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獣人国謁見の間へ


 天秤宮の称号を持つウサギ獣人のローザを加え、五人組となった一行は、その後政治の中枢でもあり、国の象徴でもある白亜の城へと足を踏み入れることとなる。


 必要な手続きのほとんどがユウリとローザの手によってパスされ、比較的簡単に城の中へと入れたのだ。 



「外から見ても綺麗すぎて感動したんですが……中もすごいですね」 



 城に入ったカイウスが、城の内装の美しさに目を奪われ、思わずそう呟いた。

 城の中は、僅かに漏れ出る太陽光の光を優しく反射し、幻想的な光景をカイウスたちの瞳に映し出す。

 すべてが白い石で作られた城の床の上にレッドカーペットが敷かれ、天井には色とりどりの宝石を使用したシャンデリアのようなものが輝く。


 柱一本一本が、芸術作品の様に事細かく作られ等間隔に並んでおり、そのほかにはあまり装飾品は置かれていなかった。


 ただただシンプルな構造、そして最低限の装飾品でなされた城の内装だった。


 カイウスの呟きを聞いたユウリが嬉しそうな表情をしながら話しかける。 



「ありがとう、カイウス殿。そう言ってもらえると私も嬉しい。 他国に赴くと良い品や、美麗な装飾品を目にして、それはそれは羨ましく思っていたのだが……うむ、よかった美しいか」


「ええ、今まで見てきた中で一番、優しく美しい光景に感じました」


「そうかそうか」

 


 感嘆の声で褒めたカイウスの呟きに、ユウリは一層嬉しそうに声を弾ませた。



「我が国に来る使者殿たちからは、薄ら寒い言葉か、貧乏なことを皮肉る嘲りのようなものしか言われてこなかったが……直接、外の光景も含めて我が国の城を褒めてくれたのは、カイウス殿あなただけだ」


「え、そうなんですか? こんなに綺麗なのに?」



 城の中を歩きつつ、カイウスは疑問の声を出す。

 光の当たる角度で変わるこの城の美しさを、皮肉り、嘲る者がいることが信じられなかったのだ。


 そんなカイウスの疑問に答えたのは、曖昧な表情でカイウスを見ていたユウリではなく、カイウスの横を力を抜いた状態で歩くレイだった。



「そりゃ、簡単だぜ。国によって美醜の感覚は全く違うんだ。『物がないのは貧しい証拠』と言う場所もあれば、ここみたいに必要最低限で済ますとこもある。だが何より……すべての根底にあるのは獣人に対する根深い差別だな」



 レイはただ事実を言う様にして、事務的にカイウスへと告げた。

 冒険者として、多くの国を旅し、その国での見識を広めてきたレイのその言葉には、確かな信ぴょう性が宿っていた。


 なんてことはないように告げられたその言葉に、カイウスは少しの納得を覚えていた。


_どの世界に言っても、差別はなくならないのか


 その時のカイウスの目は酷く悲しい色を浮かべていた。

 

 心配そうにしてナナがカイウスの方を叩き言う。



「……カイウス様」


「……何でもないです、ナナさん。少し、悲しいなと、そう思っただけですから」



 ただ名を呼んだだけのナナの言葉だったが、しっかりと意図は伝わったようで、カイウスは苦笑いを浮かべて、大丈夫であることを伝えてみせる。


 そして今、差別に対して何かを考えることが不毛であることをカイウスは自身に言い聞かせた。


 差別と言う問題が、どれだけ根深いもので、解決の難しいものかを知っているからだ。


 この世界より発展したカイウスの前世の世界でさえ、消えることのない問題であり、カイウス一人の力ではどうしようもない事だ。


 いずれは改善するために力を尽くす可能性の高いものだが、今最も優先度の高いものは、技術の浸透、波及である。

 生活のしやすい環境を作りだすことが、カイウスにとっては至上の課題だった。


 そうやって少しの間、黙考していた時だった。


 ユウリが背筋を伸ばし、一行に向け、一際大きな扉を指さして言う。



「あの扉の奥が獣王様が待つ謁見室となる。……今の時間であればこの部屋で政務を執り行っているはずであるから、私とローザの連名で謁見の要請をすれば通るはずだ」



 ユウリがそういうと、物凄く嫌そうに顔を歪めたローザが、確認するように告げる。



「……今回だけだぞ勇者。あたいは十二宮で最もこういったことから離れてねぇと行けねぇんだ……今回だけ、レイに免じてだ」


「フッ、すまないローザ。無理をさせる。三人は少しここで待っていてくれ」



 そう言ってユウリとローザは三人を扉から少し離れた場所に残して、扉の前に立つ衛兵に話しかけに行くのだった。





 ユウリ達が門番と話し、扉の先に消えって行って少し後、再び少し扉が開き、そこから黒で統一された服を着る山羊獣人と思われる人物が現れた。


 それを見たレイが思わずと言った様子で、悲鳴を上げる。



「げぇ、ノイドかよ」


「お知合いですか、兄さん?」



 悲鳴を上げたレイに、カイウスは一も二もなく聞いた。



「ああ、まぁ、知ってる。この国の宰相を務める大物だ……そして十二宮の一人を務めてる」


「はぁ……それはまた凄そうな人がこっそり出てきましたね。私としては兄さんが悲鳴を上げた理由を知りたいのですが」


「……聞くな、あいつと話せばすぐにわかる」



 苦虫を噛み潰したような表情でレイがそう告げているうちに、この国の宰相、山羊獣人のノイドは二人の前までやってくると、丁寧にお辞儀をしてみせる。



「初めまして、私この国の宰相を務めさせていただいております、ノイドと申します。カイウス殿、この度は獣人国カーランバまでようこそおいでくださいました。……誠に勝手ながら、私どもの国の勇者、獅子宮のユウリが大変無理を言って連れて来られたとか……非常に申し訳なく」



