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2-1、お泊まりパーティ(刃物あり)1

 アコルテを食堂に通し、自分の手でお茶を作って出す。


 お茶はユノにやらせようかとも思ったが、彼女は今人前に出せる状態ではない。

 肩を揺すってもうにゃうにゃとしか言わず、どうにも言語を喋ることができそうにないようだ。

 前からわかっていたことだが、うちの奴隷は朝が弱い。頭を撫でて寝室を出てきた。


「すいません、よく考えたらまだ応接間みたいなところ決めてなくて」


「いえいえ。応接室とは言えなくても、素敵な会議室だと思いますよ」


 椅子が並ぶ広い食堂で、湯気の立つカップに二人で口をつける。

 この家に遊びに来る客なんてミズリとタルトしかいないし、二人は応接室がどことか全く気にしない。そのうち、人を招く時はどうするかとかも決めておかなければならないだろう。


「で、えーっと宿泊、全然問題ないんですけど。何があったんです? リーフレッタさんから話聞いて、結構心配してました」



 アコルテの答えは以下の通りだった。

 アパートの自分の部屋が火事で焼けてしまった。魔法使い同士の戦闘に巻き込まれたと思われる。

 そのため、知人の家を頼って回っている。



 ルトナは特に疑問に思わなかった。冒険者が住む区画はそれなりに頻繁にドンパチと賑やかになる。


「めちゃ大変ですね。家財とかは無事なんですか? この後はどうするとか決めてますか?」


「家財はほとんどすべて無事です。持ち出しましたので。どうするかについては、どうするかというか、今業者に頼んで直してもらってるところです。一ヶ月程度かかるので、あと二週間くらいでしょうか」


「……ちなみになんですけど、リーフレッタさんはギルドをやめたとか、行方不明だとか……言ってて……」


「あ、はい。ギルドは一旦やめました。どういう生活になるかわからなかったので。資格職なのでいつでも戻れると思いますし、戻れなくても冒険者でもやりますよ。けじめをつけずに半端にやって、迷惑をかけるのが一番困りますから。行方不明というのは……たしかに行き先は言ってないですね」


「……」(あのおっとり受付嬢……なんでもないじゃねえか)


「そういうわけなので、ギルドと私は今はもう関係ない立場です。私を見かけた連絡とかは不要です」


「そうですか」


 引っかかる点は解消され、こうなると話に特におかしな点は見当たらない。

 何より、こっちの世界に来てからさんざん世話になっているアコルテだ。疑う理由がない。


「宿泊、もう全っ然問題ないです。なんなら二週間ずっとうちに泊まってってもらってもいいくらいです。ユノもきっと喜びます」



 提出された「宿泊費」は、丁重に断った。

 起きてきたユノはアコルテの姿を見て喜んだ。口調は冷静なものだが、喜色がにじみ出る。


「アコルテさん。どうされたんですか、こんな時間に」


「実は泊めて頂けることになったのです」事情を説明するアコルテ。


「……本当ですか? じゃあアコルテさん、一緒にご飯を作りませんか? 前から話してた通り、私料理できるようになってってるんです! ピコさんって知ってますか?」


「存じています。今は宿の経営者をされてますよね?」


「彼女から習ってて……ってここまでは話しましたっけ?」


「ええ」


 にっこり微笑んで、アコルテはユノについていき台所に消える。


(あんま会話の機会を見なかったけど、ユノ、ここまで懐いてたんだ。……なんか、いいな)


 可愛らしい女の子が二人(まあアコルテはそろそろ「女の子」より「女性」って感じの外見年齢であるが)、笑いあって台所に消える。そして自分のための料理を作るという。

 二人ともエルフというわけではないが、かなり嬉しいことに違いない。


 ルトナはそわそわしながら食事を待った。



 やがて出てきた料理は、いつもと同じものだったが、特にガッカリする理由があるわけでもない。

 料理をユノと一緒に持ってきたアコルテはエプロン姿だった。一つしかないエプロンを、ユノはアコルテに貸しているらしい。ズボンにエプロンというのもまた良いものだなと思った。


 アコルテは笑顔だ。頭の羽がぴこぴこ動いて、なんだかこっちまで嬉しくなってくる。



 飯を食べたら、ギルドに向かう。


「ちゃんと早めに帰ってきて下さいね、ご主人様」


「お待ちしております」


「はいはい」


 適当に返事して、家を出た。


 今日は挨拶回りの後、初級でも適当に狩って済ませるつもりだった。

 午後をまるまる開けて、三人で買い物に行く約束をしている。

 やるべきことがあるとはいえ、毎日動き通しでいる必要があるわけでもない。思えばベテラン受付嬢と一緒に冒険者の道具を見ることができる機会などどれほどあるだろうか。


 そして、そのお出かけの中で、歌姫についての話も振ってみるつもりだ。


(しかし、意味深な言い方しやがってただの火事じゃねーか。リーフレッタさんマジ、一言文句を言わなきゃ気が済まんぞ)



 リーフレッタはルトナの文句を聞いて、苦笑しながら「ですよね。アコの言ってる内容が正しいです。ごめんなさいね」と答えた。

 ごめんで済んだら衛兵はいらない。けれど、別に責め立てても仕方ないし、アコルテ本人がそういうふうに頼んだということもあるのだろう。何かギルドを休むのに引け目があるのかもしれない。


(別に家が火事で人の家に泊まってまわるような状況なんだったら一旦離職してのんびりするくらい全然良いのにな?)



