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五歳の日常、子供は子供らしく?~前編~


 他の家では考えられないような、祖父による魔法訓練が終わって二か月。


 カイウスの朝はまず、座禅から始まる。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥自然に感謝」


 こういって魔力切れになるまで魔力を放出し続ける。

 この頃になると気絶することが無くなり、少しの倦怠感で済むようになる。


「お前…‥‥‥‥‥‥どこの年寄りだよ」

 

「おはようございます、暴風兄様」


 次は早朝訓練開始。

 これはもう少し続けなければならないだろう。


 カイウスは魔法はできるかもしれないが、人であることに変わりはなく、その身体能力には限界があり、これから最も伸びしろがあるのがこの訓練だからだ。


「やめろやめろ、今のお前に何言われても俺にダメージはねぇよ。…‥‥‥‥今後付くだろう、お前の二つ名が楽しみすぎるからな」


「二つ名です、か。昨日冒険者ギルドに行った時も聞かれましたね、それ」

      

「やっぱな、あそこのギルド長はそういうの付けるの好きだからなぁ。お前も気をつけておけよ」

   

「‥‥‥‥‥‥‥では兄さん、今日もよろしくお願いします」


「魔法禁止な、これ絶対」


「ええ」


「なら、やんぞ」


「「‥‥‥‥‥‥‥‥ッ」」


 幼いカイウスはこれから伸びる身体能力の向上と普通の子供には決して磨けないような器用さをこの戦闘訓練で身に付ける、それが目標だ。


 そこには少し前にあったようなカイウスの姿はなく、真面目に、ひた向きに訓練に取り組む彼の姿しかない。


 このことに家族は、王都で誘拐された時の事で真面目に取り組んでいる、と思っており、使用人たちはそんなカイウスの姿を見れば、拳を地面に叩きつけ地面を汗で湿らせる。


 なんと良い家族と、なんと忠誠心の高い使用人達であろうか。

 最近の使用人たちのカイウスへの激甘っぷりがハンパない。



   

 しかしカイウスのこの行動の変化は、別にそのことが原因ではなかった。


 カイウスにとっての誘拐事件はよくあるオヤジ狩りに遭遇した、そのくらいの認識で、どちらかというと王女様の事を心配するくらいには余裕がある。

 

 ならば、カイウスの行動の変化はいったいどういう事なのだろうか。


「おまッ、こっちに才能ねぇと思ってたら、なんか少しずつ上手くなってねぇか?」

 

「ははは、きっと兄様の教え方が上手いんですよ。…‥‥‥‥‥次は槍ですね!!」   


「いや、俺もそんなに武器は上手くねぇんだが…‥‥‥‥まぁ、まだまだ攻めは力がねぇから軽いけどよ、受け流しとか守りは俺より上手いんじゃねぇか?」    



 カイウスの変化。

 それは純粋に楽しいから、ただそれだけ。


 カイウスは満面の笑みを浮かべて自らの兄に切りかかり、突き、払い、投げる。

 容赦という言葉は自らの部屋のベットの上に置いて来たらしい。 


「次から投げナイフも禁止だ。お前、いつの間にそんなことを覚えた…‥‥‥‥」


 投げられて来た訓練用の投げナイフを見て、彼の兄は背中に冷たい汗を流す。


「影から守る系の護衛エルフさんに教えてもらえました。…‥‥‥‥‥スヒィアさん」


「…‥‥‥‥‥‥‥ハッ、ここにッ」


 カイウスの呼び声に応えたのは耳の長く、容姿端麗な偉丈夫。

 俗に言うエルフというやつだ。


 黒装束を身に纏っていて、筋肉が異常に発達していようとも、それは森と自然を心から愛するエルフなのだ。

 いくらその両手が真っ赤に染まっていたとしても、関係ない。  



 エルフはエルフ。

 そこに何も変わりはない。



 そんなエルフがいつの間にか、というか今、カイウスの背後に現れた。

 もちろん跪いて、である。


「『ハッ、ここにッ』じゃあねぇッッ!! お前の技術それは暗技の類だろうが!!」 


「‥‥‥‥三男様があまりにも、あまりにな経験をされたので…‥‥‥。我ら使用人一同、技術の全てを教え込む所存ッッッ」  


「その忠誠心を頼むから兄さんに向けてくれ、頼むからそいつに向けんな。怪物を温室で育てて、もっと怪物にしようとか…‥‥‥いつか訓練で死ぬぞ、主に俺が」


「それが目標なのでなんとも言えませんなぁ…‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥‥俺、泣いて良いかなぁ」


 兄の呟きは綺麗に無視スルーされた。

 最近の家の序列が少しおかしい。

 

「それより、そろそろ朝の支度が出来た、と連絡を受け参上した次第。…‥‥‥三男様。どうぞ、布です」


「ありがとう、スヒィアさん。兄様、ありがとうございました。また明日もお願いします」


「…‥‥‥お、おう」


「では、次男様。拙者も失礼致す」

  

