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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
79/233

76 激突

2019/1/18 見直し済み


 時が経つのは本当に早いものだ。

 拓哉がこの世界に来てから、どれほどの月日が流れただろうか。

 既に半年近くの時が過ぎ去っている。

 日本が恋しくないと言えば嘘になるだろう。

 家族の事が心配でないと言えば、強がりとなるだろう。

 しかし、不思議なことに故郷のことを思い浮かべることはなかった。もちろん、家族のこともだ。

 ただ、それに疑問を抱くこともない。なにしろ、思い浮かばないのだから、不思議だとも感じない。

 当然ながら、それには理由があり、ごく一部の者がそれを知っている。しかし、誰もがそれを口にしない。

 それとは知らない拓哉は、クラリッサやカティーシャという恋人を得て、リディアル達と言う仲間を得て、この世界に満足していた。

 そして、彼女等や彼等の力になりたいと考えた結果、ミクストルに協力することにした。

 その第一歩として、対校戦に出場することにしたのだが、いまや、それが三日後に迫っていた。


「タクヤ、どう? 飛空艦で空を飛ぶ気分は」


 クラリッサが問い掛けた通り、現在の拓哉は飛空艦に乗って空を移動している。


 それは飛空艦であり、飛行機ではない。空を飛ぶ戦艦なのだ。

 その大きさは駆逐艦くらいのサイズなのだが、文字通り見た目からして船の形をしている。

 ただ、その飛行速度は、地球のジェット戦闘機並みだ。

 旅客機よりもはるかに速く飛んでいるのだが、艦内にいると空を飛んでいるとは思えないほどだ。

 当然ながら、耐圧スーツを着ることもなければ、座席にシートベルトで固定されることもない。

 そういう意味では、空の旅というよりも海の旅に近いかもしれない。


「凄いな。高速で飛んでいるとは思えないぞ」


「でしょ? それに、この飛空艦には三十機のPBAを搭載できるのよ。空飛ぶ空母といって差し支えないわね」


 拓哉が感じたままを口にすると、クラリッサはまるで自分がめられたかのように微笑んだ。


 ――それにしても空飛ぶ空母とは、さすがは最先端科学を有する異世界だな。


 現在、二人は外の見えるラウンジへとやってきているのだが、そんな二人きりの一時ひとときも、いまこの時を以て終わりを告げた。


「こっそり逢引あいびきとはズルいじゃないか」


 ほおふくらませたカティーシャが現れた。


「いや、別に逢引とかじゃないぞ。外を眺めていただけだ」


「そうよ。タクヤに艦内を案内していただけよ」


 拓哉が事実を有りのままに伝えると、クラリッサもそれに同意したのだが、カティーシャの眼差しは、その話を信じているという風ではなかった。

 それでも、彼女は一言だけ文句を付け加えると、表情を戻して話題を代えた。


「そもそも、ボクを誘わない理由がわからないよ。でも、まあいいや。もう直ぐ到着するから艦を降りる準備をしろってさ」


 どうやら、わざわざそれを知らせに来てくれたようだ。

 そう感じた拓哉は、素直に感謝を告げる。

 すると、ご立腹だったはずの彼女が満面の笑みを見せた。


 ――この表情を見ると、無下にもできないんだよな~。


 思わずカティーシャの笑顔に見惚れてしまう。

 すると、飛空艦よりも先に、クラリッサの機嫌が急降下する。

 有無も言わさずに、拓哉の尻をつねったのだ。


「いてっ!」


「どうしたの? タク」


「何でもないわよ。注射の後遺症だと思うわ」


 拓哉の悲鳴に、カティーシャが怪訝な様子を見せるが、頬を膨らませたクラリッサがしれっと誤魔化した。









 眼下には巨大な都市が広がる。

 そんな街の上空を音もなく飛行する飛空艦。

 誰もが空を見上げるかと思えば、行き交う人々は脚を止めることなく闊歩かっぽしている。

 この街では、上空を飛空艦が頻繁に行き来する。音が煩ければ顰め面をしようものだが、時々、影を落とす程度なら、然して気にならないのだろう。時折、見上げる者はあっても、殆どの者は視線を上げることすらしない。

 そんな者達の頭上を、拓哉達が乗った飛空艦がゆっくりと移動する。


 さて、拓哉達が飛空艦に乗って遠路遥々《えんろはるばる》大陸の北東部に来たかというと、既にお察しの通り、この街で対校戦が行われるからだ。

 ここで少し位置関係を明確にすると、拓哉達が日々訓練を行っているミラルダ初級訓練校は、大陸の中央からやや西寄りの地方に存在する。そして、この旧ビトニア連邦の一都市であるディラッセンは、大陸の北東部に位置する軍事都市だ。

