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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
95/233

92 劣勢

2019/1/24 見直し済み


 彼女は、「しめた!」と思った。

 本来は秘匿したい攻撃だったが、そのお陰で黒い機体の脚を止めることができたと確信したのだ。いや、脚を止めるどころか、仕留めることさえできると感じた。

 宙に舞い上げたアタックキャストから無数に撃ち出されたエネルギー弾が、物の見事に黒い機体を撃ち抜いたと思ったからだ。

 しかし、無情にも、そのエネルギー弾が撃ち抜いたのは黒い機体の残像だった。


「ぜ、ぜん、全弾回避されたですニャ! こんなの嘘ですニャ!」


「ありえないわ」


「で、でも、回避されたですニャ~! どうするですかニャ」


 悲痛な叫び声で報告してきたレナレに、その結果が信じられないガルダルは、思わず強い口調で否定する。しかし、彼女は現実を突きつけてきた。

 ただ、何度も教えてもらう必要はない。

 なにしろ、モニターには、未だ健在な黒い影が映っているのだ。


 ――どうすれば、こんな芸当ができるのよ!


 初見では、決して防ぎきれるはずがないと断言できる攻撃。それを耐えるのではなく、全て回避することで難を逃れた黒い機体の技量は、もう想像するのも嫌になるほどだった。


 ――これじゃ、まるで噂に聞く、朱い死神じゃない……


 軍内で広がっている朱い死神の噂は、全ての攻撃を避け、全ての攻撃を外さないという、絶対に誇張だと思えるものだった。

 彼女はそれを聞かされた時、大袈裟な話だと感じた。間違いなく巨大な尾ひれがついていると、思わず笑い飛ばしそうになった。

 ところが、笑い飛ばせない存在が目の前にいた。

 それこそ、全ての攻撃を避け、全ての攻撃を命中させる存在。

 拓哉の操る黒い機体を目にして、自分の秘技を躱されて、否が応でも知ることになってしまった。あの朱い死神の噂は事実なのだと。そして、思い至ってしまった。


 ――そっか……彼は、朱い死神に対抗すべく、異世界から連れてこられたトップガンなのね……


 ガルダルの場合、例の愚かなコンビから半場強制的に召喚申請を押し付けられたのだが、拓哉の場合は本来の目的のために連れてこられたのだと考えた。

 実際は、偶然なのだが、拓哉の異常さを目にして、彼女は勝手にそう思い込んだ。

 そうでなければ、これほどの技量を持ったドライバーなんて、この世に不要だと感じたからだ。

 PBAサイキックバトルアーマーを操る能力は、人を死に至らしめるための力だからだ。

 それは、決して、玩具でも、鑑賞物でもない。戦うための兵器なのだ。

 そこまで考えて、彼女は、拓哉を哀れな存在だと思った。


 ――相手がヒュームとはいえ、人殺しのために連れてこられたんだもの……


 彼女は無意識に同情と哀れみが入り混じった感情を抱く。そして、それが拙かった。

 その想いは、一瞬の隙を生み出してしまった。

 拓哉の機体から放たれたエネルギー弾が、左腕に着弾してしまったのだ。


「あっ!」


 黒き鬼神と呼ばれる拓哉のことを考えて、感傷的になっていたが故のダメージに、レナレがすかさず叱責する。


「ガル、しっかりするですニャ」


 ――そう、そうだわ。いまは、感傷に浸っている場合ではないわね。


「ごめんなさい。でも、もう大丈夫よ」


 黒い機体の攻撃がサイキックシールドの隙を突き、左腕に装着していた物理シールドを吹き飛ばす判定を喰らってしまった。

 我に返ったガルダルは、次の攻撃をすかさずシールドで回避した。

 ただ、だからといって、対抗策がある訳でもない。


 ――さて、我に返ったのは良いけど、どうやってアレの動きを封じればいいのやら……


 打つ手なしといった状況に、ただただ回避とアタックキャストの攻撃を繰り返していると、レナレが力強い声で進言してきた。


「まだダメージは与えられてないけど、間違いなく手数は減ったですニャ。諦めずにガンガンぶち込むしかないですニャ」


 ――そうなのだけど、それで本当に勝てるの?


