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王都と誘拐~中編・後~


 

 貴族の夜会。



 輝かしいシャンデリアに、豪華絢爛でド派手な衣装を着た参加者達。


  

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」



『落ち着かない』


 カイウスが今いるのは贅沢に贅沢を掛け合わせたような場。

 

 そこは前世ではほぼ無縁だったと言えるような場だ。

 

 参加者は全て貴族で、下は貧乏な準騎士爵から上は王族の血縁者の公爵までより取り見取り。

 

 そこに王族まで加わるというのだから笑えない。 

 

 決して笑えるところはないのだが。


 とにかくすべてがキラキラとしていて、前世までの感性なら少し下品に感じる程、参加者も会場も光り輝いている。


「おい、あいつだろ。例の家の‥‥‥‥‥‥」


「ああ、おとうさまが言ってたぞ、近づくなって」


「食べられちゃうんだよね? うぅ、こわいわ」


「違うぞ! 悪い子にしてたら、夜にこっそり連れていかれて、大きな鍋で焼かれるんだぞ!!」


「え、なにそれ?」


「ぼ、ぼく、向こうにいってるね…‥‥‥‥‥」


「ま、まってよ!!」


「「「ぼくたちもいく!!」」」



「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


 

 カイウスの居心地の悪さはそんな豪華絢爛な会場だけのせい‥‥‥せいだと思いたい。  


 何も会場に入った瞬間から怯えられたとか、一歩進んだら三歩以上下がられるとかではない。


 しかも夜会が進むに連れ、少しづつ距離が縮まっていたにもかかわらず、いまだにボッチなのも噂に拍車をかけている、わけではないと思う。そう思いたい。




 しかし現実問題、誰も彼に話しかける者はいない。 

 

 もちろんこれは最初の顔合わせ以降の話だ。


 初めは、親と共に回っていた。

  

___どうも、息子です。   

___初めまして、息子です。

___その祖父です。

___その母です。


 ここまで軽くないが、父、母、祖父と共にそれは丁寧に挨拶回りをした。

 その姿は他の貴族たちに感嘆とほんの少しの嫉妬を生むほどだった。


 なんせカイウスの父もその礼儀作法には感嘆したほどだ。


 前世の木村竜太の本領発揮。

 

 礼と義は社畜として徹底的に、それはもう魂に刻まれるほどやっている。

 

 というかこの程度、社会人として身に着けていないとあっという間にドロップアウトだ。

  

 そんな彼の礼は、貴族の子供では圧倒的で貴族達おやに警戒させるには十分だった‥‥‥そう親たちに。



「こんなところで、なにをしていますの? カイウス=ノムストル様」



 という事情で子供たちが寄り付かず、どうせ一人でいるならと壁際にいたわけだが。


 そんなカイウスのもとに一人の少女が話しかけて来る。

 

 その少女の容姿はとてもかわいく、将来美人になること間違いなしの有望株だ。

 

「これはこれは、ミリウス様。ご機嫌麗しゅう」


「む、わたくしは何をしているのかと聞いたのですわ。べ、別に私のご機嫌はどうでもいいのです、わ」


 ミリウス=フォン=バルトルス。


 この国の四大公爵のうち、その一席を占めるバルトルス家の四女。


 この国の貴族家として、何よりこの先の快適な暮らし(スローライフ)を送るために警戒しなければいけない相手。

  

 なんせ、目を付けられてはいけない、敵対してもいけない。


 なかなか対応が難しい相手なのだ。 

 

「私は少し壁のお友達になっていただけですよ、なんせ、私に近づくと食べられてしまうらしいですからね」


「壁、と? そんなのウソですわ。壁とお話はできませんのよ? そんな相手とお友達なんて、なれるわけありません!!」


「ええ、確かに。普通の方には無理でしょうな。‥‥‥これは秘密にしていてください、実は私だけは違うのです。なんせ、あのノムストル家の人間、ですから」


「そ、そうでしたわね‥‥‥」



 解説入ります。


 まず、カイウスは壁と会話なんてできません。これ絶対。


 しかしカイウスは、そんな言葉を信じさせることができる魔法の言葉を使います。

 


 ”ノムストル”。   

 

  

 はいっと、あら不思議。

 遠巻きに見ていた取り巻きたちもこの言葉を聞いて頷く始末。


 そして秘密、と言ったところではお嬢様に近づいて親密度アピール、からの不敵な笑みの攻撃。

 

 どこのチョロインだってくらいお嬢様は動揺している。

 

 やったね。


 解説終了。


「え、えっと、わたくしお父様たちの所にいかないといけないから‥‥‥これでしつれいいたしました!」


「それは残念です。もう少しお話したかったのですが‥‥‥あ、行っちゃったかぁ」


 カイウスの礼も聞かず、バルトルス家のお嬢様はトテトテッと彼の元を去り、親である公爵の元へと向かう。

 

