六歳の誕生日~始まり前の緊張~
更新遅れて申し訳ないです。
~あらすじ?~
とうとう六歳の誕生日を迎えたカイウス。六歳と言う年は貴族界に置いてとても大切な年であり、ノムストル家においても、それは変わることはなかった。
今回の話は、そんな六歳の誕生日を迎えたカイウスが、ドタバタな早朝を経て、誕生日会本番に挑むところからである。
~終~
ノムストル領フラン都市。
ここは、ノムストル領で一番の交易都市であり、領の顔と言っても過言ではない場所である。
フラン都市の中央には、真っ赤な煉瓦で作られた一つの塔のような巨大な建物が聳え立っており、カイウス達は現在、その建物の中の一室にいた。
「ムンタリ公爵、クヴォン公爵、バルトルス公爵、テジテールズ公爵、ブルネリック辺境伯、サブラ伯、ホッスンテル伯、ガギス男爵……えっと、あとは……」
「ん、スルーダ伯とブンタッス騎士伯が抜けてる。それに、コールスリー商会にグリット商会も」
カイウスは、部屋の中で呪文のように名前を唱えている。もちろん、その傍には、カイウスより頭一個分小さいショートカットのメイドがちょこんと並んでいる。
「グハッ、ちょっ、ちょっと、厳しすぎる……」
「ん、でも、今のはさっき教えられたものではないはず……サボった?」
「……サッ」
ナナのまっすぐな瞳に、カイウスは瞳を逸らすことで応える。
カイウスの基本スペックは、正直高くはない。 特に、こういう一瞬で覚えてしまえ系は大の苦手だ。
今朝覚えろと言われたものではない奴さえ、この体たらくなのにもかかわらず、先ほど新規で二十ほどの追加があったのだ。
ヤバいと、言わざるを得ない。
「あとニ十個は、どうする?」
「……うっ、ど、どうしましょうか」
ナナはコテッと可愛く首を傾げながら、カイウスへ精神攻撃を繰り出す。その無意識な攻撃は、カイウスの心に、深く突き刺さる。
カイウスはとても真剣な面持ちで、片手を口元へと持って行き、辺りを行ったり来たりしながら、虚空を睨みつける。
「……」
「……」
その間、少しの沈黙が一室を支配する。時計の針が進む音だけが部屋に響く中、目をパチパチと瞬いたナナが、静かに口を開いた。
「ん、一つだけ裏技を伝授してもらってる。 ……聞く?」
「なん……だと」
ナナのその一言に、カイウスは、反応に少し時を必要とした。
それだけ、虚空を睨みつけていたカイウスの前に躍り出たナナが発した一言は、カイウスにとって希望になりえる一言であったからだ。
この後、カイウスが発した一言など、容易に想像がつくであろう。
「ナナさん、是非聞かせてください。お願いします」
「ん、もち」
カイウスは、一も二もなく、ナナへと頭を下げた。
ナナは、頭を下げてお願いするカイウスに、あまり変わらない表情と少し頼もしいサムズアップでもって応えるのであった
光で彩られた、煌びやかな会場。
白いテーブルクロスの敷かれた丸机が、数十個単位で、まばらに置かれている。
その机の付近には、数多くの参加者たちが、立食パーティーさながらに立ち話に興じており、あちらこちらから話し声や、優雅な笑い声が聞こえてくる。
多くの者達が、会場に揃い楽しく談笑している中、このパーティーの主役がどこにいるのかと言うと、
「……いったい、何人いるんだ、これ」
「ん、参加者は二百五十六人。外にいる従者などを合わせたら、千人に届くかもしれない……とメイド長に言われた」
「……誕生日会に……千人」
ホールのような会場。その一番奥。
そこは他と比べ、一段高くなっており、会場全体を見渡せるようになっていた。
カイウスは、そんな一段高い場所の舞台袖に居り、談笑を楽しむ参加者達を恐怖の瞳で見下ろしている。
傍にはナナがおり、少し離れたところに父と母がいた。あともちろん、メイド長も後ろに静かに控えている。
「カイウス、初めに言わせてくれ。 __六歳の誕生日おめでとう。あまりにもバタバタし過ぎて、遅くなってしまって、ごめんね?」
「あなたの晴れ舞台に、お母さんとお父さん、どうも張り切り過ぎちゃったみたいで、大事なことを言ってなかったわ。 __おめでとう、カイちゃん」
