Days1
相変わらずの駄文です(汗)
いきなりだけど、こんな事を不意に考えてしまう僕は何者なんだろうか。
「世界征服したいなぁ」
それはついさっきクラスの不良共に?与えてもらった?打撃の痛みによる気の迷いか、その衝撃によって昨日買い換えたばかりの携帯電話が壊れた事に対する落胆の感情のせいか。
はたまたそんなの関係なく、目の前に体育座りしている見慣れない少女が言った言葉のせいか。
〜数分前〜
『世界が、欲しくない?』
そう僕に言ったのは、僕が見たことも会ったことも無い少女だった。
所々痛む身体、自分と同じように伸びている不良達。いや、っていうか彼らは死んだんじゃないのか?
僕はこの不良達に暴行を食らった。いわゆるリンチだ、まったく酷い奴らだよ。
そしてその連中が自分を取り囲むようにして、一見死んでいるかの様に倒れている。これはどういう事なんだ?
「うん、これはどういう事なんだ?」
僕は仰向けに倒れたまま口に出して言ってみる。しかしその声は高速道路下の静けさに響くのみで、答えるモノは彼女の再びの『ねぇ、世界が、欲しくない?』だけだった。
「はい」とも言えずにまた嫌だとも答えずに立ちあがった僕。平常心を保とうとするが周りの光景がそれをさせてくれず、微妙に裏返った声で自分の横に座ったままの少女に問いかけた。
「こ、これは、キミ一人で…?」
「うん」
小さく頷いた彼女はすっくと立ち上がり、電話交換手並に落ち着いた口調で再び僕に話しかけた。
「ねぇ、欲しいの、いらないの?どっち?」
「き、急にそんな事言われましても…」
小首を傾げて僕を見る少女。長めの黒髪は目にかかりそうな所で綺麗に切り揃えられ、整った顔立ちは白い肌を強調しているような感じだった。
未だに脳内が整理できなかったのだろう、僕がこの少女の事を?変人?と選定するのはもう少し後の話だ。
「そ、それよりも逃げないといけませんよ、すぐに?大村?達が目を覚ましますよ!」
とりあえず急ぐはこの場からの緊急離脱、と答えを出した僕は彼女の手を引いてこの場を離れようとしますが、
「待って」
「うわっ!」
彼女の手を引く右手に力が入ったかと思うと、僕の視界は上方向に反転。彼女に引き倒される形になって地面に再び仰向けに倒れたのだった。
「痛いですよ…何するんですか!?」
打撲した後頭部をさすりながら上半身だけを起こして苦痛に顔を歪める僕。しかし彼女はそんな事にもお構い無しで、
「はっきりしてよ。このままじゃ私、あなたを殺さなくちゃいけないの」
「…!?」
刹那、止まる思考回路。
『こ、殺す?』
動き出した。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!なんで僕が!?」
「だって、私の事を知っちゃったもの」
「知らないですよ何も!いいからこの手を放してください!」
僕は全力で彼女の手を解こうとする。今更だが、自分から握ってしまった事を後悔したのは言うまでもない。
「ダメ、早く答えを出して。このままじゃ彼らが目を覚ましちゃうわ」
駄々をこねる子供を叱る母親のように下から上目使いで僕を見る彼女。そして彼女がそう言った矢先、うめき声がどこからともなく響いた。
「痛いな…コラ吉岡ァ!てめぇよくも…!」
上半身を起して鬼のような形相をした大村が、まさしく悪鬼のごとく怒り狂いながら立ち上がり、僕の傍らに座った少女を見るなり大きく後ずさりした。
「そういえばコイツ…俺たちを一瞬で!?」
よく覚えていないのか、納得のいかない表情のままの大村はすぐにでも逃げ出せしそうな感じだったが、そう簡単にもいかないんでしょう。
「お、大村クン!今日はこの辺りにしておきませんか!?これ以上の暴行はお互いに喜ばしくないと存じますが…」
そもそもどうして僕は彼らに恨まれるのだろうか、人に恨まれる様な行動を取った覚えはないのだけど。
しかしすかさず怒声を上げる大内。
「うっるせぇ!その敬語が気に食わないんだよ!人を馬鹿にした様な話し方しやがって!」
