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短編

思い出



 夢を見た

 私の感情を酷く、強く揺さぶる夢を。

 そして思い出した。

 懐しくて泣いてしまいそうな程脆くて切ない思い出。

 自分の心を上手くコントロール出来なかった苦い思い出。

 だから今まで忘れていた。

 なのに今更思い出すだなんて。






 雲が空を覆う。

 肌寒い空気は湿気を纏い、雨を呼び込む。

 あの日は、学園祭だった。

 まさか、あの人が来てくれるだなんて思わなかった。

 ほのかな期待と共に、諦めていた筈だった。


 来るわけがない、諦めろ。


 半ばそう、自分に言い聞かせていた。

 それなのに、あの人は時間をかけてでも来てくれた。

 場所は凄く遠い筈なのに。


「久しぶり、元気だったかい?」


 私を見付け、そう言って笑うあの人は前と少しだけ変わっていた。

 来てくれる筈が無いと思っていたから、目が合った時は凄く嬉しかった。

 涙が出そうになって顔が歪む。

 言いたい事が沢山あった。

 伝えたい事が沢山あった。

 でもそんな時間は一切、無かった。

 頭が混乱して、何を伝えれば良いのかが分からなかった。

 溢れそうになる感情は、本来涙と一緒にだったら声にならずとも出た事だろう。

 でも涙を流す訳にもいかず、私は様々な感情と一緒に涙を飲み込んだ。

 結果、私の顔は複雑そうな表情をする形になってしまった。

 こんな顔は見せたくなかった。

 それこそ、『どんな顔をして会えば良いのかわからない』と言った状態だった。

 既に顔を合わせているのに。


 「なんだか嬉しくなさそうだね

 会いたくなかったのかな」


 あの後、私はあの人と何を話したのか、詳しくは覚えていない。

 だから、これは私にとってもあの人にとっても、きっと傷だろう。

 そして私はきっとあの時、自分の感情に任せて泣いてしまえば良かったのだと思う。

 そういう風に、今でも後悔している。




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― 新着の感想 ―
[良い点] とても印象的かつ滑らかな言葉選びがノスタルジックな気持ちにさせていただきました。 短い描写で行間を読ませる、優れた描写力を見せてくれますね。 幕引きも下手に書きすぎず、余韻を残す良い幕引き…
[一言] 短いながらも、青春の切なさが感じられていいね
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