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諦めない心~父~

初めにこれだけ。

ここまで読んで下さっている皆さまも、そうでない方も、本当にありがとうございます。


日刊ランキング40位くらいまで来ることが出来ました。


少し、感動しています。





ヘルウルフの長と契約し、チビウルフ達と至極の一時を過ごしたカイウスは、一度自らの屋敷へと戻ることを決意する。 


いくらポロロに連れて行かれるのが、ノムストル家全体で予想されていたこととは言え、家族や使用人達は大層彼の事を心配していることだろう。


いや、そうに違いない。


カイウスはそんな彼らを少しでも早く安心させてやりたい、その一心で家族の元へと戻るのだ。


別に、新たな目標ができたとか、自分の抑えようのない欲望が顔を出したとか、そんなことでは決してないのだ‥‥‥‥‥‥ないはずだ。


「父様、今帰りました。‥‥‥‥‥‥やはり空間魔法があると何かと便利ですね」  


「…‥‥‥‥‥僕は今。君はその適性を持つべきではなかったと、心の底から思っているよ」


「なぜ、ですか? 父様も言っていたではありませんか。『これで食うに困らない』と、それをなぜ今更、持つべきではなかったというのですか? 父様は将来、私が食うに困っていいと、そう思っているのですね? なんと悲しい事でしょう、私少し泣きそうです」


「‥‥‥‥‥‥‥そうだね。確かに言い方が悪かったことは‥‥‥認めよう。君に適性があることはとても喜ばしい事だ、父として、この家の者として、とてもうれしいよ? それは偽りない事実、事実なんだよ…‥‥‥」 


カイウスが帰って来て初めに訪れた場所、というか転移した場所は彼の父の執務室。


そこに今、カイウスと彼の父、そして彼が連れて来たであろう第三者がいた。


父はカイウスが無事に? 戻って来てくれたことが、素直に嬉しい。


それはもう、ある事実さえなければ、満面の笑みと共に迎えられたほど嬉しい出来事だ。


目の前で二回目の誘拐をされた息子が、五体満足で帰ってくる。そのことが本当に嬉しく、心の底から安堵していないわけでは‥‥‥‥‥決してない、ないのだ。


しかし現実というものは、いつも彼の父に対して厳しすぎる。


きっと、彼の父にとって現実とは常に現実シビアだと心の中で言っているに違いない。


「カイウスよ」


「はい、父様」


そのことを他の誰より自覚する父は、いつもより少し遠くを見つめる瞳と、いつもより五割増しの穏やかな微笑を浮かべ、カイウスへと話しかける。


カイウスから言わせれば、彼の父の表情それは、何処かの仏像と同じ、何かの境地に達した者の表情それだったそうだ。


「後ろにいるのは、ヘルウルフの長。私の知っている限り、大樹の森の東の主だ。これに間違いはないよね?」


父はその表情を崩さずに、器用に話し出す。


まるで、その表情こそ自らが求めていた最適な表情であったかのように自然と話せている。


「ええ、本当なら一人ですぐに帰って、あちらに戻ろうと思ったのですが…‥‥‥‥‥何だかとっても懐かれてしまって…‥‥‥‥‥付いて来てしまったんですよ、勝手に」


「そうか、勝手についてきたのか。それならば仕方あるまい。カイウスにはどうしようもなかっただろうことだからね。君を責めるのはきっと、いけないことなのだろう」


カイウスはそんな父を見て、自らのやったことは酷くモラルに欠ける、幼稚な行いだったとようやく気づく。


しかしカイウスは、もう少し早く気づくべきだった。気づいてあげるべきだったのだ。


そうしたら、彼の父の現実シビアも少しは緩和されたに違いない。

 

いや、絶対にされたであろう。なんせすべての原因はカイウスにあるのだから。


「…‥‥‥‥‥‥父さま、本当にすいません」


「あはははは、謝らなくていいよ。君は悪くない。もちろんついてきてしまったヘルウルフの長もね。これは事故なんだよ、お互い悪いことなんかない。とてもとても不幸な事故さ」


