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カイウスの回答

お久しぶりです。

約四か月の休眠期間を勝手ながら取ってしまいましたが、またゆっくり始めていこうと思うのでよろしくお願いします。 


 ガタン、ゴトンと街道を通る一台の馬車。 


 馬車の周りには、一面に広がる緑色の光景と、時折飛んでいる魔鳥たちが鳴き声を上げながら飛び回っている。


 整備のされていない道はとても揺れが酷く、馬車は左右に大きく揺れていた。



「サスペンショーン……」

  


 草原に、悲痛な声がこだまする。


 豪華というよりも、機能性に優れていそうな外装の馬車から聞こえる弱弱しい声。

 

 それは、馬車の中で絶賛グロッキー状態中のカイウスが、口に手を当てながらも辛うじて口にした声だった。 


  

「おいおい、弟。軟弱にもほどがあるぜ」


「大丈夫? カイウス様?」



 同じ馬車に、兄のレイとメイド姿のナナが乗っており、一方は肩を竦めながら、もう一方は心配げな表情でカイウスに話し掛けている。


 馬車は、まだ出発して二日目。


 まだ先には約二週間の行程が控えていた。


 

「お願いした身としては非常に心苦しいが、慣れてくれるほか、ない。すまぬ、カイウス殿」


「い、いえいえ……だい、じょうぶ……です」


「心配すんな、ユウリ。こっちは大丈夫だ」

 

「だがな、レイ……」



 馬車の外、二頭の馬の手綱を握っているのは、全身を白い毛に包まれた偉丈夫のユウリ。


 狼の獣人であり、カーランバ獣王国の重鎮、勇者であるユウリだった。


 体調の悪そうなカイウスに、ばつの悪そうな表情をするユウリだったが、ユウリにはどうすることもできない。


 それでも、心配は心配なので声を掛けているのだが……。



「いや……このやり取り何度目だ……。通常通り進めって、昨日どのくらい休憩したと思ってるんだよ。カイだって何とか慣らしていかねぇとこいつのためになんねぇよ」


「……むむ、それはそうだが……なんというか、新鮮だ。お前が兄というものをやれているのに、すごく違和感を覚えてしまう。暴風と呼ばれ、我が国では傍若無人そのままの奴だったが……ふッ、今のお前のほうが私は好きだぞ」


「バッカ、男に好きなんて言われてもうれしかねぇよ!」


「うぇ」



 旧知の仲の二人が楽し気にしゃべる一方、カイウスは相槌を打つように吐き気で返事。


 二人は気づいたほうがいい、今まさに青い顔をしたカイウスが口を両手を抑え、吐くのを我慢していることに。



「……」



 そのカイウスの背中を、無言で、優しく擦るナナ。


 

 ゲロ用なのか、扉にあけられた穴のようなところにそっと、カイウスの顔を近づける。


 もちろん片手には、綺麗な水の入った筒を用意して。


 カイウスの我慢も、だいぶ持つようになっているのだが……それでも多くの休憩が取られていた。


 こんなはずではなかった……というような考えも起きないようなカイウスのこの様子は、約一日前から続いており。


 ユウリがノムストル家に来訪したその時、今日から一週間ほど遡った時から確定してしまったことだった。

 







「僕は、あなたの力になりたい」  



 あの時、あの瞬間、力強くカイウスが発した言葉に、周囲は柔らかな雰囲気で頷いていた。 


 家族が、家臣たちが、まるでカイウスの選択をさも分かっていたかのように、それでいて後押しするような雰囲気を作っていたのだ。


 普通の子であれば、ここまででとても勇気のある、まっすぐで素直な行為だ。 で、話が終わっていただろう。


 だがしかし、カイウスは良くも悪くも地で周りの予想を超えてしまう。それも斜め上に。


 この時、誰もが忘れてしまっていた。


 ……カイウスが普通の子ではないということを。


 カイウスは一拍の呼吸の後、ユウリの目を真っ直ぐ見て、まだ続く言葉を発した。



「水だけではだめです……僕が助けるからには、全身全霊を持ってあなた達の全てを救うつもりで取り組みたい……長く危険な旅路を一人で来た、同胞と命を思うあなたのその思いに、僕も、僕なりに全力で応えたいんです。……だから、僕をカーランバに連れて行ってください!」



