~私の、私による、私の野望~
私は、ナナ。
それが名前。
私はただのナナ。
貴族様達の様な家名などない、ただのナナ。
…‥‥‥‥‥けど、将来は違う。
私はただのナナではなくなる。
これは確定的で、決定事項。
「索敵、即、殲滅」
五歳になると授かる、この力。
スキルと魔法適正。
私はこの力でただのナナを卒業する。
そういう宿命にある。
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スキル 索敵
魔法適正 火
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「火こそ偉大にして至高。
…‥‥‥この私にピッタリ」
この街の神父様に貰った私の力を記す紙。
それをいつも私は持っている。
大切に大切に。
これを手放したことはない。
「…‥‥‥‥‥‥」
そして私は今、その将来のために朝早くからこの街の広場にいる。
大人達でもまだまだ起きていないような時間にだ。
そこで偉大な火の魔法を放つ。
どんどん放つ、次から次に放つ。
誰もいないからやりたい放題。
ものすごく気持ち良い。
だから、私以外にその場には誰もいない。
いないはず。
そう思ってた。
「‥‥‥‥‥索敵、反応?どこ」
索敵に反応がある。
それも不思議な所からの反応。
「‥‥‥‥‥地面?」
私はこのスキルおかげで、街の子達とのかくれんぼでは負けなしの強さを誇ってる。
もちろん私が鬼の時も、そうでないときもだ。
今までこのスキルが間違えたこともないし、ここに反応したのも初めてのこと。
昨日は反応しなかった…‥‥‥‥‥。
「…‥‥‥‥‥ここ。少しおかしい?」
広場のちょうど中央。
先程偉大にして至高の私の火魔法を放った場所。
普段は黒く焦げるはずのそこが、いつも通りの地面のままで残っている。
おかしい。
私はその地面を調べる。
絶対に何かあるはずだ。
「あっ…‥‥‥‥」
「激痛。耐えがたい痛み」
「す、すいません。まさかこんな時間に人がいると思はなくて」
「ん、私の不注意でもあるから許す。ところであなたはここで何してる」
「そ、それは‥‥‥‥‥‥‥」
「さっきの痛かった。とても痛かった。まだまだ痛い」
「…‥‥‥‥どうぞ」
「感謝」
調べていたら、急に地面が浮いて私の顔面に衝突した。
普通に痛い。
その痛さでもがいていたら、地面の中から綺麗な金髪の少年が現れた。
”カイウス様”
この街の領主の息子であり、この街ではいい意味で有名、もちろん私も知っている人。というかこの街で彼を知らない人はいない。
彼は最近の街の騒ぎの中心に、絶対にいると言っていい人。
その人が地面から出てきて、下へと誘ってくる。
どうやら私の索敵に引っ掛かった人は、この人のようだ。
「ここは?」
「秘密基地」
「‥‥‥‥‥‥」
そう簡潔に応えられた場所は、大きな空間。
広場の地下は大きな空間になっていた。
私はそれを見て驚愕している。
この空間はなんだ。
ここにこんな空間がある何て、聞いたことがない。
大人たちは知らない?
…‥‥‥‥きっとそういう事だろう。
彼がいる時点でそう思っておこう。
「いつからある?」
「昨日作ったばかりかな?なかなかいい空間ができたよ」
「何に使う?」
「魔法の練習? その他もいろいろしてみたい事をするために作ったからね。主には魔法かな」
「分かった。私も使うことにする」
「…‥‥‥‥‥‥マジ?」
「マジマジ」
ここは良い空間。
私の偉大な火魔法の研鑽に使える。
逃すか。
私は絶対にこの場所を使う。
その日はそう宣言して、家に帰った。
朝食の時間には帰らないと、親に叱られてしまう。
その後、その翌日もその翌日もその翌々日もその空間に通った。
もちろん朝早くに。
「それは何?」
「魔法の訓練だよ。こうやって魔力を放出させて、周りの魔力と馴染ませていくんだ。そうすることで保有魔力の増加と回復時の自然の魔力の取り込みを早めることができる。これ、わかる?」
「ん、初耳。私にも教える」
「え? いや、それは構わないけど、結構きついよ?」
「やる」
聞いたことがない方法。
でも、やる。
カイウス様が魔法をうまく使えるのは知っているし、その原因がこの訓練なら私もやるしかない。
将来、ただのナナから卒業するために。
それから一週間。
はっきり言う。きつかった。
というか今もきつい。
胃から抑えようのない嘔吐感が込み上げてくる。
カイウス様が微笑んでやっていることも、今の私には苦痛。
「良くなってるね。そろそろ自然を感じ始める頃かな? そうなったらすごく楽になるよ」
「げ、限界。バケツを所望」
「はい、どうぞ」
__オロオロオロオロオロ
私は盛大に胃からこみ上げてくるものを吐き出す。
初期の頃は、これさえできなかった。
所謂寝ゲロ状態。
時には盛大にぶちまける。
カイウス様には、良く介抱してもらった。
「あ、と、どの位?」
「もう一週間は私の介抱が要りますかね? それ以降は多分疲労感だけで済むよ」
「…‥‥‥‥‥頑張る」
「その意気です」
そう言ってこちらに微笑んでくるカイウス様。
…‥‥‥‥この人の前で醜態を曝した。今そのことに心の底から後悔している。
最初は気にならなかったことも段々と、だ。
少しづつカイウス様の優しさに包まれていった。
笑顔で出迎えてくれること、優しく介抱してくれることも、真剣に指導してくれることも。
その全てが私のためにしてくれたこと。
そう思うと嬉しくて、物を吐いたことが悔やまれる。
まずい。
今更になってゲロを処理してこなかったことが恥ずかしい。
その過去を失くしてしまいたい。
「‥‥‥‥‥」
そう思いながら、私は今日もゲロを吐く。
出てくるものは出てくる。
無理は体に悪い。
その日私は三回彼の前で嘔吐した、すごく後悔しながら。
今日の朝は家族全員が早起きし、共に食事をした。
早く出かけたい。
「最近帰って来るの遅いわよ、ナナ。ご飯が冷めちゃうわ」
「そうだぞ、ナナ。お父さんと一緒に食べられないじゃないか」
「去れ。私に近づくな、匂いが移る」
「ナ、ナ。お父さんは臭くないよ?まだそんな歳じゃないからね?そうだよね、お母さん?」
「…‥‥‥‥ごめんなさい、お父さん。こっちに向かって息をするのはやめてちょうだい。私に言えるのはそれだけよ」
「うぅぅぅ、行ってきマァァァァァァす!!!」
「お母さん、あれはまずい。やりすぎ」
「いいのいいの。お父さん、久しぶりにあなたと朝ご飯食べれて、はしゃいでるだけよ」
『オオオオオンンン』
「がんばれ、お父さん」
私の名前はナナ。
ただのナナ。
けど、将来は違う。
少し前の私とは少し目標は変わったけど、私はただのナナを卒業する。
それは決定的で、確定的で、私の宿命だ。
「あ、ナナさん。いらっしゃい、今日も頑張ろうか」
「ん、頑張る」
でも、もう少しこの時間を大切にしよう。
そう思う私であった。
『ん、察知、アンド、デストロ~イ。私の火は最強』
BYただのナナ
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