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六歳の誕生日~準備~

一週間の豆腐、補完期間終了。……お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。


それでは、本編をどうぞ。



 カイウスが手伝った収穫作業から、約一月の時が流れた。


 あの少し肌寒かった風は、白い息が出る程の冷たい風となり、美しく咲いていた花々や、綺麗に色付いていた木々は、その葉を落とし、枯れ果て、少し寂し気な雰囲気を醸し出していた。 


 そんな、秋から冬へと移り変わる、少し寂しい季節の中。


 ここ、ノムストル領では、ある大きな催しが開催されようとしていた。   








「ええっと、招待状はもう送り終えたかな?」


「はい、例年通りに……王族の方々を始め、公爵様、親しい貴族の方々、そして、懇意にさせていただいている商人達と、多くの方々にお送りさせていただきました」



 屋敷にある、父の執務室。


 そこでは、穏やかな笑みを浮かべるカイウスの父と、いつも通り冷静な表情、そして淡泊に話すメイド長の姿がある。 



「よしっと。じゃあ、これで準備は終わりかな? あ~、今日はなんだか楽だったね」



 誰に確認したわけでなく、父は嬉しそうに呟き、辺りを見渡す。



「ホント、やっと…終わった……」


 

 書類の山で埋め尽くされていたはずの部屋は……今。




 __綺麗に片付けられていた。


 __普通の部屋となっていた。。


 __床が全て見えた。




 ……つまりだ。 要するにだ。


 敵は去った。


 この一言に尽きる。


  

「ん~~~、はぁ~ぁぁ」  



 父は綺麗に片付いた部屋を見終わると、気持ちよさそうに伸びをする。


 その表情は油断そのもので、彼はボーっとした表情で虚空を見上げ、両腕をブラーンっと下へと垂らす。


 父は今、これ以上ないくらいの達成感に酔いしれていた。



「……」


 

 しかし忘れてはいけない、この方。


 背後にメイド。そこに、冥土。そして、ここからがメイド長。


 冥土メイド長の本領発揮。

 

 彼女は、目の前で完全に緩み切った自らの主を、ジッと見つめる。


 そして____




 ……果たして、父は気づけたただろうか? 




 深く安堵の溜息を吐き、外の景色をここぞとばかりに楽しむ自らの背後で、冷静に、冷酷に、自らを見つめる、彼女……この家の冥土長がいたことに。


 そして、気づけただろうか、彼女の瞳が一瞬、怪しく冷たい輝きを放ったことに……そのいつもは平坦な口角が、僅かに上がっていたことに。


 果たして父は、気づくことができたのだろうか……。

 


「……スヒィア、ここに」 

 

「ハァッ!!」



 いつも通りの抑揚のない声とその冷静な態度で、メイド長は執務室の中に、影から守る系ガチムチエルフを召喚する。 


 現れたガチムチエルフは、音もなく、気配もなく、メイド長の横へと出現した。



 ……その付近を舞う、死神のように黒い影の、薄い何かと共に……。



「え? まさか……」

  


 やはり、父は、気づけていなかった。


 父は突然のことに動揺しつつ、すぐにメイド長の方を確認する。


 


 

 __笑っていた___






 その若干上がった、口角。

 

 自らを見つめる、冷たく光った瞳。


  

 その二つを、父はしっかりと確認した。

 


 父の時が、思考が停止する。



 ……父よ、もう遅い。今更、時間を停止しても、もはや、手遅れなのだ。思考を停止することは、今、死を意味するのだ。



 すでに、あなたは目にしたはずだ。あなたの目の前で舞う、薄い何かを。


 正面に立つガチムチエルフの抱える、何重にも重なった束の塊を。


 その見慣れた、宿敵の姿を。


 あなたは、あなたはッ……目にしたはずだッ。



「……」 


「……主催者としての管理書類等、出席者からの贈り物をまとめたリストの確認等……そして、領内における治安の確認事項等、その他にも様々な確認するべき書類を別室に待機させておりました」