「おい、ちょっと待て…‥‥‥‥‥俺に布は?」


「ないですなぁ…‥‥‥‥‥ではッ」


「‥‥‥‥うん。俺、そろそろ真面目に働きに行こう」


 笑顔で朝食へ向かうカイウスと、その背後をスリ足で音を立てずに歩く、影から守る系の護衛。その光景を見ず、青い空を見上げる『暴風の異端児』の二つ名を持つ、兄。 


 残された兄は決意を新たに、取り敢えず汗を拭くための布を取りに行くのだった。






 朝食はいつも通り、何の問題もなく終わる。

 食べて、片付けを手伝い、炊事場係のメイドは目尻から汗を流す。


 これが毎朝の朝食後の光景。


 最初はやらなくて良いと注意されていたことも不思議と注意されなくなっていき、とうとう誰も何も言わなくなってしまった。

 それどころかその光景を見た父たちは注意する側から、なんと朝食を片づける側に回った。


 少しずつ家が彼色に染まりつつある。


 それが朝食後の光景だった。




 では、次に行こう。 


 まず彼の午前中の行動から。


 一人で町へと繰り出した彼は、そのまま、ある広場へと到着する。


 ___ガコッン____ 


 広場の中心にたどり着いた彼がその場にしゃがみ込み、地面を二度三度ノックする。


 すると、あら不思議。


 地面が捲れるではないですか、それも捲れた地面から一つの頭が出てくる。


「へっへっ、おせぇぞ」


「すみません。朝の訓練が少し盛り上がってしまって」


「いいから来いよ、もうみんな準備できてるぜ」


「では…‥‥‥‥‥‥‥」


 地面の中に入り込む、彼と誰か。


 その姿を見る周りの大人たち。


 場はいつも混沌としている。

 

 これが今の日常ではあるのだが…‥‥‥‥‥‥‥。


 それは置いといて、中に入ったカイウスの事である。

 地面の中は大きな空洞になっており、その広さは丁度先程の広場と同等ぐらい。  


 カイウスは入ってすぐの階段を下り、進んでいく。


「皆さんしっかり座禅出来ていますね。あと一週間もすれば魔力制御もしっかりできるようになることでしょう」


「「「「「「「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」」」」」」」


 そこで中の状況を確認し、一声かける。


 その空間にいたのは少年少女たち約10人。

 それはこの町にいるほとんどの子供たちだ。


 それがこの少し広めの空間で円になり、座禅を組んでいる様子は、控えめに言って異常であった。 


「ぷはッ、もう無理。これ以上は吐くゥゥゥ」


「オロオロオロオロオロ…‥‥‥」


「情けねぇな、もっと自然ってもんを感じればいいんだよ。土の気持ちを考えればすぐに分かるだろが」

 

 そう言うのは先ほどカイウスを出迎えた、短髪の少年。


「なに言ってるんだよ、土の気持ちなんてわかるわけないだろう? 良くて風の気持ちが分かるのが普通さ」


「火。火こそが偉大で絶対。あなたたちは自然というものが分かっていない。失笑」


 それに答えたのが長髪の少年と、短髪の少女。


「「ああ???」」


「まぁまぁ、そこまで感じられればあとはすぐだからね? もう少しお互いを尊重し合おう。なんせ、全ての自然とは光。それ以外に考えられないんだからね!!」


「「「黙れ、似非勇者」」」


 勇者は勇者、それ以外の何者でもない。似非ではあるが。

 取り敢えず、そう言われたのが金髪で長髪の少しイケメンな少年。

  

「‥‥‥‥‥‥」


 ここにいるのは以前から仲の良い5歳以降の少年少女たち。

 広場で一緒にスキルや、拙い魔法で遊んでいた子供たちである。


 それを見事にカイウスがぶち壊した。


 この空間はカイウスが作った物で、彼だけの秘密基地にする予定だったもの。

 しかし、それを朝早くから遊んでいた、ある子供に見られ、そこに案内し、今ではこうして指導までしている。




 カイウス=ノムストルにこう聞きたい…‥‥‥‥‥‥いったい何があったと。 


 どうすれば、遊び盛りの子供たちが仲良く座禅を組んで、自然というものを語り合い、そのことで口論になるまで発展するというのだ。  

 それはどう考えても普通ではない。 


「わぁ、キリ君凄いね。もう魔法に色が付いてるや」 


「アーキシスちゃんは、かわいい形に魔法を作れるんだね。私も早く作れるようになりたいなぁ」


「…‥‥‥‥‥‥」

  

 色とりどりの魔法に、それぞれの形の魔法。

 もう何も言うまい。


 しかしこれは彼にとって大事なこと。 

 大事を成すための小事であった。



 カイウスにとってこれは将来のための布石であり、単なるご近所づきあいの延長。

 将来育った彼ら彼女らと円満な付き合いをするためのものでしかない。 


 子供らしく、仲良く遊ぶ。それがカイウスが今している事だった。




 カイウスが目指すのは快適で豊かで充実なスローライフ人生。

 

 決して、森の奥で一人隠居するわけではないのだ。

 人と付き合い、魔物と共に生きていく。


 それがカイウスであり、木村竜太の理想だ。


 彼は、その理想のためにひたっ走っていた。

 ただそれだけなのである。






 

「「「「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」」」」


 地上と地下を結ぶ場所に、そんなカイウスの様子を見る者達がいた。


 その者たちはその空間の状況を見て驚愕し、今では口が開きっぱなしになっている。


 色のついた魔法に簡単な形の魔法。


 それらは子供たちが使えるはずのない、立派な魔法師としての登竜門と呼ばれている技術。 

 しかし目の前では、その技術を使い笑顔で遊ぶ子供たちの姿。


 現実は常に非情だ。




 彼らの視線は自然とその原因となった存在に向けられる。

 

 その存在は今では、この街では有名な怪物であり、この街では尊敬されていると言っても良い存在。

 

 そんな存在を確認した彼らはそっと、本当にそっと、地下に続く扉を閉じるのであった。

 


 『怪物がとうとう化け物を育て始めた』



 彼らの内心は満場一致でこれであった。




『ウォォォォォ、ドラゴンの一匹でも狩って来てやんよォォォッッ!!』

                           BYレイ=ノムストル


 少しづつ見てくださる方が増えて行くのが、見ていてとても楽しい。



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