 レナレの言葉を疑うつもりはない。しかし、これまでの状況をかえりみて疑心暗鬼になってしまう。

 すると、レナレが自分の考えを口にした。


「大丈夫ですニャ。奴は必ず接近戦に持ち込んでくるですニャ」


「えっ!? なぜそう思うの?」


 確信の在りそうな彼女の物言いが気になり、恥も外聞もなく、即座に聞き返す。

 彼女は、恰も講師であるかのようにスラスラと話し始めた。


「アタックキャストを放ってから、目に見えて向こうの攻撃は減ってるですニャ。このままだと向こうがジリ貧になるですニャ」


「それはそうだけど、こっちも決め手がないし……我慢比べになるかもよ?」


 確かに、状況は優勢になった。ただ、向こうはこっちの息切れを待つかもしれないと考えた。

 ところが、レナレは、それを否定した。


「それはないですニャ。あれだけの動きを長時間できるはずがないですニャ。パイロットがもったとしても、機体がもたないですニャ」


 ――そう言われると、確かにそうかも……


 黒い機体が新型だという情報は、事前に入手していた。

 しかし、新型だからといって、無限の能力を持っている訳ではない。

 ましてや、彼女から見た黒い機体の動きは尋常ではなかった。それ故に、機体が壊れてもおかしくないと感じる。

 それに、彼女は別の情報も得ていた。そう、拓哉がサイキックを上手く使えないという情報だ。そうなると、機体がいつまでも耐えられるはずがない。


 ――そうなると、向こうは、無理にでも短期決戦を行う必要性に駆られる訳か……


 レナレの言葉を彼女なりに解析していると、アタックキャストを操作しているはずの彼女が話を続けてきた。


「接近戦になれば、こっちのものですニャ。何といっても、こっちには無双があるからですニャ」


 ――確かに、接近戦だと私が得意にしている無双ぶきが物を言うわよね。それこそ、そのための変幻自在武器なんだから。いえ、それよりも、アレを操作しながらこれだけ話せるとか余裕よね~。あなたにこそ殲滅の舞姫を名乗るべきだわ。それに……あなたには助けられてばかりね……本当にありがとう。


 打開策を見出したガルダルは、心中で感謝の言葉を呟いたところで、景気付けに気合を入れることにした。


「それじゃ~、一丁やりますか~!」


「おお~ですニャ~~~!」


 レナレの叫びがコックピット内に響き渡る。その途端、ガルダルは、先程までの敗戦ムードが、一気に払拭されるように思えた。









 それは、恰も天から槍が降り注いでくるように思えた。

 空高く舞う八つのファ〇ネルは、縦横無尽に動き回りながら、拓哉が操る機体に槍の雨を降らせてくる。


 ――ちっ! この攻撃を避け続けるのは不可能じゃない。ただ……こちらからの攻撃が散発になってしまうのが問題だな……


 いつの間にか形勢逆転されたこの状況に、思わず舌を打ち鳴らす。


「さすがに、これは鬱陶うっとうしいわね」


 拓哉が現在の状況に不満を感じていると、ヘッドシステムから機嫌の悪そうなクラリッサの声が伝わってきた。


 ――いやいや、鬱陶しいなんてレベルの話じゃないんだって! 結構、きついんだぞ?


 そんな苦言を胸中に抑え込みながら機体を操作するのだが、クラリッサの態度からすると、拓哉がいとも容易く避けていると思っているようだ。


 ――まあ、それならそれでいいんだけど、実際、この予測回避は思いのほかシビアな作業なんだぞ?


 苦言だけではなく、更に心中で愚痴をこぼしていると、クラリッサの顔色が悪くなった。

 別に、拓哉の愚痴が肉声になっていたわけではない。彼女が彼女自身の仕事をしているが故の結果だ。


「拙いわね。稼働率百パーセント起動してる所為で、そろそろ損耗率と温度が上昇し始めたわ。というか、なんでキョドっているの?」


 一瞬、心中の思いを悟られたのかと思ってビクリとしたのだ。

 ただ、そんなことよりも重大な問題を告げられて、思わず目を白黒させてしまう。


 ――おいおい! ここに来て機体が下降線か……なんか燃料切れで墜落する気分だ……


 思わず場違いな感想を抱くのだが、現実的にかなり拙い状況だ。

 それを理解しているのか、クラリッサの表情が優れない。


「どうするの? このままだと……手前終了まで、あと、三十分くらいだわ?」


 ――いやいや、報告を聞いてからまだ数秒だぞ? 対応策なんて思いつく訳ないだろ!


 恐ろしく丸投げしてくるクラリッサに、つい本音が口からこぼれそうになる。それを何とか留めつつ、思考をフル回転させたのだが、その方法とやらは、思いのほか簡単に導き出された。

 というのも、少し考えればわかる話なのだ。

 そう、そもそも、取り得る案が限られているからだ。

 その限られた案というのは、大きく二つしかない。

 一つ目は、機体が壊れる前に接近戦で片を付ける。

 二つ目は、一旦相手と距離を取って機体を休ませるかだ。

 しかしながら、前者ならまだしも、後者については無理がある。

 なぜなら、拓哉がそうしたくても、そうは問屋が卸してくれないと思えるからだ。

 なにせ、向こうからすると、またとないチャンスとも言える。

 それに、接近戦に持ち込めば、あの遠隔攻撃の射角が取れなくなるだろう。

 随って、取り得る案は、前者の接近戦しかないのだが、それはそれで大きなリスクをはらんでいる。


 ――さて、どうしたものか……


 答えは限られているはずなのだが、拓哉は神の雷ともいえる攻撃を避けながら、その対処方法を決めあぐねていた。

 しかし、ここで時間を取られるのが、一番やってはならないミスだと考え、すかさず結論を出す。


「接近戦でやるぞ」


 拓哉が結論を口にした途端、クラリッサの表情が歓喜で染まる。

 機体がもたないという話しが、まるで、拓哉をたきつける嘘であるかのように、彼女は最高の笑顔を見せた。


「了解! そうでないと面白くないわ」


 どうやら、彼女は初めから知りつつも、敢えて、拓哉に尋ねたようだ。

 控えめなのか、将又はたまた強情なのか、何とも困った未来の嫁に返事をすることなく、拓哉は機体を殲滅の舞姫に向けて一気に走らせた。


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