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目的はノムストル

いい感じに筆が乗ってきました。(自称)


 王宮へと続く王城の通路。

 

 そこには一頭の馬を引く金髪の男性と、その少し後ろを真っ白な体毛をはやした狼型の獣人が歩いていた


 二人の間には会話はなく、時折馬の嘶き声がこだまするだけ。


 背後からはいまだ鳴りやまぬ民衆の拍手と熱気が背後から迫ってくるかのような勢いで聞こえてきている。


 そんな中、ふと金髪の男性が獣人へと話しかける。



「ユウリ殿、いきなり来られてはこちらも対応に困ってしまう。あなたのような大物をおいそれと棒立ちさせたとあれば、それは我が国の恥にもなりかねぬことなのです。どうかご自身が前触れのようなことはなさらないでいただきたい」


「すまない、マラス殿。しかし今回の事は我が国にとって、悲願にも近しいものなのだ。私自身、逸る気持ちを抑えられず、王に直談判してやっと訪れる許可が出たのだ。心躍った私は……すまない君には関係ないことを口走ってしまった」


「いいえ、あなたのお話の内容は、王も私も予想は付いております。ですので、どうかはやる心を静め、心穏やかに話し合いをしましょう。会談の準備は何とかできました」



 一方は少し強張った声で、もう一方は冷静で演技かかった声で、両者はともに多くの何かを背負うもの同士であり、その纏う雰囲気、立居振舞いには覇気ともいえる凄まじいプレッシャーが存在する。


 金髪の男性_マラス・モーリタニアはそう言うと、颯爽と後ろの獣人のほうへと振り返り真剣な顔つきで獣人に一礼する。  



「誇りある獣王国十二宮が一席、ユウリ様。我らモーリタニア王国はあなたの訪問を心より歓迎します」



 ふたりの目の前にあるのは、いつの間にかたどり着いた一つの黒く厳かな巨大な扉。 


 人払いをしているのかそこに他の人は見えず、マラスは扉に手を当てる。



「門を開けよ! 獣王国の友の入城だ!」 


「……」



 一喝。


 腹の底から湧き上がるような声と、覇気漲る立居振舞で門の向こうにいるであろう門を開ける係の者に合図を送る。 


 巨大な扉が少しずつ開いていく。


 獣人はその光景を感謝と意気込みの混じった沈黙で見つめている。



_ギィィ



 木と木のこすり合わさる音が響く。


 扉が少しずつ開き、レッドカーペットの敷かれた通路が見える。


 そしてその先には__。



「王太子様。急にいかれては困ります。宰相や大臣に怒られるのは私なのですよ」


「許せ、クリスト。私は待つのも嫌いだが、大事な客人を待たせるのはもっと嫌いなのだよ。父上の許可はもらっているしな」


「……」


「やめい、そんな目で見るな。ますます姉に似たのではないか?」


「まさか……私の姉は不満を顔には出しませんよ。物理的に示します」


「それはお前にだけだ。彼女はいまだ高嶺の花と名高い美女だぞ」



 レッドカーペットが途切れるその先に、王座が、そして王がその場に座っているのが見える。


 ほかにも大臣・貴族がレッドカーペットのわきに並び、玉座の最も近くには宰相、そして四大公爵の姿がある。


 マラスはその中でも最も扉近くにいたクリストと呼ばれるマラスと同じ色をした髪の色を持つ青年と息の合った声の掛け合いをする。 


 だがそれも数瞬のことで、お互いに真剣な表情に戻ると、クリストは反対側のレッドカーペットの脇に歩いていく。



「さぁユウリ殿、お進みください。我らの王がお待ちです」



 ユウリがそう言って一礼すると、王までの道にそれぞれ立っていた臣下たちもそれに習うように一斉に礼をする。


 獣人の前に一つの豪華な道が出来上がる。


 一人一人がこの国の重鎮であり、この国を支える者達だ。これだけの道はそうそう作られることはない。 

 獣人はそんな貴重な道を一歩一歩言い知れぬ高揚感に包まれながら王へと至る道を歩んでいく。

 

