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ヘルウルフからの招待?


街はずれにある砦。


そこには今、この街の冒険者すべての姿と、ノムストル家使用人、ノムストル家一家が勢ぞろいしていた。見る者が見ればあまりに異様なその光景。それらの者達の内心はすべて一致することだろう。



”どこの国を征服しに行くんだ?”

それがこの場で、この光景を見た冒険者たちの内心。

そしてこの世界全ての人たちの認識だろう。


なんせ、一人一人がこの世界では名の知れた者達。そこに英雄の”賢者”まで加わる。


さて、もう一度言おうか。


”今日、どこの国が滅ぶんだ”


彼らの胃の平和は、この日、確かに崩れ去った。






そんな冒険者たちの胃の事情を知ってか知らずか、ノムストル家の方々はこの状況にもかかわらず、いつも通りの服装でこの場に来ていた。メイドはメイド服、ご婦人たちは婦人服、その姿はまるで着の身着のままで出てきたような姿だ。


その中で、父だけはその手に書類を持っているのは言うまでもない。もちろん印も片手に装備済み。


カイウスの父に死角はない。

いつもの完全装備だ。


「どうでしょう、ポロロは居ましたか?」


「‥‥‥‥‥当然のように先頭にいますね。また少し大きくなっているようですが」


「坊ちゃんは良く分かんなぁ。俺は無理だ。どれも一緒にしか見えねぇ」


城壁の数百メートル先、そこには約百のヘルウルフの群れが迫っていた。


しかし一体で災害級と呼ばれるその群れを前に、不思議と砦に絶望感は漂っていない。


それは決してノムストル一家がいる、というだけではなさそうだ。


カイウスは今、そのヘルウルフの群れを冷静に観察している。


どうやら、その中にいなくなったポロロがいたらしい。


「ああ、やはりそうでしたか。私もそうじゃないかと思っていたところです、カイウス様」


「あんたはホントにバカね。このくらいわかりなさいよ、ポロロだけ毛並みが異常にきれいでしょ? あれは私たちがしっかり躾た結果なんだからね」


「…‥‥‥ああ、お前らは分かるだろうよ。なんせお前らの前では大人しかったからな、ポロロはッ!!」 


「「当然 (ですね)(ね)」」


「クッソーーー!!!」


城壁に向かって勢いよく不満をぶつける門番兼護衛の人。その光景を他の男性陣は同情の籠った瞳で見る。


その瞳を向けられ、どんどん惨めになる門番兼護衛。門番兼護衛は負のスパイラルに陥っていた。


…‥‥‥頑張れ、どこかに君を応援してくれる人がいるはずだ。


きっと…‥‥‥‥たぶん。


「良かったわね、カイ。何とかなりそうじゃない」


「ええ、レイヤ姉様。‥‥‥‥では、行って来ます」


「「「「「ええ、行ってらっしゃい(ませ)」」」」」


そうしてカイウスは一人、ヘルウルフの群れへと向かって行く。


五歳児がヘルウルフの群れに向かって行くのに誰も止めようとしない。それどころか、『行け』と背中を押す、その五歳児の家族と使用人たち。


この光景は明らかにおかしい。絶対にあってはならない光景だ。



”これはどう考えてもおかしい、絶対におかしい。誰か止めろよ”。



 と、その場に集まる冒険者全員が思ったが、思うだけで止めようとしない。ただその異様な事態を眺めるだけ。


しかし少しの勇気と常識のある流れの冒険者が止めようと、進んでいく。


彼らは子供の方ではなく、常識ある流れの冒険者の方を止めた。

それも、少し手荒な方法で。



___な、お前ら何してる!! 止めろ!! あの子を止めるんだ!!


___落ち着け、大丈夫だ。お前が心配していることには絶対にならない。


___バカが!! 頭イッテるだろ、お前ら!!


___安心しろ、ここではこれが正常だ。


___だからそれが…‥‥‥ええいッ!!良いからどけッ!!


___ふぅ、眠らせろ。


___了解っと


___ガッ、ク…ソ…が


これで、少しの勇気と常識ある流れの冒険者は少しの間、夢の世界に旅立つことになる。


”ミッションコンプリート”



