001 序
人間社会ってのは面白い。
都合の悪いことには目を向けず、都合の良いように解釈して、それを他人に押し付ける。
――昨夜、××市××の路地裏で血の抜かれた死体がまた見つかりました。
警察は遺留品から身元を…………
――まるで吸血鬼みたいですね
頭の悪そうなコメンテーターが、勝手知ったるように、アニメや漫画で取り入れただけの薀蓄を偉そうに並べていく。
先程街で捕まえた女の肌に顔を埋めながら、男はTVを消した。
「あぁっん」
女が態とらしく喘ぐその様に、男は既に飽いていた。
この女の脳みその中は、きっと【こうすれば男は喜ぶ】というテンプレしかないのだろう。
オタク文化やらその手のサイトで得た知識が当然だと思っている。
――飽いたな。
前の女は、この女と比べれば大分見劣りはしていた。寧ろ、醜女と分類してもいい。
ただ匂いが良かったから近付いた。
自身を過剰に卑下しているため懐くこともなく、籠絡するにはかなり時間を要した。
だが、付き合いを続けて感じられる女の賢さと初心な面には大変満足した。
腕の中の女と比べたら、××したのは惜しかった。
ああいうモノを傍に置けばよいのだろう。
外見は金を積めば幾らでも変えられるが、知性や品性は買えるものではない。
否、外見を変えれば品性を捨てる輩も居るので、そのままで充分だろう。
「ねぇ、どうしたの?」
態とらしいまでに、蕩けた声で女が誘ってくる。
もう、処分するか
「ああ、そろそろ頃合いだな」
女が恍惚とした表情を浮かべた途端、その顔は一転して苦悶の表情へと豹変した。
「なっ、ん」
首を絞められている訳ではない。
なのに、呼吸ができない。
水中をもがくかの様に、腕を振るったところで呼吸ができる訳でもない。
女の無様な様子を見ていて、男は笑いを堪えた。
そして女の表情がまた変化する。
目の前に、紅い、水珠の様な物が浮かんでる。それは、女の体から“何か”を吸い取るように膨張していく。
体温が徐々に下がっていくのが分かる。
「綺麗だろ? 俺は人間の血液を吸い出す瞬間が一番好きなんだ。絶望を感じてる時の、その表情が、な」
女の顔には、既に生気と呼べるものはない。
男はそれを確かめると、水珠に指先をかざした。水珠は、何かの力が加われたかの様に一気に凝縮される。
男はそれを飲み込むと、満足そうな顔を浮かべて、部屋を出ていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――今朝、××県××市内のホテルで、女性が血を抜かれた状態の死体が発見されました。
警察は最近連続してる事件と同様の手口から、同一犯とみて、調べを進めております…………