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~カーランバ獣王国~



 カイウスが麦を刈り、心地の良い労働に汗水流している頃。


 帝国同様、南に位置するある国でも今回の件に関する話し合いの場が設けられていた。








 ここは、南の大地。


 燦々と照り付ける太陽に、どこまでも果ての見えぬ砂漠に支配された地。


 この地は、常に熱という熱に晒され、乾いた空気が肌を撫で、ほんの少し先を見れば、ゆらゆらと揺れる蜃気楼が訪れた者達の視界を惑わす。


 そんな生き物にとってはあまりに過酷で危険な大地の中心に、その国は存在していた。


 そこは多くの獣人と呼ばれる者達が集まり、生活している国。


 獣人たちのために作られ、いつか豊かな生活を手に入れたいと、万感の願いの元作られた、彼らの希望の国。


 その国の名を、カーランバ獣王国と言う。


 この国は過去の偉大な獣人たちによって作られた、彼らの居場所だ。


 昔……獣人たちはその人とは若干異なる姿、かたちから、各地で多くの人間達から差別を受け、迫害されていた。


 彼らは当然、その差別から逃げ、時に戦った。


 けれど、人間種と言うこの大陸でもっとも多く、傲慢な人種に、次々と同胞は捕らえられ、殺されていった。


 その中の数人。


 何とか生き残り、人間達から逃げ延びた彼らは、願った。




 _ただ、自分たちが人と言う脅威に怯えず、平和に、豊かに過ごせる国を。




 願い、必死に歩いた。


 一歩一歩、確かに歩き続けた。


 しかし、その先にあったのは……。


 この、生物の墓場のような過酷な地だ。


 人間に追いやられ、ボロボロの彼らを救ってくれる者などいなかった。


 世界すら、神すら…彼らを見捨てたのだ。


 そう、彼らは思った。


 思わずにはいられなかった。


 疲れ果て、一筋の希望を胸にたどり着いたこの地に、彼らは幾人も倒れ、死んでいくことになる。


 _ ある者は、急激な環境の変化について行けず。


 _ ある者は、砂漠に潜む独特の魔物にやられ。


 _ ある者は、自らその生に終わりを告げた。



 それでも、残った者は何とか生き残ろうと、足掻き、苦しみながらも、必死に生活した。


 獣人たちの偉大な先祖は、コツコツと、決して諦めることなく、”国” を作り上げていったのだ。


 彼らの、確かな居場所を作り上げるために。


 そして、その国は今、大陸有数の国にまで上り詰めている。






 この世界の獣人とは、人とあまり変わらぬ姿をし、人と同じように日々の生活を営む者達。


 そして、どんなに苦しく、劣悪な環境であっても、最後まで決して諦めない根性と砂漠にも負けない熱い情熱を持って生きる。


 誇り高き人種なのだ。 








「……通常報告は以上でございます。では、次の議題に移らせていただきます」 


 カーランバ獣王国。


 現在のこの国の建物は、そのほぼ全てが白く、頑丈そうな石材でできており、砂漠ならではの照り付ける太陽に合わせ、なんとも美しい輝きを放っていた。


 砂漠や、王国の外側から見るその建物群の輝きは、もはや、絶景の一言で、まるで一つの神秘を目にしているかのよう。


 それに、なんと言ってもその光景の主役。


 王国中心部に聳え立つ巨大な白亜の城は、訪れた者達の心をたちまちにの内に奪ってしまうほど、美しい。


 何もなかった砂漠に、一つの文明がしっかりと根付いていた。


「こちら、本日の議題になります。 ……モーリタニア王国で開発され、現在、急速に普及しているあの技術についての対応・報告でございます」


 そんな、この国の絶景の主役であり、国の政治の中心部である、白亜の城内部。


