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7-2、奴隷商人2

 ミルとは毎日のように会う。キリエラとは初日の夜以来だ。


「キリエラも、おはよう。そうだ、その節は、ごめん」


「さて、謝られるようなことなんかあったかな。簡単な貸しくらいはあったと思うが」


 これである。

 ドライなところや居丈高なところはあるが、キリエラはきっと良いやつなんだろうと、ルトナは思った。


 会話のネタは山のようにある。なにせ、毎日一緒に同じものと戦っている相手だ。ミルとはもう既に数回目の遭遇だが、ミルが相手だと会話が進みすぎるので、偶然出会っても早めに切り上げることにしていた。これはミルの話が上手いからで、ルトナが女慣れしているということではない。ミルはとにかく会話の呼吸が上手かった。ルトナの側が何も気にすることなく、スムーズに会話が進んでいく。


 少し話題が途切れたところで、仲間の話になった。というか、ルトナが口火を切った。


 異世界に来て四日目、仲間を探す必要がある。

 急ぐ必要はないが、さりとて次の魔力大龍がいつ来るかわからないため、行動は常に起こす必要がある。


 が、男を仲間にする気はなかった。別に強姦未遂がトラウマになったというほどではない。

 何も気にしていないわけではないが。

 純粋に、せっかく異世界に来て、男と冒険するのはおかしいだろう。


 そういった事情で、冒険者をただ仲間にするというのはどうも難しい。冒険者は男のほうが圧倒的に多いからだ。二倍くらい人数の差があるのではなかろうか。


 何か手がかりがつかめないかと、軽く、仲間ってどうやって探せばいいのかな、と言葉にした。


「仲間なんてそうそう見つかるもんじゃないぞ。物語の冒険譚なんかだと、ぱっと対等の立場の仲間が見つかるもんだけどな。努力して、ある程度名を売って、それでもロクデナシがよってきやがる」


「ありがたい説教どうも。キリエラが説教好きなのはわかったし、ありがたく頂戴しとくよ」


 こっちから話を振った立場とはいえ、お説教をお願いしたつもりはない。少し皮肉を言った。


 しかし、キリエラは不愉快になるどころかむしろしたり顔をした。なぜそんな顔をしたか不明だ。少し腹が立った。


「ねーだから私とパーティ組もうってば。ね? きっと楽しいよ」


「うーんミルの誘いはめちゃくちゃ嬉しいんだけど……」


「だけど?」


 割り込んできたミルに、何度か繰り返した言葉を使う。

 ミルはかなり新進気鋭の冒険者のようだ。数ヶ月のルーキーというのに、しっかりした依頼をこなせる程度にまで、ギルドの信頼を勝ち取っている。


 ただ、自分と組むということは魔力大龍と戦うことがありうるということだ。ミルが討伐依頼で狩っているのは、初心者向けの魔物。しかも聞けば、その魔物に、たまに半死半生の目に合わされているらしい。そんな相手を、世界がどうこうする戦いに巻き込めない気がする。

 これは傲慢な考えなのかとももちろん思うが、流石に自分の都合に巻き込んで殺すのはイヤだし、文句を言われる筋合いもない。


「ミルと一緒にいると」


「いると?」


「なんか仲良しこよしな感じになっちゃいそうで……」


「う、なんか分かる気がする。少なくとも冒険者パーティって感じじゃないよね。茶飲み友達?」


「ミルがちゃんと舵を取ればいい話だろう」この言葉はキリエラだ。


「いや無理無理……無理です。私、ぶっちゃけ依頼受けるよりお喋りのほうが好きなので」


「正直は美徳だ」


 二人の掛け合いを聞いて、ルトナは笑った。キリエラはきっと中堅以上の冒険者なんだろうが、この流れで誘っても仕方がないし、そこまで深く信頼できる相手とも言えない。この二人とはこうしてたまに話すくらいで良い。そう思った。


(さて、俺の条件に全部当てはまる仲間なんているのかなあ……)


 いざリストアップしてみると、かなりのめちゃくちゃを言っている。信頼できること、強力なこと、異世界転生の件を話すなら口が堅いこと、美人であること、エルフであること……


(ダメだな、リストアップすればするほど自分がクソ野郎に思えてきた)


 エルフに至っては未だ一人も見つかっていない。

 しかも自分がエルフである以上ミルやアコルテに探りを入れるにも無理がある。

 どういうように情報を手に入れればいいのか、それさえさっぱりだ。



 今日討伐する魔物は豚の魔物で、オークと呼ばれている種類の上位種、グルオークだ。オークというのはいかにもまんまな名前だが、これも神様の言う通り「何か繋がりがある」のかもしれない。

 オークは猪くらいの感覚の魔物で、サイズも大したことはないし、初心者がパーティを組んで討伐する魔物だ。しかし、グルオークときたらそうは言えない。象のような体格で、マトモに物理でやりあうには相当に強くなる必要がある。


 とはいえ、ルトナならば魔法を連打して終わりである。平均程度の魔法使いが単騎で挑むのは無謀だが、強力な魔法使いにとっては、タフさと力の強さが売りのグルオークは、お手頃な標的といえた。


 ルトナは、森の中の樹の陰から姿を現し、歩み寄って、グルオークの焦げ跡がある死体から素手で牙をむしり取った。これは討伐の証拠であり、また依頼主が求めているものでもある。

 アイテムバッグがあれば死体を収納しギルドの近所の解体所に売却するのであるが、空間を歪める魔法がかかったアイテムバッグは、馬車が買えるような値段で、ルトナには全く手が届かない。最優先で入手した方がいいとアコルテに言われたし、事実その通りなのだろう。ミルでさえ、容量が小さいものではあるが、持っている。


(まあ今はいいや。とりあえず今は困ってないし)


 死体は放置する。別の魔物のエサになるのだそうだ。


 森の中の、少し開けた獣道で、ルトナは空を見上げた。雲一つない、いい天気だった。



 ルトナはようやく街についた。血のついた牙は、袋に入れて背中から背負っている。サンタクロースみたいだなと何度かルトナは思ったが、背負っているのは血のついた袋だ。

 日が落ち始めている。普段はもう少し早い。ミルたちとの会話が弾んだことと、グルオークを見つけるのに時間がかかったことが原因だ。


 そして迷った。

 今いるここが、どの辺りかさっぱりわからなくなっている。

 ミルに教えてもらったギルドへの近道を試してみようとしたのだ。


(……ひょっとして俺って方向音痴なのかな)


 少しこのあたりは治安が悪い通りなのだろう。歩く子供たちの表情が暗く、ボロを着ている子供までいる。スラムのたぐいが近いのかもしれない。

 嫌な空気がしている。今はもう冒険者としての立場もあり、ちょっと問題を起こしたところで強制立ち退きとかはないだろう。人の家の屋根に登って無理やり街の風景を見て道を探して、最悪の場合屋根伝いに帰ることにした。


 が、行動を起こす前に、路地裏の影から、背の高い青年が姿を表した。


「仲間、お探しですか?」

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