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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
97/233

94 観戦

2019/1/24 見直し済み


 その光景に、声を失った。

 その光景に、目を奪われた。

 その光景に、思考が停止していた。

 それは、ミルルカにとって、恰も特撮映画を見ているような気分だった。

 殲滅の舞姫ことガルダル=ミーファンの実力が、桁外れであることは予測していた。

 一戦目での戦いも、本気ではないと読んでいた。

 ただ、彼女が目にした物は、異常、異物、規格外、そんなものだった。


「しかし、あれは、なんだ?」


 目まぐるしく宙を舞い、無数のエネルギー弾の矢を降らせる物体。

 その光景を目の当たりにして、ガルダルは周囲を気にする余裕すらなく、驚きの声を上げてしまった。

 アタックキャストから放たれるエネルギー弾は理解できた。

 それは、技術的に解明できる。それに、アタックキャストが宙に舞うのも理解できた。

 サイキックで物体を飛ばせることは、この世界ではごく普通のことだ。

 彼女が驚いたのは、サイキックで飛ばしているアタックキャストの正確さだ。八つもの攻撃オプションを自由自在に操るあの能力は、人に可能な所業ではないと思えたのだ。

 殲滅の舞姫が、どうやって機体を操作しながら、あの攻撃オプションを操っているのか、不思議でならなかった。

 ただ、彼女は驚きつつも直ぐに別のことを考えた。


 ――あれでは、さすがの黒き鬼神でも、一溜りも無いだろうな。


 ミルルカにして、その攻撃は躱すことが困難だと思えたのだ。

 しかし、無数に降り注ぐエネルギー弾を巨大スクリーンの映像で眺めていたミルルカは、その着弾地点にカメラがファインダーを向けた時、己が目を疑った。


 ――避けたのか……あれを全て避けたのか……どうやって……ありえん……


 思考は停止し、ただただ食い入るように黒い機体を映す巨大スクリーンに視線を向けたまま凍り付いた。


「あれを操っているのは……人間なのでしょうか……もしそうなら、私は無能だということですね」


 いつもは鉄仮面を装着しているかの如く表情を変えないテリオスが、眼鏡を押し上げるのも忘れて絶句していた。

 それを目にした途端、ミルルカの頬が緩んだ。


 ――黒き鬼神よ。グッジョブだ。


 テリオスの驚愕を目にして、ミルルカは少しだけ気分が良くなると共に正気を取り戻し、冷静な視線で拓哉が操る機体の動きを見極める。

 一戦目で直ぐに気付いた。拓哉が操る機体の動きは、尋常ではないと感じていた。。

 ところが、この二戦目において、四機を撃墜した後の動きは、輪を掛けて桁外れで度肝を抜かれた。

 例えるならば、閃光としか表現できなかった。

 巨大スクリーンの映像が、映し出すカメラが、黒い機体の高速移動に追いつかないのだ。それ故に、風景しか表示されないスクリーンを何度もおがむことになった。

 それでも、あの天からの鉄槌とも呼べる攻撃を見た時、終わったと感じた。とても残念だが、黒き鬼神の敗北を悟った。

 ところが、拓哉は、それを(ことごと)く躱してみせた。いや、せつけたと言った方が良いかもしれない。


「会長……本当に、あれと戦う気ですか?」


「もちろんだとも。約束は違わぬぞ」


 ――珍しく……いや、この機械のような男が、ここまで狼狽うろたえる姿を拝んだのは、初めてかも知れんぞ。快挙だ! でかしたぞ! 黒き鬼神! あとで褒めてやる。


 狼狽ろうばいするテリオスの問いに、平静を装って本心を告げるミルルカだったが、内心では喝采の声をあげていた。もちろん、拓哉に対してだ。

 すると、何を考えたのか、テリオスは一気に立ち直ったかと思うと、下がりっぱなしだった銀縁眼鏡をいつものように押し上げながら諫言を口にした。


「あんな約束をするからです。まあ、会長のメイド姿も悪くないですが……会長の仕事まで押し付けられるのは、いやはや、なんとも……」


 そう、テリオスは彼女の心を読んだかの如く、即座に反撃を食らわせたのだ。


 ――ぐおっ! なんて不吉なことを……こいつの中では、既に私が負けることが確定しているのだな……ちっ! そう簡単に負けて堪るか!