 そこの大広間と呼ばれる場所で、今回の話し合いは行われていた。


「今回の議題は、我々カーランバ獣王国にとって、避けて通れない、重要な議題になると国王様は仰せでした」


 大広間には一つの巨大な円卓が置かれ、卓の周りには十二の座席が用意されている。


 そしてその十二の席には、この国を動かす重臣たちが一堂に会していた。


「では、私はここで退席とさせていただきますので、あとは各大臣の方々で御存分に……」


 そう発言し、全身白く柔らかそうな毛に覆われている、執事服の良く似合った男性は大広間から退室する。


 残ったのは十二の席に座る各部門の重臣とその傍で立っている側近達のみ。


 そして大広間は、少しの間、沈黙に包まれる。



「……では、私から」



 そんな沈黙を破ったのは、この場では比較的若い部類に入る男性。


 彼は、猫型の獣人なのか、ピョコッとした可愛らしい耳がその頭部から生えており、腰の部分からはピンッと立った尻尾も生えていた。


「クスクス。リンガード緊張してる」


「クスクス。ホントだ、スッゴイ緊張してるね」


「「クスクスクス」」


 確かに、猫型の彼は緊張しているのだろう、ピンット立った尻尾に震える右手、そして足がガクガクしている。


 そんな緊張を前面に押し出している彼を笑うのは、二人で一つの席に座る、容姿がとてもよく似た鳥型獣人の少女達。 


 彼女達は、その肩甲骨付近から生える茶色の羽を口元に持って行き、楽しそうに笑う。 


「クックックッ、嬢ちゃん達、勘弁してやれ。あいつはあれがデフォルトなんだ。あんま笑ってやるな、クックックッ……」


 その少女たちを窘めるように、それでいて自らも笑ってしまっているのは、猫型の彼と同様の耳に尻尾が生え、口から鋭く大きな牙が生えているどこかのおっさんのような男性。


 なぜか、彼の席には唯一、一升瓶が用意されていた。


「馬鹿糞ガイドが。テメェ、また酒持って来てやがるな、糞が」


「おう、ローザ。良いじゃあねぇか、俺にとっちゃ命の源ってね」


 そんな彼に苦々しい表情を向けるのは、ウサギ型獣人の女性。


 真っ白な髪に、片耳がヘナッと折れ曲がっている彼女は、鋭い瞳と少しめんどくさそうな態度で椅子に座っており、彼に鋭い舌打ちを打ち付ける。


「チッ、水だってうちの国じゃ貴重だってのに……てめぇはそれ以上のものをバカスカ飲みやがる」


「へっへっへっ、気にすんな。伝手と金は使ってなんぼってね。全財産これにつぎ込んでるぜ。……かぁーーーうめぇ」


 ゴクゴクと一升瓶に入った液体を飲んでいく彼、ガイドと呼ばれた男性は、イラついた様相を見せるウサギ獣人の女性、ローザにプラプラとめんどくさそうに手を振った。  


 すると、また別の場所から声が上がる。


 「あはははは、ローザちゃん。ガイドに何言っても無駄だよ~、そいつ、戦闘力以外はからっきしのダメダメオヤジだからさ~」


 「クックックックッ、全く、ちげぇねぇな」


 発言したのは、狸型獣人の女性。


 その丸っこい耳とふわふわな太い尻尾が印象的な可愛らしい女性だ。  


 彼女は隣に座るローザに楽し気に笑いかけながら、未だ一升瓶を煽るダメオヤジをディスる。 


「……ぅ」


 あと、そろそろ気づいてあげて欲しい。


 猫型の彼、リンガード君が限界を迎えつつある。 


 ピンッと立った尻尾はそのままに、震えが右腕から全身に、足のガクガクがもう無視できないほどのガクガクに変わりつつある。


 お願い、話しを、聞いてあげて。


 もう、限界なの。


「皆さん、久々の十二星会議だというのに……全く、品性というものが足りないですね……それに、空席も目立ちます……」


 無情にも、この願いが聞き届けられることはなかった。 


