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竜と人の町~レコリソス~


 受付の近くで待っていたカイウスのもとへ、病室から出てきた兄レイとユウリが合流する。


 

「どうやらちゃんと待ってたっぽいな」


「……まるで、言うこと聞くのが珍しいみたいな表情するのやめてください。聞き分けはあるほうですよ、僕」



 悪い悪い、とわざと驚いたような表情を浮かべてみせたレイが肩を竦めてみせる。

 カイウスはそんな兄を少しの間睨みつけていたが、今の現状を少しでも早く解決したいのか、少し不本意そうな表情はそのままに次の話を促すように仕草をしてみせる。 

 


「で、だ。俺たちは今から確認したいことがあるから病院内をうろつくが……付いてくるか?」


 

 唐突に語られたその言葉には、どうせついてくるんだろ? という効果音でも付いているかのような声音と表情で語られていた。

 事実、カイウスにとってそのレイの言葉はそのように聞こえたようで、一も二もなくすぐさま頷きを返す。

 何のためにうろつくのか、その目的は今の状況を考えれば、ハッキリしていたから。


 そんな兄弟の姿をレイの後ろで見ていたユウリは、それはもう、微笑ましそうな表情を浮かべていた。



「なんだよユウリ……」


「そうですよ、何かその表情向けられるの嫌なんですが……」


「ハッハッハッ、いや、そなたら兄弟のじゃれ合いにも慣れてしまってな、こう、微笑ましく見させてもらっているのだ」


「それ、聞かなきゃよかったなぁ……」


 

 快活に笑ったユウリのその言葉に、カイウスが項垂れるように呟き、不本意そうな表情が一層濃くなった。

 それに伴う様にして、レイもその表情を曇らせる。


 首筋の真っ白な毛を撫でながらユウリは言う。

 


「いやいや、すまん。話の腰を折ってしまったようだ。 すぐにでも動きたいのだった、忘れてくれ」


「「……」」



 場を進めたいカイウスとレイからすれば、ユウリのこの言葉はいいきっかけとなるのだが……。


 カイウスとレイは若干の納得のいかなさを沈黙で表現しつつも、ユウリの提案を受け入れるようにお互い頷きあう。



「付いてこい」



 切り替えたレイが短くそう言うと、最初に上ってきた階段へと歩を向ける。



「はい」


「心得た」



 レイの後に続くようにしてカイウス、ユウリが歩き出す。 

 

 いつの間にかカイウスは、自らの右手をギュッと握りしめていた。 

 自然としていたそのことに気づいていないカイウスだったが、一番後ろを進み、兄弟を見る者にはしっかりと気づかれていた。


_頼もしい限りだ。  


 カイウスの握りしめられた右手を見て、ユウリは心の中で呟く。

 現在進行形でユウリは実感しているのだ。

 今後に控える旅の本来の目的達成に当たり、どれだけ心強い味方を得ているのかを。

 

 多くのことを覚悟して始めた今回の独断専行であったが……。


 ただ一人の使用人のために迷わず救う道を選び、自ら率先して動こうとする少し幼い自分が助けを求めた相手を見て。


_この子ならば……必ずやり遂げてくれる。 

 

 そんな確信にも似た、不思議な気持ちがユウリの心の中に湧いてきていた。

 


「龍浸病患者を助けるためには三つの方法があるって言ったが……覚えているか?」


「はい、万能薬か特効薬による投薬、もしくは高位治癒師による治療です」


 

 一階へと降りた一行。現在は病院内の廊下を移動していた。

 確認するためのレイの問いに、まるで答えを用意していたかのようにスムーズに答えるカイウス。


 レイは、ニヤリと笑って見せる。

 


「さすが、正解だ。でだ、万能薬は在庫もねぇし、素材も期限内に集めるのは不可能だ。高位治癒師も順番待ち……だが俺達には一つだけ、自分たちの力でもって今の状況を解決できる手段がある」


 

 廊下を歩くまま、指を一本指したレイが言う。

 その立ち姿は、自分がこれから言うであろう解決策に対する自信が滲み出ており、わかるだろう? というようなドヤ顔すら浮かべている。



「……残った、特効薬ですよね?」


「ああそうだ。だが、特効薬って言ってもその素材集めだ。俺の予想だと……足りない素材は一つだけなはずだからな」


「それを調べるために、ここに訪れた、と?」


「一番早く何が足りないのか知るためさ、手っ取り早いだろ?」


「ええまぁ、確かにそのようですが……」


 自信を覗かせるレイが立ち止まったのは、少し独特の匂いのする扉の前。

 扉にはこの場所がどのような場所であるのかがしっかり明記されていた。


_薬品類管理室。 


 扉を削って作られているその文字に、カイウスは自分の予想の範囲が外れていなかったことを悟る。

 カイウスは漂ってくる匂いからここが、どのような場所であるか、その予想はできていたのだ。


 