 買い物のため、商店の通りを巡った。

 アコルテはフード付きの上着を羽織っておめかしをしている。

 とりあえず、彼女のアドバイスを聞きながら、武器屋と防具屋を巡る。


(……武器屋でも防具屋でも、俺はぼっちだな……)


 当たり前と言えば当たり前である。

 ガチでやる時は股間と左胸の服の中に当て物を入れるくらいで(女の体でも股間は痛い。これは結構意外な大発見だった)、ルトナは普段武器も防具も一切つけていない。


(ま、いいか……)


 ユノが良いナイフの見分け方を聞いていた。そして、いくらか安いもののなかから掘り出し物を小遣いで買ったようだ。

 また、防具を一式買い換える金はないが、防具の選び方もばっちり聞いている。


 総じて、ユノが楽しそうにしていた。

 それだけでいい。


(てか、店主が凄い萎縮してるっつか平伏してるんだが? ……何者なんだ、アコルテさん)


 平伏というと聞こえが悪いが、ルトナがちょっと値切ろうとしたくらいではあしらうような態度をとるタイプの店員も、アコルテが値切ったらすぐに値段を下げた。

 年季が違うというふうに思えた。何人かはめっちゃ親しそうな顔なじみだ。


(いや、顔なじみで当たり前か。この世界のギルドの受付嬢って、ほとんど冒険者専属のエージェントみたいなもんだもんな。冒険者の武器を扱ってる業者くらい、調べてて当然だ。ヘタすりゃ、直接世話した業者とかもいるんじゃねえか)



「おしゃれは苦手ですか?」


 次に向かったのは、服屋だ。

 当然、女三人の店なのだから女物の服。

 ルトナはしばらく立ち往生していた。

 そんなルトナに、アコルテが話しかけてくる。


「ん、まあ……」


 これまでアコルテと一緒に(ルトナの)服を見ていたユノは、今は一人で自分の服を見ている。

 流石にルトナを放置しすぎたと思って、話しかけてきたのだろう。

 なんでルトナの服を見るのにその本人が置いてけぼりなのかは不明だ。


(……あれ?)


 アコルテが、少し変な素振りをした。

 店員から、それとなく気配を隠しているように思われた。

 だが、思われたというだけで、特に違和感というレベルの動きじゃない。

 そのことはすぐに忘れて、会話に戻る。


「そのわりには毎日素敵なお召し物だと思いますが……?」


「こんな綺麗な姿形に生まれたらな。それなりに着飾ろうって気分になる」


 やっぱり良い服を着ていたらふと鏡やガラスに映った自分の姿を見た時のテンションが大違いだ。大好きな存在である可愛いエルフに自分がなって、自分を好きなだけ着飾り放題なわけで。

 まあ、けど、もちろん積極的に着飾るのにはやっぱり抵抗がある、というか、この抵抗を捨てる気はさらさらない。


 アコルテはそれを聞いて少しこらえながら笑った。


「案外、ルトナさんって自分のことが好きな方だったんですね」


「じ、自分のことが好き」


 その九文字の音は強くルトナの脳髄を打ちのめした。


「……うーん、反論できない」


 エルフが大好きで、今の自分はエルフである。ナルシストだ。

 慌ててアコルテは取り繕った。


「いえいえ。ごめんなさい。えっと。この言葉が嫌なら、自信があるって言い換えてもいいです。結構根っこが、ええと……自分のことが嫌いな人なのだと思っていましたから」


 そして続けて言葉を選ばれながら出てくる言葉にも、ぐさっと刺される。おぞましいほどに的確な観察力だ。ルトナに、加藤一拠に、自分に対する自信などあるはずがない。

 ただ、こっちに来てからは、エルフという鎧と願いという剣で、自分も他人も殺している。そういうふうにやれている、はずだ。


(……たぶん。年上のアコルテさんには、別のものが見えたのかな。…………これはユノに聞かねえとわかんねえな)


「毎日素敵な服で着飾って、鏡を見るたびに素敵な気分になれるっていうのは、間違いなく素敵なことですよ」


「じゃあ人をナルシストとか言わんでくださいよ」


 唇を尖らせると、もう一度アコルテは謝罪した。



 ……聞くなら、今だろう。


「アコルテさん」


「はい」


 ユノと目が合った。目礼してきたので、ルトナは手を振って答えた。


「歌姫か、吟遊詩人を紹介してもらえませんか」

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