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5-2、困った時には助けを求めれば必ず誰かが助けてくれる2

「ミズリ? フィーラーのミズリか? あるわけねーだろそんなん」


 返ってきた答えに、ルトナは落胆で肩を落とした。


「……そうか、カリャンセって前進派とトラブってて……じゃあタルトさんってわかる?」


 カリャンセは、自分自身のエルフズスミスという苗字(?)を、前進派でないために剥奪されている。


「や、前進派とは関係ないよ。だからタルトのも持ってない。あのフィーラーともタルトとも大して仲良くないから連絡手段は持ってないってだけ。なんだ本当にどうしたんだルトナ? ……こっちの作業が終わったら、私で良ければ話してみるか?」


 連絡手段は所持していないようだが、カリャンセ本人からの助け舟が来た。

 相手がカリャンセでも、何か突破口になるかもしれない。


(……いや、それどころか、確かカリャンセは職人仲間と一緒に前のギャングを潰してるじゃねーか)


 …………この相手は、頼っていい相手なんだろうか。

 チェリネも尻尾を巻くような相手に。

 カリャンセは、どれだけ親しさを親しい方向に見積もっても、ただの友人だ。

 その相手にタカっては、かつての世界の知識を餌に、いろいろなものを略奪してしまうことになる。


「いつくらいに終わる?」


「んー、三日後くらいかな。納期が……まあ、急げばもうちょい早められるが」


 ……それは遅すぎる。


「ありがとう。邪魔したな。一応、三日後来るかもしれないから、その時はよろしく」


「お、おう? おう。よくわからんが、頑張れよ、ルトナ」


「ああ、じゃあ、……っとっっとっっと、そうじゃねえ、それだけじゃねえ、焦りすぎだ俺」


 立ち去りかけたルトナは、慌ててその足を止めた。

 どれだけ短い時間だろうと、カリャンセから聞き出せることはたくさんある。


「カリャンセ、五分でいい。この前、……私がここに来た日、この家に来てたよな? 黒服の……」


「ギャリイか? ……それがどうかしたか?」


「知ってる限りのことを教えてくれ」


 言うと、カリャンセは真面目な顔になる。


「……ルトナ……ヤバイ状況?」


「……そうでもねえよ」


「? なんだじゃあいいや」 カリャンセはすぐに気を緩めた。 「ちょっと五分は出せねーな。けど……箇条書きレベルでよければ話せる。使え。……えーっと……ん……」



 情報をひとしきり聞き終わり、カリャンセの家を後にする。

 とりあえず、ミズリが頼りにならないことがまず判明した。


(あいつの仇名はミズリ・ヴァン・アストレアで決まりだ)


 心の中で本当に呪いをぶつけそうになる自分を抑え、自分自身をかつての世界のコンテンツのジョークで紛らわす。


 わかっている。もともと、彼女達は、頼っていい相手ではない。

 おそらく今、彼女たちは魔法大龍の……エルフの言葉で言えば骸龍の討伐のため遠征しているのだ。あの二人の本来の職務だ。


 有能な人間(人間ではないが)ほど忙しい。

 当たり前だ。人を助けられる人間ほど、助けて欲しいと望む人間は増える。

 医者などは特に顕著だった。有能なほど予約が埋まる。

 誰かが肝心な時にいつもいないとき、その誰かは別の人間や別の事態を助けている。


「そんなことはわかってる……」


 それでも今、彼女達にはここにいて欲しかった。

 この言葉は自分のジョークで作った半笑いで飲み込んだ。


(ちょっと保護者ヅラしてただけの奴らに心を許しすぎだ、俺は。どうせミズリなんか修羅場で役に立たねえ。アイツはヤバくなったらさっさと自分だけ逃げるタイプ。絶対そうだ)



 カリャンセから聞き出したこの街の有力ギャング、ギャリイ・キャストリアテの情報は以下の通りになる。


 この街ではもともと長い間ギャングのような集団が存在し、そのリーダー格は定期的に入れ替わる。

 ギャリイは数年程度前からこの街に現れ、一時的なリーダー不在の混乱を鎮め、いつの間にかリーダー格に収まっていた。


 立ち入ったことは噂でしか知らない。

 けれど彼の力の背景にあるのは、文脈を無視して彼が保有する、チンピラ集団とはまた別の私兵である。

 確かに統率力や、間違えを犯さない計算高さについてもよく言われているが、この私兵を背景として、また上手くこの私兵をこの地のギャングと融合させ、「ギャリイ・キャストリアテ率いるギャング集団」は完成されているといえる。


 つまるところギャリイとその私兵はある意味で外様集団ということになるはずであるが、ここを古巣とする配下達からも、「ボス・ギャリイは間違えない」と慕われている。


 ルトナは二つ質問をした。


「外様集団ってのは……別の種族とか? 別の国の人間とか?」


「いや、純粋な人族であることは間違いない。別の国かどうかは……スマンがわからないな。うちに来る構成員達はだいたい王国人だと思うが」


「……確か前のギャングはカリャンセが裸にしてとっちめたんだろう? 今回のも、やれと言われればやれるか?」


「……多分無理だな。前のヤツのときは、私一人で大立ち回りしたわけじゃなくて、職人連中でキレたんだ。そして、はっきり言って質は低かったからな、楽勝だった。……今回のは、統率が完璧で、裏に何があるかわからん。……うちに来るのも結構訓練されてるし、んー……何かされたら黙ってやられるつもりもないが、……やれと言われても、私達だけじゃムリだ」



