」

「ひぃぃー やっぱり飼うつもりかぁぁぁ」


 頭を抱えるしかない。

 なぜ最初に“飼う”と言えないのだろうか?


 常識(それ)以前に、“何か”がおかしい。

 トイレも食餌も、人間と同じでよい訳がなかろう。素人の知識でも解ることだ。


 その辺りを突っ込んでも、「ああ、そうだな」やら「心配要らない」と生返事が返ってくるばかり。

 “犬を飼う”という決定事項はどうにも覆らないことは理解できた。

 あともう一つ、肝心なことがある。


「誰が世話するの」


 少々の沈黙。


「ああ、そうだな。心配要らない。自分でどうにでもなるそうだ」



 なるのかっ――!



 思わず叫びたいのを翠は我慢して堪えた。




 結局、夕食は三人分の【食事】を作り、卓に並べておく。

 そして、他の仕度に気を取られている間に一人分は消費されていた。



 



2018.08.05. 初稿

2018.08.07. 修正


 



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