夢の世界に旅立った冒険者は決して間違っていない、それどころか周りの方が間違っていると言える。


もちろん、周りの冒険者はそのことは重々承知しているし、この夢の世界に旅立った彼に罪悪感すら湧いている。


しかしこの場合では仕方がない。


そう、この光景を見ていた全ての関係者たちが思っていた。


__なぁ


__ん?


__ヘルウルフってあれだよな、あの討伐S級の奴だったよな


__ああ、俺もそれは知ってる。


__ちょっと、俺の頬抓ってくれ。俺は今夢の中にいるらしい。


__じゃあお互いに抓り合おう。俺もどうやら夢を見てるみたいでな。


__痛いな


__痛い、な


__夢じゃあなかった、か。


__そうだな。


__ヘルウルフってお座りしながら、待て。までできるんだな。初めて知ったぜ。


__勘違いするな、今見てるのは、それはもう異常なことだ。


__わかってんよ。


__ならいい。



これはこの場にいるある冒険者たちの会話である。


彼らが目にしているのは五歳児がヘルウルフの躾をしている所だった。


もはや、驚くことを忘れてしまった彼らは、その場で膝を抱えるのだった。



『何あれ、ノムストル家、超怖い』



全てのこの場にいるもの達が思っていることを、彼らもまた思うのだった。





  


「ウォン」


「大きくなったなぁ、ポロロォォォォ」


「ウォン」


__よしよし。


モフモフ成分の補給。カイウスがしているのはそのほかの何でもない。


ただ、ただ、モフル。それだけだ。


長らく補給されなかった特殊な成分を、これでもかと補給する。


もちろん、ヘルウルフの群れの中で。


この光景を見た冒険者たちは顔面蒼白で、少しづつ砦からいなくなっていく。まだ、警報が解除されてなかろうと関係ない。


彼らには彼らの生活があり、その日の稼ぎというものが何より大事なのだ。


危機が去ったと思ったらさっさと稼ぎに行く。それが必然だ。


別に異常な事態に頭の処理が限界を超えた、とかそんなことではない。


稼ぎに行った、それだけである。


「ウォン、ウォン」


「そうかそうか。つらかったなぁ、これからは俺も一緒に居るからな」


「ウォ―ンウォ―ン」


「うんうん、大丈夫大丈夫。俺も一緒だよ」


そんな冒険者など知らないと言わんばかりに、満面の笑みでモフモフを楽しむ。


なんとも幸せそうな顔だ。


ポロロも相当嬉しいのか、体を擦り付けたり、ペロペロとカイウスの顔を舐める。


そんな幸せなひと時を過ごし、ある程度時が経つと、周りのヘルウルフたちが少し騒がしくなり始める。


ポロロもそれを察したのか、なぜか満面の笑みのカイウスを担ぎ上げ、大きな遠吠えを上げた。


「どうしたんだい? ポロロ? ああ、背中の毛並みもサラサラで気持ちいい」


そんな急な状況でも、今のカイウスは柔らかな笑みと共に抵抗すらしない。


「ウォォォォォォォォォォォォォン」


『ウォォォォォォォォォォォォォン」


「ははは、ポロロ。こんなに早く走れたんだなぁ。どうしよう、降りれなくなってしまったや」


カイウスは必死にポロロに捕まりながら、とんでもない勢いで過ぎて行く景色を眺める。


人間とは死ぬ気になれば何でもできるようなる。


ポロロに捕まりながら彼はそう思ったそうな。





カイウス=ノムストルはその日。


二度目の誘拐を体験した。





『これで依頼完了っと…‥‥なんだとッ。これはッ、依頼内容が違うッてぇのは何の冗談だ!』

                        BY 死闘の後の暴風さん 


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