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第二章エピローグ-1、祀りの次に1

「旦那様」


「ん……うん……」


 ルトナの部屋で、鼠型魔力大龍との戦いから数日後。

 なんというか、「そういうこと」になった。


「耳かきでもいたしましょうか」


「うん……今はいらない……というかエルフだから耳かきすると涎とか凄いことになるからいらない……」


 ベッドで膝枕をしてもらい、ルトナはその膝に頭を載せている。



 アコルテは一度ルトナを自分の主人だと認めるとその通りに動いた。


 魔力大龍討伐後の翌日、呼び方を決めるときのやり取りはこんな感じだった。


「あの……ルトナさん。私はやはり……旦那様とお呼びしたほうがいいでしょうか? 私は、お嫁さんなのですよね」


 ルトナは戦いの興奮も覚めてシラフに戻っており、めちゃくちゃを言っていた自分を自覚して、どう収拾をつけることになるのかわりと迷っていたところだった。


「え? え? いや、旦那様て。私、見ての通り女だよ?」


「え?(←ユノ)」


「気持ちは分かるけどそこはユノは合わせてくれねえか!?」


「はい。旦那様は女性です。ですが、エルフですから、そこまで問題にならないかと」


「あっ……あー……そうか、エルフは女同士で結婚するし、アコルテさんもそういうもんに見えるわけか……いやでもさ……」


「? なんですか、旦那様」


「でもさ?」


「はい、旦那様」


「急に距離詰め過ぎじゃない? あのさ、別にその、上手く言えないけどまだルトナでいいよ。というか、結婚自体冗談みたいにしてくれても別に良かったんだけど……」


「そうですか? 旦那様」


「その、冗談とまでは言わないけど、方便で。あのときはちょっとなんかラリってて。だってアコルテさんだっていきなり現れた相手と結婚なんてさ。その、アコルテさんめっちゃ綺麗で素敵なお嫁さんだとは思うけど……」


「……何か、私はしてしまったでしょうか、旦那様」


「……」


「旦那様……?」


「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」



 そして現在に至る。

 微笑みを浮かべるアコルテ。ルトナはニコニコと笑いかけられると何とも言えない気分になった。


(……セフレとか恋人とかよりはるか先に結婚しちまった。……でも、まあこんな綺麗なお嫁さん貰ってしまったし、まあ、いいのかな)


 欲を言えばやっぱり一人目の嫁はエルフが良かったが、そこはまあもう仕方がない。

 求婚したのはルトナ側である。いわば、彼女を傷物にしたわけだ。というか(この世界の役所にアコルテが勝手に)籍を入れてきてしまったのでアコルテを捨てると実際に彼女の戸籍に傷がつく。


「? なんですか、旦那様」


 膝枕の上から覗き込んでくるその目を、見つめ返す。


「いや。……まあ、そのアレだ。成り行きの夫婦ごっこをずっと続けるかはわからないけど……アコルテさ……アコルテ……アコのことは大切に……するから」


 そう言うとアコルテは微笑んだ。


 今に至るまでいろいろ試した。抱きしめてみたら嬉しそうに身を預けてくる。見つめると受け入れるように目を閉じる。

 旦那様だから。お嫁さんだから。


 完全にルトナの求婚を受け入れたアコルテに、どういうふうに接していいかわからない。

 口から出たでまかせを振り回してできた関係。

 けれど、一度口に出した言葉を取り消すことはできやしない。


 ……だから……


(旦那様なんて別に呼ばなくていい、とは……ここに至っては、言うつもりは……ないつもりだ)