 一歩、また一歩と進み、進んでいくごとに人の波で作られた道の終わりが見えてくる。


 王の御前に着いた獣人は綺麗な動作と感謝の気持ちを込めて片膝を付く。



「獣人王国十二宮が一席、ユウリ。急な訪問であったにも関わらず、この国の手厚い歓迎……感謝に堪えません! 今は、身勝手な身の上が恥ずかしくてたまりませぬ」



 レイをしていた臣下たちが一斉に頭を上げその場に用意されている各自の椅子に着く。


 そして、一拍をおいてユウリの心の底から口惜しさがにじみ出てくるような声が王宮内に響き渡った。


  

「……私はモーリタニア王国君主、モナク・レクス・モーリタニアである。……ユウリ殿、頭を上げてほしい。これらのことは我らが好きで進めたこと、貴殿が頭を下げる理由はないのだ」



 王は心地よい優しげな声音でユウリへと語りかける。  

 


「それでもッ……いえ、これ以上は失礼になってしまいますか……頭は上げますが、帰国ののち、同朋にはこの国の良さを嘘偽りなく伝えさせていただこう。……それがあなた方にできる最大限の礼であり、今の私にできる限界です」


 

 ユウリはその真っ白な髪を振り乱しながらも、唇を噛むように一度言葉を止めると、努めて冷静に真摯な眼差しを浮かべて王へと言った。 



 「うむ、それでよい。……さて、さっそくだが本題に入ろう。獣王国の勇者ユウリよ、今回そなたが来た理由はおおよそ察しがつく」



 それに対し王は鷹揚に頷き、ユウリへと微笑みを送る。

 

 そして、一拍置いた後、これからが本番だと言うかのように鷹のような鋭い目をしてユウリを射抜くように見つめた。



「……厚手がましいですが、本日は王に頼みたいことがあるのです」



 ユウリはその射抜くような視線を真っ向から見つめ返し、気迫の籠った声で王へと告げる。



「是非ご紹介願いたい一族がこの国にいます。どうかその者達との繋ぎを王にして頂きたいのです」



 ユウリの放った言葉は一国の王に対しては失礼に当たり、この場の雰囲気を凍らせかねない一言であった。


 ……であったが、ざわめきも、異論も、もちろん雰囲気も凍らず、ただ沈黙だけがこの場を駆け抜ける。


 

「「……」」



 王と、ユウリの視線だけが交わる時間だけが過ぎ去っていく。


 相手を物理的に射抜いてしまうかのような視線と、ただ真摯に誠実に温かい光を宿しているかのように見えるユウリの視線。


 その間に火花が散ることはない。


 一方は視線からその心を覗こうとしており、もう一方は唯々自分の厚く煮えたぎる情熱を伝えるために視線を送る。



「……よかろう、そなたの思いよくわかった。 まさか使者にこのようなものを遣わせるとは……いや、この場合は適任というべきか……言ってみるがいい、余の力、そなたのそのまっすぐで曇りない眼に貸そうではないか」



 この沈黙を破ったのは国王の方であった。


 国王は誰が見ても分らぬであろう程のため息を吐き、少し目を見開いき驚いた声音で言う。


 そして、肩を竦めながらユウリに片方の腕を差し出すジェスチャーをする。



「感謝します。私が紹介してほしい一族は……ノムストル……この国の英雄と呼ばれる者の家を、私に紹介していただきたく思います」



 ユウリの発言に、少し場の雰囲気が冷ややかになったのを感じる。



「ほう、紹介だけでよいのか? 余の臣下なのだから命を下すこともできるが……フッ、目が語っておるぞ、お主自身の手で成し遂げたいのだな?」   



 国王はその雰囲気に気付きながらも、気にした様子はなく立派な髭を撫でながらそう言った。



「はい! 私は同朋のためここに訪れました。 熱砂荒ぶる砂漠を超え、魔物の魔境を超え、夜の闇を顧みず走りました。……私は、その者と話し、我が同朋を救ってほしいとこの暑く煮えたぎる思いを伝えたい。どうか王よ、私にその機会を頂きたいのです」


 

