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四歳の日常~後編~

申し訳ないです、更新遅れました。

 

 カイウスはポロロを兄に任せると、訓練を終えたその足で別邸へと赴く。

 

 「いらっしゃい、カイウス」

 

 「お邪魔いたします、おばあ様。それで、おじい様は何をしていらっしゃいますか?」


 「ふふふ、あの人は今、勉強中よ。あなたが考えたことが『この領地の発展に繋がる!!』と言って、昨日からずっと頑張ってるの。うふふふ」


 「い、いや、あったら便利だと思って‥‥‥それに出来るかわかりませんし」


 「出来るか、出来ないか、それはあなたが考えなくてもいいのよ? それこそ、あの人やルヒテルさん達が考えることだもの。あなたはもっと子供らしく振る舞っていいのよ」


 「はい、おばあ様。ありがとうございます」


 カイウスが、『この家族で一番好きなのは誰か?』 と聞かれたら、

 

 カイウスは迷わず祖母の名前を出すだろう。


 それほど、この家族の中で祖母は優しく、尊敬できる人だ。


 なんと言ったって祖母はいつも彼のことを心配してくれてこの少し特殊な家において、唯一彼の常識が通じる人なのだから。


 「それで、おじい様はどの勉強をしていらっしゃいますか?」

    

 「あなたの考えた、え~と、水洗式トイレ、だったかしら? 今は、あれを熱心に再現しようと庭で奮闘中よ。ブツブツ言いながら、楽しそうにやっているわね」


 「そうですか、では私も庭の方に行かせていただきますね」 


 「そう、分かったわ。後でお茶とお菓子を持って行くから、楽しみにしていてね」


 「はい!!」

 

 カイウスが家長に許されたのは二つの希望。


 一つは先ほどの自らを守るための訓練という名の扱き。


 これは、カイウス自身あまり乗り気ではないのだが、必要だと思ってやっている。


 では、二つ目は何なのか。


  「水を通すことは可能だのう、だが、これではいつか地面が沈下してしまう。やはり錬金のスキル持ちが必要か‥‥‥あやつと共同で試行錯誤するかのう」


 「おじい様、トイレの設置などは良いのですが。結局どこに流すか、その予定地は決まりましたか?」


 「おお、カイか。それならば問題ないぞ。土地なら余るほどあるのだから、どこかにワシの魔法でもぶち込めばいいだけじゃ。‥‥‥フッフッフッ」


 「おじい様、笑い方と発想が怖いです。それに、そんなことをすればまた、父様が頭を抱えてしまいますよ」


 「なら安心じゃ、もうすでに抱えておったからのう」


 ホッホッホッ、と祖父が楽しそうに笑う。

 彼らがいるのは別邸の庭。


 父が頭を抱えて執務室にいることは別段珍しい事ではない、珍しい事ではないが、その原因の大半が親族たちによる予想外の行動なのは同情の余地しかない。


 カイウスからすれば、もっと領地経営とか貴族同士の付き合いとかで悩んでほしいものである。


 まぁ、それを許さないのがカイウスと彼の親族達なのだが‥‥‥。


 それはともかくだ。





 カイウスの二つ目の希望とは、この会話を見る限り、領地発展の協力に見える。

 いや、見えてしまう。

 

 だが違う、それは違うのだ。


 彼、カイウス本来の希望は祖父のもとで教わること。


 戦闘や宗教、各国の成り立ちに最新の情勢、魔法やスキル、神々の成り立ち。


 これから先、必要になるかもしれない様々なことを祖父に師事することだったのだ。


 しかしカイウスが聞いただけで終わるはずない。


 カイウスは真剣に教わり、わからないこと、知らないことがあれば積極的に聞いた。 

 聞いてしまったのだ。


 これがいけなかった。


 カイウスが分からないことを祖父に質問し、答えていく。

 それを何度も繰り返していくうちに、とうとう祖父が疑問に持つことを言ってしまった。


 カイウスにとっては当たり前の疑問、しかし祖父の中には存在しなかった疑問だ。


 「おじい様の言い方では、魔法はあまり暮らしに役立っていない、と」


 「そうじゃ、魔法は戦闘で以外使われることは少ない。暮らしに役立てるより、明日の飯を確保するために冒険者となり、魔物を狩る方が生活の効率がいいからのう」


 「そう、でしょうか? 僕は魔法で暮らしを豊かにすることもできると思いますよ?」


 「ほう、例えば何か思いつくか?」


 「そうですね、土魔法でトイレが作れるもしれません」


 「トイレ、トイレなら各家庭にあるであろう? 家庭ごとに決まった穴があるはずだが‥‥‥‥」


 「おじい様、僕が言いたいのは水を使ったトイレができる。そう言いたいんです」


 「水? 水だと!? そんな貴重なものを使うのか!? 貴族と言えど、それは無理だ」


 「いえいえ。貴重なのは分かっていますよ。なので、まずは貴重なものを貴重でなくしてしまえばいいんです」


 「分からぬ、お主が何を考えているのかワシには全く分からん。分からんが、もっと詳しく聞かせて見なさい!!!」

 

 その時の祖父の様子は、まるで新しいおもちゃを与えられた子供のよう。 


 喰いつくようにカイウスに迫り、彼から詳細を聞いていく。


 そして、聞いて理解した後は早かった。


 その姿は、まるで陸に上がった魚が水を得たかのよう。

 

 質問し、思考し、実践する。

 

 いつの間にかカイウスのための勉強会はどんどん姿を変えて行き、彼が祖父の疑問を応えるものになっていた。


 


 「おじい様、私が来たときは勉強会をしましょう、と昨日帰るときにお願いしたはずですけど?」


 「そうだったかのう?いかんのう、最近物忘れが酷くなっておるようだ。それはさておきカイや、水洗式トイレとはいいものじゃ。これで町の状況は一変するであろうな!!」


 「‥‥‥もういいです。そもそも私が言ったのが原因なんですから、責任を持って最後までお手伝いさせていただきますよ」


 「ほっほっほっ、話の分かる孫で助かった。勉学の方は折を見て少しずつ教えるでのう、心配いらんぞ。それよりほかにトイレのようなものは思いつかんか? あれば言ってくれ」


 「まずはトイレを完成させましょう。おじい様、焦ることはないのです。一つずつ行きましょう」


 探求心剥き出しな祖父に、カイウスは苦笑いを浮かべながら落ち着いて接する。







 こうして、カイウスの四歳は過ぎ去っていった。

 

 毎朝の鍛錬から始まり、そこを適当に言訳して抜け出し、祖父の所で現代知識を披露しつつ、共に試行錯誤をして行く。


 それがカイウスの一日。


 その一日でカイウスのできることは限られていたが、彼は不思議と楽しそうに、それでいて無邪気に日々を謳歌して行った。


 その日々は彼が転生する前に求めていたものに限りなく近く、その日々はカイウスの疲れた魂を癒す。


 優しく温かな世界。


 それが、カイウスが四歳まで過ごした世界の名前だった。



力を持てば世界は一変する。

要はそういう事です。 

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