兄の帰還と恩返しの始まり
急いで書いたので誤字が多いかもしれません。申し訳ないです
本編をどうぞ
翌日。
カイウスはいつも通り、座禅から始める。
「ふぅー、最近は少し寒くなって来たな。そろそろ秋になったかな?」
少し肌寒くなってきた空気を感じながら、カイウスは瞑想を続ける。
この世界には、一応四季と呼ばれるものがある。
春は、空気が温かくなり、雪が解け、花が咲き始めた頃。
_新月、光月、乱月。
夏は、長い雨が止み、むしむしとした暑さが襲ってくる頃。
_陽光月、凜月、緋月
秋は、夜風が心地よく感じ、畑一面に黄金色の麦ができた頃。
_香月、豊月、夢月
冬は、一段と寒くなり、白い粉が空から降り始めた頃。
_寒月、白月、終月
全てが大体で決まっており、誰とも知れず、『春が来た』『夏が来ただぁ』『秋ね』『家から出れねぇ、こりゃ冬だな』など、不思議と浸透されていく。
一応正式には、何なんの月と決まった呼び方があるので、その紹介もしておく。
「そりゃ、お前な。俺が家に帰って来てるんだ、寒くもなるだろ」
「ん? レイ兄様?」
「おう、やっと帰ってこれたぜ。たっく、香月くらいに出たってのに、帰って来たのは豊月だぜ? ほんとはもっと早く帰ってくるはずだったんだがなぁ‥‥‥」
ドカッと、カイウスの横に座り込む彼の兄。
短髪の髪に、引き締まった体の部位、ワイルドに整ったその顔面。
暴風の方の兄がやっと帰ってきたようだ。
「邪龍討伐、お疲れ様です兄様。弟としてとても誇らしい限りです!」
「うわッ、やめろ。なんか今、とてつもない寒気が襲って来たぞッ」
カイウスは、長い旅から帰って来た兄を満面の笑みで迎えた。
それはもう、『私、あなたの事、尊敬してますッ』といった雰囲気を、これでもかというほどに出してだ。
しかし、兄にとってそれは、寒気の感じる何かであったらしい。
「本心ですよ? 何て言ったって、兄様には感謝していますからね。毎朝の鍛錬、本当にありがとうございます」
「どうした? どっか頭でも打ったか? まさか、メイド長直伝の技でも教わったか? …俺、まだ死にたくないんだけど?」
「‥‥‥」
さすがの満面の笑みも、若干引き攣る。
頭は打っていないし、メイド長直伝の何かも教わった覚えはない。
改心したカイウスは、素直に兄を讃えたのだ。それだけだ。
今の彼ではできないであろう冒険をし、様々な街を回り、英雄の様な活躍をする。
普通の弟なら憧れて当然、もはや必然だ。
そんな思いを、気持ち悪いと、半ば本気で言われた。
さすがのカイウスでも動揺する。
「兄様、今まで大変迷惑をお掛け……」
__しました。
とカイウスが口にする前に、カイウスの兄は雑に彼の頭を撫でまわした。
「テメェはよ、どっか大人っぽいとこがあると思ってたが‥‥‥そりゃぁ、今ので取り消しだな」
「に、兄様ッ!?」
「ノムストルの子供が、それも俺たちの弟が、うじうじ悩んでんじゃァねぇよ」
カイウスがその撫でから何とか逃れ、兄の顔を見ると、兄は心底呆れたかのような表情をしていた。
「で、ですが、私が兄様に迷惑を掛けてきたのは事実ですし‥‥‥」
カイウスは一旦そこで言葉を切り、もう一度兄の表情を覗う。
そこにはまだ、呆れた表情で見つめる兄の顔があった。
「バカだな。お前はバカだ。冒険者として、何より家族として、俺はお前にバカだと言ってやる」
もう一度、ワシャワシャと乱雑に頭を撫で、カイウスの兄は豪快な笑みを浮かべる。
「迷惑だ、なんだ言って謝ってもよ、そりゃ違うと思うぜ? なんか上手く言えねぇけどよ、お前が俺たちを頼って、甘えて、迷惑かけて、それの何が悪いんだ? テメェの家族はそんな迷惑も許さねぇほど、器のちっせェ存在か?」
「……違います、ね」
「じゃあ、謝ることはないぜ? お前はまだまだ子供なんだからよ、大人になった時にでも返してくれ」
