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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
96/233

93 殲滅の舞姫との決着

2019/1/24 見直し済み


 黒い機体は、無数に降らせている閃光を掻い潜って接近してくる。

 その光景は、黒い機体――それを操る者を黒き鬼神と呼び、畏怖いふするに相応しいものだった。

 宙にあるアタックキャストから放たれたエネルギー弾の閃光は、この世界の人ならざる者が、人間を凌駕りょうがした力で狙い定めたものだ。

 ところが、その攻撃がどこに突き刺さるのかを、初めから知っているかのように、黒い機体は容易く回避してしまう。


 ――まさに踊り子ね。いえ、それこそ、あの機体を動かしている者は、予見者なのかもしれないわね。


 そうでも思わないと、やり切れないほどに気落ちしそうだった。

 その神々しくも驚異的な存在を目の当たりにして、ガルダルは思わず聖書に刻まれた言葉を口にしてしまった。


「黒神は、黒き閃光となりて、如何なる力をも嘲笑うものなり。黒神は鬼の力を以てほろびのことわりをも無に還すものなり。か……あの黒い機体にぴったりの文句ね」


 聖書の文句を口にして、初めてその二つ名を口にした者の信仰深さに、心底、感心させられてしまった。


「なんですかニャ? その難しい文句は。なにかの呪文ですかニャ?」


 八つのアタックキャストを宙で目まぐるしく踊らせつつも、ガルダルの声に反応したレナレに、その言葉の出所を教える。


「この世界の聖書に描かれた文句よ。まさにぴったりだと思わない?」


 ガルダルにとって、まさに、目の前の黒い機体を予言したかのような言葉だと思えたのだ。

 すると、レナレが少し呆れたような表情を見せる。


「この戦闘の感想文かと思ったですニャ」


 ――あははは、確かにピッタリ過ぎてそう思われても仕方ないわね。でも……


「そう簡単に滅びてやらないわよ」


「もちろんですニャ~~! 食らえですニャ~! あ~また外れたニャ……タマ、頑張るですニャ。ミケ、そこですニャ! クロ、左ですニャ! ニャ~ん、シロ、外したらダメですニャ~」


 気合いを入れたレナレが、必死になって黒い機体を追撃しようとしていた。

 しかし、その攻撃はことごとく躱される。


 ――というか、アタックキャストに名前を付けるのは良いのだけど、猫の名前はどうかと思うわ……オマケにそれぞれのアタックキャストに猫の絵まで描いて、勝手にゴーニャンズとか呼んでるし……自分も猫科だと分かってるのかしら……


 興奮するレナレの台詞をヘッドシステム越しに聞きながら、思わずそんな感想を持ってしまうのだが、今はそれを考えている場合ではない。

 ただ、そこで、レナレの推測が的確だったことを知る。

 拓哉が操る機体は、ゴーニャンズの執拗しつような攻撃をかわしながら、ガルダルの機体に急接近してきた。


「レナレ、さすがね。大当りよ!」


「任せるですニャ~! 攻撃は当たってないですけどニャ……」


 ――まあ、攻撃が当るなら、その推測すら必要ないんだけどね。


 接近戦を見抜いたことを褒めると、レナレは照れ臭そうにする。しかし、ガルダルとしては、それよりも、攻撃を当てて欲しいところだ。


「まあいいわ。いよいよ接近戦よ! 気合を入れるわよ! 勝ったら鰹節を山盛りにしてあげるわ」


「マジですかニャ! もち、頑張るですニャ~!」


 あっという間に近距離となった黒い機体をモニタで確認し、ガルダルは己に気合を入れつつも、レナレの前にニンジンをぶらさげたのだった。









 これまで無敵を誇ってきた自慢のサイキックウイップが空を斬る。

 過去、ガルダルの前に立ちはだかった者は、全てこのウイップの攻撃でこともなく沈んだ。

 ところが、ここでも黒い機体を操る拓哉は、これまでの対戦相手とは一味違っていた。


 ――初見でこの攻撃を避けられたのは、初めてだわ。


 見事に自分の攻撃をかわし続ける黒い機体を目にして、思わず愚痴を溢しそうになる。


 彼女が使用するウイップは、はかなり特殊な武器だ。

 なにしろ、武器の柄部分だけしか存在しない。

 では、柄の先がどうなっているかというと、ガルダルの想像力を生かして、サイキックでエネルギーを固形化させているのだ。

 しかし、固形状となっても、それはエネルギー体であり、とても視認しづらい武器となっている。

 それをむちの如く振り回すのだ。そう簡単に避けられるものではない。それどころか、この武器を使用して、倒せなかった相手は居ない。

 してや、機体の腕を動かさずして、武器だけを打ち付ける裏技まで使っているのに、目の前の黒い機体は、あたかもそれがスローモーションだとでもいうように易々と躱している。