 カイウスのこの発言に、多くの者達が目を剥き、固まった。


 一瞬の静寂がこの場を包む。


 特に最後の言葉でそれは顕著に表れていた。


 カイウスと目線を合わせるユウリの瞳孔も、予想外に驚いたように広がっていき、ポカンとした表情を晒し、そして……少しづつ、溢れるように涙の雫が滴り落ちていた。


 それは驚きか、感動か、はたまた無自覚か。


 ユウリの目から落ちるその雫は一つと言わず、細い小川のように流れる。


 家族は固まっている、家臣は目を向いている。


 カイウスは、



「……」



 満面の笑みでサムズアップをかまして、ユウリを見ていた。


 この場で最も自由に、それでいて覚悟をもって放った言葉だった。


 その様は後悔も嘘もひとかけらの嫌悪感もなく、ただの"友"にでも向けるかのような姿だった。



「カイ、それは本気かい?」 



 誰よりもいち早く状況を理解し、動き出したのは……日頃からの賜物か、カイウスの父ルヒテルだった。


 いつもの優しい笑みを引くつかせながらも、この場の主導権というものを取るために、何とか動き出したかのような感じだ。


 その証拠に、声音が少し上ずってしまっていた。


 はっきり言って、カイウスに発言を取り消させる、がこの行動をとっさに起こしたルヒテルの父としての初めの考えだったが、カイウスの父であるルヒテルは頭ごなしに否定することなく、この状況で元気よく、笑顔でサムズアップを決めるカイウスに、目を合わせて聞いていた。

 

 そして、カイウスの目を見て理解した、「あ、アリーに似てるな……」と。



「はい、本気です」


 

 カイウスは、笑顔ながらもその目に確かな意思と覚悟をを映し出し、父の声に応える。


 ルヒテルはカイウスの目を見た時からわかっていたが、「ありゃ、これは聞かないカイウスだ」とカイウスの目だけでなく、硬い意思の宿った声を聞き、父は悟り、痛くなる頭を押さえる。


 ルヒテルは思う。


 親としては行かせたくない。


 やっと六歳になったばかりの子供のカイウスだ。


 危険な旅になるだろう旅路を、ルヒテル自身の目の届かないところでは行ってほしくない。


 だが、これはカイウスにとって大きく成長するチャンスになり得る、貴重で大切な機会でもある。


 カーランバという国はその地理、そして政治的事情により訪れることがとても難しい国だ。是非とも、経験し、糧にしてきてほしい。


 そして何より、今の時期、カイウスをこの国から離れさせるのは、とても良策だ。


 帝国との戦争がまじかに迫り、戦時特有の雰囲気というものがそろそろ現れてくるはずだ。いや、すでに関係各所では緊迫した雰囲気が出てきている。


 貴族としては、味合わせなければならないある種、特別な雰囲気だが……。


 ……なんにせよ、一般の範囲内でとどめて置ける、常識の範疇で計ってしまうのは、ことノムストル家ではよくない。


 それは子供たちの才覚が、胆力が、そこでとどめて置いていいほど、可愛いものではないからである。


 四人のカイウスの兄弟を見てきたルヒテルは、自分の予想をいろんな意味で超えていくその子たちを順番に見ていき、最後にカイウスを見る。


 クリストは悟ったように愛想笑いを。

 

 クリミアは自信満々な力強い笑みを。


 レイはお腹を抱えるように笑いに堪え。


 レイヤは唇を尖らせたムスッとした表情をしている。


 そしてカイウスは、首を傾げながら父であるルヒテルと目をしっかり合わせている。


 ルヒテルは息子、娘たちの誰もが自分のこの後の発言を待っていながらも、半ば予想できてしまっているのだろうことがその雰囲気、表情を見て理解できた。


 常識では計っていけないことはわかっていた。 


 そんな枠なんて、容易に破るだろうことも。


 カイウスはその傾向が特に強い、とルヒテルは感じている。


 ルヒテルは元々一般人。


 いつもどうしても最初の気持ちがそちらにあり、そうしようとする、当たり前の良心が働いてしまう。


 だがそれは、元であるべきで、この時、この場所ではノムストルでなければならない。


 彼らにとっての一番の選択をすることが自分の責任で、それが愛すべき人と一緒になった時の選択で、守りたいと思える彼の宝物たちのためだから。

  