「入るぞ、ついてこい」


「……ああそういう……さっきの検問みたいなのはここの場所のための検問だったのか……」



 レイは何も気にすることもなくその扉を開き入っていった。

 カイウスたちがここに来るまでのことを思い出し、とある出来事に対して納得いったかのように手を叩いた。


 それは、一人のスタッフが誰も通さぬようにして立っていた病院内の通路での出来事。



「この先は一関係者以外立ち入り禁止でして……」



 そういって三人の前に立ちふさがるスタッフ。

 しかし、レイはそんなスタッフのことなど気にすることなく、懐から一枚の板を差し出しスタッフに手渡した。


 そして堂々と言うのだ。



「関係者だ」 



 短くそう言われ、手渡された板を手に取ったスタッフは一瞬不審者を見るかのような目で兄を見ていた。


 が、手渡された板を見てすぐにその表情を一変させると同時にレイへ道を開けた。



「し、失礼しました! どうぞお通りください」


 そう言って頭を下げる職員の横を、ああ、と短く言い板を返してもらいつつ通り過ぎるレイ。

 カイウスとユウリもそれに着いて行く。


 そして少し歩くと言った。

 


「こういう時、こいつはマジで役に立つ。こういうときだけな」



 そういいつつ、浮かべた悪い笑みをカイウスは見逃さなかった。



「兄さん、職権乱用っていうんです。あんまりやらないでください、いろんな方が困るんですよ」


「ハイハイ、俺だってあんま使わねぇよ」



 カイウスの忠告に肩を竦めながら、適当に答えるレイ。

 そんな例の態度に、少し怪訝な表情をしたカイウスは……。


「あんまりですか……帰ってからお母様に旅の報告するのが楽しみです」



 公然的にチクることにしたようだ。


 どこか遠い目をしながら呟くカイウスに、レイはギョッとしたように振り返り。


 力強くカイウスの方を掴む。



「……安心しろ弟よ、兄は今後、緊急時以外使うことはないだろう」


「ええ、それなら安心です」


「ああ、安心だろう?……だからさ、母さんへの報告はなしにしてくれよ?」


「……ふふ」



 明言せず、含み笑いで応えるカイウスの表情を見て、自分がおちょくられたのが理解できたのであろう。 

 レイは短いため息を吐くとすぐさま前を向いた。



「少しは余裕があるみたいで、安心したよ」


「へへ、兄さんをおちょくるくらいには」


「言ってろ……そろそろ着くからな」


「うん」


 

 前を向き、目的地に向かって歩く二人。

 なんとも言えない寸劇であったが、兄にとても弟にとっても今のお互いの心の状態を確かめるにはちょうど良かったようで……。


 一番後ろを歩くユウリが呟く。 



「二人は本当に……仲が良いな」



 その声が聞こえたのだろう、二人は示し合わせたわけでもないのに同時に振り返り、同じタイミングで、同じ言葉をユウリへと返した。



「「まぁ、兄弟ですから」」



 返答してから、驚くようにしてカイウスとレイはお互いを見る。

 二人とも驚いたような表情をして向かい合っている。


 その様がまた面白く。



「ハッハッハッハッハ……ああ、そのようだ」

 

 

 心底面白そうに笑い、楽し気な表情を浮かべるユウリ。

 

 対する二人は、面白くなさそうな表情と嫌そうな表情を浮かべると、どちらからともなく前を向き進み始めるのであった。


 と、これがカイウスが検問と表現した場所での出来事。

 

 兄が入り、再びしまってしまった扉をカイウスは開ける。

 薬品の匂いが強くなり、カイウスは顔を顰めた。

 


「ユウリさん、お先に……」



 と言いかけて、カイウスは言葉を止めた。

 カイウスの視線の先には、扉から少し離れた場所で苦笑いを浮かべ、入る気のなさそうなユウリがいたからだ。


 カイウスに言われ、首を振るユウリが答える。



「私はこの部屋には入れんのだ。扉の前で二人が出てくるのを待っていよう」


「そうですか……わかりました。では行ってきます」


「ああ、レイのこと、頼むな」


「はい」



 何か事情でもあるのだろう、ユウリの言葉と態度からそう察したカイウスは無理に進めるのではなく、短い会話をユウリと交わし、開いた扉の中へと入る。



「……おお、結構あるな」



 まず目に入ったのは白く塗られた三段の棚が多く並ぶ、少し広めの室内であった。

 棚の上には薬品や薬草、時には道具のようなものも並べられている。

 

 そして、少し行った先には、この場所のスタッフであろう女性と話している、兄レイの姿。


 薬品や薬草など、棚の中身が気になりはするが、カイウスは首を振る様にして自分の好奇心に蓋をし、会話中の兄のもとへと足早に歩いた。


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