「いや、負けたりはせんぞ! 私には、アレがあるしな」


 強がりではなく、本心からそう告げる。

 なぜなら、彼女も奥の手を持っていたからだ。

 本当は使う気などなかったのだが、繰り広げられている戦いを見やり、使わざるを得ないと判断したのだ。

 ただ、彼女の台詞を聞いた途端、テリオスの眼鏡を押し上げる手が止まった。


「アレをお使いになるので?」


 テリオスの言動は、まるで信じられない物を見たような様相だった。

 しかし、ミルルカは有無も言わさず答える。


「当然だ! 今、使わずして、いつ使う?」


 鬱陶しいと感じつつも、切り離す訳にもいかない大きな胸を張って宣言すると、テリオスが反論する。


「敵と戦う時に使うのです。このような試合でお披露目など愚かな行為です」


 テリオスの諫言は、至極真っ当であり、有無を言わせないものだった。

 なにしろ、対校戦など、ただの腕試しなのだ。本番は戦場であり、手の内をさらけ出せば、容易く撃破される可能性がるのだ。


 ――うぐっ……確かにそうなのだが……メイド服は嫌だ! オマケにあの少年から夜伽の命令など受けようものなら……駄目だ。考えただけで恥ずかしい……


 勢いに任せて無茶な約束をしたミルルカだったが、実のところ負けることなど微塵も考えていなかった。

 逆に言えば、それほどの自信があったからこその約束なのだが、負ける可能性を感じて、おそろしく動揺しはじめた。


「うるさい! 使うと言ったら使うのだ。決定事項だ」


 合理的な理由など思いつきもしないし、何を言っても、テリオスには勝てないのだ。

 故に、我儘を突き通すことに決めた。


「まるで子供ですね。これだから生娘は……」


 ――ぐお~~~! なんて言葉を口にするんだ! この変態!


 恥ずかしさのあまりに怒り狂ったミルルカは、思わずテリオスを叱責する。


「口が過ぎるぞ!」


「これは、失礼しました」


 テリオスは素直に謝罪してくるのだが、その表情は全く悪いと思っている風ではない。

 それも当然か、我儘な生娘というのは、ただの事実でしかないのだ。

 しかし、ミルルカの怒りは更に増し、苦言を口にせずにはいられなくなる。


「いつも、一言多いんだ……いや、三言は多いぞ!」


「すみません。これが性分なので……以後、気を付けます」


 しれっと頭を下げるテリオスだが、やはり悪びれた様子はない。


 ――なにをいけしゃあしゃあと言っているのだ? これまで気を付けたことがあるのか? まあいい、こうなったら意地でも好きにやらせてもらうからな。


 テリオスが嫌がることをやれるだけでも、アレを使う価値があると思い始めたミルルカは、気分を少しばかり上向きに変えて観戦に集中した。

 すると、同じように巨大スクリーンに視線を向けたテリオスが、ぽつりと疑問を口にした。


「ところで、この対戦はどちらが勝つと思いますか?」


「明白だな。黒き鬼神が勝つだろう」


「どうして、そう思われるのですか?」


 ミルルカの意見に、テリオスがすかさず食いつく。

 それからして、テリオスの考えは、彼女と違うらしい。

 どちらかといえば、その根拠を聞いてみたいと思うミルルカだったが、先に自分の見解を露わにした。

 彼女は、再び自慢げに胸を張って解説する。


「あれだけの攻撃を放って、未だに有効打がないのだ。当らぬ砲門が幾らあっても無駄だろう」


「そうですか」


 テリオスは一言だけ返すと、特に否定も肯定もなく、そのまま黙り込んで巨大スクリーンに集中する。


 ――おいおいおい! お前の意見はないんかい!


 テリオスの態度に、思いっきり不満に感じた彼女は、すぐさま食ってかかる。


「お前は違う意見なのだろ! その見解を話してみろ」


 そう言ってみたのだが、テリオスは押し黙ったまま巨大スクリーンを食い入るように見詰めたままだ。


 ――黙れば良い時にベラベラとしゃべる癖して、必要な時にはダンマリとか、なんて使えない男なのだ。


 押し黙るテリオスにチラリと視線を向けて、心中で罵り声を上げていると、彼は銀縁眼鏡を押し上げつつゆっくりと口を開いた。


「別に会長の意見を否定している訳ではありません。私自身が考えあぐねているのです。本来ならば、黒き鬼神に勝機がないと言いたいところですが、そうとも言えない気がするのです。強いて言うなら、根拠から考えれば、舞姫が勝つでしょう。ただ、勘で言うなら、黒き鬼神が勝つような気がするのです」


