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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
83/233

80 意気揚々

2019/1/19 見直し済み


 何だかんだといさかいはあったものの、特に大きな問題に発展することもなく対校戦当日となった。

 ただ、ここにきてからというもの、ろくなことが起きないような気が――いや、来る前から似たようなものなのだが、ここにきてからというもの、拓哉は嫌な予感に襲われていた。

 それでも、逃げ出す訳にもいかず、心待ちにしていた対校戦に意識を向けている。


 その対校戦だが、広大な敷地にフォログラムではない本物の障害物が無数に設置された演習場で行われる。その広さたるや、ミラルダ初級訓練校の第一訓練場の三倍はあろうかと思えるほどだった。

 それ故に、会場を取り巻くような観客席は設置されておらず、関係者は巨大スクリーンが設置された専用観覧席で、試合の様子を観戦する事となっている。

 そして、観覧席について述べると、なんとも盛り上がらない大会だと言いたくなる。

 なぜなら、数万人は収容できそうなその観覧席には、関係者がポツリポツリと座っているだけだからだ。


「選手と整備士しか来てないとはいえ、これを大会と呼んでもいいのか?」


 ガラガラの観客席を機体のサブモニターで眺めつつ、拓哉が思わずそんな愚痴をこぼしてしまう。

 すると、クラリッサが表情を変えずに肩を竦めた。


「大会なんて言っているのだけど、実のところ、軍の青田刈りの場でしかないのだから、派手に開催する必要がないのよ。そもそも、一般公開されている訳でもないのだし……」


 確かにクラリッサの言う通りなのかもしれないが、これでは戦う方も盛り上がらない。

 ただ、いつまでも愚痴っていても仕方ない。

 その不満を胸中に仕舞い込みながら、拓哉はこれからの対戦について思考を巡らせる。


 まずは今日から行われる団体戦だが、各組で総当たり戦を行うため、三日間に渡って予選を行うことになっている。

 試合会場は一ヶ所のみなので、A組の一試合目が終わると、今度はB組の一試合が行われ、一日三試合が行われる予定だ。

 一日の内容はというと、午前に一試合、午後に二試合となっていて、どの訓練校も一日一試合しか行わないように考えられている。それは、なるべく公平な試合を行うためだ。

 まあ、抽選からインチキなのだから、いまさら公平なんて言われても信憑性が疑われるのだが、拓哉達としても連続での試合は避けたかったので、これはこれで都合が良いと言えるだろう。

 そして、拓哉達はといえば、A組の四校目であり、本日の第三試合となっている。

 その第三試合だが、現在、第二試合が終わったばかりであり、それの片づけが終わると、拓哉達がカミラ上級訓練校と戦うことになる。


「でも、私達の初試合が、カミラ上級訓練校で良かったわね」


 二試合目の片付けが行われている映像をぼんやりと眺めながら、試合について考えていると、後部座席に座るクラリッサの声が、ヘッドシステムを通して聞こえてきた。


 ――確かに、クラレの言う通りかもしれないな。


 拓哉は声にすることなく、頷きで返した。

 というのも、カミラ上級訓練校は重装部隊の育成を行う訓練校であり、規律正しく統率のとれた戦い方をしてくるのだが、それは逆に突出したパイロットが居ないということであり、拓哉達にとってはやり易い相手だと思えたからだ。

 特に、初戦であることを考えると、できるだけ強豪との対戦は避けたいところなのだ。

 なにしろ、第一試合のメイビスとデスファルの試合が、あまりにも衝撃的過ぎたのだ。


「さすがに、あの殲滅の舞姫と初戦で戦うのは、少し荷が重いだろうな」


「あれは想像以上に驚かされたわ。まさか一人で相手を殲滅するなんて、拓哉くらいのものだと思っていたから、ちょっと焦ったわよ」


 クラリッサが言う通り、殲滅の舞姫ことガルダル=ミーファンは、味方の四機が簡単にやられたあと、一機でメイビス上級訓練校の五機を殲滅してしまったのだ。

 その戦いは、まさに蹂躙であり、殲滅の舞姫に誇張なしと言わざるを得なかった。


「まあ、他の四機の不甲斐なさは、頂けなかったけど」


 彼女も第一試合の内容を思い起こしているのだろう。

 確かに、衝撃的だったのには間違いない。

 空挺部隊――飛行能力を保有する偵察部隊であるメイビスの攻撃速度は物凄く、デスファル側はガルダルを除く四機が、あっという間に殲滅されてしまった。ところが、これで決着かと誰もが結末を予測したところで、ガルダルの機体が目にも止まらぬスピードでフィールドを駆け巡る。そして、不思議な武器を使ってメイビスの機体を次々に倒して行ったのだ。


