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王都と誘拐~前編~


「‥‥‥」


 時折、不快な揺れに晒されながらカイウスは目覚める。

 

 起きてすぐカイウスが気付いたことは、彼の体全体がもっさりとした布に覆われ、口には猿轡が噛まされていること。


 そしてこの不快な揺れ。


 原因はたぶん馬車であろう。どこかに運ばれているのだ。


 このことから分かるのは‥‥‥。



   ”誘拐”



 目覚めたてのカイウスの頭ですらわかる状況に、内心、戦々恐々としている。


 前後の記憶が少し曖昧で、今どんな状態で、どこに向かっているのか、犯行目的は何なのか、彼には今、わからないことばかりだ。


 考えては消え、考えては消えを繰り返している。

 まさに混乱の極み。

 

 そんな中、カイウスが唯一わかるのは今は何もできないことだけだった。

 

 身動きも取れず、呼吸すら厳しい。


 この状況でカイウスができるのは一つだけ、彼はそれを理解すると同時に、

 ゆっくりとその瞳を閉じた。







 そもそもなぜ彼、カイウスがこんな状況に陥ってしまったのか。

 それを知るには王都に来た約半日前に遡ることになる。






「カイウス、ポロロは連れて行けないよ? だからポロロの威嚇状態を解いてくれないかな」

   

「父様、ポロロはとても良い子です、私の言う事には逆らいませんし、こちらの意向に沿って動くこともできます。とても優秀なのです。だから、何も問題ありません」


「すまない。家にもできることの限度がある。さすがにヘルウルフを王都に連れて行ったら、謀反を疑われてしまうよ。そうなれば王様に申し訳が立たないんだ‥‥‥だからね? 早く降りてきなさい」


 王都にサラッと災害級のペットを連れて行こうとするカイウス。

 それは少し、だいぶ無理がある。

   

 ポロロと出会って僅一年あまりしか経っていないが、その体躯は大きく変わっている。


 出会った当初は四歳時にも何とか運べたほどの大きさだったのだが、今はもう持ち運ぶには不可能な大きさだ。

 

 全くもって一年で急成長したものである。

 大きさ的にはもう馬と変わらないほど大きいのだ。


 そんなポロロを連れて行けば、王族はもちろん、貴族達や果ては王都に住んでる人たちまで驚いて腰を抜かしてしまうだろう。

 いや、腰を抜かすだけで済めばいい方で、大抵の人間は怖がって怯えてしまうこと間違いなしである。


 そんなことはいくらノムストル家でもやり過ぎである。

 

 カイウスはそんなこと考えていないのだが…‥‥‥‥‥。


 少し遠出でするし、新しい所でも散歩させたいなぁ、ぐらいの気持ちだ。


 まさにペット感覚である、それが災害級でも関係なし。


 彼にとってはポロロとは家族でありペット、それだけなのである。


「そうですか‥‥‥分かりました、父様の言う通りにします。ポロロォ、ごめんなぁ、少しの間留守番していてくれ、怪我しないようにな」


「クゥン」


「うぅ、ごめんな。今回は父様の、当主様のご意向に従わなくちゃいけないんだ。貴族として王都に行くからさぁ」


 カイウスはなんとも汚いことに、連れて行けないことを社会という抽象的な物から父という有機物の塊に責任転嫁したのだ。

 これでポロロの父に対する好感度は大暴落である。


 最近頑張って餌付けから始めて、やっと撫でるくらいには仲良くなった父からすれば、この状況は少し、いや、だいぶきついものがあった。


 しかし、素直に引き下がってくれた息子に少しホッとし、『また餌付けから始めよう』と決心を新たにする。


「では行くとするかのう、忘れ物は‥‥‥まぁ、必要な物はその身一つくらいじゃて心配せんでよかろう」


 その光景を何を感じるわけでもなしに一人の御仁が見ており、解決したと思えばサッサと次へと進めていく。

 

 この祖父もなかなかの鬼であった。


「行くぞ‥‥‥」


 そんな祖父の周りには三人の姿。

 

 父、母、カイウスそして祖父、それが王都に向かう面々であり、本当に必要最低限の人数であった。

 

 他の貴族ではありえないほど身軽で、考えられないほどの人数。

 

 しかしそれを許されているからこそのノムストル家であり、貴族の中では特殊で特別な家であった。 







 カイウスが転移した先で見たのは大きな門と城壁そして、城。


 豪華絢爛なそれは、ここが国の首都だということを物語っているようで、その姿はカイウスに大きな存在感を示していた。 


 しかもそれだけではない。

 城門の前には長蛇の列ができており、そこの人の数だけでも一つの都市ぐらいの人数は居そうなほどである。

 

 まさに圧巻、この一言だ。

  

「ふふふ、カイちゃんがここまで驚くなんて、もっと早くに来ればよかったわね。ね、あなた?」


「そうだ、ね。少しクリストに任せっきり過ぎたかな。招待された茶会やパーティーなんかも代わりに出てもらってたし、これからは僕も少し頑張るよ、カイウスと一緒に」

  

