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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
75/233

72 事後

2019/1/16 見直し済み


 校長室に居る者達は、誰もが拓哉に視線を向けていた。

 それは、拓哉の味方である者達に限らず、周囲を取り囲む敵でさえも例外ではなかった。

 そんな中、拓哉は少しばかり焦っていた。


 ――おいおいおいおい! 頼む相手が違うだろ! この状況を俺にどうにかできる訳ないだろ?


 リカルラから丸投げされた拓哉が心中で弁解する。

 そんな拓哉を目にしたラッセルが、バカバカしいとばかりに嘲笑ちょうしょうを向けた。


「ほう~。お前がね~。機体がなくて何ができるのやら。さあ、やって見せてくれよ」


 ――くそっ、うぜっ! こいつ、できるものならぎゃふんと言わせてやりたいぜ。


 あからさまにバカにした視線を向けてくるラッセルにムカつく。

 しかし、拓哉には何もできない。いや、拓哉には何も思いつかなかった。

 それどころか、何が何やら分からない状況となっているのだが、リカルラが不敵な笑みを浮かべた。


「彼は若くて最高なのよ。あなたのフニャチ〇とは違うのだから。顔を洗って出直しなさい」


 ――放送禁止用語の使用は置いておくとして、なんでお前が俺のナニを知ってるんだ?


 リカルラの台詞に異議ありと言いたいのだが、その前にラッセルの怒りが沸点を超えたようだ。


「くそっ! あんなガキに舐められてたまるか!」


「いやいや、俺は舐めね~から、汚いからやめてくれ、ナメクジにでも這ってもらうんだな。だいたい、俺じゃないだろ。クレームならリカルラさんに入れてくれ!」


 あまりに気が動転しいて、拓哉は無意識に心中の思いを口にしてしまう。

 それがラッセルの逆鱗に触れたのだろう。発狂寸前の奴が一人の兵士から銃を奪い取ると、すかさず拓哉に向けてきた。


「黙れ、クソガキ! お前が一番に死ね! この元凶が! そうだ。お前が一番の癌なんだ!」


 ――なにを言ってるんだ! お前こそが元凶だろうが! 勝手に人を癌呼ばわりするなよ!


 思わずそう言い返そうとしたのだが、奴が引き金を引くのを見て、拓哉は慌てて右手を前に突き出した。


 それは本当に無意識の行動であり、ただただ本能で腕を突き出しただけだった。

 もちろん、それでラッセルが放つであろう弾丸を受け止められる訳ではない。

 しかし、同時に、撃ち出される弾を防がなければという考えだけが脳裏に渦巻うずまく。

 次の瞬間、奴が手にした銃が火を噴き、校長室にけたたましい音が響き渡る。

 その銃は、日本で言うところの短機関銃だ。引き金を絞ると同時に、長い弾倉に入った弾丸が無数に撃ちだされる。

 その射撃音は耳をつんざくほどのもので、誰もが両手で耳を塞いで腰を屈めた。



 ――くそっ! これじゃ、みんな……


 拓哉は銃口が火花を発したと思った途端に、恐怖からか目を瞑っていた。

 そして、自分どころか、周囲に居る仲間たちが残らず蜂の巣にされたのではと感じていた。

 ところが、暫く経っても痛みを感じることもなければ、意識が遠退くこともなかった。

 訝しく思いつつも、慌てて周りを確認する。自分が生きていることを他所に、まずはクラリッサに視線を向けた。続けて、カティーシャをみやり、その周りにいる者達の無事を確認する。そして、誰一人として傷ついていないことに安堵する。


 ――よかった……


 拓哉がホッと胸を撫でおろした時だった。


「なにこれ?」


 クラリッサの声が届いた。

 その言葉の意味ではなく、その声が聞えてきたことに安堵しつつも、彼女が驚愕の眼差しで見詰めている先を辿る。


 ――ん? 何を見てるんだ。えっ!? これって……


「なんだ、これ!?」


 あまりに非現実的な光景を目の当たりにして、拓哉は思わず間抜けな声を発した。

 そこには、無数の弾丸が宙に止まっている光景があったのだ。


「弾丸を止めたのか?」


 その光景を目の当たりにして、ララカリアが信じられないという表情で疑問を口にした。

 すると、全く表情を変えていないリカルラが、あたかも当たり前だというように頷いた。


「ホンゴウ君が腕輪をしていないのだから、これくらいは当然よ。彼のサイキック能力は異常ですからね。ああ、それと、今のサイキックでキャンセラシステムは壊れたようね。それじゃ、吐いた毒の数だけ……その百倍は喰らいなさい。ああ、毒を吐かなくても、仲間は同罪です」


