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後始末と三度目

日刊ランキング最高一位ありがとうございました。


大変いい夢見させていただいたこと、感謝いたします。


では、本編をどうぞ




翌日。


カイウスはいつも通り、日課である瞑想から始める。


朝日が昇り、少し肌寒いこの時間帯に何か憑き物が落ちたかのように清々しく、穏やかに行う。


いつもならその後は、一つ上の兄であるレイとの戦闘訓練なのだが…‥。


「え? 兄様がまだ戻らない?」


「はい、東のロサーム公国に依頼で赴いたところ、帰宅の道中で邪龍が確認されたためその討伐に是非暴風をというギルドからの指名依頼があったらしく。現在は無事討伐も済み、帰宅途中とのことを仰せつかっております」


何があったら帰りの道中で邪龍となんか遭遇するのだろうか。


この世界では龍と呼ばれるものは少ないながら存在すれども、邪が付く個体はとても珍しい。


なんせ龍と呼ばれる彼らの多くが人より賢く、穏やかで、何より争いを好まない。


そんな彼らの中にあって、異質なのが邪龍。


人に仇なすのはもちろん、エルフ、ドワーフ、獣人、果ては魔物まで。


全ての存在に喧嘩を吹っ掛け、荒らし、去っていく。


正直。歴史上、邪龍の襲撃で滅んだ国があるほど彼らの暴力はこの世界では脅威だ。


そんな存在に帰りの道中ばったり会い、無事討伐まで済ます?


この家はどこかおかしい。


カイウスは初めて自分が異常な家にいることを自覚するのだった。


「安心してくださいカイウス様。使用人一同邪龍ごときに敗れるような軟な鍛え方は致しませんので」


「…‥」


このメイド長の一言に、開いた口がふさがらなかったカイウスを責める者は誰もいないだろう。



冷静になった彼はようやく自らの置かれた状況を認識、理解し始め、ようやく異世界転生のスタートラインに立ったのだった。









所変わって場所はノムストル領フラン都市。


カイウスはその街のある一角にある商店へと赴いていた。


「あらカイウス。こっちに何か用かしら? 今暇だったからちょうどいいわ」


「姉様。今日はお願いがあってお伺いしました」


いきなりフラン都市と言われてもどこだ、と思うだろう。


ここは彼の屋敷のある街、その正式名称がフランという。


人口1万もいないこの都市で、今、最も勢いがあると言われる商会に彼は赴いていたのだ。



”クリミア商会”



元々は小規模の商会で、主に食料や日常用品などを売っていた商会。


しかし、ここ数年ではその商売の方針を大きく変えていた。


「私としては安全にゆったりとやって行くつもりだったんだけど、商売人として商機が目の前にあれば、行かずにはいられなかったのよねぇ~~。ま、稼いでるし、文句はないかな」


「順調に行っているようで何よりです。その節は姉様に大変迷惑を掛けてしまいました‥‥‥申し訳ありません」


「え? ちょっと、カイ、そんなことで頭下げないの。まったくもう、あなた如何にも大人っぽさがあるのがたまに傷よね、こんなことで家族に頭なんか下げなくていいのに、姉さん少し悲しくなっちゃうわよ」


以前カイウスが提案した水洗式トイレの販売。


これをいち早く行い、きちんとした特許を申請したのが事の始まりだ。


最初はこの領で行っていたそれも、次第に他の領に噂話として広がり、依頼を受け、地方の領地を経営している貴族達からこぞって重宝された。


もちろんその中にはよからぬことを考えた者もいたが‥‥‥そこはノムストルに連なる者。


全ての情報を封鎖し、依頼を断ったり、多方面からの圧力を掛けたりと、そのポテンシャルを遺憾なく発揮した。


__お願いします、クリミア様。水道工事に手を出したのは謝罪いたしますので、どうか私の寄り親の機嫌を戻してはいただけませんか? このままでは資金が底をつき、税が払えなくなります。


__勘違いなさらないで、私はあの方にお願いをしてきただけ。機嫌がどうのこうのはあなたの失態よ。まぁ私も鬼ではなくってよ。あなたの所の特産品。それを他の所とは少し落としてお売りなさい。そうすれば以前のように王宮でご立派な服を着て、美味しい宮廷料理を食べられるようになりますわね。