「ほっほっほ、見事に飛び火したのうカイウスよ。あんな楽しくもなんともないものに出るとは、なんとも可哀想なことよ」


「お父さんも一緒に決まっているでしょう。いろいろな所からの招待状が送られて来てはクリストかレイに押し付けてるんだから、当然です。たまには代役なんかじゃなくて本人が行かないといけませんから」


  「「「‥‥‥」」」


 母無双。 

 まさに読んで字のごとく、彼らは黒い笑顔を浮かべた母に手も足も出ずにやられ放題である。


 だが、同情はいらない。その同情が向けられていいのは兄であるクリストだけ。


 彼らは正論を述べられて無双されているだけで、正しいのは言うまでもなく母なのだから。


「この列に並ぶのですか、とても今日中に入れそうにないですね」 


「それなら大丈夫さ、この列は他の都市や国から来た者達で、商人や王都民達、それに貴族用の受付があるからね、僕たちはすぐに入れるよ」


 王都の城門は一か所に着き最低三つに分けられている。


 これはやはり”身分”というものがこの世界において重要なものであるということをこの門は現している。


 この世界は”強さ”と”身分”というものにきわめてシビアであると同時に、この二つが世界を作っていると言っていいほどに重要なものなのだ。


 ”強さ”とは生きるための力を指し、”身分”とは生まれながらに決まった力であるからだ。


 ”強さ”は皆に平等に与えられた力であり、”身分”はどこまで行っても不平等な力であった。


 城門からはその”身分”の力と不平等さをひしひしと感じる。


「ここは貴族でも力ある貴族が使える門だよ、検査はなしに顔パスだ。ほんと楽でいい。これだけは身分に感謝だよ‥‥‥はぁ」


「あら? 何か不満がありそうね、あなた。今夜は屋敷の裏に呼び出しよ?」


「あはははは、そんな、不満なんて‥‥‥もう感謝しかないデスヨ」


「カイウスよ、ああなってはいかんぞ。今ある身分というものに驕る者ほどすぐに破滅してしまうからのう。‥‥‥お前の父は大丈夫だがな、驕る方向性が少し違うからのう」


「父様が自信のない驕りで、悪い驕りはその地位に固執し、周りが見えなくなってるような状態の事ですね。肝に銘じておきます、おじい様」


「うむ、ならばよい」


 そんな会話をしつつ一行は王都の門を軽々しく通っていく、横の門に長蛇の列があってもお構いなしだ。

検査らしい検査などもなかった、彼の父が一枚の紙を門番にチラッと見せただけで終わりだ。


その行為は少しこの国が心配になるほどである。


なんせ、ここを通れる貴族は何でも持ち込み放題。 


絶対に危険物などを入れている、そう確信できるほどに。

 

 まぁ、そうカイウスが心配したところで何が変わるわけもない、彼は貴族家の三男でしかないのだから、そうそう国の政ごとに関われるわけがない。

 

 関わる気もない。


「大きいですね、さすが王都と言ったところですか‥‥‥」


「そうだねぇ、この国で一番大きい都市で、最も豪華なお城があるところだからね、人がたくさん集まって来るし、その分賑わいも出てくる。まぁ、問題が全くないわけではないんだけどね」


「店の数が家の領とは比べられないくらいにありますし、何より種類が多い。ああ、少し寄ってみたい」


 数多くある店の内、カイウスが選んだのは魔法関係の店。

 たくさんの本や魔道具が置いてある、質素なお店だった。

 

「観光は後だよ、先に王都の屋敷に行って使用人たちに挨拶しないとね。今日来ることは伝えてるから、今か今かと待ってるはずだよ」


「うぅ、自分の欲のために人様に迷惑は掛けられませんね、わかりました屋敷に行きましょう。‥‥‥ですが、後日必ずここに来ますから、絶対ですからね!?」


「はいはい、その時はみんなで案内してあげるから、今は我慢してね」


 カイウスにどの口が言うのだと言いたい。

 これまで生きて来た五年間でどれだけの迷惑をカイウスの父は被ったか、丸一日話しても足りないほどである。


 しかしカイウスに言わせればそれはそれ、これはこれ。

 カイウスにとっては父や家族には多少の迷惑はかけて良いもの、その他はダメという謎の認識があったのだ。


 内弁慶ここに極まれり、まさにこの言葉が言いえて妙なのだろう。

 

  


 

 それから少し歩き、先ほどまで賑わいが無くなり、代わりに立派な建物が増えた場所。

 所謂、貴族街と呼ばれる場所に差し掛かったのだ。


 その場所の一つで父たちが立ち止まり、正面の門の前に立っていた騎士が深く礼をする。


 どうやらここか目的地らしい。


「ここが、王都の屋敷だね。あまり大きなものではないけど、中は一級品ばかりだよ」


「これで大きくないか‥‥‥」


 その建物は確かに周りと比べると大きくないが、それでも辺境にある本邸よりは豪華で何より大きかった。

 カイウスはそんな家に自然と入っていく祖父や母、そして父を見て慌ててそれに続いて行く。


 カイウスは、今日一日で起こったことそれら全てを思い出して、改めて家族が貴族と言うことを思い知ったのであった。







 できれば毎日更新、無理でも二日か三日以内に更新して行きます。













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