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〜ある王女様のお話〜


 私の名前はアイリス=フォン=モーリタニア。

 栄ある、モーリタニア王国の第二王女だ。


「「「「「「一ッ、二ッ、一ッ、ニッッ!」」」」」」


「いち、に。いち、に」


 王女とは強く美しく、何より気高くあらねばならん。

 それは、万が一の時に王国民の支えとなり、盾となり、剣でいなければならんからだ。


 私こそが最後の砦となる!!

 そういう心構えだ。


 そのための毎日の日課だっそうであり、鍛錬なのだ。


 そうそう捕まえられると思うなよ、メイド長よ。

 私はまだまだ早くなる。


「くっ、まだまだたりない、騎士のひとたちはあんなにたくさん、そしてもっと早く振れているというのに…‥‥‥‥わたしは」


 そもそも、こんな風に思い始めたのは何だったか…‥‥‥‥‥確かあの本。

 いや、違うな、勘違いだ。


 何も、物語に出てくる騎士様に憧れたとか、そんなことではなかったはず…‥‥。

 

 違うな、違う。断じて違うはず。 


「アイリス様、本日は逃がしません。いえ、逃がせないのです。絶対に負けてはならぬ戦いがここにある、です」


「む、メイド長か…‥‥‥‥」


「はい、あなたの教育係兼メイド長のキャリアです。最近は疲労で倒れそうなキャリアでもあります。…‥‥‥今日は大事な夜会があると言っていましたよね、アイリス様」


 執念深い顔。

 これは絶対に逃がさないという気持ちが顔に現れているのだ。

 過去、この顔から逃れたのは数度だけ。


 この顔のメイド長はすごく手ごわいのだ。


「メイド長…‥‥‥」

 

「アイリス様…‥‥‥」


「「‥‥‥‥‥‥‥」」


 まずはにらみ合いからだ。


 数々の名勝負を繰り広げてきた、私とメイド長には阿吽の呼吸というものがあり、先に気を逸らした者の方が負ける。そのくらいギリギリの勝負だ。 


「あッ、騎士団長が倒れたぞ!!」


「ッ!?」


「フッ、私の勝ちだ」


 そんな中、もっとも古典的で、もっともメイド長に効果がある方法。

 

 それはメイド長が恋い焦がれる騎士団長を囮に使う事。

 メイド長はそれが嘘とわかっていても振り向いてしまう。

 それが乙女心という物らしい。


 乙女心とは複雑なのよ!!と姉さまが言っていたが。

 私には全く理解できん。


 ともあれ、これで私のか、ち?


「「「「逃がしません、姫様!!!」」」」

   

「な、にゃに!!」

 

 通路を曲がったその先は‥‥‥‥‥‥‥‥メイドの壁であった。

 メイドウォールなのだ。


 お、おのれ!!罠であったか!!!


「ふふふ、私を倒そうと。第二、第三の私がいるのですよ、なんせメイドは不死身ですから」


「メイドちょッーーー!! 貴様ァァァァ、おのれいッ、離せッ、離さぬか!!」


「お連れしなさい。そして、着せ変え人形のように扱うことを許可します」


「「「「ッッッ!!畏まりました、メイド長」」」」


「な!? や、やめろォォォォォ。私は騎士で王女なのだぞ、そんな着せ替え人形などと…‥‥‥‥。離せッ、離さぬかァァァァァァァァ!!!」



 必死の抵抗を試みるも、無駄に終わる。

 メイドウォールは数だ。

 数とは抗いようのない力なのだ。

 

 おのれッ、おのれッ、私は絶対に屈しはしないぞッッッ!!

 屈しはせんのだァァァァァ!!!


 心の中でそう叫んだ私はメイドたちの腕に抱かれて部屋へと連れ戻された。






 朝。

 いつもは起きていて日課だっそうを試みているであろう時間帯。


「ひ、姫様ァァァァァ、本当にご無事で、ご無事で何よりですぅぅぅ。キャリアは、キャリアは心配で心配で…‥う、うぅぅぅぅ」  

 

「…‥‥‥‥‥‥‥‥」


 あれから誘拐された私は、その日の内に助け出されこうして無事に戻ってこれた。  

 あまりにもあまりな事態に少し、茫然としている。 


 始まりは夜会開始時だった。

 別室で待機していた私は、夜会が始まると同時に侵入してきた賊達に秘密裏に拘束され、少しの時を置いた後、迅速に馬車へと連れ込まれ、何もできず連れ去られてしまったのだ。


 

 なんとも情けない話だ。

 日頃から鍛錬をしているのに、抵抗らしい抵抗もできなかったのだから。

 


