12、明日。あるいは、幕間のエピローグ
明日などない。
ある集合住宅の一部屋。
木でできた窓枠の窓から入り込む朝焼けに、彩られるその室内は、物がなくなり空っぽだ。
そこの住人、冒険者ギルドのバルトレイ支部受付嬢、アコルテ・ローズマは、静かに荷物をまとめていた。
セミロングの茶色がかった髪が、朝の透明な日の光で透き通るように照らされる。
家財の全てを冒険者時代に使っていたアイテムバッグの中に放り込んで、そのために部屋が空っぽになっている。
冒険者ギルドの受付嬢という職業は、比較的仕事が大変であり、素養も必要で、そのために給料が良い。
この集合住宅も良い冒険者が住む、しかもギルドのすぐ近くの立地で、随分と長く住んでいて、とても良い部屋だった。
家の備品だって、家の設備だって、お隣さんだって、何一つ不満がなくて。
けれど、もう、ここを出なくてはいけない。
アコルテ・ローズマは、追われている。
正確には、ここ近日で、追われる立場になった。
「数日ごとに頼る相手を変えれば……おそらく大丈夫です。たぶん」
受付嬢アコルテには、この街に十人弱程度、急に泊まりに行っても大丈夫で、トラブルに巻き込まれても自分でなんとかできそうな知り合いがいる。
たとえば、最近担当するようになったばかりの、“迷惑エルフ”ルトナ・ステファニエとか。
そして念には念を入れて、一つのところに三日以上泊まらないようにする。そうすれば、ほぼ間違いなく、「向こう」は無関係な人間を巻き込むことを嫌うだろう。永遠には続けられないだろうが。
これまでずっと誰かの手助けをしてきたのだ。手助けをしてきた誰かに、今回少し頼るくらいは、問題ない、はず。
今日のアコルテに、明日はない。
でも、こうなることはわかっていた。
こうなることはわかっていて、こうしてここで生きてきたのだ。
……頼る相手がいなくなったら、
頼ることができる相手のリストが終わったら、
(可能性はとても低いけど)そうなっても事態が偶然解決していなかったら、……
「来る現実を受け入れて、死にましょう」
アコルテは一人の部屋で呟いた。