 もちろん、その横顔は少し朱に染まっていた。


 

 『ミッションクリア』



 それがカイウスの中の純粋な思い。

 

 無難に、それでいて失礼なく振る舞えたと思っているのだ。


 まぁ悪印象を持たれていない、と言えばその目標は達しているのだから文句は言えない。

   

 カイウスだって、この会場に来て初めてのフリーな会話なのだ。少しくらい失敗しても仕方ない。


 いや十分な成果だろう、なんせ公爵の娘に好意を持って貰えたのだから。








 その後、夜も少しふけ、辺りが完全に暗くなったころ。

 

 豪華絢爛な夜会はまだまだ終わる気配がない。

 

 それどころか今からが本番とでも言いたげな雰囲気であった。


「うん? どうしたカイウス、何かあったのかい?」


 そんな会場の中、カイウスは少し俯き加減に父のもとを訪れていた。


「先に、屋敷に戻っていてもいいでしょうか? 少し体調が優れなくて‥‥‥」


「‥‥‥うん、わかった。父さんたちはもう少しいるから、馬車で先に帰っていなさい」


「ありがとうございます、父さん」

   

 仮病だ。

 必殺にして究極奥義。


 これですべての関係者が死ぬ。


 というのは少し忙しく、ギリギリで回っている会社での話。

 こういう場ではいくらでも使っていいだろう。


 前世の木村竜太も、良く飲み会やそれに準じたもので使って、こっそり会社に戻っていたものだ。

 もちろん仕事をしに。


「えっと、ノムストル家へお願いしたいのですが」


「かしこまりました、こちらになります」

  

 夜会の会場は王宮。   


 夜会は五歳の誕生を祝う貴族たちもそうでない貴族たちも参加して、盛大な催しになっている。その規模はやはり最大級のもので、今回は王族から王女様も参加したことにより盛大なものになっていた。


「こちらで少しお待ちください、すぐに出発いたしますので」

   

「はい、わかりました」


 そんな催しには各貴族にそれぞれ送迎の馬車が着き、道中のお世話をしてくれる。


 馬車の数は圧巻の一言で、この場所だけでも数百台はありそうなほど。

  

 だから何が紛れていても不思議ではない。

 木を隠すなら森の中である。


「少し、遅くないか? ‥‥‥寒いんだけど」


 季節的には地球で言うところの春に近いだろう昼の天気も、夜になれば少しは肌寒くなるというものだ。

 それが子供ならなお、寒く感じるだろう。

 

 しかし待てども待てども、馬車が動き出す気配も、御者がくる気配もない。

 

 さすがに遅すぎると様子を見ようと馬車の扉を開けようとした時、勢いよく馬車の扉が開き、これまた勢いよく何かが投げ飛ばされてくる。


 カイウスは投げ飛ばされたそれに思いっきり下敷きにされ、体のいい衝撃吸収材になった。


「グェッ」


「ふむぅ!!」


「出せッ!! 早急に離脱だ!!」

 

「分かっている!! 足止めは!?」


「完璧。けど、化け物一家もいたから少し不安」


「それなら気にするな、対策はしている」


 カイウスが衝撃でよくわからないうちに、続々と馬車の定員が増えて行く。  

 多くて6人、御者も合わせると7人もの全く知らない人物が乗り込んでくる。


「出せ、ここからは時間との勝負だぞ、各員気を引き締めろ。化け物が追って来るぞ」     

  

「「「「「了解」」」」」


「それと‥‥‥化け物用の人質にも少し眠ってもらえ、俺たちの命綱だからな」


 隊長らしき人が言うと少し湿った布が彼を襲う。

 

 抵抗という抵抗が出来ずに彼は眠りへと誘われた。


 カイウスが最後に思ったのは『どうしてこうなった』ただそれだけであった。


 それから少しして王宮から大きな爆発音と、一人の影が飛び出した。





 



 


 

 その頃、夜会では‥‥‥。


「王様、こちらにお耳を‥‥‥」


「うむ、そうか、やられたか。警戒はしていたが、少し侮り過ぎたな。”賢者”にでも話しておけば良かったか‥‥‥」


「それは‥‥‥‥‥‥‥。実はそのことでもう一つお告げにならねばならぬことがあります」


「なんじゃ? 言うてみろ」  


 側近の緊迫した表情に、王は若干の冷や汗を流す。


「ノムストル家の三男、カイウス=ノムストル様も共に連れていかれた可能性が高いとのこと、です」


「‥‥‥まずいまずいまずい、それは非常にまずいぞ。あやつらを動かしていいのは戦争の時、ただそれだけじゃ。それ以外で動かせば‥‥‥」


 側近の報告を聞いた王は何か悩みがあるような仕草で自らの効き手を口元へと充てる。

   