 旧ビトニア連邦だが、大陸の北から東にかけて旧ビトニアの地域であり、東から南の地域が旧ラルカス連合。西の地域が旧ミドラア国となっている。そして、ミラルダ初級訓練校は、旧ミドラア国に存在する。

 因みに、大陸の南西部は、既にヒュームによって占領されており、その範囲は大陸の十分の一を占めている。

 そう考えると、この大陸の危機的状況が解ろうというものだ。


 俺達の乗った飛空艦は、街外れにある軍事基地へと辿り着き、今まさに着陸しようというところだった。

 とはいっても、この飛空艦は垂直飛行も可能なので、余程のことがない限り事故など起きない。

 そして、この飛空艦の原動力なのだが、拓哉が尋ねてみたものの、答えはブラックボックスということだった。

 実際、ブラックボックスではなく、軍事機密なのだろう。

 これだけの技術をそうそう盗まれる訳にはいかないだろう。情報の流出を抑えるために、規制をかけて当然だ。

 ただ、クラリッサは少しだけ知っていたようだ。

 反重力エンジンとサイキックを使用していると、拓哉に教えていた。

 それ故に、ジェット機のような轟音を撒き散らすことなく、無音に近い状態で飛行し、巨大な船体を易々と着陸させることができるのだ。


「さて、到着したようね」


 リラックスルームに戻ったクラリッサが、艦内放送を耳にして頷く。

 すると、カティーシャが肩を竦めた。


「さっさと降りろってことかな。その後は、宿舎のミーティングルームで会議だってさ」


「マジかよ……会議なんて止めようぜ」


 この後のスケジュールを知った途端、リディアルがゲッソリとした表情で愚痴をこぼす。

 ただ、キャスリンはやる気満々なのか、リディアルの後ろ頭を軽く叩いた。


「少しは真面目にやりなさいよ!」


「だってな~! 飛空艦に乗っている間も、ずっと訓練続きだったじゃないか」


 どうやら、リディアルは休息がないことに不満を抱いているようだ。

 まあ、それも仕方ないのかもしれない。移動中もララカリア特製のシミュレーターで訓練ばかりだったのだ。疲れていても仕方あるまい。

 しかしながら、そこでまなじりを吊り上げたのは鬼軍曹だ。


「あら? リディアル君は観光に来たのかしら?」


「……」


 ――哀れだな、リディ。一声も発することができずか……


 拓哉が哀れみの視線を向けていると、リディアルは直ぐに拓哉の横にやって来たかと思うと、小さな声で囁いた。


「タクヤ、あのおっかないのをマジで嫁にする気か?」


 ここでそれを言われても、拓哉の選択肢は一つしかない。なにしろ、ノーとは言えないのだから。

 だいたい、リディアルはこそこそ話したつもりであろうが、それが彼女の耳に入らない訳がない。

 そう、彼は自分から地雷を踏んだのだ。そこにあることを知っていて、わざわざ踏み抜いたのだ。


「リディアル君は、どうやら模擬戦をご所望のようね」


「嘘です! 嘘です! 冗談です!」


 氷片が散りばめられたかのような声色で、クラリッサが威圧すると、リディアルが必死で謝り続ける。

 それを拓哉は嘆息しつつ、どう収めようかと考える。

 しかし、そこに天の助けが入る。


「いつまでこんなところで騒いでいるの? さあ、さっさと降りるわよ」


 まるで修学旅行の引率のようなリカルラの声で、凍り付いていた場の空気が柔らかくなる。

 まさに天の助けだと言わんばかりに、拓哉が行動を起こす。


「そうだな。さっさと降りよう。ここに何時まで居ても仕方ないし。会議をするにしても、休息をとるにしても、早く降りた方が良いだろう?」


 チラリとリディアルに視線をむけつつも、拓哉は率先して昇降口へと向かう。

 しかし、拓哉は知らなかった。飛空艦から降りた途端にトラブルが起ることなど、この時の彼は全く想像すらしていなかった。









 拓哉達が飛空艦から降りると複数の者が立っていた。

 首を傾げつつも、拓哉はこの軍事基地の関係者かと思ったのだが、そこに立つ一人の少女を見て、そうではないと判断した。

 そう、そこには十人程度の制服を着た者達が立っていたのだが、その中の一人に見覚えがあったからだ。


「あっ、巨乳美人だ! いてっ!」


「あんたは、ちびっと口をつつしみや」


 リディアルが頭を摩る。今度はメイファに叩かれていた。


 ――まあ、リディに同情できなくもないよな。だって、ほんとに巨乳美人だし……いやいや、そんなに睨むなよ……


 首を窄める拓哉は置いておくとして、見覚えのある一人とは、先日データチップを送りつけてきたミルルカ=クアントだった。


「誰が黒き鬼神だ?」


 品定めでもするかのように眺めていたミルルカは、その大きな胸を張ってそう尋ねてきた。

 ただ、拓哉としても胸ばかりが気になっている訳ではない。そのはずなのだが……


 ――おいおい、クラレの上をいってるじゃんか! いてっ!