 その光景を見せ付けられたら、誰でも愚痴をこぼしたくなるというものだ。


 ――接近戦に持ち込めばこっちのものだと思っていたのだけど、どうやらそれは早計だったようね。でも……


「レナレ、アレをやるわよ!」


「はいですニャ~。ゴーニャンズくるですニャ!」


 もはや出し惜しみしている場合ではないと判断して、取って置きの技を繰り出すことにする。


 ――本当は使いたくなかったけど……仕方ないわ。ここまで来たら全力で倒すしかないもの。


 霞むように視界から消え去る黒い機体。それをややムキになってウイップで攻撃しながら、レナレの準備を待つ。


「オーケーですニャ! 配置についたですニャ」


「じゃ~やるわよ~! シンクロ開始!」


 レナレの返事を聞き、透かさずシンクロ機能を起動させる。


 ――さすがに、これなら当たるでしょ? これが避けられたら、もう打つ手がないわ。


 やや悲観的に考えるが、どうやら良い展開に向かったようだ。

 黒き機体の左腕に被弾反応が現れたのだ。

 ただ、黒い機体のサイキックシールドを突破するほどの直撃弾ではなかった。


 ――だけど、いい感じだわ。


「この調子よ! 撃破は時間の問題よ! ガッツリやるわ!」


 未だ拓哉の機体は、それほどのダメージではないが、このまま押し込めると感じて、彼女達がシンクロバーストと呼んでいる連携攻撃で追い打ちをかける。


「アイアイニャ~! これで黒き鬼神も終わりですニャ~~~~~!」


 呼応するかのようなレナレの叫びが、彼女の鼓膜こまくさぶる。

 その気持ちは嬉しいものの、彼女は思わず顔を顰めた。


 ――幾らなんでも、耳が痛いわ……彼女は黒き鬼神だけでなく、私の鼓膜も破るつもりなのね……









 鞭状の武器による攻撃は、思いの外厄介なものだった。

 それでも、何度か躱せば、その特性を理解できたし、それによる特殊な攻撃も予測できた。

 故に、拓哉にとって、容易くとはいかなくても、その攻撃を躱すのも、それほど苦になるほどではなかった。


「想像以上に厄介ね。というか、駆動部の温度と損耗率の上昇が激しいわ」


 ――おいおいおい! ついでのように言うことか?


 どれだけ駆動部の温度が上がろうと、損耗率が破損率になろうとも、今機体を止める訳にはいかない。

 そんな状況だというのに、クラリッサの声は、やたらと嬉しそうな響きだった。


「あっ! 拙いわね。ファ〇ネルとか呼んでいた物体が降りてきたわよ」


 接近戦になったことで、攻撃を止めていたファ〇ネル――アタックキャストが降下してきたとなると、何も起きない訳がない。

 報告を聞いた拓哉は、瞬時に思考を巡らせて、現状におけるアタックキャストの使用用途を模索する。


 ――自分の機体を射程に入れない砲撃となると、射角から考えて真上からの攻撃、真下からの攻撃、本体に寄り添うように配置してからの攻撃だけど……さすがに真下はないな。だって、下は地面だし。残るは二つか……まさか背面を突く……いや、それはリスクがあり過ぎる。避けられたら、自爆するようなものだ。


「きたわよ!」


 視認し辛い鞭の攻撃を躱しつつ、殲滅の舞姫が仕掛けてくるであろう攻撃を予測していると、ゴーニャンズ――アタックキャストが、まさに予想を上回る配置につこうとしていた。

