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閑話・姉の決意


side_レイヤ・ノムストル。

 

 

 こんにちわ! 私は、レイヤ・ノムストル。

 大好きなノムストル辺境領に生まれた、次女です。

  


 昨日、弟のカイの貴族として大切な六歳の誕生日が終わった。


 私や姉さま、兄さま達も通った、なんというかすごく緊張と不安を感じるパーティーだったのだけれど。


 カイには違ったようね!


 参加してた私のほうが緊張してるの? っていうくらい堂々と、穏やかにあの場に立ってお話をしていたの。


 いつもはあんなに堂々となんてしていないのに、ああやっていざというときには立派に私にとって自慢になるくらいかっこよく決めてみせる。


 ……いいなぁ、いいなぁ、いいなぁ。 


 弟だけど、羨ましい。けど、可愛い……。 


 私はそこでふと思ったの。


_私はカイウスにとって、自慢の姉なのだろうか、と。


 一番上のクリスト兄は、誘拐事件の時に、颯爽とカイを助け、カイは今もその時のことを私や家族に言ったりしてる。

 

 姉さまは、私の知らないところでカイをすごく助けてるんだって。何だったかなぁ、水とかの関連とかだったり、食料がどうとかカイは言ってた。姉さまに聞いてもはぐらかされるだけであまり教えてもらえなかったけど、絶対に頼りにはされているんだと、思う。


 二番目の兄、レイ兄さんは……何だろう、もしかすると家族の中でカイと一番仲の良いかも? 私やほかの家族だって全然仲はいいはずだけど、一番そばにいるのは……あッ、一番一緒にいるにはポロロだ。


 ふふふっ、最近のカイは出かけることが多くて、そのカイの横にピッタリとくっついてお出かけしてるわ。


 だから、家族で一番はポロロ、レイ兄さんは二番ってところね。


 でも、レイ兄さんはS級冒険者の肩書と有名な二つ名を持っていて、カイは兄さんの武勇伝なんかを聞くのが好きみたい。


 まぁ、使用人とからかいながら聞いてるけど……あの目は確実に興味津々の目ね!


 カイは表情にも出やすいけど、特に目にその時のやる気なんかが出やすいの。ふふふっ。


 だから、レイ兄さんとの訓練なんかにもすごく感謝してるみたいで、要するにすごく頼りにされているみたい。 


 そして最後に、私。


 ……カイウスについていったり、お勉強を少し教えてあげたりするけど、たぶんあんまり役に立ってない。


 だってカイの表情が、なんというか引きつってる? 苦笑い? なんだもの!


 このままだと、姉としてすごく危ないと思うの。


 何が危ないのか、それはちょっとわからないけど、カイの苦笑いを見る度に頭の中が警鐘を鳴らしているの。


 ……これは、お母様に相談あるのみね!



「……はい、わかりました。レイヤ、よく考えてお母さんに相談しに来ましたね。えらいですよ」



 えへへ、真剣に訴えて相談したら、一拍のあとお母様に褒められて、撫でられています。


 まぁ、褒められても十歳を過ぎた頃からあまり喜ばないようにしているので、笑顔で頷く程度で済ませてるんですけど、本当はすごくうれしい。


 お婆さまやお母さま、お姉さまに褒められて、優しくなでられるのはとても、そう、とても嬉しいんです。



「でも、そうねぇ。カイに負けたくない、かぁ~……一つだけあなたたち兄妹の内、誰もが言ってない道があるにはあるわ。でも、そこで頑張れるかは、カイに頼られるようになるのかはあなたの頑張り次第……できる?」


「……うん! 絶対にやってみせる! 私負けたくないし、カイを可愛がりたいもの!」


「ふふふ、負けず嫌いは私に似たのかしら? フフッ、わかったわレイヤ。本当は王都の学園にあなたを進ませる予定でしたけど……変えましょう。あなたには中立都市、ロギックに行ってもらいます」



 ロ、ロ、ロギック! ……ええっと、確か王国と帝国、公国の三国に国境が囲まれてるけど、今までどの国の所属にもなったことのない都市であり、国? だったっけ?


 そこには……ロギック魔法学園があったはずだから……え、まさか。



「ええそうよ。来年十四歳になるあなたは、あの学園の原則的入学条件を満たすことになるわ。……何、安心なさい。娘の頑張りに、お母さんも人肌脱いであげるから……実技は満点で通るわよ」


 

 同じ属性でよかったわ、とふんわりとした優しい微笑みを浮かべるお母さま。 


 でも私の表情は時でも止まってしまったかのように動かない。


 お母さまと修行ってこと? なの? いつもやってるお勉強ではなくて?