眼下の様相に、緊張で張り裂けそうな様子のカイウス。そんなカイウスの背後に優しく、頼もしい声が掛けられた。
カイウスが振り返った先にいたのは、優し気な表情を浮かべる父と母が、共に嬉しそうにカイウスへと祝福の言葉を贈る姿だった。
「父様、母様……」
呆然と呟いたカイウスの肩に、それぞれ父と母の手がふわりと置かれる。
「緊張することはない。 ……と言っても、さすがに無理があるかな? こんなに大勢の人の前に出るなんて初めてのことだからね」
カイウスの肩に手を置きながら、父は、カイウスを安心させるような笑顔を浮かべる。
「でも、安心してくれていいよ。カイの傍にはいつでもお母さんやメイド長、それに、今君の隣にいるメイドの子がいる」
父がそう言って視線を向けるのは、同じようにカイウスの肩に手を置く母と一歩下がってこの光景を見ているメイド長、そして、隣でドヤ顔をカイウスのに向けるナナだ。
カイウスは、三人の方を父の視線に合わせて順番に見て行き、最後にゆっくり首を傾げる。
__父が、居ない。
カイウスは、ドヤ顔を向けてくるナナを放置しつつ、不思議そうな視線を父へと向けた。
「……父さんは、だって? いやいや、僕が隣にいても安心できないだろう? ハハハ、それに……良いことを教えよう、カイ。覚えて置くと良い……父さんもこういうのは苦手なんだ。……ホラ、手が震えているだろう?」
父が言うように、肩に触れている彼の手は、若干ながら小刻みをしていた。
カイウスは、父が、自分を安心させるほどの余裕があると思っていたのだが、どうやら思い違いだったらしい。
父も、自分と同じように、盛大に緊張していた。
「ふふふ、これでもずいぶんマシになったのよ? 私が初めて会った時なんか、震えすら出ずに、ただ、ただ、固まってたんだから」
「いや、あの時は、なんと言うか……結構いきなりの事だったし、それに、君がいきなり連れだすから」
「フフッ、だってあなたが言いだしたんじゃない。『僕が、後ろから皆を死なせないようにする』って。だから、連れて行ってあげたんでしょう?」
「それにしても強引だった。 いきなりみんなの前に連れ出すなんて、完全に予想外だったよ。僕はこっそりで良かったんだ……あんな、大勢の人の前で、決意表明だなんて……」
「ふふふ、それのおかげで、みんなの士気が上がったんじゃあない。……ああでも、あの時のあなたはとてもかっこよかったわ。『誰一人死なせたくない、誰一人傷つけさせたくない、皆の命は……僕が守る』。 皆の前で言った言葉は、よく見たら、足はガクガクだったし、顔は全然余裕がなくて、カリスマ何て全く感じなかったわ……でも、とても勇気が湧いて来た」
「……アリー……」
カイウスを安心させるという行為はどこへと行ったのやら、カイウスの肩に置かれた手はそのままに、父と母はお互いを見つめ合い、今にもキスをしそうなほど見つめ合っている。
カイウスはその光景を「はぁ」、と溜息吐きながらも止めることはしない。
「奥様、旦那様……そろそろ入場のお時間です。 ……お行ください」
「「……はい」」
その行為を極自然に遮る者が現れた__メイド長である。
彼女は、音も立てずに二人の間、丁度カイウスの正面に立ち、心を一瞬で凍てつかせるような、冷めた声音で父と母に時間が来ている事を促した。
そんなメイド長の声に、二人だけの世界を作っていた二人が、若干の冷や汗を流しつつ、苦笑いでカイウスへと、向き直る。
「カイ、結局はカイの晴れ舞台なんだ。存分に楽しむといい」
「そうよ、何かあっても、私たちが支えてあげるわ……じゃあ、先に行っているわね」
母と父はそう言うと、カイウスの頭を交互に撫でて、会場に向かって歩き出していく。
「はい! 父様、母様……ありがとうございます!!」
そんな優しく、ちょっと抜けている父と母の背後に向けて、緊張感が緩和されたカイウスは、丁寧にお辞儀をするのだった。
『……(はいはい、いつものイチャイチャね)行きましょうか。奥様、旦那様』
BYうらやましくはないが、鬱陶しいと感じている人
更新はゆっくりになってますが、途切れることはないので、ゆっくり気長にでもお楽しみいただけたらと思います。
更新遅くて、本当に申し訳ない。