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〜ある公爵令嬢のお話〜

公爵令嬢目線のお話です。


 わたくしはミリウス=フォン=バルトルス。

 王国の四大公爵家に連なる誇り高きそんざいですわ。


「おとうさま、おとうさま」

 

「どうした、ミリー」


 わたくしは今、王国の五歳を祝う誕生祭に向かっていますの。

 貴族として初めてのお披露目の場であり、大きな力を授かる大切なお勤めですわ!!


「夜会では同い年の王女様がいらっしゃると聞きましたわ…‥‥‥‥‥。わたくしお友達になれますでしょうか?」


「あはははは、友達か、友達ね‥‥‥‥‥‥‥」


「え、えっと‥‥‥」


 はっきり言います、わたくしにはお友達がいません。

 家での時間は使用人たちが少し遊んでくれる程度で、それ以外は貴族らしく振る舞うための習い事ですわ。


 何でも同年代の子たちと遊んでも良いのは平民や、下級貴族の子達で、わたくしは目上の方や、上級貴族の方々としか遊んではいけない、と教育係のローザに言われ続けてますの。


「ローザは良い教育係なんだけど、少し行き過ぎた教えをする時があるからなぁ、まぁ貴族としては間違っていないから少し言いにくいんだけどね」


 父さまは何か感慨深そうにわたくしに言います。

 その姿はわたくしが今まで見たことのない姿でした。


「ローザが間違ってますの?」


「う~ん。間違ってはいないかな?」


 ローザはバルトルス家に置いて最も威厳と、信頼のある最古参の使用人ですわ。

 

 彼女は間違ったことはすぐに正しますし、何かあるごとにわたくしの世話を焼いてくれます。


 家族がたくさんいる中でも一番わたくしと一緒にいてくれるんです。


 そんなローザが間違っているわけないですわ!


「まぁこれからは同世代の子とも接する機会が多くなるから、少しずつ分かって行けばいいよ」


「…‥‥‥はいですわ。わたくしこの機会にたくさんのお友達を作りますの!」


「うん。それでいいと思うよ。‥‥‥‥‥‥‥‥‥けど一つだけ、一つだけ注意しないといけないことがあるんだ」

   

「おとうさま?」


 おとうさまは基本、真剣な顔をいたしませんわ。

 いつも捉えようのない笑顔を振りまいて、わたくしたちに安心と 

 安堵をあたえてくれるのです。


 でも、今の顔は真剣で、まるで少し怒っているかのよう。


 この顔はお父様のコレクションを触った時以来です。


 何か大切なお話のはず、ですわ!


「ノムストル家と会った時は決して失礼な態度はとってはいけないよ、大切な大切なお友達と話すと思って、接するんだ。いいね?」


「ノムストル辺境伯様ですか? わたくしあったことがないので知らないですわ」


「大丈夫、嫌でもわかると思うよ。あの家の子供が普通であるはずがない、それに周りがざわつくはずだから、その時に確認しなさい」


「…‥‥‥わ、わかりました、おとうさま。少しお顔が怖いです…‥‥‥‥」

  

「おっとこれはいけない。ごめんよミリー、真面目な話はこれくらいだから、そんなに怯えなくていいよ」


 父さまの真面目なお顔は正直怖いです。

 普段が普段なので、違いがあり過ぎて怖いのです。


 今は、優しく包むようなお顔ですが、真面目なお顔は鋭く細められた目に、体全体が大きく感じます。



 ローザはそれが大貴族のあるべき姿だと嬉しそうに言っていましたが。


 私は普段のお父様のほうが大好きなのですわ!!






 それから馬車は王都に入り、王都にある屋敷で夜会まで一休みしました。


 王都に来るのは初めてでしたけど、馬車の旅はあまりにきつく、王都に着いた時にわたくし、眠っていましたの。

 少し残念ですわ。

   

 まぁいいです。王都ならきっとこれからも来る機会があるでしょうから、またの機会に存分に満喫してやる、ですわーーー!!