_パサッ



 ひらひらと宙に舞っていた、薄い何かが床へと落ちる。


 そして……それと同時に、動き出す時間。 覚醒する意識、認識能力。


 動き出す父の時と、思考、ここにきて、父はようやく悟った。 いや、悟らさせられたと言ったほうが良いだろう。



 __ガチムチエルフの、両腕いっぱいに抱えられた天敵しょるい


 __そして、ひらりと舞い落ちた一枚の宿敵しょるい


 __目の前に、叩きつけられた一つの現実しょるい



「おぉぅ……」



 父は、目にしたくなかった現実に、間の抜けた声を漏し、ガクリと項垂れる。



「これでよろしいでしょうか、メイド長」 



 ガチムチエルフは、そんな光景を見ても、次々と父の宿敵を積み上げ、並べていく。



「ええ、ありがとう、スヒィア。引き続き、カイウス様の護衛をお願いします」


「ハッ! ……お館様……ご武運を」



 書類を並び終えたガチムチエルフは、現れた時と同様、忽然とその姿を消す。


 影に溶けるように、沈むように……彼はゆっくりと消えて行った。



 そして、後に残るは……もちろん、数多くの書類の山。



「……」



 積み上げられた宿敵に、父は一度目を瞑る。


 拒否反応を起こし、叫び散らす心を、父はあやすように落ち着け。


 敵と戦うための強靭な精神を作り上げていく。



「……」


「……」


「……ふぅ」



 少しして目を開いた父の姿は、それはもう穏やかで、慈愛に満ちた姿だった。



_トンッ


_トンッ


_トンッ




 父は、流れるように引き出しから印と筆を取り出すと、姿勢を整え一つ一つ丁寧に書類を処理して行く。


 父のその一連の動作は、一切の淀みがなく、小刻みの良い音が執務室の中に響き渡った。 



_トンッ


_トンッ


_トンッ




 カイウスの父……彼はチャレンジャーだ。挑む者なのだ。


 書類と言う、次々に積み上げられる山々を、次々と踏破し、次から次に諦めることなく登って行く。



 そう……たとえ、その登った山の先が、ただの頂ではなく、次の山へと繋がる道であったとしても。



 彼は、その山を諦めずに登って行く。



 果たして、そんな男を、チャレンジャーと言わずして、なんと言えばいいだろう。


 挑む者と言わずして、なんと言うのだろう。


 不死者あきらめないものと言わず、なんと言うのだ。



「さすがです、旦那様。 ……では、私は準備がありますので一度失礼いたします」



 そんな__挑む者__カイウスの父が、一定のリズムと、穏やかな表情で、書類と向き合う中。


 メイド長はそう言って、音を立てずに執務室から出て行った。


 ……。


 彼女には、彼女の仕事がある。だから、この行動は当然のことなのかもしれない。


 しかし、しかしだ……もう少し、頑張った父に安息の時を与えても良かったのではないだろうか?


 無慈悲に、書類の山へと叩き落とす必要などなかったのではないのだろうか?



「……」


 

 この問い掛けの答えは、きっと帰ってこない。帰ってこないが、この光景を見て、一つだけ言えることがある。


 それは、執務室にただ一人残された、挑む者。


 彼の今日は、今日も今日とて、宿敵しょるいとの激しい格闘戦であった、それだけだ。










 場所は変わって、ノムストル領内。


 その、日が傾き、太陽がオレンジ色に染まりつつある時間帯。


 そんな時間帯に、領内のとある広場の地下にて。六人の子供たちが、魔法の訓練をしていた。



「なぁなぁ、カイウス様。この丸くて、デカイのってなんなんだ? 俺、結構気になってたんだけどさ、こう、な。ちょッとでも触ろうとすると……」 


「ダメ。私が育成中……邪魔者は、燃やす」


「ほら、ナナが怖いんだよ。 ……待て待て、ナナ。触んないから、近づかないから。あれ、フリだから。フリだけだから。だからな? その浮かべてる火の玉を消せ。 ……こっちくんな!! 追いかけて、来んな!!」


「ん、ハイルはバカだから、何するかわからない。いつでも背後にスタンバイ。何かやったらデストロイ」


「プププッ、まぁ確かに。ハイルは何するかわかんない時があるからね。 ……ナナちゃん、やるときは僕も混ぜてね。どうせなら、僕の風でもっと派手にヤってしまおう」


「ん」



 カイウスのいる、大きな地下空間の中。


 そこでは、二名の少年少女が、楽しそうに、元気よく追い駆けっこをしていた。

 


 ……えっと、あら? あれ、楽しそうだろうか? 



