鬼による自重知らずの魔法訓練
『王女誘拐事件』これは翌日には多くの貴族達や王国民に知れ渡った。
王女が誘拐された、という一大事もその情報拡散に大きな助力をしたが、一番大きかったのはやはり”ノムストル”という名前が出たことによる、期待感が大きかっただろう。
数々の珍事件から王国史を揺るがす大事件に至るまで、全ての事件の裏にノムストルがいることを王国民たちは経験上、知っていたのだ。
今回もそのうちの一件なのだと大いに盛り上がった。
____わぁ、いいなぁ。やっぱ、かっこいいや。ノムストル様は。
____また、ノムストルだってよ。あそこの家はやっぱ格が違うねぇ。
____王女様が攫われたんだってね、最近は少し物騒だわ。
_______ああ、クリスト様。私の王子様。いつか本当に王子様に…‥‥ブッ。
____忌々しい、またあの家か。今後一切、私にこの話を聞かせるな。
などなど。
下は少年少女から上は何処かの豚貴族まで、多くの者達が噂し、盛り上げ、広めて行った。
そしてそんな火中のノムストルはというと、すぐに辺境へと帰宅し、少し大変な事態に陥っていた。
ノムストル家、というよりカイウス個人というべきだろうか、この場合は。
「旦那様方が王都に行った翌日の朝食から姿が見えなくなってしまって。帰ってこないのです…‥‥‥‥ポロロがッ!!」
「「「「…‥‥‥‥‥‥あ、まずい」」」」
その事態に帰宅した家族全員の意見が一致した。
まぁそんな彼らの心配は杞憂に終わるのだが。
~ポロロによるポロロのためのポロロ~
「‥‥‥」
そんな意味の分からない小屋を作ってしまうほどにカイウスの心は衝撃に見舞われていた。
心が傷ついているのである。
モフモフが足りない、モフモフ成分が圧倒的に足りないのだ。
もう皆無と言っていい。
モフモフ成分とは癒しと、その他の言い知れぬパワーを授けてくれる究極にして至高の成分。
特に今のカイウスには必要不可欠の成分だ。
「はぁ~~、はぁ~~~~」
「「「重傷だね」」」
「「「「重傷ね」」」」
「いや、重傷だのう」
「…‥‥‥‥ポロロぉぉ」
カイウスはずっと深い、それはもう深い溜息を吐いていた。
木村竜太、彼は実は動物が大好きだ。
もう人生の半分をそれのために捧げてきたと言っても過言ではない
ハムスターなどの小動物から、動物園にいる大型の動物まで、すべてを愛し、愛でて来た。
この世界に来てもその心は、精神は変わらない。
むしろ愛が大きくなった。
カイウスの盛大な目標には動物の、いや、魔物の楽園を作ることも含まれていると言っていい。
そのための土地はいくらでもあるし、モフモフの種類は前世と比べて圧倒的に増えたと言ってもいいかもしれない。
楽園ができるはずだった。
そんなカイウスの野望の第一歩がポロロだったのだ。
今のカイウスにとっての唯一の癒しであり、唯一の存在であるポロロとの触れ合いは彼にとって至高の時間だった。
ポロロのいない楽園何て彼は作りたくなかった。
「孫よ、もしかしたらなら、ワシはあの子の行き先に心当たりがあるかもしれん」
「…‥!? どこですか! あの子はどこに行ったのですか!!」
そんな日々を7日ほど繰り返したころだろうか、唐突に祖父がカイウスに希望を与える。
正直、警戒したほうが良い。
そろそろわかると思うが、祖父はナチュラルな鬼なのだ
自然とホントに自然と試練を与える。
「あやつは今、戦っておるよ。お主の知らぬところで、お主より強くなるためにな」
「な!? なぜそんなことを!! ハッ、まさか王都に連れて行けなかったのがそんなにショックで」
「そうじゃな、お主が空間魔法を会得していれば、こんなことにわならず、ポロロは今もお主の近くに居ったじゃろう」
「た、確かに、その通りだ。俺が空間魔法さえ習得しておけば、大きな別の空間を作り出し、対応できたかもしれない!!」
「その通りだのう。ズバリ、この状況はお主の力不足が招いたのだ!!」
「ぐっはッ」
「と言うことで、魔法の鍛錬を始めるぞ、孫よ」
「…‥‥‥‥‥‥わ、わかりました。師匠」
そんなわけない、そんなわけがないのだ。
何のために王都に行った?
それは祝福を受けるためにだ。
祝福とは?
魔法適性とスキルを授かる儀式の名称だ。
ということは?
