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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
81/233

78 抽選

2019/1/18 見直し済み


 拓哉の目の前では、リカルラが面倒臭そうに試合について説明していた。

 今回の対校戦では、校長――キャリックは同行しておらず、訓練校に残っているのだ。

 恐らく、何かの思惑があるのだろう。

 ただ、その所為で長々とお預けを食らうのが頂けないのか、リカルラは少しばかりいつもより不遜な態度だった。

 悪夢の歓待をなんとかやり過ごした拓哉達は、与えられた宿舎に辿り着いた訳だが、リディアルに遠慮することなく、彼が嫌がっていたミーティングが早速始まった。


「――そういう訳で、団体戦は二敗したらその時点で終了ね」


 試合の方式は簡単だ。

 全七校がA組とB組に分かれて総当たり戦を行い、上位四校が準決勝、それの勝者が決勝を行うというものだ。

 ただ、参加校が七校というのもあり、A組が四校、B組が三校という配分になっていた。

 それ故に、A組から勝ち残った二校とB組から勝ち残った二校が準決勝へと進むため、単純に考えると、抽選でB組を引き当てた方が有利なのだ。

 因みに、準決勝はA組の一位とB組の二位、A組の二位とB組の一位の組み合わせで対戦する。


「という訳だから、最低でも三戦は戦う必要があるわ。良かったわね。沢山経験が積めて」


 どことなくリカルラの物言いに棘がある。

 ただ、その棘よりも、拓哉は話の内容に疑問を感じた。

 リカルラの口振りだと、拓哉達がA組になると決まっているように聞こえるからだ。

 そして、そう感じたのは、拓哉だけではなかったようだ。すぐさまリディアルが手を上げた。


「はいっ! どうして三戦なんですか? B組になれば二戦ですよね」


 ご尤もな質問を聞いて、ララカリアとクーガーを除いた全員が頷く。

 リカルラはといえば、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべ、その理由を口にする。


「だって、抽選になにも仕込まれていないと思っているのかしら?」


 ――ぐはっ! この段階になっても、インチキが発生するのか……こうなると、機体の方も心配になってくるな。


 純潔の絆が企んでいることを聞かされていたものの、拓哉は奴等が対校戦に手を出してくるとは思っていなかった。

 それもあって、顔を顰めてしまうのだが、それを悟ったのか、自称フィアンセであるクラリッサが、真剣な表情で不安を露わにした。


「そこまで裏工作が行われるのであれば、機体のことが心配なのですが……」


 選抜戦で自爆攻撃を仕掛けられたこともあって、拓哉のみならず、クラリッサも機体に対する工作には敏感だった。

 彼女が警戒してしまうのも当然だろう。

 ところが、ララカリアが不敵な笑いを響かせた。


「くくくっ! ふふふっ! あはははははは! 心配には及ばん。あたいがバッチリプロテクトをかけてるからな。誰が来ようと機体に工作なんてできやしないさ。いや、来るなら来い。目に物を見せてやる。あははははははは」


 自信ありげなララカリアが、平らな胸を張って豪語した。


 ララさんが、そこまで言うのなら大丈夫だろう。ただ……


 豪快に笑うララカリアを見やり、拓哉は安堵の息を吐いた。

 しかし、それだけで万全な訳でもない。


「でも、物理的な被害はどうなります?」


 そう、ララカリアはあくまでもソフトウエアの担当だ。ハードウエアに関しては、無防備だと言わざるを得ない。

 なにしろ、ララカリアはプログラムの天才ではあるものの、ハードウエアに関しては、からっきしだからだ。

 その証拠に、拓哉から指摘された途端、息でも止まったような表情を見せた。

 そんなララカリアに呆れたのか、リカルラが溜息交じりに問題ないと告げる。


「それについては大丈夫よ。何故なら、機体は全てピットブロックで覆っているから」


 ――ん? ピットブロック? また新しい名前を耳にしたぞ。ピットブロックってなんだ?