「あははは、とっても綺麗だねミリー。お母さん達が一緒じゃないのが少し残念だ。絶対に喜んだだろうに」

 

「おかあさま達は、わたくしを着せ替え人形のようにしたに違いありません。居なくて少し安心してます」

 

「あはははは、ミリーはお姉さん達にも引っ張りだこだからね、たぶん予想通りになったんじゃないかな?」


 わたくしには三人のおかあ様と三人のおねえ様、二人のお兄様がいます。


 みんながみんな可愛がってくれるのでとっても楽しい日々を送っています。

 ローザは良く他の公爵家ではこうではない、と言っていますが。

 ではどんな風なのです?と質問をしても優しい微笑みでごまかすばかりですわ。

  

 この謎に答えてくれる人はいないのでしょうか?


「閣下、お元気そうで何よりです。こちら私の愚息になります、どうかよろしくお願い致します」


「そうだな、伯爵も元気そうで何よりだ。息子も貴殿に似てとても精悍な顔つきをしている、将来が楽しみだ」


「ミリウス様の方こそ。両親ともに似てお綺麗で。将来はさぞ美しくなられるであろう。

  

 お父様たちはにこやかにそれでいて優雅にお話を続けています。

 

 けれど私は…‥‥‥‥‥‥。


「…‥‥‥誰も来ませんわ‥‥‥」


 一人。


 この煌びやかな会場で一人優雅に、散歩してますの。 


 うぅうぅ、遠巻きに視線は感じるのに全く近寄って来ません。

 挨拶は完璧でしたのに…‥‥。


 なぜでしょうか?


 たくさんの方と後でお話するはずでしたのに、皆さん一言二言話すとすぐに離れてグループを作ります。


 そしてグループで楽しそうに騒ぐのです。


 輪に入りたい、そう思っているのですが、その行為は私の立場では品位を下げるとローザが言っていました、参加するのではなく参加するグループを作り出すのが役目、なのだそうです。


 無理ですわ!


 これから作り出すには人数が足りませんし。

 一人きりのお方なんて…‥‥‥‥‥。

 

 ん?あれ?


 今この会場で一人なのは…‥‥‥‥‥‥あ、いた、いましたわ!

 けれど…‥‥‥。


 ”ノムストル”様ですわ、ね。 


 私の完璧な挨拶を上回ってきた、唯一の人。 

 

 一つ一つの動作や声音、そして考えられた挨拶。

 すべてに洗練された風格があって、圧倒されました。

 

 隣にいたお父様も一瞬素が出て、ほぉ、と漏らしてましたわ!!


 今までわたくしですらそんなこと言ってくれませんでしたのに!!


 とにかく、女は度胸ですわ!お母様達の言っていた通りに攻めて攻めて攻め抜くのです、ミリー!!



「こんなところで、何をしていますの? カイウス=ノムストル様」


 

 壁際に背中を預け、ワイングラスをクルクルと回しています。

 これは絶対に暇を持て余しているんですわ!!


 私がお話相手になっても良くってよ?


 ノムストル様はその綺麗な金色の髪をゆらっと揺らし、母親譲りの深紅の瞳でこちらを真正面から見つめてきます。

 

 ぐっ、わたくしと同い年のくせに、すこし雰囲気が父さま並みに感じます。

 顔はすっごく幼いのに!!キッー、悔しいですわ!!


「これはこれは、ミリウス様。ご機嫌麗しゅう」


 くっ、一つの一つの動作が綺麗ですわね。

 なんだか負けた気分ですわ、わたくしだって…‥‥‥。

 

「む、わたくしは何をしているのか聞いたのですわ。べ、別に私のご機嫌はどうでもいいのですわ」


 ち、ちがーう。

 わたくし違いますわ。

 そこはもっとこう、おぶらーとに包むというか、優しく返すのがいいはずですのにッ!!


 こ、これでは、先ほどの皆さんように離れて行ってしまいますわ。


 ひ、引き留めなくては。

 

「私は少し壁のお友達になっていただけですよ、なんせ、私に近づくと食べられてしまうらしいですからね」


 お話継続!?

