モフモフの理想郷を求めて~始動~
日刊ランキング三位、ありがとうございます。
ぽっと出てぽっと消えて行くのでしょうが、皆様に最大限の感謝を。
では、本編をどうぞ。
父の執務室を悉く荒らしてから、一週間。
モフモフの天国を十分に満喫したカイウスは、ある野望のための第一歩を大きく踏み出していた。
踏み出すではなく、もうすでに踏み出しているのである。
ここ、重要。
「モフモフの神が俺に言っている‥‥‥モフモフのための、モフモフによる、モフモフの理想郷を作り上げよと。ハハハハハッ、刮目せよッ! 我がモフモフ軍は最強なりッ!!」
「ワォォォォォォォォン!!!!」
「「「「「「ウォォォォォォォォォォン!!」」」」」」
カイウスの檄に応えるのは、総勢100頭を超えるヘルウルフの群れとその長、そしてポロロ。
そんなヘルウルフたちのあげた大きく威圧を込めた遠吠えは、大樹の森全体へと響き渡る。
「グラァァァァァ!!!!」
「「「「「「ラァァァァァァァァ」」」」」」
その遠吠えに対するは、約二、三十頭ほどの北の森の覇者、ブラッティーベア。
ヘルウルフ達に負けず劣らずの大きく威圧の籠った叫びをあげるが、少し数が少ないため、ヘルウルフたちより小さくなってしまうのは仕方のない事であろう。
それでもブラッティーベアたちの雰囲気は戦う気満々であった。
「くっ、やはり戦うしかないのか‥‥‥だが俺はあきらめんぞ。モフリストとはどんな猛獣でも、そこにモフモフがある限り挑まねばならんのだ。それこそが真のモフリストなりッ!! 俺は一モフリストとして、お前たちを必ずモフルッ、モフリまくってやる!! さぁ行くぞ、続けーーーーーー!!!」
場所は東の森と、北の森のちょうど境目。
まるでそここそが縄張りの境目でもあるかのように大きく開けたその場所で、彼らは合いまみえる。
多くのヘルウルフとブラッティーベアが向かい合い、戦う中、先頭を行ったカイウスは最も体が大きく、威厳ある個体と対峙していた。
もちろんそれは、意図してのこと。
カイウスの小さく未熟な体と、ブラッティーベアの大きく頑強な体躯の対峙。
それを傍から見れば、間違いなくブラッティーベアの圧勝だと思うことだろう。
確かにそれは間違いではない、周りのブラッティーベア達もそう信じて疑わなかった。
なんせカイウスが対峙したのはブラッティーベアたちの長だ。
脳筋な彼らにとって唯一ある、秩序。
その頂点がカイウスの前に立つブラッティーベアなのだから。
信じて当たり前なのだろう。
「…‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
しかしそれは、傍から見たらの話であり。対峙した両者は両者とも、その場から動かず、相手の出方を慎重に覗っていた。
カイウスはブラッティーベアの一撃をまともに食らえば確実に致命傷を受けるし、ブラッティーベアは長として、何より長くを生きて来た自らの本能がそうするべきだと告げていた。
”この小さき物は危険だ”そう本能が訴えてきている。
「「…‥‥」」
彼らの沈黙は続く、にらみ合ったまま動こうとしない。
いや、動けないのだろう。両者の間には想像を絶するやり取りが今も続いてるに違いない。
片や己の欲望‥‥ゲフンゲフン、偉大な目標のために生きる者。
片や己の強靭な体躯と膨大な経験から基づく本能を携えた、脳まで筋肉でできている者。
…‥‥‥‥きっと常人には計れない深い、それはもう深いやり取りが続いているに違いない。
「「「ウォン」」」
「グラァァァァァ」
その両者の深い?やり取りが続いている間も、戦場という状況は止まらない。
数で勝るヘルウルフが二頭から三頭でブラッティーベアを確実に倒し、どんどん戦況はヘルウルフが有利になって行く。
「グガァァァァァァァァ」
「…‥焦りは、致命的なミスを生む」
ブラッティーベアの長はその状況に気づいていたが、動けていなかった、自らの信じて来た本能が許可を出さなかったのだ。
目の前の小さき者に襲い掛かることを。