祖父は不可能なことを言っている。
今ここに理不尽な鬼の誕生である。
一つ一つ解いていったらいいことも、今のカイウスには届かない。
今まで当然にあった物が無くなれば、人は自然と力をなくすのだ。
それが他人からいらない物だろうと後ろ指を指されてた物であっても、彼ら、彼女らにとっては大切な物であったのだ。
とにかくだ、カイウスは理不尽な鬼の手によって、これから機械のように魔法の練習に励んだ。
その姿はまるで、前世の木村竜太の様な姿であった。
ここからは彼の観察日記を紹介しよう。
魔法訓練”1日目”
座禅を組み自らの体内にある魔力を感じ取るカイウス。
時折、祖父がコツを語るが、なかなかうまく感じられないようだ。
その日は1日座禅で過ごす。
魔法訓練”2日目”
やっと魔力を感じ始め、そのあまりの少なさに祖父や家族は驚愕。
カイウス自身はそのことをなんとも思わず、ただひたすら増加、制御力向上に努める。
魔力欠乏し、少しの間倒れる、起き上がる、を繰り返す。
通りかかった使用人たちが、口元に手を当てながら目から汗を流していた。
きっと、目にゴミでも入ったのだろう。
魔法訓練”3日目”
祖父は驚愕していた、その増加量に。
通常はどんなに頑張っても元々の2分の1くらいが限界である。
しかしカイウスは違った。
3倍、いや、通常の5倍は大きく成長していた。
異常だ、異常。
元々の量が少ないと言っても伸びすぎである。
カイウスの祖父は驚愕し、この日から良く彼を観察し始めた。
この日、カイウスは遠い目をし、座禅を組んでいるだけであった。
早くも悟りを開き始めたのだろうか。
祖父はその姿をじっと見ていた。
魔法訓練”4日目”
増加量が少しづつ落ち着く、しかしまだまだ多い。
気絶の回数は変わらず、カイウスの眼はどんどん遠くなっていく。
そしてとうとう、祖父は孫と同じ行動をとり始めた。
”5日目”
上記と変化なし。
”6日目”
上記と変化なし。
魔法訓練”7日目”
この頃になって来ると、カイウスの表情が優しい微笑みなり、祖父が同じく遠い目になり出した。
使用人たちが人目を憚らず目から汗を大量に流していた。
きっと仕事が大変なのだろう。全くブラックな家だ。
魔法訓練”××日目”
この日は会話のみ記録。
「孫よ」
「なんですか、おじい様」
「お主、化け物になったのう」
「いえ、3日目くらいからなんだか自然の力を感じ始めて、思い切って取り込んでるんです」
「天才が誕生したのう」
「ははは、何のことやら」
「魔力量じゃと、もうすでにワシの半分じゃ。お主はそれ以上に自然に溶け込んでる魔力を吸収しはじめとるからのう。回復量もハンパない」
「自然の恵みに感謝です」
「そうじゃなぁ」
その日は二人で座禅をして1日過ごした。
魔法訓練”3か月経過”
これがカイウスにとっての、訓練最後の日。
あとは自らの時間が許す限りの鍛錬に切り替え。
正直、祖父が加減せずに育て過ぎた。
今やカイウスは他の追随を許さぬ化け物になっていた。
これはある草原での実践的練習。
「まず土魔法で大きな岩の塊を作り出します」
「ほう」
「次にこの岩を丸くし、硬く固めます、もっと硬くしていきます」
「ほうほう」
「次に空間魔法の転移の応用で…‥‥‥‥‥‥‥空高く、見えるくらいの位置に移します、見えると言っても豆粒くらいですが」
「ほうほう‥‥‥‥‥‥‥ほ、う?」
「あとは自由落下に任せます、これで落ちた先は惨劇ですね、全く運が悪い、隕石もどきに当たるなんて…‥‥‥どうせなら本物に当たればいいのに」
「馬鹿もん!! こっちにまで衝撃が来るじゃろうが!! はよ、どうにかせい!!」
「‥‥‥‥む、わかりました」
それが惨劇の始まりだった。
ここは遠くにある山の、盗賊達の終わりの物語。
「ここはいいとこだぜ、兄者」
「ああ、弟の言う通りだ」
「誰も来ないから宝の隠し場所にはもってこいだからね。きっとここに隠すなんて誰も思わないよ、兄者」
「ああ、お前の言うと通りだ弟よ」
「ねぇ、兄者」
「何だ、弟」
「外がなんか赤くなってるし、変な音が聞こえるね」
「そうだな、弟」
「兄者…‥‥‥‥‥」
「弟…‥‥‥‥‥」
次の瞬間、一つの山が消滅した。
そして同時に、不死の盗賊兄弟と言われたその道では有名な二人組の盗賊も、ひっそりとこの世から消えさったのだった。
文字通り跡形もなく。
「孫よ」
「なに、おじい様」
「その魔法、使うの禁止な」
「了解」
この日、カイウスが放った魔法は一つの山と、その場所に住む生物たち、そして一組の盗賊をこの世から消滅させたのだった。
ああ、どうしてこうなった。
『兄者、俺らは永遠に不滅だぜ』
『ああ、弟の言う通りだ』
BY山賊兄弟
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