 それも優しく笑いかけてきてくれるなんて。

 なんて良いお方なんでしょう。


 あそこまで失礼な態度を取ってしまった私に、チャンスをくれるんですね、わかりました。


 そのチャンス、絶対に逃しません!!!


「壁、と?そんなのウソですわ。壁とお話なんてできませんのよ?そんな相手とお友達になるなんて、なれるわけありません!!」

 

 ま、待ってくださいまし、わたくし。

 そこではありませんの!そこ別に重要な所ではありませんわ!!


 あああ、また失礼をしてしまいました。

 恥の上に恥を上塗りしてますわ。ど、どうしましょう。


「ええ、確かに。普通の人には無理でしょうな。…‥‥‥‥これは秘密にしていてください、実は私だけは違うのです。なんせ、あのノムストル家の人間ですから」

  


 え!?

 あ、あのちょっと近かったというか…‥え、え~~~~!?


 まずいです。とてもまずいです。

 不意打ちですわ、不意打ち。

 

 もうダメかと思ったらまだ話してくれるんですもの、嬉しくてつい油断を。


 そこをつくように耳元で囁くように言っていくだなんて…‥‥。


 それに秘密。秘密なのですわ。 

 なんとも甘美な言葉を使うのですねノムストル様は。 

 

「そ、そうでしたわね‥‥‥‥‥」

  

 そう返すのが今の私ではめいいっぱいです。

 少しづつ頬の辺りに熱が籠ってきて、少し恥ずかしいですわ。


 これはせんじゅつてき撤退を行うしかありません。

 もはや勝ち目のない戦なのです。

 完敗ですわ。


「え、えっとわたくしおとう様たちの所に行かないといけないから…‥‥‥‥‥‥‥これでしつれいいたしました!」


「それは残…‥‥‥‥‥‥‥」


 何かノムストル様が言っていたような気がしますけど…‥‥‥撤退です、撤退。


 今は即時撤退が必要なのですわ!!



「おや、ミリー。そんなに慌ててどうしたんだい?」


「…‥‥‥‥‥」


 おとう様は慌ただしく来たわたくしを不思議に思ったのか、温かく迎え入れてくれます。


 ですがわたくしの瞳に映るのは壁際に腰かけ、苦笑いを浮かべるノムストル様が映っています。


「あははは、どうやらノムストル家の子と話したみたいだね。どうだった?普通じゃあなかっただろう?」


「…‥‥‥‥‥とても優しかったです、わ」


「えっ」


 おとう様に感じたそのままの事を話します。

 会話が不慣れなわたくしと何度も話そうとしてくれたこと、決して怒らずに終始笑顔で接してくれたこと、短くともすべてを話しました。


 話していてなんだか楽しかったので、少しの水増しはあったかもですわ。


「ふぅ。あいつはまた化け物を生んだのか、全く勘弁してくれよ『聖者様』」


「聖者、様? あの、聖者様と親しいのですか、おとう様は?」


 おとう様がここまで砕けた口調で話すのは親しい人か家族のいずれかだけです、聖者様は家族ではないのでおそらく親しい間柄なのでしょうが…‥‥‥‥‥。

  

「そうだね、腐れ縁というかなんというか。お父さんにもいろいろあるんだよ、ほんとにいろいろだけどね」

  

「む、帰ったら聞かせてくださいますか?」


「ああ、もちろんさ。少し長くなるけどいいかな?」


「はいですわ!」


 この後、誘拐事件の発覚や賢者様の王宮破壊劇があったのですが、それはまた別のお話。



 

 わたくしはこの日、決意を新たに家路に着きましたわ。

 

『お友達を作ってみせる!!』


 ローザには聞かせられない少し情けない目標ですが、必ずやり遂げてみせます。

 

 あ、あと、機会があればノムストル様ともう少しお話をします、わ。






 『べ、別にボッチとかではありませんわ!!』BY公爵令嬢


 




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