「根拠とは、なんだ?」


 興味を持ったミルルカが、即座にその根拠とやらについて言及した。

 すると、テリオスは粛々《しゅくしゅく》と説明をはじめる。


「黒き鬼神に搭乗するホンゴウ君はサイキックを自由に使えないと聞いています。故に、彼がどれだけ優れたパイロットであろうと機体がもたないでしょう。更に、舞姫はあの攻撃オプションを自由自在に操っています。今は鬼神を捉えることができていませんが、まだ他の使い方もあるでしょう。そうなると、さすがの鬼神もジリ貧にならざるを得ず、機体のもたなくなった時点でジ・エンドとなるはずです」


 ――そういえば、あの少年はサイキックを使えないと言っていたな……思いっきり忘れていたぞ……確かに、そう考えると悔しいが、奴の言う通りだろう。なにしろ、機体がもたなくなれば、どれだけパイロットが優秀であろうとも、丘にあげられた魚も同然だ。だが、それでも奴は舞姫が勝つと断言しないのだ。黒き鬼神とは一体……


 聞かされた見解に付いて考えていると、テリオスが微動打もせずに声を発した。


「鬼神が動きを見せましたね。接近戦でしょうか……やはり機体がもたないようですね」


 その言葉で思考を止めて観戦に集中する。

 鬼神は、物凄い速度で舞姫の攻撃を回避しながら接近していた。


 ――どうやら、テリオスの言う通りのようだ……なに! ここで舞姫も新たな動きだと? こいつら一体どれだけ隠し玉を持っているのだ?


 自分のことを棚にあげつつ、心中でガルダルに不満をぶつけていると、とうとう黒い機体が被弾した。


「さすがに、あれは避けられないでしょう。今の一撃はシールドでダメージを回避したようですが、どうやら根拠通りに終わりそうですね」


 テリオスの台詞を聞き、鬼神の限界を見定めることができて、安堵する場面であるはずが、なぜか胸の内がもやもやとする。


 ――なぜだ? 奴が負けようが問題ないはずだ。負けてこそ限界が見えるのだ。勝てば更に奥の手を持っている可能性がある。そうなれば、奴と対戦する時に私が不利になるだろう。ならば、喜ぶべき場面なのだが……なぜ、こんなに胸が締め付けられるのだ?


 黒き鬼神のピンチに、己の気持ちが理解できずに思い悩んでいると、それに気付いたのか、テリオスが眼鏡を押し上げた。


「残念そうですね。その気持ちは解らなくもないです。できれば己が手で倒したかったでしょうから」


 ――そうか……それで胸が苦しいのか……でも……


 テリオスの的確な発言で納得できたように思えたのだが、なぜか、しっくりこなかった。

 そんな己が心の不可解さに苛立たしさを感じていると、再びテリオスが声を発した。

 それは、これまでと違って驚きの声だった。


「えっ!?」


 その声で意識を巨大スクリーンに戻すと、舞姫の攻撃が尽く鬼神の機体を擦り抜けていた。


「はぁ?」


 間抜けな声を発したテリオスに負けず劣らず、ミルルカも呆けた声を上げてしまった。

 この状況を見て唖然としない者など居ないだろう。その証拠に、観覧席では、誰もが息を止めているかのようだった。

 それも当然か、確実に着弾したように見えた攻撃が、恰も実態がないかのように擦り抜けたのだ。


「今の……何なのだ? サイキックで逸らしたのか?」


 これまでの戦いも、尋常なものではなかった。しかし、何らかの原理に当てめることができた。

 ところが、鬼神が執った行動は、全く理解不能だった。

 故に、その原理を知りたくて、思わずテリオスに尋ねてしまったのだが、その間に終幕のサイレンが鳴らされた。

 舞姫の攻撃が擦り抜けたと同時に、拓哉の攻撃が炸裂さくれつしたのだ。

 ただ、次の瞬間には、拓哉の機体が動きを止めた。いや、壊れた。


「膝の関節部が砕けたようですね。あ、腕も落ちましたね。勝ったはずなのに、完全に屑鉄くずてつになっていますね」


 ミルルカの問いには答えない癖に、壊れゆく黒い機体を目にしたテリオスは、呆れた声で感想を述べていた。

 何時もなら、そんなテリオスの態度に憤りを感じるはずなのだが、なぜか、ミルルカの心は晴々としていた。

 そう、とても嬉しい気持ちで、胸がいっぱいになっていたのだ。

 その理由は解らないが、要因は拓哉の勝利だということだけはハッキリしていた。

 本来なら、その不可解な己が心に苛立ちを感じても良さそうなものなのだが、涙が出そうなほどに嬉しさを感じたミルルカは、それを堪えるかのように、そっと両手で胸を押えて、巨大スクリーンを見詰めた。


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