「ん、キリ…何もしないうちに……今ヤってしまおう。すぐにヤってしまおう。早くヤッテしまおう」 


「バ、バッカッ。そんなの人に向けて撃ったらダメだろッ! ダメな奴だろ!」 

 

「私は、馬鹿じゃない」

 

「そう言う問題じゃあない!?」



 ……違った。あれ、全然楽しそうじゃない。


 なぜなら、今行われている追い駆けっこには、普通の追い駆けっこからは程遠い、死と隣り合わせのような臨場感がある。一発食らったら追いかけっこが終わるんじゃなくて、人生そのものが……多分終わる。

 

 そのくらい危険な追いかけっこが、この空間で行われていた。



「ん、追うの面倒。止まる」 


「おいぃぃぃ。バッカッ。今、真横通ったぞ!?」」


「ん、避けないで……」 



 追っている少女の周りには、直径一メートルほどの火の玉が、いつ行く? 今行く? すぐ行こう? と言わんばかりに、二、三個揺らめきながら浮いており、もし、そんなのが直撃したら一溜りもない。



 ……少年、逃げて。



「カイウス様、こんな感じでどうでしょうか? 光の魔力を剣に付与してみたんですけど」

 


 そんな、少し過激な鬼ごっこを繰り広げる少年少女はそっちのけで、カイウスの隣にいた少年が白く光る剣を差し出してくる。



「あ、はい。見て見ますね」



 カイウスは、その剣を丁寧に受け取り、渡してきた少年を見上げる。


 そこには、もう見慣れた、容姿の良い少年がいた。



「? なにか? ……それ、上げませんからね? その剣、絶対に上げませんからね?」


「……」



 カイウスが見つめる先にいたのは、いつの間にか近所で定着した微妙な仇名を持って生きる、農家の一人息子ライウス君こと、光の似非勇者様がだった。


 似非勇者様は、ジッと見つめてくるカイウスに、疑いの表情を向ける。



「うわっ、ライウス。やっぱ君って、まじめだよね~~。うぇ、なにこれ……。 こんなことするから、皆から似非勇者だの、真面目君だの呼ばれるんだよ~~。って言っても、その名前って、私が言いだしたことなんだけどね!! あはははははッ」



 そんな二人の間に割って入るように、一人の元気いっぱいな短髪の少女が顔を出す。 


 彼女は、肩口で切りそろえられた髪に、少し少年よりの中性的な見た目をしており、今はおかしそうにお腹を押さえている。

 


「は? …今、何だって? ……アーシス。ねぇ、もう一度言ってくれない? 君、今、誰に、何を、名付けたって?」


「だ・か・ら、似非勇者って、私が名付けたんだよ。 ……へ? その反応……。 あれ? 言ってなかったっけ? う~~~ん。ま、いいか。今、言ったしね!」


 快活に、元気よく、陽気に、アーシスと呼ばれた少女はライウス君に答える。


 その、似非勇者と呼ばれ続けて来た彼にとっては、衝撃の事実と共に。


「アーシス、そうか、君だったか、ハハハハハ……カイウス様、すいません。その剣ちょっと返してください……ええ、大丈夫です。ちょっと、この剣のキレ味、試して来るだけなので」


「あはははははッ、あ、怒った? 怒ったよね。 じゃあ、今日もに~げよっと。あはははははは」


「……」


 

 いつの間にか……過激な追いかけっこ、その二組目が完成した。


 高笑いを上げながら、楽しそうに逃げ回るアーシスに、剣を片手に無言でアーシスを追いかける、似非勇者様。


 ……ああ、きっと、彼には、『似非勇者』 と言うあだ名に、並々ならぬ恨みがあったのだろう。

 

 アーシスを追う彼の表情は、もはや般若の形相となっていた。 

  


「えっと、ライウス君、ほどほどにね?」


 

 さすがのカイウスにも、そんな雰囲気で、彼に対し似非勇者様と言う勇気はなく。


 カイウスは、鬼の顔したライウスに優しく語り掛ける。

 

 

 「……」



 勇者の闇は、予想以上に深かったようだ。 


 今のライウスに、そんな甘っちょろい言葉は届かない。きっと、どんな言葉も届かない。


 なぜなら彼は今、立派な一人の鬼となっていたのだ。



「はぁ、これは、どうしたものか……いつもの事ではあるんだけど……」


 

