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4-3、劫火でできた善意の檻3

「いや意味が全く……わかりました。そうか……そういうことか」


 強烈な音が鳴り響いたにも関わらず、ユノが起きる気配もない。


 この笛は、犬笛(犬にしか聞こえない音が鳴る笛)だ。こっちでも犬笛という名前で通じるのかは知らないが。


 そして“鶫”とは声を不可聴きこえない音にするスキルで、

 けれどエルフの耳には初めからそれが聞こえたわけだ。


「お父さんたちがエルフとは戦うな、と言っていた意味がよくわかりました」


「なんかごめんなさい……」


 でも、勝ちは勝ちだ。

 どさくさ紛れだろうと、もうアコルテは行動できない。

 とりあえず「そっちの行動不能でこっちの勝ちだ」と言ってみると、アコルテはもう一度目をそらして、けれど頷いた。



 アコルテは結局自分の能力については話すつもりが無いようなので、ルトナは戦いを回想してどういうものだったか自分なりに考察した。まず間違いないように思われる。

 鶫は続く言葉を不可聴音にするスキル(エルフの聴力では聞こえる)。

 梟の6は理屈はわからないが気配を消すスキル。

 梟の5は風属性魔力によって強化、加速された正拳突き。

 梟の3は自分自身から風の刃を爆発的に展開するスキル。

 瞬間移動についてはおそらく風の魔力による無詠唱魔法。この魔法には梟という名前はついていないのだろうか、そこは気にかかるが。



「まあ、とりあえず私達の勝ちってことで、アコルテさんにはしばらくこの家にいてもらいますんで……」


「はい」


 アコルテを簡単に拘束して、家の中に戻ってきた。

 手を縛ったくらいだし、おそらく拘束力はないだろう。しかし、いつまた襲撃者が来るとも知れず、ガッチリ袋詰にするわけにもいかない。どう拘束するかは考えなくてはいけない。


 ユノはルトナが縄と悪戦苦闘している中、寝かせていたユノのベッドから起きてきた。

 そして、ルトナの代わりにアコルテの手を簡単に縛り上げた。

 縛り終えて、「よし」と腰に手を当てて発音する(縛ったのはユノだが)。


「とりあえず、生活で何か不便があったら言って下さい。私がアレなら、ユノにでも」


「わかりました」


 監禁場所は暫定的にルトナの部屋とした。

 その部屋の床にぺたんと座り、アコルテは、見た目は従順にルトナの言葉に従っている。


 どこまで従順なのか試してみたくなった。


「あの、胸とか触ってみてもいいですか?」


「? なぜですか?」


「……いや、触診的な?」


「は? ……? ? 何の? ですか?」


 あまり冗談は飛ばさないほうが良さそうだ。ユノがものすごく冷たい目をしているので。


「じゃあ、本題行きます。……今何がどうなってるのか。全部、教えてください」


 ルトナはアコルテの抱えている事情について聞いた。


 当然の要求のつもりだった。

 だって、どんな形にせよ、勝負に勝ったのだ。

 しかしアコルテは、


「無理です」


 一言で切って捨てた。

 笑顔だ。


「なんでです」


「だって、……ルトナさん、ズルっこしたじゃないですか。ユノさんだって、龍の力を隠していましたし」


 おそらく、ルトナのズルとは、言葉で動揺を誘って、その隙に手を握ったことを指しているのだろう。


「ズルっこ、て。ズルとミスと情報戦も実力のうちでしょう。私達がやりあって、アコルテさんが負けた。そういう話じゃないですか」


 龍の力、という言葉については触れず、ルトナは言葉を続けた。

 ひょっとすると、この世界では龍の力を借りるという行為は一般的……ではないにしろ、知られている行為なのだろうか。


「確かに私は負けました。たとえばあの場でまた梟の3を使おうとしても、おそらく無詠唱魔法が使えるルトナさんが先に私を殺していたと思います。なので、こうやって素直に連行されました」


 アコルテは一部の例外を除き詠唱魔法を使うようだ。だから、あの状況下では従ったのだと主張している。

 もっとも、その例外というのの中に、瞬間移動も含まれているというのがヤバい点ではある。


「だったら」


「でも、何も話しません。……しばらくは、ここにいます。私、負けてしまいましたから。……でも、話しません。ここにいるのは、しばらくの間……冗談で済んでいる間だけです。冗談のごっこ遊びで負けたのだから……そういうふうな罰ゲームの支払い方をするだけです。私を監禁したいのなら、睡眠が要らない生物を見張りに立てるのが良いでしょう」


「……そうかよ。ちなみに私がまさにその生き物だからそのつもりでよろしく」


 意志は固そうだ。もともと死ぬつもりだったのだろうから、やむを得ないと言ったところか。


 なんか、腹が立つ。

 「死ぬつもり」。死ぬつもりってどういうことだ。五体満足の分際で。


 ルトナはユノに向かって真顔で言った。


「ユノ。アコルテさんをくすぐれ。笑い死ぬまで」


「えっ」「ええっ!? 冗談ですよねご主人様」


「なんか……駄目だろ。カッコつけてるつもりかもしれないけど……挙句の果てに何も話さないって。負けておいてそれは恥ずかしいだけでしょアコルテさん」


「知りません。私は負けてませんから。冷静に考えて下さい。戦いが終わったフリして油断させたところに組み付いてきただけでしょう逆に聞きますが恥ずかしくないんですか。ちょ、その、私はくすぐりがあまり得意ではないのですが……ちょ、あは、ふふふ、ふふっ、ユノさん本気でおこ、怒り、ぁふふっ……」


 ユノが腋の下を服の上からくすぐるたびに、頭の羽をぴこぴこ動かしてアコルテは笑う。「ぁは、ぁはは、ぁの、ホントにやめてくだっ、……」しばらくくすぐりが続くにつれ、だんだん声と風景が艶めかしくなってきたので、ルトナは礼儀として目をそらした。


(しゃーねえな。戦術的勝利ってところか。まあ、手元に置けただけマシか……)


 どのみち一度で全てが解決するわけでもない。

 これから、だ。



 じゃれ合いが一段落したあと、ユノが廊下に出たルトナを呼び止めてきた。


「あの」


「? なあに、ユノ」


 もじもじと、一旦ユノは冗談を言った。


「アコルテさん、慣れてしまったみたいで残念でした……」


「お前慣れなかったらマジで殺すつもりだったの? 怖いんだけど」


「命令を出したのはご主人様なんですが」


 そしてユノは表情を切り替える。


「ご主人様。アコルテさんが誰と敵対しているか、私は知っています。動くのなら、お耳に入れるべきかと思いまして」


「……何? どういうことだ」


「ご主人様は私の話を聞くまでもなく襲撃者が実際にいた事を看破しておられましたが、私はもう少し詳しい情報を持っているのです。……相手は、……少なくとも昨日の襲撃者は、……カリャンセさんの家で見かけた黒服達……つまり、この街のギャングの親玉、ギャリイの手のものです」


「……ギャング……?」

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