ギルドマスターとして・勇者来訪
少し迷った投稿になります。もしかしたら書き直すかもです
ギルド長室室内に三人の不用意な、それでいて的を射た発言がこだまする。
つい出てしまった本音に、三人は慌てて口を手で押さえ、背中に冷や汗をかく。
「「「「……」」」」
室内を沈黙が支配し、三人が慌てて謝ろうかと頭を下げようとしたとき、彼らの後ろにいたベラージオからもう耐えられない、と言った感じの笑い声が聞こえてきた。
「クッ、くハハハハハッ。いやぁ坊ちゃん。やっぱ俺の言った通りでしたでしょう? 坊ちゃんを見て『ギルマス……』なんて呟く奴はいませんよ……クハハハハハッ」
べラージオは、まるで堰を切ったかのようにおかしそうに話しだし、先ほどまでの真剣みが嘘のように霧散している。
カイウスも、その雰囲気に倣うように、頭を抱え、悔しそうに机をたたく。
「くッ、最近秘書の人や、ギルマスに、『威厳がついてきた』って言われていたのに……あれは嘘だったのか!?」
「いやいや、嘘ではないですよ坊ちゃん。 あんたがいなきゃもうギルドが回んねぇ、そうなりゃ俺たちがくいっぱぐれちまう。初めて会うやつにはわかんねえ威厳は確実にあるぜ?」
本気で悔しそうなカイウスに、カイウスの隣で秘書をしている女性がベラージオを睨み、べラージオは慌ててカイウスの背中を叩きながらフォローしようとする。
もちろん、睨んでいた秘書も、べラージオの言葉には頷いて、カイウスのご機嫌を取りにかかる。
そうして、秘書とベラージオの二人が二言三言カイウスのご機嫌を取る言葉を言っている時だった。
ようやくフリーズから溶けたマック、ライゼ、カイネのうち、ライゼの一言が悪い意味でこの場に一石を投じる。
「えっと、この坊主がギルマス代理? えっと、何かの冗談すか?」
多分、純粋な疑問が口に出てしまったのだろう。
普段であれば流れてしまうなんてことはない発言なのだが、タイミングが悪い。
ライゼの言葉に、カイウスをほめていた二人がぴたりと動きをを止め、カイウスの耳がピクピクっと反応する。
ライゼ、マック、カイネの三人は、それだけで、先ほどまで緩やかな雰囲気が一触即発でもいうべきな雰囲気に変わったことを察する。
時に、純粋な言葉は人を深く傷つける。それがたとえ悪意がなかったとしてもだ。
ベラージオから……いや、その隣に佇む秘書から、冗談ではすまない尋常ではない殺気が三人に向けられているのが、誰が見ようがわかる。
三人は、その執念にも似たねちっこい殺気に当てられ、お互いに顔を見合わすのだが、今回は誰が原因かはっきりしていた。
マックとカイネは、瞬時にライゼを裏切り、さっと視線をずらし、我関せずを貫こうとする。
「「……(サッ)」」
「(……嘘だ…ッろ)」
「……そうです、威厳も何にもない坊主があなたたちのここでの上司になります……はい。なんかごめんなさい」
「いや、いやいやいやいやいやいや!!! 全然気にしないっすから!! ほんと生意気言ってすいません!」
はぁーっ、と短いため息をこれ見よがしにカイウスは吐き、視線を斜め下に移し落ち込んでますよアピールをする。
ライゼはそんなカイウスに慌てたように否定の言葉を飛ばし、とにかく謝る。謝る以外の選択肢がこの場では見つからなかった。
「私たちからも謝りますから、どうか許してください」
「ギルマスの気に障ることをしてしまい、申し訳ありません」
ライゼが顔面蒼白で謝ると、それを気にしてか、他の二人も続くようにライゼの隣で頭を下げる。
お互いがお互いを見つめ、『だめならやり直そう』『バカ、口が軽いのよ』と言ったニュアンスの表情でカイネ、マックがライゼを慰める。
三人が平に誤っている姿をしっかりと見たカイウスは、机の引き出しを唐突に開けると、その中から一枚の紙のようなものを取り出し、そこに何かを書き込んでいく。
「……評価A。途中見捨てたように見えたんですけど……三人の団結力、絆はあるようですね。これは早めに上へあがってもらうパーティーでしょうベラージオさん」
「お、そうですかい坊ちゃん。いやぁ~なれねぇなこの小芝居は。だから坊ちゃんがいるときは新人に来てほしくねぇんだ」
「そう言ってなかなかの役者でしたよ。本気の殺気を放ったカーナリアさんよりはましでした」
「「「……はい?」」」
先ほどまでのことなど、何事もなかったかのようにすまし顔のカイウスに、肩を竦めながら笑うベラージオ、そして殺気むき出しの表情からいつもの能面に変わる秘書さん。
三人は、何が何なのかわからず、その場で立ち尽くすような姿勢になっている。
すると、カイウスが、そんな三人に気づき、今日一番の笑顔で言った。
「ようこそ優秀な冒険者さん。今回は僕なりの試しであなた方を評価させていただきました。 十分高い評価があなた方チームにはついているので、ぜひこれからもノムストル領のため、その腕を振るってください。まぁ、とりあえずもう安心していいですよ、とだけ付け加えておきます」
