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9-1、パーティプレイ1

 すがすがしい朝だった。窓のカーテンの隙間からきれいな光が差し込んできている。

 起きると、同じベッドで、ユノがすやすやと寝ていた。とても寝心地の良さそうな顔だ。試しに頬を触ると、ぷにぷにしていた。


(……体も、触れるよな……)


 そう、目の前の少女は奴隷なのである。年齢は犯罪的だが自分の奴隷なのだ。触りたければ触り放題だ。

 だが、やめておいた。


(我慢できずにどうしても触りたくなったら、正直に話して命令するようにしよう)




 あの後、ユノとルトナは同じベッドで寝た。

 ユノは最初は遠慮していたが、一度無理やりベッドに入れると、疲れていたのか、物凄い速度で眠りに落ちた。


 朝早くの日差しの中、ユノと並んで歩く。

 目的地は宿のすぐ傍にあるが、すぐ側に可愛い女の子がいれば、たった一分宿の廊下や階段を歩くだけでも、お散歩気分という感じでよいものだ。


(自分も可愛い女の子なら二倍……なのか? ホントに二倍なんだろうか?)


 唇に指を添えて考え込むルトナの顔を覗き込み、ユノが疑問を発する。


「ご主人様、挨拶ですか?」


「ああ。やっとかないとダメってイザニが言ってたから。お供してくれる?」


「どこへでも行きます!」


 今は、ユノが遅れて起きてから、彼女を誘って厩に向かっているところだ。

 理由は一つで、自分の竜と会話をするため。


 竜舎の人にいろいろと任せる前提でだが、走竜の扱いはイザニからある程度は聞いた。鞍も既に取り付けられていて、今すぐにでも乗ることができる。

 そのためには、つまり竜に乗るためには、時間がかかるようなので昨日は諦めたが、自分を主と認めさせなくてはいけない。それはよく知られていることであり、ユノが今挨拶と呼んだものだ。つまり、言葉で会話できるわけではないものの、こうやって二人で顔を出す必要があった。


 厩は、家畜を飼う場所独特の匂いがした。正直言っていい匂いではないが、それを言っても仕方がない。

 馬が木の檻に入れられ、六~七体程度並んでいる。その四番目程度に、ルトナの竜がいる。


 馬についてであるが、遠目からは普通の馬に見えたものの、近くで見ると頭に小さな角が生えていたり、背中に小さな翼が生えていたりする。元の世界の馬と同じ出自とはとても思えず、何かがあるのだろう。


 走竜と対面した。

 木でできた檻の中に繋がれており、暴れる様子はない。大人しそうで、良い竜を買ったのだなとぼんやり思った。


「あー、その、なんだ」


 走竜は人間の言語をある程度は理解する。イザニから話を聞く限り、犬かそれ以上の知能だとルトナは考えた。

 ならば、しっかりと語りかけてやるべきだろう。


「昨日はろくに話もできなくて悪かった痛ッ!!!!」


 ばしぃと頭を撫でようとした手を、顔を使って弾かれた。唸っているわけではないが、友好的な表情からは程遠い。


(睨まれてんのか、これ……)


 もう一度手を出すと、今度は噛むぞと言わんばかりに牙を見せて唸る。

 大人しそうだと判断した十秒程度前の自分を、ルトナは呪った。


 自分に懐くビジョンが全く見えない。


(昨日はおとなしくハーネスには繋がれてたのにな……)


 困ったと頭を掻いていると、ユノがルトナに一声をかけた。


「ちょっと失礼してもよろしいですか?」


「あ? ああ……何?」


 そして、走竜に話しかける。


「落ち着いてー、あの人は私のご主人様で、貴方のご主人様でもあるよ。何々? ……そっか。伝えてみるけど、従わないとダメかもしれないし、そこは許してね。……私に免じてもダメ? 私は、ご主人様に従いたい。お願い、ね?」


 少しびっくりした。

 ルトナはもともと前の世界では動物に話しかける行為が好きではなかったのだが、ユノのそれは少し雰囲気が違った。竜の鳴き声に合わせて会話が展開していき、本当に話しかけているみたいなのだ。

 というか、ユノの優しげな表情も、竜の慈しむような表情も、まるである程度の時を過ごした友人のようだ。


「……凄いな。竜の扱いに慣れてるとか?」


「いえ、別にそういうわけではないんです。私はハーフフェアリーなので……純血なら完全な会話ができるのですが、それもできず。こうして半端に意思疎通が可能なくらいなんです」


「いや絶対それ凄いんだけど……」


 話を考えると、フェアリーには動物の声が聞こえるようだ。

 動物からの好かれ方が平均くらいのルトナには、自虐風自慢にしか聞こえない。

 ちゃんと姿勢を低くして話しかければ野良猫に触るくらいならできるが、何もしなくても猫が寄ってくるようなレベルではなく、それはどちらかというと加藤の母親の領分だった。