 あれでもきっっっついのに?



「いつものお勉強でも通るとは思うけど、あそこは少し特殊だから。ふふふ、全員力でねじ伏せられるくらいには強くしてあげる」



 微笑みながら言うお母さまの周りから、少し真っ赤な魔力が漏れていらっしゃる。


 こういう時のお母さまは、残念ながら本気。


 感情が魔力と呼応してしまって、抑えることをしていない状態、らしい。



「はい! お母さま! 私、頑張ります!」



 ……だから、本気の人には本気で応えなきゃ! きっと私の本気の悩みを聞いて、お母様はそれに全力で応えてくれているんだ。


 じゃあ、私はその全力についていって、超えてやる!


 それがノムストル家の女の宿命。


 向上心には向上心で、本気にはもっと本気で、全力には限界を超えた力で。


 私は悩まない、感じて強くなる。応えて強くなる。


 そして、そして、そして。



「カイに頼られるお姉ちゃんになる!!」


「ふふふ、今のあなたは十分いいお姉ちゃんよ」


 

 両の拳を握って、明確になった目標を叫んだら、お母様がそんなことをおっしゃっていたけれど……ううん、そんなことはない。


 私は姉さまよりもっとカイを愛でる、そんなお姉さんになりたいです! 


 こうして、話はとんとん拍子に進んでいき、お父さまとおじいさま、そしておばあさまの許可も取り、お母様による、レイヤ・ノムストル育成計画が始まるのだった。







 数日後。 



「と、言うわけで、そのしわ寄せが俺に来ているわけだが……わが弟よ、どう思う?」


「いつもどおりだと思います」


「……だよなぁ」



 あ、お庭でレイ兄とカイが訓練してる!


 ふふふ、お母様に鍛えられた魔法をカイにみせつける……そして! 頼りになる姉になるわ!


 

「レイ兄にカイ! 私もその訓練に参加するわ!」


「「!?!?!?!?」」



 あ、勢い余っていつも通りのあいさつをしてしまったわ! せっかくお母様に色々教わったんだから、使わないと!



「……レイお兄様、カイ、私もその訓練に参加させていただけませんか?」


「!?!?!??ッッッッッ」



 あら? 二人ともどうしたのかしら? そんなにお顔を引きつらせて……何かおかしなことでもあったのかしら?



「……不味い、これは非常に不味いぞ、弟よ。俺は死ぬかもしれん」


「それを言うなら兄さん……僕もですよ」



 やっぱり二人とも仲が良い……むぅ。私だってひそひそ話したいのに、なんで入れてくれないの。


 ……やっぱり、カイは頼りになる姉が良いのね、うん、そうに違いない!


 ここは訓練で、ぎゃふんって言わせてやるんだから!



「まずは兄さま、私とやりましょう! まずは、体術から!」


 ……。


 ……。


 ……。


 まぁ、勝てないのはわかっていました。


 ええ、全くもって、く、悔しくなんかありません! だって、体の大きさ違いますし、高名な冒険者であらせられるし? そんなに悔しくなんて……あ、お母様が見てる。


 悔しいです。とっても悔しいです。あんなに頑張ったのに。 



「まだまだね……レベルを上げましょう」



 ゾクッッッッッ。


 い、今、背筋を嫌な感じのする何かが走りぬけた! 絶対お母様だ! 微笑みながら口元が動いていたもの!


 ……負けられない、もう、誰にも負けられない……。



「ふふふ、カイ」



 私は満面の笑みで弟に振りかえる。


 カイがとても青い顔してるけど……ダメ、負けられない理由ができてしまったから。


 

「ね、姉さま。お、お手柔らかに?」


「ええ、お手柔らかに」



 そうして、私とカイの戦いの火ぶたが切って落とされる。


 兄相手には何もできなかったけど、それはリーチがあったから。


 今回は背丈も年齢も勝る私が、負けるはずがない。


 お母さまから教えてもらっている体術は、基本護身術。


 だから基本的には受けから入る。


 慎重に震えるカイの動向を見極める……か、可愛い。けど、ほだされちゃダメ。集中集中。



「ハッ」



 カイが動いた!


 ふふふ、まずは様子見の一手ってところね……甘い、甘いわよカイ!


 ノムストルは、そんなことじゃあやってけないわよ!


 様子見で突き出されたカイの腕を取りに行く、そして逃がさないようにがっちりと掴む。


 よし、これであとは……へ?