 ミルルカの言葉ではなく、その胸に引き付けられてしまい、クラリッサにお尻を抓られてしまった。

 しかし、この場合、拓哉が「俺が黒き鬼神です!」というのも間抜けにみえる。

 そもそも、二つ名なんて、自称でもなければ、認めた訳でもないのだ。

 それ故に、誰も答えることなく、沈黙が支配する。

 すると、物言わぬことにキレたのか、ミルルカが憤慨してしまった。


「お前達には口がないのか? 返事くらいしろ!」


「会長! 少し落ち着いてください」


 ミルルカが憤慨をあからさまにすると、そのやや斜め後ろに立っていた真面目そうな男――テリオスが彼女をいさめた。

 しかし、彼女は鼻を鳴らしつつテリオスを強引に退けると、何を考えたのか、今度は毒を吐き散らした。


「ふんっ! 黒き鬼神とは、返事すらできないような腰抜けか! 噂とは本当に当てにならないものだな」


 ――そうは言われても、自称するほど格好悪い姿はないだろ?


 拓哉は不満を抱きつつも、やはり沈黙で返すことにした。ところが、いきり立ったクラリッサが一歩前に出た。


「私のタクヤが腰抜けだなんて、何を根拠に仰っているのですか? 火炎の鋼女とは、ただ単に短気と短慮を持ち合わせた、傲慢で不遜な存在だったのですね。ガッカリしました」


 ――おいおいおい! クラレさんや、揉め事を始めるのは止めてくれんかね……


 憤慨するクラリッサを慌てて押し留めようとしたのだが、その行動は時既に遅かったようだ。

 罵られたミルルカが腕を組んで目を細めた。


「ほう。元気のよい小娘だ! お前は誰だ?」


 怒りを露わにするかと思いきや、ミルルカは啖呵を切ったクラリッサに興味を抱いたようだ。

 不敵な笑みを浮かべて、品定めするかのようにクラリッサを観察しはじめた。


 ――ちょっ、ちょっと、小娘って……あんたと、二、三歳くらいしか変わらんだろ?


 拓哉はツッコミを入れたくてウズウズしていたのだが、それを差し置き、クラリッサが速攻で名乗りをあげる。


「私はクラリッサ=バルガンです。黒き鬼神は、私のフィアンセです」


 ――おいおいおいおい! ここでもそのネタか!


 もはや、ツッコミどころばかりなのだが、この場合、口にしなかった理由は、開いた口が塞がらないからだ。

 ただ、その威勢の良さをこころよく感じたのか、ミルルカはニヤリとしたかと思うと、楽しげな声色を発した。


「お前が氷の女王か! いや、それもよりも黒き鬼神がフィアンセだと? 面白い」


挿絵(By みてみん)


 ――いやいや、全然面白くないから……嬉しいけど、面白はなしじゃないから。


 拓哉としては、水と油のような二人を見やりながらヒヤヒヤしているのだが、クラリッサは一味違っていた。


「先程のお言葉、撤回して頂きたいのですが」


「ほう~、なかなか元気な小娘だ。よし、良かろう。私に勝てたら撤回してやる。いや、私が黒き鬼神の嫁になってやろう」


 ――ちょっとまて~~い! そんな宣言をされたら、勝とうにも勝てないじゃないか! どんな嫌がらせだ? もしかして、それが作戦か?


 とんでもない発言に、拓哉も思わず一歩前にでる。

 ところが、クラリッサは、さらに二歩前に出た。

 どうやら、彼女も不満を感じたのだろう。ミルルカの言葉を批判し始めた。


「タクヤの嫁は間に合っています。私がフィアンセだと聞えなかったのでしょうか? だいたい、そんな宣言をされると、勝てる戦いを放棄するしかなくなるではないですか」


 憤慨したクラリッサが、相手の感情を逆なでするような物言いで攻撃する。

 そして、その過激な発言が拙かった。そう、ミルルカに闘志という名の炎を点火したのだ。


「なんだと!? それは私に勝てると思っての言葉か?」


「もちろんです。百回やって百回勝つでしょう」


「なにぉ~~~! よ~~し、そこまで言うのなら解った。もし私が負けたらお前達の召使になろう。だが、勝ったら、その男は私が頂くからな」


「問題ありません。私達が負ける可能性など、那由多なゆたに一つすらありませんから」


 ――おいおい! クラレさんや、何を勝手に決めてるのかな? そろそろ止めてくれんかな?


 オロオロする拓哉を余所に、クラリッサとミルルカは勝手に勝負の内容を決めてしまう。

 こうして拓哉は、対校戦を行う街に着いた途端、なぜか自分自身を賭けた戦いに巻き込まれることになった。


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