「ば、馬鹿になんかしてませんよ?一種の尊敬じゃないですか、ホラ、文字通りじゃないですか」
嘘です。
「それが馬鹿にしてるってんだよ!あぁお前と話してると本当にイラつく!」
僕はいつの間にか、傍らの少女の存在を忘れ、震える声を必死に抑えつつ、言葉の反撃を放つ。
「こ、この口調は物心付いた頃からの癖なんですよ!癖を治せと言われましても、そんな容易な事じゃありませんよ?」
一瞬怯んだ大村、その隙を突いたかの様に、黙視していた少女が不意に僕の耳元で囁いた。
「彼は邪魔な物を整理する時に、辞典のケースの中に詰め込む癖が」
「そ、そんな癖があるんですか!?」
「な!?」(大村)
何かしら大きな過ちを犯してしまった事に気づく僕。
「って何言わせるんですか!?」
「あなたが言った事じゃない」
冷やかな目で僕を見る彼女に対し、本当に怖いのはこの人だと僕は思った。
「それで?私も急いでるんだけど」
いつの間にか立ち上がった少女は、視線を虚空に向けたまま僕に問いかけた。
この時僕は、彼女が自分よりも遥かに身長が短い事に気付いたが、今はそれどころでは無かった。
大村の仲間たちが気絶状態から回復し事態と現状を把握、すぐさまバトルモードに展開してしまった。
「こいつ、ツレがいやがったのか!」
「痛い…まだ頭がズキズキするぜ」
所々から痛々しいうめき声が聞こえる中、僕の顔は青りんごの様に青ざめ、大村は本気の様子。
「どうするの?私の予測結果によれば、あなたは30分後に市民病院の治療室にいるわ」
「そんな殺生な!」
平然と言う彼女。だがその瞳はまるで『早く私の言う通りにして』と訴えているかのようで。
「そ、そんな…」
この時の僕は、とにかく自分の安全を確保することを最優先に選択してしまったから。
「わ、わかりました!もうなんでもしますから!この場を切り抜けられるならやってみてくださいよ!」
この言葉が後々僕の人生をエッフェル塔のごとく傾けて行くとは、想像もしなかったのだ。
次の瞬間、少女は機械のように無感情な声質で、押し流すように僕に話しかけた。
「コードNo1。契約内容を確認、あなたは『CWC』の規約に則り、私、『ウォーミルナ』の権限において当機関に所属する事を認めます」
一気に言われたその言葉を、僕はよく聞き取れなかった。
「コードNo2。あなたは『SSI』の所属に伴い、有事の際は当機関に拘束される事を同意しますか?」
しかし何かの同意書を読み上げる様に淡々と言い続ける彼女。その間にも僕の目の前には大村達が立ちはだかっていた。
「吉岡、覚悟はできてんだろうな…」
大村は持前の睨みを最大限に使用して僕を脅した。そして脅しとは自分で分かっていてもそれはクリティカルヒット。
「ちょ、さっきから何言ってるんですか!?もう彼達も?限界?が来てるようですよ!」
しかし彼女は一歩も動かず、
「答えて。同意するの?」
「ええ!します!」
「最後に、コードNo3。あなたは大晦日は裏番組派?」
「それって関係あるんですか?」
彼女は無表情のまま僕を見る。もうとりあえず答えなくてはいけないようだ。
「はい!どちらかといえば裏ですが!?」
「おい吉岡!さっきから何言ってやがる!そろそろその減らず口、潰してやるよ!」
大股で近づいてくる大村。僕の発汗の9割は冷や汗で内訳が付き、足がガクガクと震えたその瞬間。
彼女の凛とした声だけが、異様に大きく僕の耳に届いた。
「わかったわ。 コードNo59。末梢措置を行使します。 危ないから、下がってて」
最後の言葉は、微妙に笑いが含まれているようにも思えたが、僕はそんな事よりも目の前の光景に意識の全てが持って行かれた。
次の瞬間、ラジコンのモーターが動く様な駆動音が一鳴りしたかと思った刹那、金属同士がぶつかり合う音を立てて彼女の右腕が肘から縦に四つに割れ、花が開いた様なその腕から勢いよく飛び出したのはまるで戦闘機に付いている噴射口のような円筒。
次に倍の大きさと長さになった右腕を軽々と持ち上げた彼女は、その近未来的な光沢を見せる大砲の様な腕を大内に向けた。