「あの武器ってなにかしら」


 クラリッサが怪訝な表情を見せる。

 彼女が訝しむのも当然か、殲滅の舞姫が使っていた武器は少し変わっていた。

 時にはむちであり、あるいは剣となり、はたまた槍となって、敵を打倒していったのだ。


「サイキックシステムで作り上げているのは間違いないが、あれだけ自在にその形状を変えられるというのは、よほど能力が高いんだろうな」


「そうね。具現化のイメージをしっかり持てないと不可能だわ。それにあの武器での攻撃って視認し辛いように思うのだけど……」


 クラリッサの懸念は当然のものだ。剣や槍はまだしも、鞭として使われると厄介だと言わざるを得ないな。


『ミラルダ訓練校の選手は入場。通用口は、第十三番ゲートを使用すること』


 二人で殲滅の舞姫について話していると、管制塔から厳めしい声で指示が入った。


「ラジャ! ミラルダ訓練校、十三番ゲートから進入します」


 十三番ゲートとは、縁起でもないゲートを造ったものだと感じつつも、ここが地球でないことを思い出し、世界が変われば常識も変わるのだと、今更ながらに思い入っている。そんな拓哉の感想を他所に、クラリッサが管制に返事をしていた。

 まあ、それはクラリッサのお仕事なので、拓哉は呑気にしていても問題ない。なんて考えていたのだが、どうやら声になっていたようだ。


「別に、拓哉がやってくれてもいいのよ?」


「す、すまん……」


 ――ヤバイな。心の声が表に出るような癖がついたら、今後は血を見ることになりそうだ。少し気を付けよう。


 自分を戒めつつ、仲間に無線連絡を入れる。


「聞こえていたな。それじゃ行くぞ。作戦は一〇三だ」


『ラジャ! 景気良くいこうぜ』


『う~ん、緊張する~~~』


『さ~て、暴れるか!』


『ひゃっは~~~! 敵はどこだ~~~!』


 無線で作戦を伝えると、リディアルが上気した雰囲気で返事をしてきた。

 それに続き、少し声が上ずっているキャスリン、気合の入ったティート、何を勘違いしたのか、世紀末現象を起こしているファングから返事があった。

 ファングの返事は、少しばかりアレだが、これから戦う者の気持ちを高揚させるものであり、好ましいと感じてしまう。


 ――そうだな。ガッツリやるか!


 拓哉は自分にも気合を入れてフィールドに侵入し、作戦通りに密集体型をとった。

 それを準備完了と捉えたのか、試合開始のカウントダウンが始まる。そのカウントがサブモニターに表示される。


『五、四、三、二、一、開始!』


 それに合わせて、クラリッサが仲間全体にカウントダウンを無線で伝えていた。

 間違いなく各機体でもカウントダウンは表示されているはずだが、念のための行動だろう。

 そして、いよいよ拓哉達の初戦が始まる。


 ――さ~て、まずは相手の出方を確認しないとな。


「よし、サクッと殲滅するぞ! 簡単にやられるなよ!」


『任したぜ!』


『頼むわよ』


『ぶっ潰せ』


『タクヤ、やっちまえ!』


「ああ! 任された!」


 試合開始の合図と共に、拓哉はすかさず単独で前線に向けて走らせる。しかし、仲間を叱咤しったすることも忘れない。

 その返事とばかりに、リディアル、キャスリン、ティート、ファング、四人からの無線が入ってきたので、勿論だと返しておく。

 因みに、今回の戦いにトルドは参加していない。


 仲間に返事をしている間も、障害物の上を飛ぶように進む拓哉の機体のメインモニターには、敵がくの字隊形を組んでゆっくりと進んでくる姿が映る。


「よほど、防御に自信があるんだろうな」


 カミラ上級訓練校の五機は固まって進んで来ている。

 普通に考えれば集中砲火の的なのだが、サイキックシールドによる防御が優れているのだろう。


「マーク完了!」


 クラリッサは、拓哉の独り言に答えることなく、敵のマークを終わらせた。

 これで、味方に敵の位置が的確に伝わる。


『データきた! おおきに!』


 データがリンクされたのだろう。相変わらず緊張を感じさせないメイファの無線が入ってくるが、それに応答する暇はない。拓哉は透かさず対戦相手の後方へと回り込む。


「気付かれたわ」


 奴等も、拓哉の機体に気付いたらしい。

 どうやら、向こうにも優秀な者がいるようだ。

 クラリッサがそのことを伝えてくるが、それと同じくして敵の砲撃が始まった。

 さっそくとばかりに撃ち込まれるエネルギー弾を簡単に躱し、拓哉は戦闘を開始することを相棒に告げる。


「じゃ~、そろそろこっちも気合を入れて攻撃するぞ! 頼むぞ、クラレ」


「任してちょうだい。タクヤのお披露目だし、遠慮はいらないわ。派手にやりましょう」


 おもちゃを買ってもらった子供の如く、瞳を輝かせる拓哉に、クラリッサが笑みを返す。

 こうして拓哉達の戦いは、意気揚々とした雰囲気で始まった。


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