ただでさえ、少なかった味方がどんどん戦闘不能に追い込まれ、今ではもう両手の指で足りる程の数にまでなってしまった。
もはや本能云々言っている場合ではない、行かなければどのみちあるのは圧倒的敗北のみ。
そのことをなんとなく感じ取ったのだろう、ブラッティーベアは初めて自らの本能に逆らい、目の前の小さき者へと突っ込んだ。
結果、その不用意な一撃は避けられ、その大きな振りの隙をその小さき者ではなく、他の戦闘に見切りをつけたヘルウルフの長に突かれる。
各森の長達には力的差はなく、それがどんなものであれ、同等の戦いを演じることになる。
ブラッティーベアの長の力はその体躯から繰り出される圧倒的な破壊力と耐久、ヘルウルフの長の力はその身軽な体躯から繰り出される無限と思えるほどの連打攻撃と集団戦における指揮能力。
今、ブラッティーベアの長はヘルウルフの長による最初の一撃を受けてしまった。
それからはもう止まらない。
連打連打連打連打の嵐。
体勢が悪い状態で受けてしまったブラッティーベアの長は、ただ耐える。耐え続ける、それだけしかできない。
一度始まってしまえば、その連打は相手に何もさせない、させるはずがない。
連打とはそういうものなのだから。
「ぐ、グラァァ‥‥‥ァァァァ」
「‥‥‥‥‥グルゥゥゥゥゥ」
「ありがとう、もういいよ。あとは俺がやる」
「ウォンッ」
数時間続いたヘルウルフの長による連打が止んだ時、ブラッティーベアは満身創痍な姿でこちらを睨め付けていた。
もはや抵抗する力も残っていないだろうその姿でも、ブラッティーベアの戦意は衰えることはなく、その目には、不屈の闘志を燃やしていた。
こういう目をする奴は大抵強い。
なぜなら、そういう奴ほど痛みや苦痛というものが通じ無くなるからである。
「「「「「ウォ~~~~ン」」」」」
「さて、と。ここからは‥‥‥俺の時間だ」
他の戦闘も終わったのか、ヘルウルフ達が勝鬨の代わりに大きな遠吠えを上げ始め、辺りには倒れ伏すブラッティーベア達の姿がある。
一応死んでは居らず、それぞれが戦闘不能になっているだけある。
カイウスはその状況を確認すると、ブラッティーベアの長の元へと赴く。
「契約、発動」
もちろんそれは、ブラッティーベアの長と契約を結ぶため。もし、ブラッティーベアに不用意に近づいていてはきっと死んでしまうこと間違いなしであった。
だから、しっかり安全確認をしてから、やつを快楽の虜にする。
それがカイウスが今思っている事であり、戦闘開始時からここまで思っている事でもあった。
何て言ったって、彼は筋金入りのモフリスト。
目の前にモフモフがいれば、モフル。それ以外に興味など‥‥‥。
ブラッティーベアの長は、そんな彼を見て何かを察したのか、受け入れるようにその瞳を閉じる。
そして忽然と現れた辞書のような物から、二枚の白紙がそれぞれ飛んでいき、彼らの思念が綴られていく。
「ブラッティーベアの長と私、カイウスは以下の契約を結ぶ」
__カイウスはブラッティーベアに対するモフモフ権を有し、ブラッティーベアはカイウスに危害を加えることはできない。以上の事が保障される限り、カイウスはブラッティーベアの北の森での存続に協力しなければならない。
__やっべ、明日のご飯どうしようかな?
「‥‥‥え? この状況で明日の飯の心配とは‥‥‥早くもモフリたくなってきた」
二枚の紙が一つに合わさり、辞書の中へと戻っていく。
それは両者が合意した証拠。
__ブラッティーベアは、翌日の食糧が保障される限り、カイウスのモフモフ権を認め、危害を加えないことをここに契約する。
どうやらブラッティーベアとの契約は、餌付けから始めなければならないらしい。
彼はコツコツと頑張れるモフリスト。やってやれないことはないのだ、モフモフに関することでは。
今ここに、危険すぎる腹ペコペットが誕生した。
『やっべ、マジ腹減った』
BY 脳筋な熊さん
一気に増えたアクセス数が嬉しいと同じくらい、投稿する度胃に穴が‥‥‥‥。