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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
77/233

74 作戦会議

2010/1/18 見直し済み


 消音モーターが唸りをあげる。それは悲鳴の如く演習場に響き渡る。

 それは、敵に察知されないために、できうる限り音の出ないように作られたモーターだ。

 何度になるかも分からないほどの改良が加えられ、大抵のことでは泣きを入れたりしないはずだ。

 ところが、もう止めてくれとばかりに悲鳴をあげている。

 まさに、その音は、モーターが発する悲痛な叫び声だった。


「前方十二機、後方八機の敵影あり、位置は――」


 クラリッサが敵の位置を知らせる。

 拓哉の耳には、その声がヘッドシステム越しに聞こえてくる。

 それを軽く頭にインプットしながら、目の前の敵をほふっていく。


「更に、左右から、六機と五機――」


 次から次へと湧き出るかのように現れる敵を、クラリッサがモグラ叩きの如く伝えてくる。

 拓哉は、その端から容赦なく殲滅していくと、なぜか彼女の溜息が音声に混ざった。

 しかし、いまは戦闘中だ。それに付き合っている暇はない。

 なにしろ、現在の拓哉は無限モードで起動するフォログラムシミュレーション戦闘を行っているからだ。

 何を隠そう。これは正規のシミュレーションではない。いや、フォログラムシミュレーション自体は正規のものだが、内部で動作しているプログラムは、それこそ処理能力の限界に挑むほどの内容に書き換えられている。

 もちろん、そのプログラムを組んだのはララカリアだ。

 拓哉のために、いや、自分の望みを叶えるために、新たに組み込んだモードであり、彼女から言わせれば無理ゲーモードらしい。

 というのも、幾度となく訓練を続けたことにより、現在の拓哉にとっての実技訓練は、既にやる意味がないほどに単調なものとなってしまったからだ。

 しかしながら、この無理ゲーモードを熟す拓哉からすると、このプログラムはいささか面白みに欠ける代物だった。

 拓哉がつまらないという理由は簡単だ。それは、敵自体が強くなっている訳ではなく、唯単に数で押し寄せて来るだけの代物だからだ。


 ――そろそろ飽きてきたな……いい加減、終わりにしようか。


 複数の敵を倒すのは、それ相当の技術が必要なのだが、今の拓哉からすると眠くなるほどに温い戦闘だといえる。

 というのも、所詮はプログラムなのだ。必ず規則性が生まれる。イレギュラーを作ることすら、何らかのプログラムが必要となるだけに、本当に度肝を抜くような想定外は起こらないのだ。

 それこそ、バグでもなければ、拓哉が驚くことは起きないだろう。


 ――これなら、数より質を上げて欲しいな……


 ララカリアに対する要望を心中に留めながら、欠伸をしつつ敵を殲滅していく。


「タクヤ。訓練中に不謹慎よ」


 どうやら、クラリッサがモニター越しに拓哉の様子を見ていたようだ。

 すぐさま叱責の言葉が拓哉の耳に届く。

 しかし、拓哉としても、こればっかりは仕方がない。生理現象なのだ。

 特に、集中していないときには、頻繁に出るものだ。


「だって、退屈だしさ……」


 必死に欠伸をかみ殺しながら愚痴で返すと、彼女はそれがお気に召さなかったようだ。その美しい顔に憤りという名の表情を浮かべた。


「あのね。私はとても忙しいのだけど……敵はウジャウジャとネズミ子のように湧いてくし、かと思えば、端から加速的に殲滅していくし、少しはナビのことも考えて欲しいわ」


 ――いやいや、それって、ナビの仕事が忙しくなるから手を抜けと聞こえるんだが……それは本末転倒だろう?


 些か理不尽な苦言に、拓哉は否定の言葉を投掛けたかったのだが、ここでそれを口にすることの危険性を知らないはずもない。

 ここは寡黙な男を演じてみせることにした。

 そんなタイミングで、ヘッドシステムにララカリアの声が届く。


『限がないし、あまり有意義でもなさそうだから、そろそろ終わりにするか』


「そうですね。終わりにしましょう」


 ララカリアとしても、初めのうちは、とても自慢げだったのだが、拓哉があまりに簡単に片づけてしまうので、このプログラムに意味がないと思い始めたのだ。

 それもあってか、眠そうな声を発する拓哉に不満を述べることはなかった。

 それでも、拓哉は最後まで続ける。群がる敵を残らず一掃する。


「もう! 呆れて物が言えないわ。タクヤのナビなんてやってられないわ!」


 最後の攻撃で、クラリッサの堪忍袋の緒が切れたようだ。

 まるで子供がおもちゃを放り出すように、自分の仕事を放棄した。


 ――本当に理不尽だ……


 声にならない愚痴を心中でこぼしながら、拓哉は戦闘を終了させて、機体を格納庫に移動させた。









 機体をピットへと格納し、何時ものように機体から降りると、軍用車両に乗ったララカリアが戻ってくるのが見えた。


 ――いつ見ても思うんだが、あの幼女体型でどうやって運転してるんだ?


