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砂漠への道

短いです。



 あれから、過ごした時間はカイウスが思ったよりも早く流れた。


 退院したナナとともに一日を宿の中での休息に当てると、二日目にはある程度の疲労感は残すものの普通に過ごすには問題ない程度に回復した。


 子供の体力は無尽蔵であるとはよく言ったもので、その言葉通りにナナとカイウスは竜と人の町レコリソスを存分に楽しんだ。


 初めのうちはナナの様子見を兼てのものだったので、近場の商店や街並みを歩いて回る程度で済まし、ナナの様子に問題がないと分かると翌日の三日目は少し遠くの町の探索などをして過ごした。


 そうして英気を養った一行は、四日目にしてレコリソスの町と別れを告げることとなった。


 鬱蒼とした山道を進む一行の中で、カイウスが得意げに話し出す。 



「フフフ、馬車でなければ怖くないのですよ。……兄さん、頼みますよ?」 


「ヘイヘイ」


 

 レイがめんどくさそうにしながら答える。

 気怠そうに答えるのも無理からぬことで、何せレイの背中にはバシバシと肩を叩くカイウスが乗っていたからだ。



「安心してくれナナ殿、私とレイの速さであればここからの険しい道のりも半日程度で走破できるからな……ここからはすぐだぞ」


「……気持ちいい」



 勇ましい声で言ったユウリの背中で、カイウスと同じように背負われた状態のナナが気持ちよさそうにユウリのフサフサした毛の中に身を預けていた。


 そこに馬車の存在はない。


 レイ、そしてユウリがこれからの旅程を話し合った結果、『二人を背負って行く』という超人めいた発想に落ち着いたのだ。


 魔物一匹出ない森の中を歩く一行の中、キョロキョロッとレイの背中越しにあたりを見渡すカイウスが言う。



「静かですね……それに綺麗だ」



 木々の隙間から幾筋も零れる落ちる光が森の光と陰のコントラストを美しく映しだし、カイウスの心に感動と安らぎを与えた。


 カイウスを背中に背負うレイも同意するように頷く。



「確かにな……まぁ俺はもっと綺麗な光景を見たことあるけどな」


「……へ~」


「いいだろ?」



 そう言って得意げにカイウスに横顔を見せるレイに、カイウスは曖昧に頷いた。



「まぁ、はい」


「冒険者はいいぜ~、仕事はいつでも自由に受けれるし、いろんなところを回っていろんな体験ができる……なんでも初めてってさ、わくわくするだろう?」


「……めんどくさがりなのか……好奇心旺盛なのか……兄さんどっちなんですか」


「ハッハッハッ、好きな時に好きなことができる。それが冒険者の醍醐味ってな……だから俺はどっちでもあり、どっちでもない。俺は俺だな。好きなように生きてる」


「……要するに気分屋っと……母さんたちにも同じように言えたらカッコイイんですけどね」


「それは無理だ」


「わかってますよ」



 あのどうしようもない位にマウントを取られているノムストル家の家事情を思い出し、レイとカイウスはお互いに笑いあう。 


 モーリタニア王国の貴族の家は基本的に家長である男の権限が強く、それに沿って基本的には女性は男性を立てるのがごく自然なこととして受け入れられている。


 だが、ノムストル家はそんな一般的な貴族家とは違い、非常に珍しいと言える力関係が構築されているだ。


 現在のノムストル家の当主であるルヒテルが入り婿であるという面から見れば、確かに正当な血筋を引くアリーの力が強いということは、対外的に見たら納得できる要因になるが、対内的に見ればそれが全く異なった要因でそういう力関係になっているであろうことが断言できる。


 これは一種の呪いと言っても良い。


 ノムストル家の男子は、遺伝子レベルで肝っ玉の強い芯のしっかりとした女性を好みやすく、女性は日頃頼りなくともいざというときに力を発揮する男性をなぜか求めてしまう。

 

  そういう、家柄なのだ。


 

「ああ、俺は絶対に家の女たちみたいなのとは結婚しねぇ……するくらいなら一生独身を貫いてやる」


「ああ、わかります兄さん……それ、無理ってわかってて言ってますよね?」 


「……言うな、空しくなる」


「……そうですね、止めましょう……今はただ、この景色に癒されたい」



 それから二人が話すことはなく。



「……マジ、気持ちいい」 


「褒められるのは構わんが……素直に喜んでいいものか?」



 そんな二人の後ろを幸せそうな表情でユウリの背中に顔を埋めたナナと、それに苦笑いを浮かべるユウリが続き、一行は順調に山脈を登って行った。


 山頂。

 そこから先に広がる光景は、まさに絶景であった。

 緑豊かな光景を目にした後の落差と言うのもあったのかもしれない。

 それだけカイウスたちの目の前に広がる景色は先ほどまでとは打って変わっていた。


 もはや別の世界と言ってもいいレベルだ。


 見渡す限り一面が青い空と、太陽光の反射によって金色に輝く熱砂の大地が広がっている。

 

 視界に入る場所に生物は見えず、そこがいかに厳しく険しい場所であるのかを物語っているかのようだ。


 そんな景色を一人、仁王立ちにて眺めたカイウスはというと。



「ここから先がカーランバ獣王国……モフモフの住む土地……」



 山頂でひと休み入れたユウリとレイそしてナナとはそう離れない場所で、まだ見ぬ土地へと思いを馳せるのであった。



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