「「「……よかったぁ」」」
カイウスの笑みとともに放たれた言葉に、三人は数舜目を見開いて固まっていたのだが、カイウスの安心していいよというう言葉で、ようやく一息ついたのか、まだまだ状況は理解できていないが三人はその場に座りこみ、安心するかのようにお互いうなずきあうのだった。
そんな、カイウスが冒険者ギルドで新人を評価している頃、モーリタニア国王都、王城内は、緊迫した雰囲気に包まれていた。
「おい! 獣人国の使者が来るそうじゃあないか!? しかも勇者が使者の代表だとか!」
「代表も何も! 勇者一人だとわしは聞いたぞ! こんなことは前代未聞じゃ! かの勇者に何かあれば……大問題では済まされぬぞ!」
「馬鹿もん! 縁起でもないことを言うな! そもそも何をしに……いや、目的はわかるが、わかるのだが、獣人国はいったい何を考えておるのだ」
「あの帝国と一触即発の時期だというに……」
王城内のあちこちで噂されているのは、唐突のそして意外な国からの使者のことだった。、
多くの者たちが、王都の正門に集まり、その様を目撃する。
ふさふさの真っ白な毛皮に包まれ、人より一回り大きいその体躯、そして、一度狙った獲物は逃さないであろう鋭い爪に、細められたその瞳。何より、最も人々の印象に深く残ったのは、その大きな体躯に匹敵するかのような剣を軽々と背に携えた姿。
一人の勇気ある獣人が、王都にやってきていたのだった。
そして、そんな獣人が王城の正門に立った時、門番から問いかけが行われた。
「どこのどなたかを名乗り、いかようの用がありここ王城に参られたか申されよ!」
「さもなければ立ち去ることをお勧めいたします!」
門番として立つ二人の兵士が、決められた言葉を吐くように、努めて機械的に発した言葉。
それに対して獣人がとった行動は。
「私は! 貴殿たちから言う獣王国から参ったものであり、この度この国の王と会談したく参ったものである! ここに獣王の使者である書状と、私の身分が書かれた書状がある! 私の名はユウリ! 獣王国十二宮が一席、勇者の称号を持つものである!」
声高らかに、聞く側に何の臆面も感じさせない堂々とした宣言にザワザワとしていた王都の民衆たちは途端に静まり返り、一人の雄姿にくぎ付けになった。
門番たちにもそのことは言えた。
圧倒的ともいえるカリスマ性を前に門番たちは圧倒され、緊張のあまりか、その手に握る槍に力が入っているように見える。
ユウリと名乗ったその獣人は、そのことに目ざとく気づくと、おのれの大剣に手を伸ばしゆっくりとその巨大ともいえる大剣を手に取る。
そして、その大剣を誰もが見えるようにそっと、門番二人の前に丁寧に置く。
「君たちを脅すつもりもなければ、害を及ぼす気もない。私は話したいのだ。君たちの王と。どうか君たちの王と私を会わせる話を通してくれないだろうか?」
そういって獣人は門番二人に、いや、この場にいる全員に向け頭を下げる。
その瞳からは全く悪意など見えず、あるのは唯々まっすぐで真摯な瞳だけだ。
頭を下げ続ける獣人に門番のうち片方が険しい表情を浮かべつつ、もう片方に指示を出す。
”王宮に伝令を送れ”
ただその一言だった。
言われた門番は、慌てふためきながらも了解の意を示し、足早に王宮内へと向かっていく。
歓声が王都を包む。
見物していた街の住人たちが我がことのように喜びの咆哮を上げ、獣人へと声援を送る。
あっという間に獣人はこの場の不気味な怪しい雰囲気を明るく楽しいものに換えてしまった。
門番は、いまだ頭を下げ続ける獣人のカリスマ性に畏怖を感じ、自らもこの誠実な姿に突き動かされてしまったことを自覚する。
そうやって多くの民衆が獣人をたたえ、盛り上がっているとき、王宮から一頭の馬とそれに跨った一人の男性が獣人の前に現れる。
男性は獣人の前に到着すると、華麗にその場に降り立ち、ごく自然な動作で民衆へと語りかける。
「皆よ! 突然の来訪者に温かい歓迎を向けてくれて感謝する! 獣王国の方も我らの温かな心意気が伝わったことであろう! かく言う私も皆が誇らしい!」
決して大きな声ではないが、不思議と良く通るきれいな声音で王城前にいる全員へと言葉を届ける。
男性が現れて少しざわついたこの場も、獣人とは違い、圧巻ではなく、ただただ自然と行われたこの演説に極自然と静かに、一言一句聞き逃さぬような雰囲気で聞き入っていた。
なおも男性は続ける。
「我らが王は、獣人のこの問いに”是非、話をしよう”と快諾をしている! さぁ、遠い異国の友人よ、我とともに王宮へいこう! 門をくぐるのはこの国の第一王子、マラス・モーリタニアが許可をしよう!」」
「感謝する、マラス殿! 僕は決して忘れない、この場で温かな歓迎を受けたこと、そして快く迎え入れてくれたあなたのことを」
付した獣人に、王子が手を差し伸べ、獣人がその手を取る。
まるで物語の一節のようなその光景に、民衆は盛り上がりは今日最高値になり、王宮へと歩いて去っていく彼らを多くの拍手が包むのだった。