五歳の恩返し計画
一万ブックマーク、ありがとうございます。
まさか一週間近くも更新が開いてしまうとは、大変申し訳ありませんでした。
少し少ないですが、本編をどうぞ。
「‥‥‥んぁ、ありがとうございます。ナナさん」
「ん、気にしなくて良い。これくらいの事ならいつでも募集してる」
ナナに膝枕をしてもらって数時間。カイウスはだいぶ長い時間をナナの膝の上で過ごしたようだ。
すでに時刻は、太陽が一番高い所まで昇った頃になっていた。
「さぁ、行って。私はまだここでやることがある」
カイウスは気持ちよさそうに伸びをしていたが、ナナは座った姿勢のまま動かない。
いや、動けない。
「えっと、もしかして、足。痺れちゃいましたか?」
「そんなことはない。私の足が痺れるなんて、あり得ない」
「あははは‥‥‥大丈夫ですか?」
ナナは変化の少ない表情はそのままに、先程までカイウスを乗せていた下半身がプルプルと小刻みに震えていたのだ。
「問題ない」
問題しかない。
ナナはカイウスの心配に即答し、ジッと少し威圧の籠った瞳で見つめた。
それは強い意思か、それとも年上としてのプライドか。
子供ならではのその瞳に、カイウスは優しい微笑みを浮かべた。
「お礼もしたいので、よければ足を揉ませていただきたいのですが。どうします?」
「ん、早くする」
ナナは正直な女の子だ。
欲しいものはしっかり要求し、いらないものはいらないと明確に伝えることができる女の子。
決して、自然と口角が上がったりはしていない。
欲望とは誰の心の中にもあるもの。
ナナが ”チャンス” だなんて思っていても、問題はないはずだ。
「‥‥‥ん、私の魅力に溺れるがいい(ボソッ)」
「ここはどうですか? 軽く揉むだけにしますか?」
「任せる」
うつ伏せになり呟いた言葉は、何とかカイウスには聞こえなかったようだ。
カイウスの程よい揉み心地に晒され、次第に穢れた‥‥‥ナナの素直な心も綺麗に浄化されていく。
「ん、ありがとう。もう十分」
「そうですか。では、私は屋敷に戻りますね」
「ん」
ナナは数分ほど揉んでもらって満足したのか、ゆっくりと立ち上がる。
その後、すぐに転移魔法で帰って行ったカイウスを確認する。
確認し終わると、ニヤッと普段はあまりにも乏しい表情が変化した。
「‥‥‥ん、計画通り」
どうやらこれまでの一連の流れは、全てナナの手の平の上だったらしい。
ナナは少し黒い笑みを浮かべながら、先程までカイウスがいた場所を見つめるのだった。
カイウスが転移したのは屋敷の前。
門番兼護衛にしっかり挨拶をし、中へと入っていく。
「おかえりなさい、カイ」
「はい。ただいま帰りましたお母様」
「用事はもう済んだの?」
「ええ、きちんと終わらせてきました」
「そう、ならいいの」
場所は屋敷のリビング。
家族全員が座って食事ができる、長いテーブルが置かれている場所だ。
カイウスはそこで紅茶を片手に優雅にティータイムを楽しむ、カイウスの母に会っていた。
”アリー=ノムストル”
炎獄の魔女と呼ばれ、他国、自国から恐れられる、アリー=ノムストル。
カイウスの母とはそういう存在だ。
__魔物退治のために、山ごと消し炭に変え。
__敵軍が多いから、取り敢えず炎の壁で相手の進軍を遅らせ。
__巨大な炎の渦で、有名な龍まで焼き殺した。
などなど。
カイウスの母の逸話は数多くある。
”取り敢えず炎、次に炎、最後に炎”
それがカイウスの母、炎獄の魔女の座右の銘。
「最近。カイが一緒にお昼を食べていないから、お母さんとっても悲しいの」
「すいません。これからは家族と一緒に食べるように気をつけます」
「ふふふ、カイはしっかりした子に育ちそうで、親としてとても安心できるわね」
「ありがとうございます」
屋敷のリビングで交わされる、そんな母との会話。
炎獄の魔女と恐れられるアリーの姿は、そこにはなかった。
この場にいるのは、母としてのアリーだった。
「母様」
カイウスは自らの席で姿勢を正すと、紅茶を楽しむ母に真剣な眼差しを向ける。
「どうしたの?」
真剣な眼差しを向けるカイウスに、母は持っていたカップをそっと置き、小首を傾げる。
「母様に相談したいことがあります。とても、とても重要なことです」
「…‥そう。やっと、お母さんを頼ってくれるのね、カイ」
母は嬉しそうに微笑み、カイウスの ”相談” というものに耳を傾けるのだった。
自らの生まれた環境に甘え、傍若無人に振る舞ってきたカイウス。
普通の家庭なら到底許されない、規格外なこともしていたはず。
しかし、その全てを一身に受け止め、包み込んでくれた存在がいる。
何をしても、何を言っても、笑顔を向けてくれた存在だ。
魔王によって気づかされたその存在に、カイウスとして、何より木村竜太として恩返しせねばなるまい。
カイウスであり、木村竜太による、その存在への恩返し計画が今、始動した。
_パキッ
「ああ、お気に入りのカップに罅が」
_パサパサ
「ああ、書類の山が突然‥‥‥」
「‥‥‥あれ? 僕、印どこにやったっけ?」
執務室で常に頭を抱えるその存在に、恩返しが仇とならないことを切に祈るばかりだ。
「追加の書類をお持ちいたしました、ルヒテル様」
「ああ、うん。ソコニオイトイテ」
「畏まりました」
本当に、お祈り申し上げます。
『私の宿命にまた一歩、近づいた』
BY 連続登場の少し腹黒い女の子