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見るなのタブー

作者:青木森羅
「ここ、どこだ?」

 周りを見回す。しかし自分の手の届く範囲以外は何故か見えない、まるで暗闇の中で、俺にだけスポットライトが当たってるかの様だった。

「おや? アンタ、迷子だな?」

 暗闇の先から声がした、その方向を目を細めて見る。今まで見えなかったはずの場所から、ひとりの男が近づいてきた。年齢は俺と大差ない位で、二十代後半か三十代位だろうか。

「迷子?」

「おや、まだ気づいてないのか?」

「気づく、って何に?」

「ここだよ、ここ。明らかにおかしいだろ? いくら暗いったって、自分の周り九十センチ前後しか見えないなんて異常だろ?」

「はぁ」

「はぁ、だぁ? おいおい、まだ理解出来ないみたいだな。お前は今すぐに、この変な場所から逃げないと行けないんだよ」

「逃げる? 一体、何から?」

「何でも良いんだよ、そんなの。ほら、早く行くんだ」

「おいおい、急過ぎて何が何だか」

「お前、自分が事故に遭うのを予測できるのか? 物事は基本、急に起こるモンなんだから、いちいち気にしてるんじゃない。ほら、そっちを向く!」

「おいおい、何だよ!?」

 よく分からない男は、俺の体をぐるっと回し真反対を向かせる。

「いいからいいから。よし、いいか? ずっと先を見てみな、何か見えないか?」

「ん? なんだか、明るいような」

「そう、それだ。今からアンタはあそこに向かって走って行くんだ。ただな……」

「ただ?」

「聞いた事ないか、絶対に振り返ってはいけない、ってヤツ? アレだよ、アレ」

「振り返っちゃいけない? もし後ろを見たら、どうなるってんだ?」

「いいから、いいから。どうせ振り返らないんだから、失敗した時の事なんて気にしなくていいさ」

「けど」

「はい、始めるよ。前向いて~、よーいドン!」

「押すなよ!」

「じゃあ、頑張れよ」



 あの男の元から離れてだいふ経つが、いくら進んでも光が広がりはしない。

(アイツに騙されてるんじゃないか?)

 ふと、そんな事がよぎった。
 無言でただ歩く俺の耳には、自分が歩む音しかしない。
 しないはずだった。

 ザッザッザッ。

 ……ザッザッザッ。

 ザッザッザッ。

 ……ザッザッザッ。

 明らかに自分の歩調ではない足音が聞こえる、後ろから。
 しかも、こちらより少し早い速度のようだ。

 ザッザッ。

 ……ザッザッザッ。

 相手が何かは一切分からないが、妙な気分だった。ソイツを見てはいけないし、追い越されてもいけないと、俺の本能が告げる。
 足を進める速度が無意識に速くなった。

 タッタッタッ。
 ……タッタッタッ。

 後ろのナニカも速度を上げてる。

 ダッダッダッ。

 小走り。

 ……ダッダッダッ。

 まだ着いてくる。焦る気持ちが、俺の気持ちを逸らせた。

 ダッダッダッ!

 全力で走る。

 ……ダッダッダッダッ!

 向こうはこちらに追いつこうと、更に速度を上げた。

 ダッダッダッ!

 ……ダッダッダッダッ!

 ……ハァハァハァ。

 次第に後ろから声が聞こえるようになり始めた。

 ……ハァハァハァ!

 その声は、真後ろから聞こえる!

 ……ズシリ。

 誰かが俺の背中に乗っている!

 ……ハァハァハァ!!

 耳元に生暖かい息がかかる。

(もう限界だ……!)

あまりの恐怖に首を動かして振り向こうとした。

「ハァハァハァ、だから駄目だって」

 誰かに首を回せない様に固定されていた、妙に疲れているその声に聞き覚えがあった。
 さっきの男だ!

「まったく、気になってついてきて良かったよ。アンタは意志弱そうだったし」

「なんで居るの?  ってか重っ!」

「いや、俺もここから出たかったんだけど、後ろのアイツに何回も捕まってさ。誰かやって来たら、その背中に乗ろうと決めてたんだ」

「じゃあ、さっきの足音って」

「ああ、俺だけど?」

「紛らわしい、ハァハァうるさいし」

「仕方ないだろ、アンタの足が意外と速いんだもん」

「だもん、じゃない!」

 まさか背中に大人の男を乗せて走るだなんて思ってもいなかった、
 しかし、恐怖は背中の男への怒りに変わり、ただ進む事に集中出来た。

「ほら! 明るくなってきた! そろそろ出口が近いんじゃないか!」

「分かってるから、耳元で叫ばないでくれ」

 耳がキンキンする。

「ほら、もうちょっとだ!」

「分かってるって!」

「ハイヨー、シルバー!」

 そう言って、背中をバシバシ叩く。

「俺は馬じゃない!」

そんな軽口を言いながらも、光の中を走った。
 眩しくて目を開けていられなくなった時、

「サンキューな」

男がそう言うと、背中の重みが無くなった。

「ああ、こちらこそ」

あの男が居なかったら、たぶん俺は後ろを見ていただろう。



「ハッ!」

 起き上がろうとしたのだが、体に巻きついた何かで動きづらかった。
 よく見ると、自分の体に何本もチューブがついていた。

「大丈夫!?」

 急に横から顔が現れる、彼女の千尋(ちひろ)だった。

「イテテッ」

 全身に痛みが走る。

「ほら、無理しないで。事故にあったばっかりなんだから」

 彼女に手伝って貰い、体をゆっくりと寝かせた。

「……そうだ」

 思い出した。俺は彼女とデート中に、信号無視をした車に当てられたんだった。

「まったく。私をかばう時間があるなら、次からはかわしなさいよ」

 彼女の右の頬に大きな絆創膏がしてあった。

「良かった……」

 大した怪我押していなかった事に安堵して、彼女の手を握る。

「……ありがと」

 彼女は俺の手を握り返してくれた、いい感じの雰囲気になりかけた時。

 バタバタバタ!

 俺達二人の時間を邪魔するように、外が慌ただしい事に気づいた。
 お互いに接近していた顔を遠ざけ、

「何があったの?」

 と俺は千尋に尋ねた。

「なんかね、隣の人が数年振りに意識を取り戻したんだって。それでさっきから看護師さんが行ったり来たりしてるの」

「はー、そりゃ凄いな」

「しかもその人、起きる時にハイヨー、シルバー! って叫んだらしいわ。何なのかしらね?」

 その言葉にドキリとした。

「なあ、千尋。そこのカーテン、開けてくれないか?」

 そういって指を指したのは、足音が聞こえた方。

「どうしたの?」

「頼む」

「分かったわ」

 カラカラカラ。

 隣のベッドには人が横たわっていた。

「よっ、シルバー」

「だから、俺は馬じゃねえって」



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