 いつもの事。



__大きな火の玉と、光る武器を片手に、過激な鬼ごっこをする子供たち。



 これがいつものことだ。


 ……さすがのカイウスでも、この光景が異常なことだと分かるし、彼ら、彼女らに魔法を教たカイウス自身には、きっとこれを止めるという責任があるのだと分かっている。


 例え、それが、いつもの日常だったとしてもだ。見慣れた光景であったとしてもだ。


 そういったことと、責任は、いつも嬉しくないセットで、しがみ着いて来るものだ。



「あ、ハイルが徹底抗戦に入った。……プププッ、あいつのッ、顔ッッッ、顔ッ必ッ死すぎ。くくく」


「……」


 

 隣にいる。先ほどキリと呼ばれていた長髪の少年が、ある光景を目にして、腹を抱えて笑っている。

 

 カイウスはそんな彼の様子を見て、般若の形相のライウス君から目を話し、無言で彼が見ている方向と同じ場所を見つめる。



 ……そこでは、土の壁を盾に、必死の形相で迫りくる火の玉たちを防ぐ、少年の姿があった。




「ウォォォォォ、なぁ! もう良いだろ! 十分だろ!! 満足したろ!? 終わりだろ!」 


「ん、私は満足……でも」


「でも?」


「この子たちが、まだまだだって」


「それッ、お前が、出してる奴な! ほぼ、お前の意思なッ! クッソッ!!」



 少年がそう言って叫んでいる間にも、次々に火の玉は撃ち込まれ、生成されていく。


 少年の目に映る火の玉は、その数をどんどん増やしていく。


 なんせ、火の玉を作る少女にそれらを止める気がないのだ。


 彼女は、ただ、可愛く首を傾げるのみだ……。



「あははははははッ、ほれッ、ほれッ、あ、そこ滑りやすくなってるよ? プククククク」


「……」


 

 一方、ライウス君の方はと言うと……現在、盛大におちょくられていた。 


 そのおちょくられている原因というのがとても不思議なことで、 



 まず、近づけない。


 次に、何もない所で、なぜか転ぶ。


 そして、目の前で滅茶苦茶笑われる。



 ライウス君は今、ハッピーな三セットも真っ青な、嫌味な三点セットを、食らっていた。



「……」



 しかしライウス君、そこで諦めないのが、似非とはいえ勇者と呼ばれている者。


 彼は何度も立ち上がり、埃をはたき、彼女を追い駆ける。



 なんと言うか、彼のその諦めない姿は、とても気高く、称賛に値するものだった。



 ……だから、見なかったことにしよう。

 

 ……何も、見なかったことにしてあげよう。


 

 ライウス君が、下唇を噛みしめてた姿は、誰も見ていない。


 そう、ただ一人を除いて。



「えーーー。泣いちゃう? もう泣いちゃう? ほらほら、涙こぼれ始めたよ~~~」


「……ブッ殺す!! ッッ!?」



_ドスッ



 ……悔しそうに、勢いよく駆けだしたライウスが、勢い余ってこけた音ではない。


 断じて、こけた音などではない。


 顔面から、スライディングした音でもない。


 ……絶対違う。


 たぶん違う。


 きっと違う。


 ……そうだ。彼は責めたんだ。いつまでたっても、目の前の少女を捕まえられない、不甲斐ない自分を。


 彼は責め、鍛え直したんだ。 

 

 思いっきり顔面から、地面に突っ込むことよって。

 


「……」


「えっと、大丈夫かい? さすがにそこまで盛大に転ぶとは思わなくて……ほんと、ごめんね?」


「……泣いてないから、これ、汗だから!! うっ、ぅッ……」

 