一斉に止まる大村達の歩み。僕は若干だが、彼女の後ろで嫌な予感を感じていた。
「な、なんだコイツ…」
驚きを顔に出して一歩引く大内、同じく彼の倍は後ろに下がった大内の仲間。
そして飛び立つ戦闘機の様な爆音を上げ始めた彼女の右腕は目がおかしくなる程の閃光を発した。
それが何故だろう、次の瞬間僕は自分でも納得の行かない行動を取っていた。
なんというだろうか、?死ぬ予感?なのではなく、?殺す予感?がしたのだろう、多分。
「それはだめだって!」
そして気づくと僕は無我夢中になって彼女を押し倒していた。
しかし彼女の腕から発射された?光線?は大村達の方向に、だけど僕の行動が間一髪を引き起こしたのか、深紅の?光線?は僅かに大村達から逸れ、大村の後方にあった資材置き場に直撃した。
熱風と共に地を揺るがす程の爆音が高速道路下の静けさに響いた。
僕は瞬時に取った行動が大村を助ける為ではなく、単に人が死ぬのを見たくなかったというのが原因だとは気付かなかったが、以外にも彼女の鋭い視線が心臓の鼓動を早めた。
「何で邪魔をするの?あなたが頼んだ事じゃない」
「こ、殺せとは言ってませんよ!」
僕は、木材があったのだろう、火が噴き出し始めた資材置き場と睨みながら感情の籠ってない声を発する彼女の方とを交互に見ながら言った。
「…ば、化け物!?」
大内は腰を抜かしてその場に膝を付いていた。
とっくに逃げたのか、大村の仲間たちの姿は無い。
「た、助けてくれ!」
彼女を見るでも僕を見るでもなく、蠅を追うような目つきで大内は叫んだ。
しかし無情な事に、彼女は僕と大内のどちらにも耳を貸す事は無く、
「あなたは黙っていて、命令は絶対なのに…」
と理不尽な文句を言いつつ、右手の?鉄の塊?を大村に向けた。
そして数秒の間も無く、彼女の右腕からは真っ赤に染まった?光線?が射出された。
「そんなっ…」
思わず目を覆いたくなるような閃光とその光景に、僕は息が止まりそうになった、そして止まった。息じゃなくて、彼女の出した?光線?が。
「え?」
疑問に思ったのもつかの間。僕の視界の端に立っていた彼女は後方に大きく跳躍。
次の瞬間爆ぜる彼女の立っていた場所のアスファルト。
僕の視線は後ろに跳んだ彼女に向ければいいのか、大村の安否を確かめるために前方に向ければいいのか分らなくなっていた。
しかしそれは強制的に後者の選択へとなってしまった。
何故なら大村の目の前には、まるで大村をかばう様にして片膝を着いた男が背中を焦がしながら片膝を付いていたから。
僕は瞬時に理解した。
彼女の光線は?止まった?のでは無く、?止められた?という事実に。
「なたは…グラディウス?」
僕の判断では大村以上に彼女も危なかったのだと思う。
それは彼女のさっきまでいた場所に大人一人が入ってしまいそうな程大きな陥没があったから。
しかし彼女は落ち着き払った口調で、そのデンジャーな防衛術を果たした謎の男に言った。
「あなた、なんでこんな所にいるの?」
男は首だけを彼女の方に向け、胴体は訳が分からずキョトンとした大村の方に向けながら、彼女と似たような冷静な口調で答えた。
「状況が変わったんだ。オーナーの代わりを探していてね」
そう言って大村の方に向き直り、片膝を着いたまま大内の右手を拝めるように両手で持ち、
そう、まるで王に忠誠を誓う家臣のような仕草をとった。
まるで状況が把握できない大村は声も出せずに男の下げられた頭を茫然と見つめるのみ。
そして優しさを籠めた声で、大村に囁いた。
「我が主、御迎えに上がりました」
「ルール違反よグラディウス、ちゃんと規約を読みなさい」
いつの間にか立ち上がって僕の真横まで来ていた彼女が強い口調で言った。
「規約?ああ、あの意味もない?読み物?か。
あんなもの、所詮最後は大晦日のテレビ事情について質問する程度だろう?くだらない…」
最後の一言は、悲しいことに納得が行くのは僕だけだろうか。
「決まりよ、でも私がそれを黙ってさせるとでも?」
しかし謎の男は負けずと言い返す。
「邪魔をさせるとでも?」