 ユウリは力強く、ここに来るまでの険しい道のり、そして、自らの燃えるような思いを国王に伝える。



「……あい分かった。獣人は厚く、同朋思いが強いと聞いていたが……どうやら間違いはないようだ。予想だが、特にお主の思いはその中にあって一際強いのだろう……私の立場なら決してできぬことだが……正直、そなたのようなまっすぐな配下がいることが私は羨ましいよ」



 国王は一拍の時を置き、大きく頷いて見せると、少しやわらかな表情で、ここにはいない獣王へと羨望の思いをユウリに伝える。


 ユウリはそれに大きく頷き、片膝を行きながら、少し頭を下げる。



「私には過ぎたお言葉ですが、そのこと是非獣王にお伝えしましょう」



 ユウリは嬉しそうに、少し弾んだ声で国王に答える。


 そして国王はそんなユウリを見た後、国王のいる場所から最も遠い場所にいる金髪の男二人を見る。 

 

  

「……クリスト・ノムストル。ここへ」



 国王は二人のうち、片方。


 カイウスの兄であるクリストの名を呼ぶ。



「ハッ」



 クリストはその声に、短く答えると、一度こくおうに向かい一礼し、足早に、しかし礼儀を失することのない歩みで獣人の一歩手前で片膝を付く。


 ユウリが”ノムストル”という言葉に反応してか、耳をピクピク動かし、振り向きたそうな雰囲気を醸し出す。



「余は今、とても良い友人とある約束をした……それはお主も聞いていたな?」


「ハッ、しっかりとお聞きしておりました」


「余は余の口から発した約束を、破るという行為はとても愚かに思える……たとえそれが、口約束でもだ。誇りある我が国の王が嘘つきだと、民衆どころかお主たち家臣は決して御せぬであろう……先ほどの話、受けてくれるな?」



 私に恥をかかせてくれるなよ? という副音声が聞こえてくるような、少しドスの効いた声で国王は片膝をつくクリストに言う。



「……ハッ、我が国の友を我が一族は心から歓迎いたします。……つきましては、家に早馬でことを知らせたいので、退席の御許可を頂けないでしょうか?」


「うむ、わかった許可しよう」


「感謝いたします」



 クリストは、国王からの許可をもらうと、すぐに立ち上がり王宮から足早に去っていく。


 王がそれを見届けると、もう一人の金髪の男性_マラスが国王の前にきて、片膝をつく。



「父上、どうかユウリ殿を案内する大役……どうか私にお任せいただけないでしょうか」



 マラスは、不敵な笑みとともに演技かかった仕草で国王へと問いかけた。



「マラスか……よかろう、そもそもお前に任すつもりだったのだ。あまり余計なことはするでない」


「ハッ、父上。では私も準備の方を指示しに退出しても、よろしいでしょうか?」



 マラスは国王からの苦言も意に介した様子はなく、自信に満ち溢れる瞳で国王へと問いかけた。


 国王はそんなマラスを一瞥だけすると、視線をその少し前にいるユウリに合わせる。



「……ユウリ殿。我が息子にそなたの身の回りすべてを任せることとするがよいか?」


「私に否はありません。どうかこの身、あなた方の思いのままに」


「うむ。マラス、ではユウリ殿と退出するがよい。くれぐれも丁重にな」



 国王がそう言うと、まずマラスが立ち上がり一礼する。


 そして、



「はい父上……では行きましょうユウリ殿」


「ああ、了解したマラス、殿。国王、では失礼」



 マラスがユウリに声を掛け、ユウリは立ち上がると同時に国王へ礼をする。 


 それを見届けたマラスが、ユウリに先に行くよう促し、王宮出口に振り返り、二人そろって足早に王宮から去っていった。


 

_ギィィィ 



 二人の姿がなくなり、王宮の扉の閉じる音がする。


 王宮内は少しの間静まり返り、誰も言葉を発しようとはしなかった。


 

「……さて、では中断した会議の続きを始めようではないか……避けられぬ帝国との戦いについてのな」



 シンっと静まった王宮で、国王の声が全員の耳へと届く。


 あるものは目を逸らし、あるものは血気盛んに拳を握りしめる。


 その後は、宰相がこの場の進行の役割をこなし、多くの意見が飛び交うことによって、夜遅くまでこの国のトップたちの会議は続いていくのだった。




今週もガンガン頑張ってきます!

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