 リンガード君のちょうど正面。そこからまた、新たな人物が発言したのだ。


「我々は、遊びに集まったのではないのです。 もっと清く、礼儀正しく、迅速に進めましょう。時間の無駄は国益に関わります」


 その人物は、立派な角とピョンと飛び出した可愛らしい尻尾を持っている男性。 


 彼は、鹿型の獣人だ。


 鹿型の獣人の彼は、掛けている眼鏡を押し上げながら、冷たく全員に言い放った。


「まぁ、しょうがねぇだろ? 最近は働きっぱなしで、ろくに酒も飲めやしねぇ。こういう時くらいしか羽目なんて外せねぇっての、なぁ、ローザ」 


「チッ、私に聞くな。 ……それに、お前は戦闘中も後生大事にその瓶を持ち歩いているだろうが、クズがッ」


「……ぁ、ぇ……」


 眼鏡の彼が言うように、十二の席はその半分しか埋まっていない。


 重臣、約六人がこの場にいるわけだが。


 約六人が欠席と言うことでもある。


 ダメオヤジは机の下から新しく一升瓶を取り出し、思いっきりその液体を喉へと流し込み。


 殺伐とした雰囲気のうさ耳は機嫌悪そうに舌打ちをする。


 ……か細い声は、聞こえなかった。そう言うことにしよう。


 猫耳の彼は、なにも所在なさげに何てしてない。


 堂々と足を震わせながら、二本の脚で立っている。


 もちろん、この震えは武者震いのほうだ、と思う。


「カナちゃん、ねぇカナちゃん。今日はいつにもましてお話してくれないね。何かあったの?」


 この場にいる重臣、その最後の一人に狸型獣人の女性がにじり寄る。


 彼女は首を傾げつつ、隣の席に座る者に話しかけた。


「……」


 帰って来たのは、無言の頷き。 


 ヘナッと折れた二つの耳に、茶色の髪の毛、そして無言の返事とは裏腹のブンブン左右に振られる尻尾。


 最後の重臣は犬型の獣人女性。


「で? リンガード、何をお前から始めるって?」


 二本目の一升瓶を飲み干したのか、ダメオヤジは近くにいる側近にその瓶を渡し、勇気ある猫型獣人の彼に話しかける。



「クスクス、今更ね」


「そうね、今更よ」


 そのオヤジの発言に、鳥型獣人の二人が声を上げるが、ここは無視でいいだろう。


「あ、はい。……そのですね、なんというか、……やっぱりなしでお願いします。すいません」


 猫型の彼は、もう限界だったのだろう。


 彼は瞳を一通り左右に動かすと、ゆっくり着席した。


 がんばれよ! せっかく待ったんだから、もっと頑張れよ!!

 

 と、ここから声援を送ってあげたいが、届かないことは分かっている。


 彼のピンッと立った尻尾は、すでにふにゃふにゃに萎れていた。


「……うッシ。そんじゃま、リンガードも何もないみてぇだし……話し合い、始めようじゃあねぇか」


 そんな猫型の彼が座ったのを確認すると、ダメオヤジは三本目の一升瓶を開けず、ニヤッと笑って円卓に座る者達に語り掛けた。



 その一言、仕草から、大広間の雰囲気は、まるで何かのスイッチが切り替わったかのように重さを増し、真剣な意見が飛び交うことになるのだった。








 同時刻。


 同じ城の中で、事件は起きていた。


「……通せ」


 白亜の城の内部。


 先程の大広間とは違う場所。


 もっと高く、上の方に位置する部屋の扉の前に、一人の青年が訪れていた。


「できません。勇者様……十二星の方々は大広間にお通ししろとの王命を受けておりますゆえ」


「……どうか、大広間に」


 赤く、大きな扉の前には二人の門兵がおり、勇者と呼ばれた青年の行く手を遮っていた。


「そうか、王命か……それは仕方がないな。……しかしすまん、私はこの国のために王に直談判に来たのだ。私もここで引くわけにはいかん……獣人国勇者、十二星が一席、ユウリ……押し通らせてもらうッ」