 ライウスは、倒れていた姿勢から、ゆっくりと無言で起立し、両目から大量の汗を流し始める。


 ああ、きっと、それは、強がりなのだろうという、震え切った手で構えた聖剣(仮)と共に。


 彼は立ち上がる。



「…えっと、ごめん」



 しかし、なかなか止まらない、止めってくれない、目から落ちてくる汗。



「うるさーい!! これ、汗だから!! 涙じゃないから!! 泣いて、ないから!!」


「ごめんね。ホント、やり過ぎた」



 そう言って、アーシスは、ライウスの下へと近づいて行く。



「ゴメン」


「……うん」



 アーシスが、渋柿のような表情でライウスに謝り、ライウスも流れ落ちる滴を拭いながらコクリと小さく頷く。 



 ……どうやら、こちらの追いかけっこは、なんとも言えない雰囲気の中、微妙な幕引きで終わりを告げるようだ。


 二人はゆっくりと、カイウスの下へと歩いて来る。


「あっちは、まぁ、終わりましたね……問題は……」


 カイウスはそんな、ライウスとアーシスの光景を見て、一安心……。


 すぐに自らの目線を、もう一つの、過激な追いかけっこの方に送る。



「……」


「……」


 ある時点から鳴りやんだ音、明るかったその方向。


 今は、真逆の静寂と地下ならではの薄暗さへと変わっていた。



「ああ、良かった。向こうも終わってくれたか……」



 またまた安心するようにつぶやくカイウス。


 その見つめる先には、ナナが一人、先ほどハイルと呼ばれていた少年の前に立っていた。


 さてさて、どう終わったと言うのか……もしかして、土に還ったと? そう言いたいのか?



「うん、無事ね。今回もハイルの逃げ勝ち」


「まぁ、いつも通りですね」


「そうだね~」


「ん、悔しい」


「おかえりなさい、ナナさん」


「ん、負けちゃった」



 どうやら違うらしい。


 いつの間にかこちらに帰って来ていたナナが、少し悔しそうに唇を尖らせている。



「こっちも終わったよ~。 ……ライウス、本当ごめんね、まさかあんなに怒るとは想像もしてなかった」


「……別に。泣いてないし、怒ってない」



 似非勇者様は、不貞腐れたように顔を背ける。 



「プククク…」


「ねぇ、君。全然反省してないでしょう? ねぇ?」


 

 アーシスは、何か思い出したように笑い。ライウスはそのことに対し、恨みの籠った視線を向ける。 



「違う。違うの、反省……してる。けど……」


「もう一回やるかい?」


「ははははは、いや、もうダメだよ。早く帰らないと、お母さんに怒られる」



 肩を抱えて笑いを堪えていたアーシスだったが、ライウスの顔が視界に入ると、溜まらず笑ってしまう。


 アーシスは、何がおかしいのか、ライウスの肩をポンポンと叩きながら、片手で腹を抱えている。


 

「……ギリッ」  


 

 そんな笑いながら、肩を叩いて来るアーシスに、似非勇者は実に良い表情を浮かべた。 


 厳密には、怒りの籠った表情を全力で向けていた。


 まさに、一触即発の空気の中。


 

「そうですね。今日はここまでにして、皆さん、帰りましょうか?」



 二人の、危険な雰囲気を察知したのだろう。


 第二次追いかけっこ戦争が起こる前に、カイウスが、場の雰囲気の制圧を図りに行った。



「ん、カイウス様がそう言うなら、そうする」


「うん、うちの母ちゃんもうるさいからなぁ~~。でも、今日も楽しかったよ」


「……僕は、散々だったけどね」


「あはははは」



 カイウスの言葉に、四人はそれぞれの言葉を言い、ほとんどが賛同の言葉であった。


 危険な空気は、まだ若干ながら残ってはいるが、場の雰囲気の制圧には、成功したと見て言いだろう。


 その後、ライウスの怒りは、何とか爆発することなく、五人は共に、この地下空間の出口へとたどり着いていた。

 


「じゃあ、また明日」


「ん、また」


「うん、またね」


「明日は、絶対来ない」


 

 地下の出口から出て、地上の広場に出た四人は、各それぞれの帰るべき家へと歩いて行く。



「はい。また、明日」 



 カイウスは、そんな四人の背中が見えなくなるまでその場に留まり、手を振り続けた。


 

「……帰るか__転移」 



 そうして、彼らの背中が見えなくなると、自分も帰るべき場所へと帰って行ったのだった。

  

 





  

 



 ここは、広場の地下。


 その、先ほど、過激な魔法戦が行われ、黒く焦げている地面の上に、一人の少年が横たわっていた。



「みんな、俺の事、わすれてねぇ?」



 黒ずんだ服を着た少年の呟きは、空しくも、誰の耳にも届くことはなかったという。






『子供たちは、どこまで成長するんだ……』

       BY 覗きが得意な街のオジ様


 感想、返します。少しずつですが、返していこうと思います。是非書いて行ってください!!


 ははは、それと、最後の方、体力が持たなかったよぅ……。


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