兄はそう言うと、ゆっくりと立ち上がる。
「ま、なんだ。あんま俺は頭良くないからよ、うまく言えなかったけど、取り敢えずその謝罪は取っとけ、そんで将来返してくれればいいからよ。…俺はちょっと報告と、長旅の疲れを癒してくるから、明後日まで、朝鍛錬休みな」
「はい、兄様。ご指導、ありがとうございました」
「おう、じゃあな」
カイウスの兄は少し照れながら屋敷の中へと入っていく。
その光景を、言葉を、カイウスはしっかりと胸に刻むのだった。
カイウスと別れた兄が向かった先は、あるドアの前。
「ん? 入っていいよ」
「失礼します」
そこは、屋敷の執務室。カイウスの兄は静かに入っていく。
中にいるのはもちろん、カイウスの父であり、兄の父である、ルヒテル=ノムストル。
兄は、書類の束と格闘している父に、ゆっくりと近づいて行った。
「ただいま戻りました、父上」
「うん、大事なくてよかった。途中想定外の事があったらしいけど、無事でよかったよ」
「ま、Aランク邪龍にやられるほど、軟に鍛えてませんから。それに、いろんなサポートもありましたからね」
「う~ん、麻痺してるね。主に感覚が‥‥‥普通は国に報告するレベルなんだけどね」
心配と安堵が混じった父の表情に、少し恥ずかしい思いを感じる兄。
凄く親子をしているはずなのに、会話の内容が普通の親子ができる話じゃあない。
ついでに、一般の親子はこういう会話をする。
__お父さん、今日も天気がいいね。
__そうだな。きっと私たちの日頃の行いが良いからさ。
__じゃあ、もっと良くして、お母さんを元気にしなくちゃね。
__‥‥‥ああ、お前の言う通りだ。息子よ。
と言う会話が一般的な会話です。
少し感動要素が入ったが、天気の話や、明日どうするかなど、もっと平和的な話をするものだ。
決して、一国が滅ぼされるような邪龍が、話題に上がるなんてことはない。
断じてない。
「今更ですよ、父上。‥‥‥それで、個人的に調べたことなんですけど、公国に不自然な動きはありませんでした。出来るだけ多く街を回って集めて来た情報なんで、間違いないかと」
「そうか、公国に動きなし、か。じゃあまた、帝国のスキル至上主義者たちが動いた結果かな? 他の国もまだ調べてる途中だし、本命の帝国は慎重に行かないといけないから、動けるのは来年になりそうだね」
物騒な話から、また物騒な話へ、初めて聞くような単語などがあったが、気にしない、絶対に気にしない。
”帝国” ”スキル至上主義” ”本命” とか、聞いてない。耳に入ってこなかった。
そう思うようにしよう。
「嵐の前の静けさ、と言えばいいのか。最近姉さん達、静かすぎませんか?」
「当り前だよ。私たちはノムストル家だ。相手が誰であろうと、私たちの家族に手を出したのは事実だからね。徹底的にやり返すよ」
「あ~、おっかねぇ。家って、こういう時が一番怖いんだよね。なんせ、普段は温厚な父上からも、怒気が伝わってきますからね」
「そうだね、僕がこの家に来て学んだことは多いよ。特に根元から消滅させていく手段は、とても素晴らしいと思えているからね」
父は、普段見せないであろう黒い笑みを浮かべ、すぐに書類の束へと目を戻す。
「頼まれていた報告は、以上ですかね。少し疲れたんで、邪龍の報告はまたゆっくり話します」
「うん。ゆっくり休んでおいで。僕も、まだまだ今日の分の終わりが見えそうにないんだ」
物騒な話はここまで。
最後は何とか、貴族の親子の会話に戻れたような気がする。
邪龍の報告は無視の方向で行こう。
「では失礼しました‥‥‥あ、最後に父上」
「ん? 何かな?」
扉の向こうに消えようとしていた兄が、不意に、何か思い出したかのように立ち止まる。