 そんな疑問を抱いたのは、拓哉だけではなかった。リカルラとクーガーを除き、誰もが首を傾げている状態だ。

 すると、間違いなくそれに関して質問されると感じ取ったのか、クーガーが勝手に説明を始めた。


「ピットブロックはね。我が社の新設備なんだよ。機体を丸ごと覆うピットで、当然、中で整備もできるけど、外部からの攻撃を遮断することができるんだ。遠隔通信が可能でプログラマが直接機体に接することなく、管理、調整、変更が可能なシステムを組み込んでいる。あと、バーションアップなんて、一度に十機までパラレルで作業が可能だね」


 ――それって、確かに画期的なシステムだけど、まさか今回のために作った訳じゃないよな?


 拓哉の疑問はあっさりと読まれてしまう。どうにも表情に出過ぎるようだ。

 クーガーは笑みを絶やさずに、聞かれてもいない疑問に答える。


「例の案件が発動されたからね。このくらいの準備は必要なのさ」


 クーガーの口振りからすると、今回の対校戦よりも未来に焦点を絞っているのだろう。

 どうやら、ミクストルの活動に必要不可欠なのだと受け止める。

 そして、彼の様子からすると、あまり心配する必要がなさそうだった。

 そんな訳で、全員が納得して頷くと、リカルラが個人戦の説明を始めた。


「これについては、説明が不要なほどに簡単ね。各校から代表が二組ずつ参加してトーナメントを行うわ。まあ、ウチはホンゴウ君しか参加しないから、どこかがシードになるでしょうけど、それこそウチには縁のない話ね」


 どうやら、そこでも裏工作があると考えているのだろう。さすがに、誰もが既に理解しているので、疑問に思うものなど皆無だ。

 それどころか、拓哉は満足そうに頷いている。


 ――まあ、何の問題もない。すべて倒せばいいだけさ。それを楽しみに、ここまで来たんだ。一戦でも多く戦いたいのに、シードなんて以てのほかだ。


「タクヤ、楽しそうね」


 拓哉の表情から心情を読み取ったのか、クラリッサが笑顔を向ける。

 彼女としても、拓哉が喜んでくれる方が嬉しいのだ。

 しかし、拓哉としては不満もあった。


 ――本当は、もっと楽しくなるはずだったのに……勝手に賭け事なんてするなよな~~!


 笑顔の彼女に頷きで返しながらも、心中では愚痴をこぼしている。

 なにしろ、クラリッサとミルルカは、勝手に戦いの賭けを決めたからだ。

 その内容は、個人戦で拓哉が負けたらミルルカの奴隷になり、彼女が負ければ、拓哉とクラリッサのメイドになるという訳の解らないものだった。

 拓哉としては、公序良俗に反する行為だと、必死に抵抗したのだが、既に沸点を軽く超えていた二人が耳を貸すことはなく、そのまま取り決められてしまったのだ。

 おまけに、もしこのルールを破ると、何をされても文句は言わないという約束までしている。


 ――はぁ~、そもそも負ける気は無かったんだが、これでまかり間違っても負けられなくなってしまったじゃね~か。つ~か、勝ったら勝ったで、問題が起りそうだし……まあ、その時は、メイドなんて要らんといえばいいか……それにしても……


 いまだリカルラの説明が続いているのだが、拓哉はチラリとクラリッサを盗み見ると、いい加減に彼女の猪突精神を何とかする必要があると、真剣に考え始めた。









 結局、到着当日はミーティングと団体戦の作戦会議のみとし、あとは休息を執ることにした。

 そのお陰か、今日は誰もが清々しい顔をしてい――ない。いや、ルーミーだけが眠そうなだけだ。

 彼女以外は、誰もがすっきりとした様子だ。と言いたいところだが、もう一人――拓哉もやや疲れ気味だった。


 ――思いっきり眠たい……


 ここは試合会場となる軍施設だと聞いていたので、久しぶりに一人でのんびり眠れると思った。拓哉は安易にそう考えた。

 ところが、何てことはない。クラリッサとカティーシャが何時ものように転がり込んできたのだ。

 それも、何時もより狭いベッドでギュウギュウの状態で寝たこともあって、とてもではないが、気になって眠れなかったのだ。

 なんてったって、拓哉は思春期の男だ。綺麗で胸の大きな女の子と、胸は一般的だけど可愛らしい女の子が、身体を押し付けんばかりに両隣で密着してきたら、平常心を保つなんて無理に決まっている。