 と、頭の中で多くの言い訳と理由づくりをルヒテルはしたが、結局のところ聞きそうにない我が子の目を見れば、おのずと彼の中の答えは出てしまっていた。


 染まったなぁ、と心の中で思うルヒテル。


 だが、それでいいとも思っていた。


 自分の中で答えが出たルヒテルは、チラリと他の家族、家臣団の面々を見る。


 さっきまで固まっていたのがウソのように頷いたり、笑ったり、拍手したい手をもみもみとしていた。 


 「参ったなぁ……」という心の呟きが自然と漏れる。


 最後に家族の、妻であるアリーと目を合わせる。 



「……」


「……」


「「……」」



 自然とアイコンタクトで会話する。


 言葉は不思議と出ず、アリーの不安が混じっているが、力強い頷きに、合わせるようにルヒテルも頷く。


 送り出すわ、というような決意に滲んだ声が聞こえそうなほどの力強い頷きだった。



「転移は使えないよ?」


「はい」


「砂漠だよ?」


「はい」 

 

「険しいよ?」


「はい」


「……たぶん、あまり人は出せないよ?」


「……はいっ」


「それでもいくのかい?」


「それでも行きます!」


「ならば、行くしかないね。カイウス・ノムストルの判断で、覚悟であるなら……困っている隣国の悉くを救い、存分にノムストルの名を轟かしてきなさい」



 力強い目と、当主にふさわしい覇気でカイウスに告げるルヒテル。


 その様は優しく息子の背中を押す、最大のエール。


 いつも優し気で、少し頼りなく見える父は、力強く拳を握り、カイウスの胸を叩いた。


 感動の雰囲気が流れ、誰がどう見てもシリアスな状況だ。



「はい! 僕も父様たちに負けない二つ名をゲットしてきますとも!」

 

「「「「ぐはっ」」」」

  



 その雰囲気をブレイクしていくのが、カイウススタイル。


 感動する雰囲気だったのが、一気に四人の喀血を促してしまう。


 祖父、父、長男、次男、がカイウスの純粋な意気込みである二つ名という言葉に反応し、胸を痛そうに抑える。


 ガラスのハートを唐突にぶち破られた四人の様子に、シリアスだった場は、朗らかな笑いに包まれた。


 獣人の勇者であるユウリもつられるように微笑みを浮かべ、その少し後ろに立っていた王子は長男を指しながら口元を隠し、上品に笑う。  

 

 誰もが予想もしえなかった勇者の来訪。

 

 そしてそれに対するカイウスの回答と父の決断。


 転生してから六年の月日が流れたカイウスだったが、いまだ目的には達せられず。


 しかし今、自らがもたらしたその知識と、大胆になれる決断で、多くの命を救う選択をすることになった。


 これがどのような転機になるのかはわからないが、選択はなされた。



「モフリストとして……」



 ザワザワと笑いあう雰囲気の中、微笑みを浮かべたカイウスのつぶやきだったが、どうやら誰にも聞こえずに済んだようだ。


 ユウリの耳がピクリと動いていたが、意味までは理解できなかったのだろう、和気あいあいとなった雰囲気で、知り合いであろうレイと笑いあっている。


 カイウスの動機がなんであれ、ユウリが獣人であろうとなかろうと、カイウスは頷いたはずだ。 

  

 勇者が持ってきたのは身一つと、誠意、そのたった二つ。


 だが、誠意なくしては何を持ってこられようと、それこそ彼の目的を達せられるようなものを持ってこられても、カイウスは、ノムストルは頷きはしなかったはずだ。


 もちろん即答したのは何かしらの理由があってのことだろうが……。


 何はともあれ、こうして引き受けた国と獣人の勇者ユウリからの依頼。  


 出発は一週間後、同行者の選定や荷物の用意を済ませてからとなった。 


 一週間というものはかくも短く、獣人国の状況や成り立ち、道中の危険の内容、同行者選定の儀の名を借りた新人トーナメント、そこで起こった奇跡、荷物の選定などであっという間に一週間がたってしまった。


 その後、聞くも涙、見るも涙な家族とのお別れがあると思いきや、全くそんなことはなく(若干一名は除く)。


 みんな笑顔や、各人思い思いの言葉でカイウスを送り出す。 



「「「「「「行ってらっしゃい」」」」」」


「おぉぉぉぉ某のパーがぁぁぁぁぁ」

 


 若干一名、影から守る系の方が影から出て来ていたが、みんな手を振り続けながら馬車に乗るカイウスを見送った。



 と、ここまでが一週間前と、馬車に乗り始めて一日前までのお話。


 今現在の姿は、というと……。



「サス……ペン……サス…ペン」


「……ん、さする」



 

 吐き気との、壮絶で絶望的な激闘を繰り広げている最中である。



できれば週一で投稿していきます!(意気込み)

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