遠い目をしていた父の瞳から、少しずつ、本当に少しずつ、”光”というものが抜け落ちて行く。


やがて瞳の中の光を失った父が見るのは、大きな体躯を誇るヘルウルフの長と自らの息子が珍しく頭を下げた姿。


決して他の物は映してはいない。いや、映してはいけない、と父の本能が告げていた。


きっとその本能は限りなく正しいに違いない。


なんせそれは、父の”経験則”という物から告げられていたのだから。


ノムストル家と言うものを一心に背負う、彼の父のそれが正しくないはずがなかった。




部屋のあちこちに錯乱する書類の束や、本棚に立て掛けられていた本たちの無残な姿など、映してはいけない、決して映してはいけないのだ。


父の心の平穏を守るために。


「大丈夫、大丈夫、まだこれもマシな方さ。何て言ったって書類が消えてなくなったり、本が水浸しになったり、細かく刻まれたりしているわけではないからね。ダイジョウブ、ダイジョウブ」



やはりというか、なんというか、父の現実シビアはどこまで行っても変わることはないのだろう。


なんせ今の現実シビア以上の過去シビアを体験しているのだから。


父はそのことを再確認したかのように、ダイジョウブ、ダイジョウブと壊れたカセットテープのように繰り返し続け始める。


繰り返すことで己の心の保全に努める。


それが例え無意味な行動であったとしても、そう、せざるを得ない状況だ。


「父様‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥では、報告も済んだので私はこれで失礼します」


そんな父を前に、カイウスにできること。


それはいち早くこの場から消え失せ、これ以上の厄介ごとを起こさないことだろう。


きっとそうに違いない。


カイウスはその判断の元、すぐさま転移のための魔力を溜め、実行に移す。


「うん、気を付けてね? ってあれ? カイウス、また君何処かに‥‥‥‥‥‥‥‥」


「御免」


壊れたカセットテープ状態から立ち直った父が見たのは、そう言って消えて行く問題児カイウスの姿だった。


最後に見たその問題児カイウスの姿から、父は何かを悟ったのだろう。


少しの間目を瞑り、天を仰ぎながら言った。


「‥‥‥‥‥‥‥‥さて、新しい書類の準備でもしておこうかな。あの子はきっととんでもないことをしでかしに行ったのだろうからね。その時のために、しっかり準備しておこう‥‥‥‥‥はぁ」


父は短いため息を吐くと、外に待機しているはずのメイドを呼ぶ。


カイウスの父の辞書には決して、諦めるという文字はない、あるのは現実シビアという言葉だけ、それだけなのだ。



聖者と呼ばれ、この世界初のゾンビプレイを成しえた男は今、床に散らばった書類を一つずつ、一つずつ拾っていくのだった。







 





そしてそんな父を置いて、とんでもないことをしに行った彼、カイウス=ノムストルは現在


転移した先で、熱烈なチビウルフたちによる盛大な歓迎モフモフを受けていた。


カイウスのモフリにより、堕とされていたチビウルフ達は、帰って来るのを、今か、今か、と待っていたのだ。


その分、歓迎は盛大になった。


しかもそこに長まで加わり、カイウスの頭の中にはドーパミンが大量に出まくっていた。


その結果、どんどんチビウルフ達を骨抜きにしていき、最後に立っていた彼もとうとう力尽きる。


 「…‥‥‥‥‥‥ああ、幸せ」


そう言うカイウスに一つ言わせてもらおう。



『お前の父親に、その幸せの半分でも分けてやれェェェェェェェェェイ!!』




『あきらめる? それで何か解決するのかい? 僕は決してそうは思わないね』

                       BY どこかの家の大黒柱さん

                             

 この話は後ほど少し変更するかもしれませんが、引き続きお楽しみいただけることを切に願っております。


 今後ともよろしくお願いします。


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