 もちろん、拓哉達は、それがコーニャンズと呼ばれていることなど知らない。


「ちっ! 厄介な!」


 どうやら、拓哉は、殲滅の舞姫を侮っていたようだ。

 そう、アタックキャストは、自機を撃ち抜かない位置に配置されたのだ。

 それは、真上であったり、自機の周囲であったりだが、予想に反して、背後にまで回っている。

 しかし、それぞれのアタックキャストは、自滅しないための射角をとっていた。

 それを知って、クラリッサの顔が青ざめる。


「拙いわ! 回避する場所がないわよ」


 彼女達は自分達の機体に当たるリスクを負う代わりに、拓哉を完全に包囲することを選んだのだ。

 状況を即座に理解した拓哉は、すぐさま行動に移る。


「解ってる」


 すぐさま高速移動で立ち位置を変え、すかさずアタックキャストの二つを撃ち抜いた。

 宙を自由自在に舞っているのなら難しいが、これほどの近距離で的を外すことはない。

 ただ、思いの外簡単に撃ち抜けたことを考え、ガルダル達が攻撃態勢に入っていると察する。

 二機のアタックキャストが不能になってできた隙をうようにして、機体を移動させる。

 その時だった。本体のみならず、全てのアタッキャストからエネルギー弾が撃ち出された。


 ――ちっ、避け切れね~!


 舌打ちをしつつも、完全回避を目指すが、左椀部に攻撃を受けてしまう。


 ――まずっ! 食らっちまった……


「大丈夫、いまのは、私がサイキックシールドでカバーしたわ」


 ――ふぃ~! あぶね~! クラレさまさまだな。


「それよりも、どうするの? このままだと、やられるわよ」


 冷や汗を掻いていると、クラリッサがすぐさまピンチだと指摘してくる。

 さすがに拙いと感じているのか、彼女の言葉にも鬼気迫るものが混じっていた。


「ファ〇ネルを確実に撃ち落としていくしかないな」


 真っ当な返答をするのだが、彼女はそれが気に入らなかった。すぐさま、拓哉の意見を否定した。


「そんな悠長ゆうちょうなことをしている時間はないわよ? 機体の限界は刻一刻と近付いているのだから。ここは自壊モードで逝くしかないわ」


 ――おいおい! ちょっとまて! あれをやるのか? つ~か、あれはそんな破滅的な名前じゃなかったはずだぞ。確かマキシマムブーストだったはずだが。てか、逝くしかないって……勝つ気があんのか?


 正気の沙汰とは思えないクラリッサの言葉に、心中でツッコミを入れつつも、それ以外の方法を模索するが、どの策も勝てる見込みのないモノばかりだった。

 結局、クラリッサの表現に問題があるものの、その発言が正しかったことを思い知り、発動の許可を出すことになる。


「それしかなさそうだな。分かった発動させてくれ」


了解ラジャ!」


 許可に応えるクラリッサの声は、まさに歓喜だった。

 同時に、彼女の気持ちに答えるかのように、マキシマムブートが発動した。

 次の瞬間、オレンジだったコックピットが、血で染められたかのような赤色に変わる。

 そう、どういう趣向かは知らないが、ララカリアの施した細工は、操縦者に危機感をもたらすという意味では、間違いなく成功しているだろう。

 そして、発動したマキシマムブートは、機体を限界領域で稼働させる。

 それは、さすがの拓哉でも手に余るほどだ。


 ――くはーーーー! よしゃ、これなら!


 気合いと共に、一気に期待を超加速させる。

 ガルダルが放ったエネルギー弾を造作なく避け、ファンネルからの攻撃をも全て避け切った。いや、避けるだけではない、全てのファンネルを撃ち落とし、本体が持つ特殊な武器をも弾き飛ばしていた。


 ――我ながら、これは究極奥義だな……でも、ここで使いたくなかった。だって、きっとミルルカが見ているはずだから……ちぇっ、次の手を考える外なさそうだな。


 殲滅の舞姫と呼ばれるガルダル=ミーファンが搭乗する機体に、ありったけのエネルギー弾をぶち込みつつ、今後の作戦を思い悩んでいると、ヘッドシステムからクラリッサの声が届いた。


「対戦相手は戦闘不能! 私達の勝利ね。まあ、当然だけど」


 まるで勝利を確信していたかのような台詞に、拓哉はツッコミを入れようとしたのだが、それまで危機感をもたらしていた真っ赤な照明が、突如として消えた。そう、真っ暗な闇に包まれた。


「どうやら、逝ってしまったようね。ごめんなさい。いえ、ありがとう。あなたはよく頑張ったわ」


 壊れたことでモーターも電源も停止し、真っ暗で無音の世界となったコックピットに、クラリッサから機体に向けた感謝の言葉だけが響き渡るのだった。


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