僕には到底分らなかったのだろうが、彼と彼女の間ではこれが開戦の合図だったのだろう、
彼女が勢いよく持ち上げた右腕から、またしても一筋の光線が。
しかしここで仰天。見ているだけで眼が焼けそうなその光線を、男は右の手のひらで甲高い音と共に受け止めたのだ。
まるで吸収される様に消えたその光線を大内が恐怖の眼差しで眺めていた。
「主!少し下がっていてください!」
「させない」
彼女は金属質に肥大した右手を片方の手で支え、更に強力な放射を大村の方向へと放った。
しかし間一髪、謎の男の差し出した左手に直撃、今度は男の体が大きく傾いた。そして更にもう一発。
彼女には本当に躊躇という言葉が無いようだ。
そしてこれは男に致命的なダメージを与えた。
空気を焦がす光の筋は、男の左腕を肘から吹き飛ばしたのだった。
「ってえぇ!?」
目の前の光景に思わず大声を出した僕。大村は耐え切れずに気絶した様子、泡を吹いて動かなくなってしまった。
「や、やりすぎですよ!」
僕の視線は後ろに仰け反り、後頭部から倒れた男のまま、右腕から排熱の蒸気を出している彼女に叫んだ。
「いいの、これくらいなら」
相変わらず冷淡な彼女。
しかしおかしいのは彼女だけでは無かった。
男は倒れた反動を利用して復帰、鋭い視線を僕と彼女に向けながら、前方に、つまり僕達の方向へと跳躍した。
「ライバルって奴は、早めに潰しておくべきだよなァ!」
何時の間にか、男は跪く僕の真上に来ていた。
振り上げた右手から、一瞬火花の様な光が見えた瞬間、男の姿は残像も残さず目の前から消え去った。いや、消し飛ばされたのだ。
爆音がテンポ遅れで聞こえ、数メートル先に男が右腕から黒煙を上げて倒れていた。
「右腕もいらないのかしら」
彼女も同じく腕から排熱の煙を上げていたが、全く苦痛の無い表情だった。
「彼は…人間じゃないんですか?」
僕は思わず呟いた。
それは再び起き上った男に向けたのか、そしてトドメを刺す為に右腕のキャノンから光が漏れ始めた彼女に向けて言ったのかはハッキリしなかったのだが。
「悪いが、今日はここまでだ」
体のあちこちから火花を散らしながら腰に手を回した男は、睨み殺す様な視線で彼女をにらむと、右腕に持った何かを思いっきり地面に叩きつけた。
次の瞬間、舞いあがる煙幕。
「うわっ、ゲホォッ!?」
何が起こったのか理解するのに数秒の時間を要したが、傍らの彼女が煙の中に向かって走って行くのを確認して、僕はあの男は逃げたのだと悟った。
「こんなの、信じられない…」
今の僕には、ただ目の前で起こっていた光景を否定するしかできなかった。
「いいえ、現実よ」
いつの間にか煙は晴れ、元に戻った右腕を垂らした彼女が僕に歩み寄りながら言った。
「でも…あ、それより大村は!?彼は無事なのですか?」
「知らないわよ、ただ彼達を逃がした事だけは確かね」
「何か悪いことでも?」
その問いに、彼女は虚空を見ながら呟いた。
「…いずれ、解るわ」
「はい?」
彼女のその言葉を理解する前に、次の事態は起こってしまった。
高速道路下の静けさを裂く様にして、一台のスポーツカーが僕たちの目の前に走りこんで来た。
「危ない!」
思わず後ずさりする僕、思わず先ほどの戦闘で作られたクレーターに足を取られそうになる。
「案外早かったのね」
彼女が全く動じないところを見ると、彼女の仲間なのだろうか、いや、彼女のポーカーフェイスは本当に信じられないからなぁ。
流線型の車体に、深紅のボディ。そこらの車と比べたら溜息を漏らす程の出来栄えなのだろうが、今の僕はそれどころじゃなかった。
「け、警察ですよ!」
遠くから徐々に大きくなってくるサイレンは、きっとこの煙や火を見た人が通報したのを聞き付け、急がばとやって来たパトカーの音だろう。
別に悪い事をしたつもりはないけれど、なんとなく彼女といると妙に罪悪感に捉われてしまうのは気のせいか。
いや、気のせいではないのだろう。
「逃げるわよ、早く乗って」
そう、ある意味羨ましい程の冷淡さで、眼の前のスポーツカーを指さすものだから。