「ッッッ、勇者様ッッッ!!!」


 勇者、ユウリは、一歩、二歩と門兵から離れると、背中に携えたロングソード引き抜く。


「この国のため、私は行く」


 ユウリは剣を腰に引き、ゆっくり片手を添える。


「マ、マズイ。あの技を打たせてはッ……」


「スキル・振動……発動」


 門兵が手に持つ槍を勇者に突き出そうとした時、その勇者を中心に耐えがたい空気の振動が襲ってきた。


 それでも、門兵は耐え、突き出しかけていた槍を勇者へと改めて突き出そうとする。

 


「一の剣」


 

 勇者から発していた振動が、彼の剣へと収縮するように止まり、彼の元から空気が揺れる大きな音が聞こえてくる。


「勇者様、どうかおやめください……」


「……波剣」


 突き出された槍が到達する前に、勇者は構えていた剣を下段から上段に振り抜く。


 固まった振動が斬撃となり、槍は逸れ、斬撃が二人の門兵の間を通り過ぎて行く。 



_ドゴォォォォォ



「勇者様、あなたは、また……」


 その大きな音を聞いた門兵は、ガックリと肩を落とし後ろを振り返る。 


 その門兵が見つめる先、先程の赤く立派な扉があった場所は……すでになく。


 あるのは粉々に崩れ去った、赤い石材とふわふわと舞うその成れの果て。


 勇者は門兵を狙うのではなく、王へと続く扉、その物を破壊した。



「……馬鹿勇者が。お前はまたやってくれたようだな」



 そんな扉の先から現れるのは、二本の太い巻き角を生やし、全身白い毛に覆われている山羊獣人の男性。 

 勇者はその姿を確認すると、すぐさま跪き、頭を垂れる。


「……十二星が一席。勇者が、王にお目通り願いたい」


「黙れ、この脳筋、正義大好き男がッ。お前には順序というものが分からんのか? 常識というものが理解できないのか? アホ! 糞野郎がッ」


 山羊型の男性は素早く、それでいて姿勢正しく勇者に近づくと、おもいっきりその拳を振り下ろした。


「お目通りをお願いします、ノイドさん」


 勇者はビクともしない。


 その渾身の拳を受けても勇者は頭を垂れたまま動かなかった。


 ……その後も、ノイドと言われた山羊型獣人の彼は、必死で勇者に拳骨を与え続けたが、勇者には全く効いた様子がなかった



「よい、そこまでで許してやれ、ノイド」 


「……陛下」

 


 そんな彼らの様子を、一段高い所から見下ろす存在がいた。


 その存在は、全身白色の毛に覆われ、立派な鬣が生え、鋭い牙に同じく鋭い爪を持っている獣人。


 ライガー型の獣人だ。


 それが、この国の王にして、先程、声を掛けた存在。


「それで? ワシに用があるみたいに言っておったが……なんの用だ、勇者」


 国王は、頭を垂れ続ける勇者に厳かに告げる。


 まるで、その”用”が取るに足ることのないものだったら許さない、そういう副音声が込められたかのような厳しい声音だった。


 勇者は、そんな国王の言葉を聞くと、ゆっくり顔を上げて行く。




「どうか私を……モーリタニア王国への使者として赴かせていただきたい」




 顔を上げた勇者の言葉は、不思議と王宮内に響き、浸透して行った。


 あまりにも唐突な訪問に、あまりに唐突な勇者の言葉に、この国の王と山羊型獣人のノイドは……。




 天を仰ぐように、頭を抱えるのだった。


 


『……ワン?』

  BY  無口系犬獣人 


 ブックマーク・感想・評価、ありがとうございます。


 少し別の国のお話を書かせていただきましたが、次回からは主人公のお話に戻ろうかと思ってみます。


 引き続き獣王国や帝国もちょいちょい出して、この小説の世界観を広げられたらと思っているので、拙い文章ですが、今後ともよろしくお願いします。


 更新、頑張ります。


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