表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

1

シリアスですがハッピーエンドの予定です。

私の国は1年の半分以上が雪に包まれた国だった。

王族も貴族も平民も雪の前では無力で、皆が手を取り合って暮らしていかなければならない位の小さな国だった。





「アイーシャ、お前だけでも行きなさい。」

「父さま、母さま、嫌です!行くなら一緒に…!」


「なぁに。実は隣国に援軍をお願いしているんだ。お前が先に行って援軍をつれてきておくれ」

あははと呑気に笑う父。


「そうですよ、貴女が早く迎えに行かないと道に迷ってしまうかもしれないわ」

ゆったりとした口調で私の髪を整える母。


「さあ、出来たわ。」

「ああ、綺麗だね」

パーティーに行く前の様に笑いあう父と母。



「必ず、必ず援軍を呼んで参ります。だから、だから…」

涙ぐみ声にならない私を抱きしめる。


「もうここは長くない。私たちの可愛い姫。行きなさい」

「アイーシャ、幸せになるのよ。」


母の震える手を握った後、部屋を出る。


部屋の中から母の泣き声が聞こえたけれど、振り向かなかった。





崩れ落ちる城をぼんやりと見つめる。

白い城が赤い炎に包まれていく。

庭に植えた花。

種から植えたあの花はもう燃えてしまっただろうか。

何色の花が咲くのかと笑い合いながら話をしていた日々はもう遠い。


どうしてこんな事になってしまったのでしょう。

私たちが一体何をしたのでしょう。

こんな小さな国を滅ぼしてパールマニア帝国にどんな利益があったのでしょう。



「ああああーー!!」

不意に襲った恐怖で喉から叫び声が出る。


1人でどうしろと言うの。



穏やかな父も優しい母もいない。

子どもの頃から側にいてくれたメイドのマリアも、教育係のタニア様も、もう誰もいない。


どうして私を連れて行ってくれなかったの。

みんながいなきゃ私は幸せになんてなれない。


声も枯れるほど泣いて泣き疲れた時にふと、両親が持たせてくれた荷物が目に入った。


殆ど全てが持ち運びやすく換金しやすい宝石類。

ただその中に1つ。


短剣があった。

鞘も柄も綺麗な装飾が付いた優美なナイフ。


ああ、これで私は幸せになれる。

ナイフに手を伸ばす。


パールマニア帝国の皇帝アウロス。


あの男を殺した後、みんなの側に行こう。


「父さま、母さま、みんな、もう少し待っていてください。」


ナイフを握りしめて私はパールマニア帝国が支配下に置いた住みなれた城に向けて歩を進めた。




◇◇◇



底が抜けそうなほど青い空とキラキラと光を浴びて光る砂。


「私の国と全然違うわ」

ジリジリと焼けそうな日差しが眩しい。


ここはパールマニア帝国の後宮。

私は憎い男の妾妃の1人になった。


結局、皇帝アウロスを見つける前に私は捕まった。

そのまま殺されるのかと思ったが、着の身着のまま馬車に乗せられ、後宮に連れてこられて気づけば妾妃1人となっていた。



後宮に来て1週間。

妾妃とはいえ、私は憎いあの男にまだ会っていない。

何しろ妾妃が100人単位でいるらしい。

自分が、滅ぼした小さな国の姫の事なんて忘れられているのかも。

男に会えないと仇が討てない。


「このまま、ここにいてもいいのかしら。」


「ここ以外、居る場所なんてないじゃない。」


呟くような1人言に返事があった。


驚いて声のする方を見ると黒髪の目鼻立ちがスラッとした美人が立っていた。


「貴女が新しく入ったお姫様?初めまして、私はセツカよ。2年前からここにいるの。宜しくね。」

「私はアイーシャと申します。わざわざ、ご挨拶に来ていただいて、ありがとうございます。」

驚いたまま挨拶を返す。


「それで、自分の不幸話にまだ酔ってらっしゃる時期かしら?」

ふふふと笑いながら勝手に部屋に入ってくる。


何て酷い事を言う人だろう。

住んでた国を亡くした私の気持ちなんて貴女には分からないわ。

怒りで何も言えず彼女を睨みつけることしか出来ない。


「ああ、ごめんなさい。別に意地悪で言ったわけじゃないのよ。ただ、私も来た当初は同じだったなと思って」


「同じって…貴女も…」

「ええ、私も祖国を帝国に侵略されて捕まって、ここに連れてこられたの。来た当初は私も悲しくて泣いてばかりだったわ。」


だからお見舞い。


そう言ってテーブルに赤い実の入ったカゴを置いた。


何これ?

果物、よね?


「柘榴って言うのよ。この国で取れる果物なの」

柘榴を割ってスプーンと一緒に渡された。

「どうやって食べるんですか?」

「そのままよ。中の身と種をスプーンですくって食べるの」


セツカは見本を見せるかのように目の前で食べて見せてくれた。

恐る恐るスプーンを口に入れる。

思っていたより、さっぱりとした甘みのない味だった。


「特に美味しいものじゃないわよね。でも食べ慣れるとこれでも美味しいと思うようになるのよ。

だからこの生活も、きっと慣れるわよ。住んでみたら意外と快適なのよ」


満面の笑顔の彼女を見て、先程持った仲間意識が消えていく。



私は貴女とは違うわ。

この生活もあの男を殺したらおわり。


私はみんなの元に行くんだから。



柘榴を食べる。

甘いみのないこの果物があの男の様で何故だか酷く苦く感じた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