 その時、護衛をしていたのは幾人かの騎士とメイドたち。

 メイド長は父たちの補佐のため会場にいたので襲撃時は居なかった。


 この襲撃で、軽傷者数名に、意識不明者が二名、死者が一名も出てしまった。


 これらの被害は私という存在が招いたこと、彼ら彼女らには本当に申し訳ない事をしてしまった。

 

 しかも死者はこの国を守る騎士の一人で、意識不明者は二人ともメイドたちだ。

 国を守る盾が一つ失われたのだ、永遠に。



 その騎士は最後まで私を守ろうと必死の抵抗の末、亡くなり。

 メイドたちは戦う力のないもの達が私の盾となり重傷を負った。


 勇気ある騎士には大きな感謝の気持ちを持ち続け、メイドたちには直接感謝の気持ちを伝えよう。


 彼の姿はずっとここに収めて置く。メイド達も早く回復してほしい。


 う、うぅぅぅぅ。

 このくらいしか出来ない自分が…‥‥‥‥なんとも悔しい。


 あの時一緒に居た少年ならもっとうまく出来ただろうに…‥‥‥‥。

 

「ひ、姫様? どこか悪いのですか? 少し顔色が‥‥‥‥‥‥」


「う、うむ。メイド長よ、私はむりょくなのだな…‥‥‥‥とてもよわい、のだ」 


「アイリス様…‥‥‥‥‥」


「誘拐された時はもちろん。された後は泣くことしかできなかった、怖くて怖くて、泣くことしかできなかったのだ」


「…‥‥‥‥それで良いのです。あなたはまだまだ子供ではないですか。これから一つずつ積み重ねて行きましょう…‥‥‥‥キャリアも一緒です」


「だが…‥‥‥‥‥‥‥あの少年は違ったぞ。怖くて何もできなかった私とは違ったのだ」


「…‥‥‥‥‥‥ノムストル家のお坊ちゃんですね?」


「そうだ」


 あの少年は泣くことしかできなかった私に笑いかけ、励まし、ボロボロになりながらも私の事を心配してくれた。

 こんな情けない私に温かい笑顔を向けてくれたのだ。


 あの少年は私と同い年。

 それを聞いたのは襲撃の後、すぐに彼の兄から聞いた。


 

 きっと怖かったに違いない、痛かったに違いない。

 泣き叫びたかったことだろう。 



 しかし私という存在がそうさせなかったのだ。

 そうさせてやれなかった。


 蹴られ、殴られ、投げ捨てられ、多くの悪意を小さい体で私の代わりに受けた。

 あの私よりも小さい体でだ。

 

「強かった。 私よりも強かったんだ、彼は‥‥‥‥ぅぅぅぅぅぅ」


「…‥‥‥‥‥‥身を挺してアイリス様を守ったそうですね。確か何も見えない状況で這ってアイリス様の前まで来たとか」


「‥‥‥‥‥そうだ。私の前まで這ってきて、私の代わりに賊の悪意を受け止めてくれたんだ。私はその光景を見て泣くことしかできなかった」


 あの強さは何なのだろうか、今の私では彼の強さが分からない。

 私なら最初の一撃で泣き叫んだ自信がある。

 むしろ受ける前に泣いていた。


 しかし彼はそれを何回も受けていた、受けた上でそれでも私の事を思ってくれていたのだ。


 ただの王女という存在である私のことをだ。


「ノムストル家の御仁達はそれぞれがそれぞれともに、素晴らしくお強い方々でしたが、此度のお方はまた一段とご立派になりそうですね」


「メイド長は分かるのか? あの方の強さが何なのか…‥‥。私には全くわからなかったというのに…‥‥‥」


 何だろうかこの気持ちは。

  

 あの方のことをもっと知りたいと思うと同時に、メイド長に語られるのは少し違うというか、胸のあたりがもやもやするのだ。 


 私よりもあの方知っている人がいるのは…‥‥‥何だかすごくもやもやする。


「これはこれは、フフフッ。アイリス様は早くも乙女になられるのですね」


「む、乙女だと? 私はそんな話をしているわけではないのだぞ!! …‥‥‥‥‥さては、何も分からない私をからかっているな、そうなのだろう!!」


「ふふふ、さて、それはどうなのでしょうか?」


「メイドちょッーーーー!!」


 彼の強さが何だったのか、この気持ちが何なのか、わかることになるのはもう少し先になりそうだ。   

 今は取り敢えず、からかってくれたこのメイド長に最大の嫌がらせをしてやろう。


 騎士団長という札を切ってな、ハハハハハ!!!






 彼の知らぬところで二人のお嬢様による戦いが切って落とされことになったのだが。




彼女たちの本格的な戦いが始まるのはまだまだ先のこと…‥‥‥。


少しづつ見直して行こうかと思っています。

誤字・脱字などがあれば是非ご報告してください。駆逐します。


 『その後、メイド長は騎士団長を美味しくいただきました』BY某メイド





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