__畏まりました。すべてあなた様の思うように致します。どうか、どうか、今後ともお見捨てなきようにお願いいたします。


__ええ、お互い出会いが悪かっただけですわ。今後ともクリミア商会をご贔屓にお願いいたします。



ある中流貴族が堕ちるところまで堕ちた。その噂は不思議と出回るのが早く、全ての貴族たちがその噂を聞いた時からピッタリと動きを止めた。


なんせ堕ちた貴族は今後、ある特産品で大貴族までなるだろうと言われていた者だ。


それがいきなり足元が無くなったかのように堕ちて行った。


領地も、資金も、その人物も、全てが大きく、必要以上にあり、優秀だった。


そんな貴族たちの次代のカリスマが、一つの商会に負けたと。骨の髄まで絞りとられたのだという。


下流、上流に限らず、この国の貴族、そのほぼすべてが正確な情報を求めて探りを入れ、ある名前を見て黙り込む。


クリミア商会 会長


 ”クリミア=ノムストル”


__また出て来た。


__またあの一家だ。


__次は経済にまで食い込んできたぞ。


多くの貴族が思ったであろうそれを、誰も直接口にすることはない。


間接的に、回りくどく、よく考えて口にする。


それは恐怖からくるものであり、諦めからくるものでもあった。


「それで? お姉さんを頼ってくれたのはすごく嬉しいけど。さすがにこの間みたいに大立周りはもうしたくないわよ? クリストが嘆いてるのよ『姉さん、あまり王太子殿下をいじめないであげてくれるかな? ついでに僕の胃の事情の事を考えてくれると嬉しいな』って言って来たわ。さすがにやり過ぎたわね」


「何やったんですか、姉さま」


「ふふふ、ちょうどむしゃくしゃしてたし、後悔もなかったの。どうせならやれるだけやってしまえ!!っていう気分だったのよね。結構イケメンだったのに、勿体ないことしたわ」


「えっと、そろそろ私のお願いの内容に移ってもいいでしょうか?」


カイウスはこの会話からしっかりと『これは聞いてはいけないこと』と感じ取り、本来の彼には持ちえなかったはずの流すという技術を使う。


上司から聞かされる苦労話や、聞かなくてもいい豆知識をスルーすることのなかった彼からすればこれは目覚ましい一歩に違いない。


「そうね、まだまだあなたには早い話をしてしまったわね。で? お願いって何なのかしら?」


商会の私室で二人。


長かった話もこれで終わる。


カイウスはようやく言えた自らのお願いを口にする。


「ドラゴンの肉を用意できませんか?」


「ふふふ、ドラゴンの肉? そんなの簡単すぎてあくびが出そうだわ」


はっきり言おう。


この会話はどこまで行っても普通ではない。


そんな声はこの部屋のどこからも聞こえては来ない。なんせここにいるのはどちらも”ノムストル”なのだから。










「ふぅ、これで契約成立ッと。今日のご飯はこれでどうにかなるし、少しの間だったら持つと思うから、あんまり暴れちゃだめだよ?」


「グォウ」


「うん、じゃ、俺は挨拶に行かないといけないからこれでね?」


「「「「「「クァァァァァァ」」」」」」」


カイウスが姉に頼んだのはブラッティーベアとの契約を果たすため。


我儘だと自覚しながら、それでも契約を一方的に終わらせるのはいくら相手が魔物とはいえできなかった。


空間魔法に連なる収納に大きなドラゴン一頭丸ごとを入れ、転移して契約の満了をしに来たのだ。


大きなドラゴンを貪り食らうブラッティーベアたちを尻目にカイウスは、行かなければいけない場所へと転移する。


ここには契約を果たしに来ただけであって、それ以外には用事はない。


それでも、カイウスは行かなければならない場所がある。


この森に入ったからには訪れなければいけない場所。


『今度来る時があったら僕の元を訪れるといい、これすごくお勧めだから』


この森に行くと決めた時からフラッシュバックする昨日の光景。


カイウスは一度深呼吸をした後、その声の主がいる場所へと転移する。



本日三度目の転移、それは魔王と三度目の邂逅を果たすために使われたのであった。




『討伐A級 邪龍ダスクテイクか、へっへ、これで使用人たちも俺を見直すだろう』

                         

                  BY 討伐後、どこかで胸を張る兄


お待たせしました、今後は毎日更新とはいかなくなりそうですが、精一杯やって行きます。

 

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