「交渉しました。今なら大丈夫だと思います」


「うん、……んじゃあ失礼して」


 二言三言追加で話してから、ユノはルトナに場所を譲った。

 言葉通り、竜はルトナの指を受け入れる。


(動物と会話できるだけでも引っ張りだこな気がするんだがなぁ。ああまぁどうせそれ狙って買うならフェアリーでいいのか……)


 五回程度撫でつけた後、言葉にして「挨拶」をする。


「私はお前の主人だ。そして、これからもそうあろうと思っている。……認めてくれるか?」


 がぶっ。返答は牙で行われた。


「痛っっっっっった! この野郎お前マジ、ここは認める流れだろうが!」


 手加減されているのかエルフの体故か、威力は大した事ない。が、痛いものは痛い。

 つん、と走竜は顔をそむける。


「ユノ、今こいつはなんて言ってるんだ?」


「ご主人様を主人と認めることはやぶさかではないが、今の私にご主人様をお載せするのは力不足です、って感じです」


「……多分優しく言ってるだろ。そのまま言っていいから正確なところを教えてくれ」


「誰がご主人様を主人と認めるか、ばーかっ、って感じです」


「この野郎……ピコに頼んで飯を抜いてもらうか……」


 言うと、ぐるるるるとルトナに対して唸り声を上げる。やはり、かなり深いレベルで言語を理解している。


 深い溜め息をついた後、ルトナは諦めた。

 無理に手なづけてもしょうがない。


「とりあえず、昨日ベッドでお前の名前を考えた。パトリシアも候補だったんだけど、竜なのでカッコイイ感じの語感で、グドリシア。お前これからグドリシアって呼ぶからな」


「いい名前ですね、ご主人様」


 沈黙の後、がるる、と一言だけグドリシアは鳴いた。

 受け入れられているのか、拒絶されているのか、それさえもわからない。

 一応もう一度撫でてみると、喜んでいそうにも見えないが、はねのけることはしなかった。


(……まあ同時に買った二人が同時に懐くなんてことはないか)


 ルトナはユノと厩を後にした。これから長い時間をかけて徐々に絆を深めていけばいい。幸いにも、セットで購入した(?)ユノは動物と会話する技能を持っている。それだけでも十分過ぎる幸運であり、これ以上を望むべきではない。そう思った。



 ルトナの部屋は二階の隅から数えて二つ目だ。朝の食事を取りに、一階に降りる。

 すると、食事をする場所の手前でピコとすれ違う。


「ルトナさん、おはようございます」


「おはよう、ピコ」「おはようございます」


 丁寧に挨拶するユノを見て、ピコは大げさな表情で驚いた。


「まああああ――これはこれは。なんて丁寧な挨拶なんでしょう。確か……シェイルマンさんちの子供だったわねぇ」


「絶対にピコさんの家には渡しませんって」


 ピコの撫でようとする手を遮って、ルトナはユノをぎゅっと抱きしめた。

 なんというか手つきがいやらしいのだ。もう一瞬も触れさせる気はない。

 すると、ピコはあらら、と苦笑して、


「冗談はさておき、ユノちゃん、昨日も廊下でちょっとだけすれ違いましたけど。綺麗にするとやっぱり凄いです。美人になりますね。絶対。……悪い男に騙されないようにしてあげてくださいね。ユノちゃんも、怖い人について行ったらだめですよ」


「はい、ありがとうございます」


(悪い男、俺なんだよなぁ……)


 お礼をするユノを見ながら、ルトナは苦笑した。

 現在進行形で、自分が男であることや、異世界から来たことを隠し、騙している。

 とはいえそんなことを言ってもピコには意味不明なので、ソウデスネ、と適当な返事。


 それに、怖い人について行ったらダメとかそういうレベルになってもらっては困る。

 すぐには無理だろうし、何ヶ月でも、あるいは時間が許せばだが何年かけてもいいから、ユノには、ユノが逆にその辺のヤツにとっては怖い人になるくらいの、実力になってもらう必要がある。そうしなければ、魔力大龍とともに戦うのは難しいだろう。

 ただこれも正直に言えばユノちゃんを戦わせる気ですかこの鬼畜、とか言われそうだ。黙っておいた。



 ピコと別れ、移動し、食事を取りながら、ユノに今日は何をするか聞かれた。


「とりあえず、面接かな……?」


「?」



「とりあえず、名前だな、名前。名前は?」


「えっと、名前、ですか? はい、ユノ・ステファニエです。って、ご主人様に頂いた名前ですが……」


 そういうわけで、今は自室でユノと二人。ユノはベッドに座っており、ルトナは部屋に備え付けられた小さな椅子でユノと相対している。面接スタイルである。

 ユノの現在の情報をしっかりと確認する。午前はその調査で潰すことを決めた。

 敵を知り己を知れば百戦危うからず、という言葉がルトナは好きだった。


「じゃあ続きは胸を揉みながら聞いていくから、カメラに向かって話しかけてくれないか?」

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