「うッッッ」


「……」



 いつの間にか青空が見える……え、ま、まけ、負けたの? なんで?


 

「プっ、お前そりゃダメだろ。カイの奴完全に誘ってたじゃん! ハッハッハッ、やっぱそっちのほうはまだまだ始めたばっかだなぁ」


「う、うるさい! カイには勝てると思ったのにぃ! このままじゃ、お母様にしごかれる~!」


 

 レイ兄め。こういう時ばかりバカにして、クリミア姉さまに言いつけてやるんだから!



「……レイヤ、口調」



 ハッ、お母様いつの間にこんな近くに!?


 さっきまで窓際で微笑んでティータイムだったのに……どうやって。


 

「ほら、立ちなさい、泥を払って……負けてもいいのよ、レイヤ。そのあとが大事なんだから」



 教えていたでしょう? とお母様が私の服についた砂を払いながら言う。


 ……あきらめない。挫けない。次につなげる。


 二人に声をかける前、お母様が教えてくれた模擬戦での秘訣だ。


”あなたにはないものを吸収しなさい” 


 優しくそう言ってくれてたっけ……でも、負けるなって目が語ってたような……


 

「安易に負けを受け入れるのはダメ、負けになれるのもダメ。勝ってこそなんだから」



 お母様、その笑顔かっこいいですね!


 微笑みの中に威圧を混ぜるなんて、私には全然できない! さすが、お母様。


 大丈夫です。私だって何回も負けるつもりはないから!


 さっきので分かったけど、カイ相手は苦手ね! 可愛いのもあるけど、駆け引きでなぜか勝てる気がしない……でも……。



「くっくっくっくっくっく」



 あそこでまだお腹を押さえているレイ兄は、ヤレる。というか絶対ヤル。 


 まぁ、実際レイ兄はだいぶ舐めて来てくれるから、足元をすくえそう。


 

「レイ兄、様。やりましょう」


「お、おう。まぁ、笑ったことは謝るから、な? 機嫌直せ?」


「……」


「か、カイーーーー」


「兄さん、それは自業自得ってやつだよ……僕はそろそろ時間だから……ポロロッ!」


「ワフゥ」



 ふふふ、カイはどうやら用事があるみたい……でも、レイ兄さまは大丈夫。


 だって最近はほとんど暇そうにしているから。


 何回、何十回……勝つまで付き合ってもらうんだからぁぁぁ! 


 









「なぁ、もういいだろう? 手加減してるとはいえ、一撃入れれるようになっただろ? そろそろやめようぜ?」


「はぁはぁはぁ、まだ勝ってないんだからぁ」


「笑ったことは謝るよ。ほらそろそろ家に入るぞ……母さん」



 明るくなり始め位のころにやり始め、ご飯を挟んで、ついに日が沈み始めるころになる。


 ……でも、勝てない。少しづつ吸収していったはずなのに、たくさん試したはずなのに……勝てる気配がしない。


 もう、意地だってわかってる。でも、意地でいいじゃない。


 だって、負けたくないものッ!


 そうやってふらふらとして立っていると、ふと、優しいぬくもりが背中から感じられた。



「今日は終わり、よく頑張ったわレイヤ。ふふふ、途中からはレイしか目に入ってなかったみたいだったからつい止めるのが遅くなってしまったわ」


 

 ごめんね、と背中のぬくもり、お母様が言う。


 え、じゃあもう終わりなの? 


 ……ふ、フゥゥゥゥゥゥ。


 そう思ったとたん、全身から力という力が抜け、倒れこむようにしてお母様に体を預ける。


 あ~あ、勝ちたかったなぁ……さすがに無理だったかぁ。

 

 レイ兄強いもんなぁ、さすがに勝てないってわかってたけど、意識して無理だって思わないようにしていたからね。


 もしかしたらって、思ったんだけど……無理だったなぁ。 



「安心して少しお休み、今日は今までで一番頑張ったわよ、レイヤ」



 ふふふふ、って微笑む声が聞こえて、重い瞼が一段と重くなっていく。


 優しいお母様と、ニヤけたレイ兄の顔が見える……むぅ。


 最後に、あのムカつくニヤけ面に一発帆脳を叩きこんでやる。



「お、おまッ_」



 ふふふ、最後に驚くレイ兄の顔が見れただけ良しとしよう。


 ぎゃぁぁぁぁぁ、と言って叫んでる兄が、どうか夢ではありませんように。


 おやすみ。

 





 こうして、レイヤ・ノムストルは一つの道へと進むことを決意する。


 彼女は、その後も魔法学園に行くための努力を続けていくのだった。


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