 ララカリアが運転する軍用車両を見遣りながら、何時もと同じ疑問を持ってしまうのだが、未だにそれを聞く勇気がない。

 その幼女体型さんが軍用車両から颯爽と降りてくるのだが、それがまた様になっていなくて、いや、お子ちゃまが無理して格好をつけているようで、拓哉は微笑ましく思えてしまう。


「なんだ? その気持ち悪い顔は!」


 拓哉としては、彼女を温かく迎えたつもりなのだが、それは誰がどう見ても生温かい眼差しになっていた。

 それに気付いたララカリアが、不満を持つのも当然だろう。

 ただ、それは逆に拓哉に不満を抱かせる。


 ――気持ち悪いとは失敬だな。にこやかに迎えたつもりなのに……


 異議を唱えたい拓哉だったが、ここでも危機察知能力が敏感に働いて、寡黙な男の振りをすることになってしまう。

 すると、拓哉に遅れて降りてきたクラリッサが、腕を組んで顰め面を作った。


「最近のタクヤって、都合が悪くなるとダンマリなのよね。ちょっと卑怯だわ」


 そう、確かにこのところの拓哉は、災禍を避けるために、敢えて口を噤む癖がついていた。

 それは自己防衛のための手段なのだが、周囲の者からすると逃げの一手にしか見えないようだ。


 ――いやいや、全然卑怯じゃないぞ! てか、自己防衛本能の賜物たまものなんだぞ? いやいや、そうさせているのは、お前達の理不尽な言動の所為だからな。


 拓哉としては、好き好んで黙っている訳ではない。

 それ故に、思うところが山ほどあるのだが、心中で彼女にツッコミを入れながらも、ここでもダンマリを決め込んだ。

 それが拙かったのだろう。クラリッサがそれ見たことかとまなじりを吊り上げた。


「ほら! またダンマリだわ。思ったことはきちんと口にして欲しいのだけど」


 さすがにそこまで言われると、拓哉も黙ってはいられない。ここぞとばかりに、本心をぶちまける。


「だって、言ったら怒るじゃないか」


 そう、彼女達は、理不尽なのだ。恐ろしく理不尽なのだ。

 それを証明するかのように、クラリッサが理不尽を発動させた。


「それは、怒られるようなことを言うからでしょ?」


 ――いやいや、怒られないようにするには、頭から謝る選択肢しかないじゃんか。いや、謝ったら謝ったで、なんで謝るのかと怒るし……勘弁してくれよ……


 最早、苦言というよりは泣き言に近いのだが、それすら口にできずにいると、二人の遣り取りを見ていたララカリアが口を挟んできた。


「そんな痴話げんかなんてどうでも良いんだ。ゾゾムシ(ゴキブリ)でも食わんぞ。それよりも、シミュレーションのプログラムはどうだったんだ?」


「駄目ですね。いてっ!」


 彼女は無理ゲーモードの出来を尋ねてきたが、それに即答で返すと、何処からか取り出したハリセンで拓哉の頭を叩いた。


 ――おいおい! なんでこの世界にハリセンがあるんだよ!


 その存在におののきながらも、叩かれた頭を擦っていると、ララカリアは見るからに憤慨した様子で鼻を鳴らした。


「ふんっ! 悪かったな。だいたい、お前のためを思って頑張ったのに、即答でダメ出しはないだろ!」


 ――いや、だって、ダメだもんな……


 申し訳ないとは思いつつ、そのダメな所について言及する。


「数は少なくていいから、強い敵を用意して欲しいですね」


「ちっ! 注文の多い奴だ。あ~あ~解ったよ。お前の戦闘データもかなり揃ってきたからな。お前のコピーを作ってやるさ」


 なんだかんだいっても、彼女は甘い女だった。ただ、チョロイわけではない。拓哉が夢を叶える存在だと思えばこその甘さだ。

 そんな彼女は、直ぐに次の策を口にした。もしかしたら、初めから予定していたのかもしれない。

 ただ、拓哉としては、どちらでも良かった。


 ――おっ! それは面白そうだ。もしそれが可能なら、昨日の俺よりも今日の俺、今日の俺よりも明日の俺が強くならないと負けることになるんだよな? それって、めっちゃ面白そうだ。