「に、逃げる…?こんなの、事情を説明すれば…どうにもならないですよね!」
一人で疑問を投げかけ勝手に解決した僕は、彼女の言うがまま背を低くして革張りのシートに身を沈めた。
「…あれ?そういえばこの車、二人乗りですよ?」
そこで気づく事実、この車は見ての通り二人乗り。運転席には既に知らないサングラスをかけた男が座っているし、助手席に僕が座ると満員、彼女が座れない事は自然と解ってくる。しかし、
「もうちょっと深く座って頂戴。頭がぶつかっちゃう」
「は?」
彼女が僕のフトモモに片手を置き、そのまま乗り込もうとしてきた。
「ちょ、まっ!何してるんですか!?」
「乗ろうとしてるのよ」
「違います!あんていうの…その、あまりよくないですよ!」
「?対象の発汗量が30%増加?何があったの?」
彼女が僕のステータスらしき情報を言っている間にも、甲高いサイレンの音は徐々に近づいてきていた。
「ミコ、早く乗れよ、そしてお前、お前だよボウズ…お前、非人間相手に何興奮してんだ?」
「してません!ってちょっと!狭い狭い!」
横の男に気を取られている間に、彼女は流れ込む様に乗り込んできた、柔らかい感触が色んな感覚を麻痺させそうだったけど、堪えて窓の外に視線を移す僕、そしてそこには、高速道を下に流れ込む様にして入ってきたパトカー数台。そしてその瞬間、前面から物凄い衝撃が僕を襲った。
「シートベルト忘れるんじゃねーぞ!」
横のサングラス男が機嫌よさげに言い放つと、
再び襲う衝撃。これは何かにぶつかったような感触だった。
「うわっ!?何をしたんですか…ッ!」
車内には轟くエンジンの爆音と、対向車が鳴らすクラクションで満ちていた。
そして弾かれた様に右に切られるハンドル。
不快な遠心力で体が浮きそうになる最中、僕の膝に乗っていた彼女が微妙に浮いたのが見え、焦ってしがみ付く様にして彼女を引き寄せた。
「うわぁぁぁっ!」
その行為が、結果的に自分の体をシートから離脱させる結果となってしまい、コンマ数秒の内に不安定に浮いた体は重心を失い、そして。
(ゴンッ)
鈍い音と共に、僕は額から彼女の後頭部にヘッドアタック。
彼女が小さく「あ」と声を出したのを最後に、僕の意識は途切れた。
「和雄、何をしてるの?」
声が、聞こえた。
僕の意識は、深い、深いまどろみと白い光の中にあった。
ここはどこ、というより、どの場面なのだろうか。
どこかで見たことがある、しかし、全く思い出せない。
僕に声をかけた女性はどこかで聞き覚えのある声だった。
そうだ、この声は。
「母さま、どうしてあの男の人達は路地裏で?おしくらまんじゅう?をしているの?」
僕が見ていた光景、それは暗く汚らしい路地裏で一人に対し4人の男が足や手を使って?おしくらまんじゅう?をしている姿だった。
光の中にただ一つ存在する闇を見る僕の母は、
無感情の声で僕に言った。
「あれはね、転校生を歓迎しているのよ」
「じゃぁあれは?」
場面は変わり、公園の前。
夕日差し込む団地の公園で、桜の木から伸びるロープに?ぶら下がった?人を僕と母は見ていた。
「あれはね、?身長を伸ばそうと―?」
声は途切れ、一面真っ暗やみに。
先ほどまで目の前で起こっていた事は、まるで嘘の様に全ての映像が途切れた。
そして心細くなった僕の心に、染み渡るような声が聞こえた。
「世界が、欲しくない?」
僕は即答できそうだった。
しかし
「…?」
声が、出なかった。
「世界が欲しくない?この世界が、あなたのモノになるのよ」
目的も、意味も分らないはずのその台詞は、何故か僕の脳内を刺激するものがあった。
「世界が―」
「いらない!こんな世界なんて、いるもんか!」
誰かの声が聞こえた。しかし、それは正しく僕自身の声。
まるで僕の代役を務めてくれたかの様なその声は、僕の思っている事を忠実に暗闇に響かせてくれた。
そして暗闇は意思を持っているかの様に、一瞬ためらいの無音を発して、そして言った。
「じゃあ、変えてみれば?」
『Fiction World』