 時刻は昼過ぎを回った。

 教会が正午の鐘を鳴らし、街の空気がまた一つ変わる。


 ルトナはその鐘を、領主の館の直前で聞いた。

 冒険者の住宅地区からは、この鐘の音は、ルトナの耳でも注意しなければ聞こえない。


 ルトナの姿を見て、門番が「ああ、確か……」と思い当たったような顔をする。


「冒険者ルトナ・ステファニエです。シクレーンさんに取り次いで貰えますか」



 なんでこんなことをやっているんだ、と思う。

 けれど、カリャンセの魔力量は充分だ。彼女でさえ、二の足を踏む相手だという。


(純粋な人族なんだろ? 俺が知らない特殊能力を持った超やべえ種族とかが出張ってきてるんじゃなくて、人族なんだ。それがどれだけ集まろうと……全員ぶっ飛ばせば済むじゃねえか?)


 いざとなればルトナには、この街ごと焼き尽くす魔力がある。


 ……なんて、馬鹿な考えはすぐに捨てる。

 おそらく、誰かの力を借りなくてはならない時なのだ。

 先手を打って、解決のために動く必要がある。

 アコルテを守ると決めたのだから。


(冷静に考えれば要はマフィアだからな。眠ってる間に拉致られて指落とされてたとか全くシャレにならん。どれほど強くなっても……カリャンセの言う「外様の私兵」が俺以上でないとも限らないし、そうでなくてもどんな手段に訴えてこられるかわからん)


 そして、


(……対抗するなら、公権力だろ)


 このような思考回路によって、ルトナはシクレーンのもとに茶飲み話をしに来た。

 公然と存在するギャングのことを、衛兵に相談してなんとかなるとは思っていない。

 でも、衛兵は無理でも、この街を取り仕切るシクレーン・フォニカ・バルトレジオならば。彼女の耳に入れれば、立場上、犯罪者集団を放置することができず、動かざるをえなくなる……はずだった。



「……なるほど……ギャリイ・キャストリアテか……当然、把握している。この街の非合法的集団だね」


 水色に透ける奇妙な黒髪の貴族、シクレーンは机に座ったまま、ルトナの陳情を聞いた。カップから(おそらく)紅茶を一口飲み、そのまま口を開く。


「彼の集団とトラブったから、領主の立場として、鎮圧、ないし仲介をして欲しい、と」


「はい。具体的な被害として、家に侵入もされてまして。対処して欲しい、です」


 シクレーンは、十秒程度考えて、自分の髪を弄くりながら、応えた。


「済まないが、ムリだ。他を当たってくれ」


「……なぜです」


 怒りも、失望も、ない。


 シクレーンははじめからそういう相手ではない。

 無理と言われれば無理というだけだ。


 ただ、理由だけは気になった。


「簡単な話だ。彼らはこの街に不可欠だ。そして同時に彼らは非合法集団に過ぎない。だから私は彼らに借りを作るつもりもないし――つまるところ攻撃的行為を行う気も干渉を行う気もないし――仲介というのも難しいしやらない」


「……そんなに価値がある集団なんですか」


「価値というのも少しずれた話になる。ギャリイ・キャストリアテがボスを演じるようになってから、この街の治安は大幅に改善した。非合法的な集団が存在することが許されるとは思っていない。だが、存在することでメリットがあるのなら私は為政者として黙認する。ある種のセーフティネットがあるのなら、大胆な政治もできるというものだ。むろん力をつけすぎるようなことがあればテコ入れもするが、現状はその兆しはなく、こちらとのやり取りもかなり潤滑に行われている……合法組織を通してだがね。……この現状で、私が、領主の立場から何かケチをつけるようなことをするつもりは、ない」


 要するに、ギャリイとこの若い領主の関係は、ばっちりだということらしい。


「まあ、それだけではないんだけどね……」


「……まだ理由があるんですか」


「ん……」


 ただ、今度はシクレーンは答えづらそうだ。何かについての判断を迷っているように思える。

 たしたし、と手元のペンを指で叩いている。その手の根本にアクセサリが嵌められた細い手首が見えた。


「もしこれ以上の理由がないなら……割れ窓理論という理論をご存知ですか」


「割れた窓の? いや……知らないな」


 ルトナは理詰めでの説得を試みる。

 以前会話した雰囲気から、シクレーンには通じると信じて。


「割れ窓理論というのは私の地元の地方で社会調査が行われて提唱された理論です。批判もなくはないですが、概ね効果は出ているといわれています」 実際は批判のほうが下手すれば大きいらしい(社会教師談)が、そこは伏せる。「端的に言えば犯罪を放置したら犯罪は増える、というものです。割れた窓を放置したら、どんどん都市は荒れていく……というように」 これも少し違うが、今は要らない。


「ふむ。少し興味があるね。論文の名前は? 提唱した教授の名前は」


「………………無理です。すいません。覚えてなくて。ですが、そういうのがあって。秩序だったギャングがセーフティネットとして機能するというのはわかりますが、犯罪者集団が公然と放置されていたら割れた窓どころの話ではなくないですか」


「…………………………なるほど。それが仮に正しかったなら、確かにトータルの収支がどうなるかは謎だね」


「ええ、……だから、今日を期に取り締まってみるってのも……」


 一旦納得した表情を作るシクレーン。

 だが、


「一つ目の理由については少し考える余地ができたかもしれない。実際に興味深いから、そのうち王都の大学の知り合いにでも話してみるよ。けれど、二つ目の理由で無理だ」

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