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白亜の景色

ちょっと、短いです。


 風のように進む一行が、この大陸で一番と名高い景色を眺めるのに、そう時間はかからなかった。

 風を切る音が止みカイウスが顔を上げると、そこは砂漠にできた小高い丘のような場所で、その先には……。

 思わずカイウスの口から感嘆の言葉が漏れる。



「すごい……」


 

 カイウスがレイの背中越しに見た光景は、どこまでも広がる蒼穹に浮かぶ燦燦と輝く太陽の光と、陽の光を反射して真っ白に輝く砂の世界が広がっていた。

 そしてそれだけではなかった。

 カイウスが最も驚き賞賛の声を挙げたいものが、絶景の一部となりカイウスの視線を離さない。



「あれがカーランバ王国……今回の目的地……ああ、綺麗だ」



 輝く太陽も、一面に広がる真っ白な砂も、ただの引き立て役に過ぎなかった。

 景色の中央に位置するその建物群は、すべてが白銀に輝き、過酷な地を照らすもう一つの太陽のように絶大な存在感を辺りに放っていた。

 

_世界には……こんな輝きがあるのか 


 絶景を見たカイウスが内心でそう呟く。

 赤い瞳が大きく見開かれ、小さな口が茫然と開き続ける。

 

 それからカイウスが自分で、どのくらいそうしていたのかわからないほど景色に見とれていた時だ。

 カイウスと同じように黙っていたレイが呟く。 

 

 

「すげぇよな……何もなかった更地にこれだけの都市を築いたんだからな。すげぇよ、ほんと」



 レイの言った言葉は、嘘偽りないこの国を築き上げてきた者たち大しての賞賛だった。 

 レイがこの光景を見るのは今回の訪問で二回目だ。

 初めて見たときは感動で柄にもなく涙を流した。


 それは、ただこの都市が美しかったからではなく、冒険者であるレイがこの都市の成り立ちを知り、幾人もの礎の上に作られた都市であることを認識していたからこそ出た涙だった。


 今、レイの瞳から涙は出ない。代わりに出てきたのは、惜しみのない賞賛の気持ちと、尊敬の念だった。

 レイは背中に背負っていたカイウスをいったん降ろす。



「どうだ? 綺麗だろ? ……何より、すげぇだろ?」



 カイウスと向き合い、その赤い瞳を覗き込むようにしてレイは問うた。



「ええ、これはすごい。ここに来るまで反芻していた獣人国の知識とか、見た目とか……全部吹っ飛びました」



 兄に見つめられたカイウスは、その瞳の色を明るく輝かせ、満面の笑みで応える。

 カイウスの頭に浮かぶのは、机の上で向き合い獣人国の知識を教えてもらった父、母の姿だ。

 分厚く貴重な本を広げ、優しく教えてくれた父と母だったが、最後には二人そろって同じようなことを言っていた。

 

_ああ、でも。その場に行き、その場で聞き、その場で見たことに、勝ることはないんだ


_その目で見て、経験して……初めて知識が、カイ、貴方の身となるわ


 父ははにかみながら告げ、母は自信満々に告げた。

 カイウスはそんな言葉を知識としては知っていたが、前世の記憶と合わせてもこれほど身に染みた経験は残念ながらしたことはなかった。

 その身は感動に打ち震え、心は清々しい気持ちで満たされる。 

 脈々と受け継がれし獣人たちの歴史そのものが、カイウスをまた一段成長させた。

 

 そんな向き合っていた二人のもとに、二人の新しい声が掛けられる。



「フフフ、そこまで褒められると悪い気は一切しないな。誇らしい限りだ」


「うん、本当に綺麗だよ……ユウリさん」


「ああ、ありがとうナナ殿」



 声の主は嬉しそうに笑みを浮かべるユウリと、そのユウリの背中で何度も首を縦に振って目を輝かせるナナだった。

 本来ならば、目と鼻の先にたどり着いた故郷を前に、いち早く帰りたかったユウリが、立ち止まったレイを急かしに来たのだが、純粋に賞賛の声を挙げる二人に嬉しくなって胸を張ったのだ。

 

_どうだ、これが我が故郷だ


 ユウリの背後で左右に動く尻尾が如実にユウリの感情を表す。

 それでも、当初の予定は忘れていなかったようで、ユウリは優しくレイに語り掛けた。



「ここで眺めるのも一興だが……私としては是非あの中に招待したい。レイ、行けるか?」


「ハッ、愚問だぜそりゃ……おいカイ乗れ、あの都市の中もそれはそれで綺麗だぞ。ちょっと眩しいけどな」



 そう言ってポンポンッ、とカイウスの頭を軽くたたき背を向けるレイの姿に、カイウスは頷き肩に手を掛ける。

 そして耳元で言った。



「それはそれは……楽しみですね」


「だろ?」



 ニヤリと笑いあうノムストル兄弟。

 向かう先は白亜の建物が立ち並ぶカーランバ獣王国の中でも、一層大きく、堂々と立つ一際美しい城だ。


 出発する寸前、ユウリがカイウスとレイへと振り返り言った。



「獣王様が首を長くして待っておられる……急ごう」


「おう」

 


 そう言って白亜の城へと向け走り出した。

 真っ白な砂の上を風を切りながらレイとユウリが掛ける


 そう遠くない未来、城へとたどり着くであろう。


 その時、狙った以上の成果を持ち帰った勇者の姿に、獣王はどんな表情をして、山羊獣人の宰相はどのようにして頭を悩ませるのだろうか。


 カイウスの長かった旅路は、ここに来てやっと目的地へとたどり着くのだった。


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