「今日、カイウスにガツンと一発言っておいたんですけど、たぶん何かやらかすんで、その準備のための警告ですね。では、失礼します」
「‥‥‥一言多いんだよね、あの子は。まぁ、アリーからもいろいろ聞いてるし、息子の行動が良い方向に出るのを見守るしかないかな‥‥‥さて、仕事しますか」
兄が出て行った執務室で、一人書類と格闘する父の姿。
そんな父は、将来くるであろう荒波を予測し、それに向けて備えているのだった。
朝の一幕が終わり、朝食も済んだ頃。
カイウスは今、黄金色に輝く大地に立っていた。
「なんだぁ、カイウス様じゃねぇか。なんかあっただか?」
「いえ、とても綺麗な光景だと思いまして。少し眺めてました」
「んだ。オラたちが丹精込めて作った麦たちだかんなぁ、そう言ってもらえると嬉しいだよ」
都市フラムから少し離れた、ノムストル領の穀倉地帯。
カイウスはそこに立っていた。
そこで、一人の農夫に話しかけられる。
「でも、今日から収穫すっから、今年はこれが最後になるんだ。しっかり目に焼き付けて置くべ」
「はい、良く見させていただきます」
「なんだ、なんだ。おめぇさ、坊ちゃんと話してるべか」
一人の農夫と軽い挨拶をしていたら、近くで作業をしていた、二人の農夫がやって来る。
「おう、隣の。カイウスの坊ちゃんがオラたちの畑が綺麗さ言ってくれたからの。少し話しただけさぁ」
カイウスが行った時には、すでに農夫の人たちは作業に入っており、何人もの人たちが収穫の作業をしていた。
一つ一つ手作業で刈り取り、まとめ、運んでいく。
素早く、丁寧に行われるその作業と、まだまだたくさんの黄金色の大地。
それらはとても美しく、カイウスに少なくない感動を与えた。
「皆さん、今日は皆さんのお手伝いに来たんです」
笑顔で、優しく、決して無理のないように。
カイウスは少し集まって来た農夫たちに、そう告げる。
聞いていた農夫たちは、一瞬きょとんとなり、次の瞬間には笑い出す。
「わはっはっはっは、それは良いな。坊ちゃん自ら泥仕事をやりたいなんてな」
「んだんだ、一番下の坊ちゃんはヤンチャだなんだと聞いてたが、ここまでとは思ってもなかっただ」
「ま、手伝いたいっていてんだぁ、しっかりやってもらおうじゃねぇか」
農夫たちは陽気に、それでいて心底面白そうに笑うと、お互い顔を見合わせる。
「そうだなぁ、坊ちゃんにはオラんとこさ来てもらうで、いいか?」
「そうだなぁ、おめぇさんとこはひれぇからな。んだ。それがいい」
「俺んとこも後できてもらう、それならいいぞ」
農夫たちは少しの会話が終わると、カイウスの方に向き直る。
「オラんとこさ来てもらうべ、何、心配しなくて良いだ。家ん息子に手取足取り教えさせるで、それ見てやってくれればいいだ」
「はい、よろしくお願いします!!」
「じゃ、付いてきてくださいだ」
そう言うと、農夫は黄金の大地を進んでいく。
カイウスも慌てず、その農夫の後に続いた。
そして、着いた場所にいたのは……。
「あ、似非勇者さん。こんにちは」
「え、あの、カイウス、様? え? なんで? あ、イタッ」
「コラッ、挨拶が先だろう。坊ちゃんはしっかり挨拶してるってのに!!」
作業着を着て、農作業する、長髪で将来イケメンになりそうな男の子。
近所でおなじみ、似非勇者様だった。
『ああ、やっべぇな。今頃になって恥ずかしくなってきたぜ』
BY 抽象的な家族愛を語ってくれた兄
今回は迷ったのですが、こういった形にしました。
最初書いてた時は、主人公が兄に反論と言うか、いろいろ溜まっていた前世からの物を吐き出すというシーンが合ったりしました。
でも、ちょっとそれだと展開が早すぎになりそうだったので、こういった形に落ち着きました。
いつか書いてみたいです。
たくさん方から読んでもらえてうれしい限りです。今後ともよろしくお願いします。
長文失礼しました。