 それはとても深刻な時の、王の長年の癖であった。


「すぐに解決しろ。何を使っても誰を使っても構わん、必ず今夜中に全てを終わらせるのだ。あとは、知られてはならぬ、決して知られては‥‥‥」


 そんな王の側近への呟きは、この場にいる人物のある一言でブチ破られることになる。  


「ほう、これは見事な結界術だのう、ここまでの隠ぺいと硬度じゃと、足止めがメインかのう‥‥‥のう? 王や」

   

「…賢者よ」


 王にできたのは天のない天を仰ぐことだけ、それ以外のリアクションのすべを王は持ち合わせていなかった。


 そんなこの国でも超重要人物たちの会話に、参加している貴族たちが気づかないはずがない。

 

 いつの間にか全ての視線が二人に集中していた。


「何もない、少し余興でもと思ってやってみた。王宮の守りが手薄では心配だろう? なんせここは‥‥‥」


「ワシに、ワシらに嘘は通用しませんぞ。いつからあなたの事を見ていると思っているんですかな」



 王の誤魔化しもこの老人には通じない。


 それどころか老人には似つかわしくない眼光で王を見ていた。


「‥‥‥ふぅ。何も珍しい事ではない、歴史上よくあったことがこの王国でも起こった、ただそれだけのことよ」


 王はそれ以上は口にできないのか、口をつぐみ側近の方を見る。

     

「ゴクッ‥‥‥この度、賊の侵入が確認され、アイリス=フォン=モーリタニア様、カイウス=ノムストム様の『誘拐』が確認されました。カイウス様に関しては巻き込まれた、ということしか分かっておりません」


__パリンッ__  


 静かになったこの会場に良く響いたそれは、あるご婦人が持っていたワイングラスの取っ手が砕け散る音。よく見ればそのグラスの取っ手の部分は融解していた。


 そんなグラスが誰のものか、それは言うまでもないだろう。


 その人物は真っ赤な自慢の髪を少しづつ、少しづつ逆立てて行き。


 顔を俯かせている。


 その隣にいる男性も、穏やかにそれはもう穏やかな笑みを浮かべて、そっと手に持ったワイングラスを近くの机の上へと置く。

 

 そして次の瞬間にはこの男性の笑顔は穏やかなものからひどく冷めた、冷たいものへと変わった。


「そうですか、まだワシに、ワシらに喧嘩を売る者がおりましたか‥‥‥なんとも迷惑なものですな、少しは年寄りというもの労ることをしてほしいものじゃ」

 

 一番王にとって頭を抱えさせたのは目の前の御老人だろう。



 ”賢者”



 その名に恥じぬ重圧を開放したその御老人は、もはやその場での支配者と言っても過言ではなかった。


 王はそのことに酷く頭を痛めた。


『だから知られたくはなかったのだ』と。

  

 しかしまだまだ本番はこれからである。


 そんな呟きなど吹き飛ばすのが”賢者”であり、ノムストルという家だ。


「ほうほう‥‥‥このワシに喧嘩を売ったこと、後悔させてやろう」

  

 その御老人はあろうことか、王宮の壁に片手を向け、決して呟いてはいけないことを発した。


  『エクスプロ―ジョン』


 次の瞬間には王宮の壁が爆散し粉々となり、風に流されていく。


 火の適性を持つ者がやっとの思いで発動する、または補助道具つえなしでは発動などできないと言われている魔法。


 それを片手一本をかざすだけで行えてしまう。


 それこそが”賢者”。


「ほっほっほ、ワシが追うからお前たちは王都にいる全員を召集、即探索を開始しなさい。わかったか?」


「わかったわ、少しもやもやするけど‥‥‥」


「お義父さんが行ってくれるなら、それ以上の安心はないですね、後処理はお任せを‥‥‥カイウスを頼みます」


「任せておけい、いい気分を邪魔されて、久々に頭にきたからのう。少し地獄を見せてやるだけにしておく」


「ははは、それは良い、では、ご武運を‥‥‥」


「行ってくるわい」   


 そのまま賢者は夜の王都へと降り立っていく。


 夜会の会場は王宮の高さ30メートルくらいの場所、そして外は深い闇の中である。


 そこにためらわず降りる姿はもはや人間とは思えない。

 


 今宵来ていた周りの貴族、その息子達、全てに見せつけられたその光景に。




 王は、側近にそっと差し出された胃薬を服用するのだった。

 残念ながら、側近は頭痛薬は常備してなかったそうな。



次は解決に持って行ければと、もしかしたら前とこうでわかれるかもしれないです。

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