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#001. 運命は転がりて


 婚期を逃がしたカエルよりも惨めな声をあげて俺はぶっ倒れた。

 体を前へとつんのめらせて、思い切りの良い横っ飛びのダイブをかましたものだからその勢いは相当なものだった。

 地面に接触するやに体が二度三度とバウンドをし、ようやく回転が止まった時には全身擦り傷だらけのありさまだ。


 何もかもがぼんやりとしていた。

 それでも血だまりみたいな赤色の池の中に自分が横たわっているのは分かる。


 信号無視を敢行し、ぜんまい人形よりも遅いんじゃないかという遅々とした速度で道路を渡る老婆が流したものか、それともトラックにはねられそうになった無謀な老婆を助けた俺から流れる血か。

 

「――何じゃこりゃ」


 よもや俺は死んだのか?

 しかして意識はここにあり、ズキズキとした痛みも依然ある。

 全身傷だらけだが、幸いにも重い怪我はしていないらしい。


 それによくよく見てみりゃただの深紅の色をした絨毯である。

 えらく値が張りそうだ。こうしていつまでも腹這いで寝転がっているわけにはいかんだろう。

 

 俺は力の入らぬ腕で体を支え、生まれたばかりの小鹿のようにぶるぶると足を震わせながらにどうにか立ちあがった。




 石造りの壁に囲まれた広い部屋に俺は居た。

 室内の照明を消してあるせいか数メートル先は真っ暗闇。

 壁には随分値が張りそうな大きな絵画がいくつも掛けられ、ギリシャの神殿にあるようなやたらに太い柱が部屋の中に何本も突っ立っている。

 日中ならばさぞや荘厳かつ静謐な雰囲気があるのだろうが、今のままじゃさながら魔王城だ。


 照明のスイッチはどこにあるんだ? 

 今誰かに声でも掛けられたらば、あまりの恐ろしさに心臓が胸部を突き破って露出しちまうこと間違いなしなのだが。


 そうして足元を見た俺は二度目の戦慄に震えた。

 自分の足下に敷かれた円形の絨毯を縁取るようにして、無数のろうそくが同心円状に何重にも並んでいるではないか。


「おいおい勘弁してくれ。何なんだよ!?」


 本当に何なのだ。『すんません、実は黒魔術の儀式の最中なんですよお」と説明されれば「あ、そうなんスか」とすぐさまに納得しちまえること請け合いである。


「いやいや待て待て。俺の日常は、いかにも黒魔術を嗜んでいますよ、なんていうサブカルスポットとはおよそ無縁だったはずだ」


 誰でもいい。説明を求む。

 ここが博物館なら館内アナウンスでもいいし、今ならホラーなゴースト殿が出てきてくれたっていい。ただし『今から出ますんで、よろしくお願いします』と一言をくれ。

 

 間。

 

 当然、誰も出てきやしないしアナウンスも流れない。

 そりゃそうか。

 

 俺は腕を組み、こめかみに指を添えると記憶に意識を向けた。

 まずは自分が何者であるかとよく思い出してみるとしよう。

 訳の分からない状況に陥ったときは記憶を確認するに限るからな。


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