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獣人の国へ行こう!

とても短いです。


 見える先そのほとんどが平野であるような道から、段々と険しく、草木生い茂る道に変わっていく。


 

「まぁ、基本的にゴブリン程度の低級しか出ねぇから……楽っちゃあ楽だな」 


「見晴らしさえ良ければ、なんということはない相手だからな……だが、本番はここからだぞ。我らは今、広大な王国の平野を抜けたところだが、次は王国と獣王国を隔てる山脈を越えねばならん。それに、その先からは熱く過酷な砂漠が待ち受けている……魔物の強さも段違いに上がるぞ」



 襲ってきたはいいものの、馬車に近づくことすらできない魔物たち。


 見えない鋭利な風の刃で一刀両断されている者もいれば、丸焦げにされたものもいる。


 襲撃、その一切合切が袖にされていた。


 今も、木の上や、囲んでからの襲撃を受けていたのだが、被害どころか、その血の一滴すら馬車に届かず全滅させられていた。


 そんな凄惨ともいえるそれらを行った本人たちは、何食わぬ表情と雰囲気で、これからの予定を話し合っていた。 


「ヘイヘイ、一人で行ける俺やお前がいるんだから、心配すんなって」


「しかし、な……」



 レイの飄々とした鼻歌交じりの意見に、獣人の勇者ユウリが躊躇いがちに馬車のとある人物に視線を送る。 


 

「……ッう…ぷ」


「終わったよ、カイウス様」


「そう……ですか……お疲れ……さ…ウっ」


「無理しちゃだめ。血の匂いに吐き気は混ぜちゃダメな奴だから……」



 丸焦げを作り出し、戦いに参加したであろうメイドのナナの姿と、馬車のドア付近で蹲るなんとも残念な姿のカイウスがいた。


 カイウスは例のテレビだと虹が出るキラキラを涙目で我慢し……切れずに、そっとナナに背中を擦られる。 

 

「「……」」




 それを見た二人は、お互い言葉が出ず、そっと顔をそらした。


 何も見なかったことにしたいらしい。



「やればできる奴だと思ったんだが……」


「誰にでも出来ぬ、慣れぬことは存在する。私が不器用であるように、レイ、お前が集団を苦手とするように、な」


「ああ……ま、なんというかちょっと安心したぜ。あまりにも出来すぎて、出来すぎてやらかす奴だったからよ。ニッシッシッ、いじるネタが増えて、兄としては一安心だぜ」


「お前はまた……。そう言うところが友人が少ない原因だというに……学ばぬなぁ」


「俺の方針は、少なくても信頼できる友を持つことだからな。その他多勢なんて考えねぇぜ」



 ユウリがレイという友とあって何回目の問答であり、友のための助言か。


 何を言っても飄々と風のように交わし、己の言葉を曲げぬ友に、ユウリの脳裏に、『いっても無駄』という言葉が過る。


 レイはこれで話は終わりだ、と言わんばかりに肩を竦めながらニヤニヤとした笑みを浮かべ、苦しむ己の弟の場所に向かっていく。

 

 楽し気にからかいにでも行くのだろう。


 レイという男は一度”己の内”と認識すれば、”己の外”に対してと全く違う顔を見せる。


 何に対しても興味のなさそうに、それでいて少しギラついた瞳を外に向けるのに対し、内には年相応で、弾むようなノリで向き合う。


 そういう、ユウリという不器用な男とは別の意味で不器用に生きる男。


 ”信頼”


 という言葉通り、レイにとって信じ頼る人間は少ない。


 そしてそれと反比例するように、彼にとっての敵、もしくは潜在的な敵は多い。


 しかし、彼はそれでいいのだという。むしろそれがいいのだと望んでいるのだ。



「頭の固い男だ」



 レイの楽し気に、ゆらゆら揺れる背中を見て、ユウリは呟く。


 ユウリが彼の”内”に入ったのは、本当に数奇な出会いからだった。

 

 お互い意見が合わないままのいがみ合いから始まり、喧嘩はもちろん、譲れない、殺し合いのような戦いもした。


 でも、だからこそ、そのすべてを乗り越え紡いだからこそ、レイの”内”に居られるのだと自覚し、少し表情が微笑む。



「ハハハハハ! なっさけねぇぞ、カイ! しっかりしやがれよッ」


「う、うっさい……私の体が、悪いわけで……なく、時代が……厳しい……」


「ハイハイ、時代が悪いんだよな? プッ、お前は悪くねぇえもんな」


「……馬鹿に……する、なぁぉぉぉロロロ……」



 馬車の近くの木陰の下で、何も入っていない胃からの嘔吐を繰り返すカイウス。


 からかってきた兄への涙目での反論空しく、リバース。


 

「さて、片付けるか」



 倒した後処理を行うユウリをよそに、この場にいる全員を”内”と認識した暴風の人の楽し気な笑い声がしばらくの間続くのであった。









 その少年は、淡く光って見えるくらいに美しく真っ白な肌を晒、風に乗る真っ白な髪を靡かせ、ある町の広場の中心に無言で佇んでいた。


 

「……」



 多くとまでは言わないが、ある程度の人数が行きかうこの広場で、誰もが視界に入れることができない少年がいた。


 少年だけでなく、少年の周囲である広場の中心に誰もがよることができず、そのことを認識すらできていない。


 少年の周りは、なんとも不可思議で不自然な空間になっていた。


 ただ上を見上げ、青空を映している少年の瞳は、どこまでも白く美しく、透明に世界を映し出す。  



「僕を……見つけて」



 かすかに口を動かす少年。 その場に音は響かず。


 少年から街に、そして空に広がるように不思議な風が吹くのみ。


 誰にも認識されない、誰の目にも映らない、誰の耳にも声が届かない少年は、今確かに広場に存在していた。


 旅の道中を書くのがなかなか、難しい……。



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