 挨拶で浅く下げた頭を、今度は深く腰を折ってカイウスたちに向け下げた。

 それは国のナンバー2ともいわれる宰相がするにはあまりにも異常な光景で、カイウスはその誠実な対応に感心するとともに、どこか違和感を覚え慌てて声を掛ける。



「頭をお上げください! 私は私の決意でここに来たんです。確かにユウリさんの素晴らしい熱意には感動しましたが……それでもここに来たのは私の判断で……決してノイドさんが頭を下げる必要はないのです。だから、頭を上げてくれませんか?」


 

 カイウスのその言葉に、ノイドは目を閉じたまま顔を上げ、感謝の言葉を告げる。



「感謝いたします、カイウス様。ユウリから多少のことは聞きだしたのですが……そうですか、そうでしたか。……どうやら本当に優しいお方で……獣人に対する差別意識もないと見える。これは本当にあのバカは良い引きをしたと見える……そうだな、レイ」 


 

 目を開きカイウスの方をじっと見つめたノイドが、愉快そうにして笑って見せる。

 その瞳は黒ではなく、澄み切ったような青色をしており、見つめられたカイウスは自分の中を覗かれているような感覚に陥る。


 カイウスが感じたちょっとした違和感が明確になった瞬間だ。


 ノイドに確信を持たれて聞かれたレイが、心底嫌そうな表情をして答える。

 


「ああ、大当たりも大当たり……今回のはあんたら獣人族の未来さきを見据えた本当の意味での救いになるかもしれねぇ奴だよ……後、そろそろ覗くのは止めろ、もう十分なはずだ」



 カイウスに向けられた青い瞳を指してレイが言うと、ノイドの瞳がだんだんと黒に染まっていく。

 完全に目の色が黒になると、ノイドが肩を竦めて言う。



「ああ、止めるさ。これだけ見えれば十分。 私の目はいつもこの確認のためしか使ってない。……政務では」



 ニヤリと笑って見せるノイドに、嫌そうな表情を浮かべたレイが念を押していく。



「見るなよ? 絶対休息日とかに俺を見るなよ? 見たらぶん殴るからな」


「クククッ、ああ、安心しろ。お前が最近好きなものを食べ過ぎて嫌いになったであろうことなど……何にも使えんからな」



 売り言葉に買い言葉。

 ただ礼をおちょくったであろうノイドの言葉に、レイは黙って青筋を浮かべ、今にも飛び掛からんとしていた。



「……」


「兄さん、止めて。相手宰相様だから。滅茶苦茶偉い人だから!」




 黙って進む兄を、カイウスは必死で止めた。

 それでもメンチを切る様にして睨むレイと、バカにするようにして笑うノイド。


 そんな二人の様子を、兄を必死で止めながら見ているカイウスには、丁寧口調だったノイドの話し方が崩れてしまってからと言うもの、話の内容が少しづつズレて来ているように感じられていた。


 カイウスが懇願するようにしてノイドに言う。



「ノイドさん、何をやったのか知りませんが、話が進まないので、兄を挑発するのはここまでにしてください」


「ん? ええ、わかりました。確かに私としましてもカイウス様と獣王様を早めに引き合わせたい思いがあるのも事実……不毛な争いは止めましょう」



 ノイドはそう言ってレイに向けて頭を下げる。 



「申し訳ありません、つい癖で」


「それが、辞世の句か? ん? 宰相の言う言葉じゃねぇな、おい」


「ではカイウス殿行きましょうか」



 悪びれもせずにノイドはレイにそう言ったっきり、レイのことを無視していく。 

 もちろん煽り耐性のないレイの青筋の数が増えたのは言うまでもない事で、レイの体が怒りでプルプル震え始めていた。


 カイウスは、そんなレイを抑えながら、微笑みを浮かべるノイドを見て思う。


_ああ、致命的だ。多分根本からこの二人は合わない性格なんだ 


 お互いが嫌いと言うわけじゃない。ただ気が合わないのだ。

  

 そうして、カイウスが抑え、レイがノイドにメンチを切り、ノイドが表情でレイを煽ると言った場面が何度か続き一向に謁見の間に入れない状況が続く中、今までボーっとその光景を見ていたナナが呟く。



「……ん、めんどい」



 男三人のやり取りを眺めたナナの気だるげな声は三人に届かず、届いたのは謁見の間の門を守る衛兵二人で、その二人は同意するように静かに頷くのだった。


謁見まで書くと長くなりそうだったので、いったんここで切ります。

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