 遅れて集まってきたリディアル達がその話を聞いて呆れている。いや、嫌そうな表情を見せている者の方が多いだろう。

 間違いなく、自分達はそれと戦わなければならないことを理解しているのだ。吐きそうになるのも当然だろう。

 しかし、そんなリディアル達の様子など目に入らないのか、拓哉はそのプログラムができあがるのを待ちどうしく思うのだった。









 一通りの片づけが終わり、拓哉達は対校戦の作戦会議をするべく、いつのも第三倉庫……おっと失敬、第三格納庫に設置されている会議室に集合していた。


「ところで、新しい機体の方はどうだ?」


 手始めとばかりに、ララカリアが新機体について尋ねてくると、リディアル達がすかさず絶賛する。


「最高ですね」


「思い通りに動くって感じです」


「反応も前よりもずっと良くなっているし、機体も軽く感じます」


 リディアル、キャスリン、トルド、ドライバーの三人が称賛した。

 しかし、ファングは首を傾げてポツリとこぼした。


「良くなってるけど……すごみがない?」


「そうだな。確かに乗り易くて前よりも断然よいが、凄いという感じではないな」


 ファングの言葉を引き継ぐように、ティートが肩を竦めた。

 やはり、直接機体を動かしている所為か、ナビゲーターよりもドライバーの方が実感するのだろう。

 ドライバーからの感想が先に飛び出してきた。

 ただ、初めの三人に比べて、後の二人はあまりポジティブな印象をもたなかったようだ。

 それが、ララカリアのかんに障る。

 しかし、不満を噛み殺し、彼女は最終的な感想をもらうべく、拓哉に視線を向ける。

 その視線を感じて、拓哉は溜息を一つ吐くと、ゆっくりと感想を述べる。


「とても良い機体だと思いますよ。ただ、平均的にという前置きがつきますが」


「それは、どういうことだ?」


 感想を聞いたララカリアが、その意図を理解できずに眉をひそめる。


「説明するのが難しいんですが……例えるなら、誰が乗っても乗り易い機体という意味で良いものだと思ってます。しかし、特性を感じられないですね。まあ、量産を考えるのならこれで良いと思いますが、ここに居るメンバーは格上の相手と戦う必要があるんです。無難な機体よりも、個人に合わせた特化型の方が、より効果があると思いますよ」


 新機体は平均的に良い機体ではあるが、意表を突くような能力を持ち合わせていないのだ。

 それ故に、格上の相手と戦えば、手も足も出なくなるだろう。

 それは、クーガーとトルドの模擬戦を見れば一目瞭然だった。

 拓哉の言わんとするところを理解したのか、腕組をしたララカリアが難しい表情を見せる。


「では、どうするのだ?」


「それは、この作戦会議の内容によります」


「だったら、さっさと作戦会議を始めろ」


 ――おいおい! ララさんが始めにこのネタを振ってきたんだろ!


 相変わらず理不尽な物言いに、声にならない愚痴をこぼす。

 それでも気を取り直して、会議を始めることにした。


「作戦といっても、それほど大袈裟なものではないです。まず、個人の特性を生かしたいと思ってます。なぜなら、ただでさえ格下のこちらが苦手な戦闘をすると、その時点で負けですからね」


 その言葉を耳にして、頷く者、嫌な顔をする者、首を傾げる者、様々の反応があったが、拓哉は気にせずに話を続ける。


「リディは……接近戦はいいけど、防御と遠距離攻撃がまだまだ力不足だ。キャスの場合は、防御は上手いが攻撃が苦手。トルドは平均的に良いが、逆に言うと突出した能力に欠けている。ファングは、接近戦はイマイチだけど、遠距離攻撃の精度が高い。ティートは全般的に高いレベルになりつつあるが、気が短くて突進し過ぎ。クーガー先輩は唯一上級訓練校と互角に戦える力があると思います。ただ二つ名持ちと戦えば苦戦するでしょうけど」


 一気にそこまで言うと、それぞれ思う処があるのか、様々な反応をしていたが反発する者は居なかった。

 ただ、黙って話を聞いていたクラレが割って入る。


「タクヤ、団体戦は五機で一組だけど、誰がレギュラーで出場するの?」


 ――そう、それも悩みどころなんだよな。まず、俺とクーガー先輩は確定として、残りの選手をどうするかだ。


 実のところ、彼女の問いは、拓哉の悩みどころでもあった。

 実力的に、拓哉ペアとクーガーペアは決定なのだが、他の面子をどうしたものかと悩んでいるのだ。


「一応、ケースバイケースで考えているけど――」


 それでも、拓哉は現段階で判断したメンバーを告げようとする。

 ところが、話始めたところで、クーガーが言葉を遮った。


「あっ! 悪いけど、私は基本的に不参加で頼むよ」


 その言葉に全員が驚きの表情を見せる。

 特に、慌てた様子のクラリッサが、すぐさまその理由を知りたがる。


「それは、どういうことでしょうか? クーガー先輩が出場しないとなると、かなり戦力ダウンになるのですが……」


「申し訳ない。実を言うと、初めから対校戦には出る気がなかったんだ。ただ、選抜選手が一回生だけだと周囲が反発しそうだからね。校長に頼まれて出場することにしたという訳さ」


 クーガーがメンバーに選ばれた理由を知って、拓哉はせっかく考えていた作戦が水の泡となり、ガックリと力無く肩を落とした。


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