 きっと、ガ〇ジーですら、右の胸に腕が当たったら、左の胸を揉むことだろう。

 そんな状況の中、歯を食いしばって朝まで耐えたのだ。

 いっそ食ってやろうかと何度思ったことか、対校戦がなければ、間違いなく大人の階段を登ったことだろう。


 ――あの状況を何事もなく乗り切るなんて、俺って神だわ……


 なんて自画自賛をしているのだが、それは世間一般で言う『へたれ』という奴だ。

 間違いなく、「誰もが食えよ」「食わない方がおかしいだろ」と考えるはずだ。

 ただ、不満は世間一般の者からではなく、美しき少女から発せられた。

 そう、目を覚ましたクラリッサがボソリとクレームいれたのだ。


「意気地なし」


 そう、正解は食わなければならなかったのだ。

 まあ、そうは言っても、拓哉がヘタレなのは今始まった話ではない。

 それに、いまはそんな話で盛り上がっている場合でもない。

 そう、拓哉達は試合の抽選を行うべく、訓練施設に辿り着いたところだ。


「観客とか、全然いないんだな」


 訓練施設に入った途端、トルドが室内の光景を目にして、そんな感想を述べた。

 彼の言う通り、この訓練施設には、関係者数名と参加者数名がいるだけで、ガランとした光景が作り出されていた。

 この光景を目にした者は、違うことなく、こんな広い場所で抽選を行う必要があったのかと、問いたくなるだろう。

 しかしながら、こうなることは事前に解っていた。

 なぜなら、拓哉が所属するミラルダ訓練校もだが、他校も参加者と整備士しかきていないと聞いていたからだ。

 今頃、訓練生は授業の真っ最中だろう。

 この対校戦も訓練の一環であって、別にお祭り騒ぎではないのだ。


「誰が引く?」


 拓哉達の順番が迫ってくると、キャスリンがどうすると言わんばかりに、拓哉に視線を向けた。


「誰でもいい。というか、そもそも引く必要があるのか?」


 拓哉の考えが正解だった。彼等は引く必要がないのだ。いや、間違いなく意味がない。

 なぜなら、彼等の順番は、いちばん最後なのだ。


「キャス、考えんでも分かるやん。ああ、すまん。いまのって、笑いのネタやな」


 初めから引くつもりがいこともあって、思いっきりだらけていた拓哉とは違い、キャスリンはガチガチに緊張していた。

 そんな彼女に、メイファが容赦のないツッコミを入れていた。


「も、もちろん、冗談よ! み、みんなの気持ちを軽くさせようと思ってね……えへ」


「絶対に嘘なの」


 焦って誤魔化そうとするキャスリンだったが、眠そうなルーミーが断言した。

 その一言で逃れられないと感じたのか、攻撃を食らったキャスリンが力無くひざまずく。

 彼女の周りでは、男連中があわれみの視線を投げかけている。


「まあ、誰にでもあるさ。リディなんて何時ものことだぞ?」


「あ、あたしは、リディと同じレベルなのね……」


「なんだと!」


「まあまあ」


 トーマスがキャスリンをフォローするのだが、どうやら、慰めになっていなかったようだ。彼女はリディアルと同じレベルになったのが嫌だったらしい。もちろん、リディアルがそれを見て憤慨する。

 最終的にレスガルがなだめて終了となったのだが、その間に拓哉達の組み合わせが、予想と違わずしてA組に決定した。


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