 ギャリイ・キャストリアテは、一命をとりとめた。

 頭や顔の骨が凄いことになっていたが、脳が無事だったようで、ユノの回復魔法によって回復したそうだ。


 ギャリイがいる事務所(?)は街の西側の貧民街の中に存在する。

 じろじろと向けられる視線に適度に睨み返しながら、ルトナは事務所の中に押し入った。


「……緋色の魔力のエルフ……ルトナ様ですか。ご苦労様です」


「うん。ギャリイを出して貰える」


「はい」


 控えていた若い衆が奥に引っ込んで、三十秒程度でギャリイが姿を現す。

 ここは一応合法な商人の事務所の体裁を取っているようだ。応接用らしい質素な木の机に、二人向かい合って座る。

 鼠型魔力大龍を倒してから五日程度経った今、特に後遺症のたぐいはなく彼は完治した。ドラゴンインストール中のユノの回復魔法は極めて強力だ。

 ただ、他の者は、ユノがそもそも魔法を試さなかったため全員死んでいる。

 試したらなんとかなったのか、それともなんとかならなかったのか、それはわからない。


「よう」


「おう」


 適当に挨拶を交わした。


「これ。手土産」


「何だ、手土産って」


「皆で食べてよ」 ルトナは商店の通りで買ってきた、小麦粉を焼いたスコーンみたいなお菓子の詰め合わせをギャリイに押し付けた。


「差し入れか。……要らねえ、とは言えねえな。若いのにでも食わせる」


 男と長話をするつもりはない。こちらから早速本題に入る。


「アコルテは、問題なかった?」


 今はアコルテに膝枕してもらってからさらに数日後。

 昨日、約束通り一度アコルテをこっちによこした。

 今日来たのは、その情報のやり取りのためだ。

 墓の話については、今少し情報の整理に手間取っているため、もう五日ほどかかるという。

 アコルテが都市や街や(一部は)村の墓の前で謝罪してまわるのは、ルトナ側の用事も合わせて考えれば、だいぶ先になりそうだ。


 ギャリイは目をそらしながら吐き捨てた。


「無い。ありゃあ、バケモンだ。この調子だとひょっとしたらうちの経理を何人か切っても全く問題ねえ。リスク管理の関係上実際にはやらねえが」


「帳簿作業やらせてんのか。あんまり弓兵に内情握らせないほうが良いんじゃねえか? ……まあ、好きに使えばいいけど。契約だし」


「ああ」


 沈黙。

 特に仲良くオシャベリするような仲でもない。

 ルトナは特に文句を言われるようなことがないのならもういいかと立ち上がりかけた。


「待て。……お前、今、ミトン族の族長なんだよな、名目上は」


「? ああ。多分……一応いろいろ必要なこととかあるだろうから、名乗るつもりでいる。いつまでかは……わかんないけど」


「なら、少し、伝えておきたいことがある」


「なあに?」


 ギャリイは深呼吸をした。


「アリネイブル・キャストリアがミトン族に復讐をした件についてだが。……俺は、少しおかしいと考えている」


 アリネイブルというのは最初にミトン族を全滅させた相手であり、ギャリイの復讐のきっかけだ。そのことは知っていた。


「少しおかしい? 何だそりゃ?」


「……リノ姉は……『復讐しよう』なんて考えるタマじゃなかった。ほら、物語なんかであるだろう。『復讐なんてしても死んだヤツは喜ばない。何も生まない』みたいなことを言うタイプと、『私は復讐することで自分の過去に決着をつける』みたいなことを言うタイプと。俺の知るリノ姉は……あくまで俺が会話してた印象と記憶ではだが……前者の人間だったと思う」


「は? マジで何だそりゃ。それは……何が言いたい?」


「……簡単だ。何か、リノ姉が主催したミトン族集落の襲撃には、裏があるのかもしれん。操られてたのかもしれねえし、何か吹き込まれたのかもしれない。他の奴らの手前……誰にも話してはなかったがな」


「……お前と同じように、魔力大龍に取り憑かれていたとか」


「取り憑かれていたという自覚はない。そもそもあの鼠――『虫』の出没は半年前からだ。それより前にじわじわと増えていたのかもしれないが、それにしたって十年前のリノ姉に関係はしないだろう」


「話だと実力者だったんだよな? 単純に魔力で脳が灼けただけっていう線はないの?」


「ありえない。リノ姉が自分のコントロールを放棄するなんてこと、ありえない」


 魔力大龍説に対する反論はともかく、どうにもギャリイという人間はシスコンのケがあるように思われる。


 けれど、


「わかった、覚えておくよ」


 別段ぶん投げて捨てるほどの話とも思えない。裏があるかもしれないと言われても困るが、実際に裏があるかもしれないのだったら聞いておくべきだろう。

 今度こそルトナは帰った。



 リーフレッタは無事だった。

 というか、騒動の日から夜が明けて翌日になるまで、誰もリーフレッタのことを覚えていなかった。アコルテも含む。

 最初に思い出したのがアコルテだったのは確かだが。


「あ、聞いて下さいルトナさん! うちのギルド、昨日は夜からぱっっっっと、示し合わせたみたいにギルドに来る人がいなくなったんです。まあ受付に人が来ないのは営業時間終わりだからなんですけど、ちょっと残って見てみましたが、酒場も一人も来なくて。すごい日もありますよね。何か支部長辺りがやらかしてたんでしょうかねぇ~。――その、ところで、アコのことなんですけど」


 とのことだ。


 後々ラーザインに聞くと、彼女が呪属性詠唱魔法を使ってそういうふうにしたのだといっていた。

 リーフレッタのことや冒険者ギルドバルトレイ支部のことを、大陸全土とは行かないものの、超広範囲の人間が忘れ、意識に浮かべなくなる魔法。

 本人によれば


「本気出した」


 とのことなので、簡単に朝飯前に行える魔法ではないのだろうが、ラーザインの恐ろしさと、補助系魔法使いの重要性を思い知らされた一幕だった。


 アコルテが戻ってくる旨を伝えるとリーフレッタは、「あらあらあら、まあまあまあ!」と、冗談みたいな驚き方をして、喜びを表明した。



「今日は来てくれてありがとう、アコ」


「いえ、来てくれてありがとうも何も、同じ家の中で呼び出されただけですが」


 魔力大龍を倒した翌日からなし崩しに同居生活にはなっていたが、改めて一週間程度経った今、アコルテはルトナの家に同居することになった。というかルトナが引き取った。

 荷物は全てアイテムバッグの中にいれて持ってきていたので、そのまま家に泊まれば引っ越しは終了である。


 その二日目に、ルトナはある思いつきを実行することにした。


 アコルテはルトナの部屋で、床の絨毯(土足厳禁ゾーン)に女の子座りで座っている。

 ルトナはあぐら、控えるユノは立っている。座っていいと言ったのだが立っているほうがいいのだそうだ。


「で、用とはなんでしょう?」


「うん」


 アコルテの生育環境。それをある程度詳しく聞いた時、ルトナは一つ思いついたことがあった。本当はギャリイについてもなのだが、彼については彼が独力で解決するべきだ。


「――アコに、認知行動療法を試させて欲しい」

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