 彼女がそういうと、宙に浮いていた弾が次々に、ラッセルとその背後に控えている敵に撃ち出された。


「ぐおっ! 痛てーーーー! どういうことだ。サイキックは使えないはずだ。いや、くそっ! 撃て! 撃て! 早く撃て!」


 リカルラのサイキックで撃ち返された弾丸が、見事にラッセルの脚や腕に撃ち込まれる。

 奴は苦悶の表情を作りながらも、味方に射撃を命令した。

 その途端に、リカルラの攻撃を受けていない兵達が、慌てて銃の引き金を絞り、鉛弾をフルオートで撃ち出すが、そのすべてが拓哉達の眼前で宙に止まる。

 拓哉が目にしたその光景は、恰も見えない壁に弾丸がめり込んでいるかのように思えた。


「さあ、書き入れ時よ! サクサク撃ち返しなさい。あっ、でも殺さないようにね。あははははははは!」


 敵の撃ち出した弾が全て阻止されるのを見たリカルラは、そう仲間をき付けたかと思うと、ラッセルのお株を奪うがごとく高笑いを始める。

 すると、誰もが怒りの声を吐き出しながら、宙に浮かぶ弾を、サイキックを使って敵にお見舞いした。

 こうしてラッセルの策略は簡単に幕を閉じた。









 早いもので、あれから一週間の月日が流れた。

 いまや、拓哉達は訓練校内で一躍人気者……なんて喜ばしい事実はない。

 世の中は難しいものだと、拓哉はつくづく思い知らされていた。

 なんてことはない。拓哉達はただただ話題を提供するだけの存在と化しているのだ。


「みてみて! 今、笑ったわ」


「ほんとだ! かわいい~」


「どこどこ! あはっ! 愛人でもいいから遊んでくれないかな?」


「おお、氷の女王が優しい眼差しで話し掛けてる」


「やっぱり、そういう関係だったんだな」


「ちぇっ! つまんないの……」


「てか、爆発する機体をサイキックでじ開けて脱出したんだろ?」


「マジかよ! あの機体のハッチをか? 人間業じゃね~よ」


「いやいや、それどころか五十人の敵を一網打尽にしたらしいぞ」


「なに言ってるんだ。一撃で粉砕したって聞いたぞ」


「校長室が血の海になったらしい」


 食堂で静かに食事を摂っている拓哉の耳に、聞きたくもない会話が飛び込んでくる。


 ――クラレの奴、内緒にしろとか言った癖して、完全に広まってるじゃんか。だいたい、五十人を一撃って! 人間機雷か!? それに校長室が血の海になんてなってねぇ~し! 誤解だ! 誤解!


 日に日に尾ひれが大きくなっていく噂話に、思わず溜息を吐いたのだが、何を勘違いしたのか、クラリッサが拓哉の耳を引っ張る。

 その表情は、まさに氷の女王らしいものだ。


「女の子にモテモテで良かったわね」


 ――いやいや、喜んでないし……ちょっとは嬉しいけど……


 不満を抱きつつも、全く否定できないが故に、黙り込むしかない。

 ただ、それが拙かったのか、カティーシャも冷やかな視線を向ける。


「なにしろ、今をときめくタクヤ=ホンゴウだし、女好きだし、節操がないし、エロき鬼神だもんね」


 ――なにを言ってんだ。誰がエロき鬼神だ。だいたい、張本人はお前だろ! バカちん!


 実を言うと、このウザい噂の原因は、思いっきりカティーシャにあった。彼女が何でもかんでも吹聴して回った結果なのだ。


「カティ、いい加減にしなさいよね」


 さすがに、クラリッサも堪忍袋の緒が切れたのだろう。眉間に皺を寄せて苦言を述べた。


 ――そうだそうだ! もっと言って遣れ!


 心中で喝采の声をあげるが、そこに周囲の声が届く。


「でも、氷の女王とホンゴウって、割と似合ってるかも?」


「どこがだよ!」


「どちらも最強だろ? 片やエースドライバー、片や首席ナビゲーターだろ」


「まあ、それは否定できんな」


 お似合いと着た途端、般若の様相が一気に柔和にゅうわなものとなる。

 かなりご満悦の様子だ。


「し、仕方ないわね。これからは気を付けてね」


「ちっ!」


 上機嫌となったクラリッサはあからさまに態度を変える。

 それが気に入らなかったのだろう。逆にカティーシャがしかめ面で舌打ちをした。


 こんな調子でどこに行っても、拓哉達の噂で持ちきりなのだ。

 その対象は、拓哉やクラリッサだけではなく、カティーシャやリディアル、彼の同郷の仲間達もターゲットになっていた。


「やっぱり、噂されるって落ち着かないわね」


 キャスリンが周囲の視線を気にしながらボソリとこぼすと、隣で食事を摂っていたティートが、可愛い見た目とは裏腹に、男勝りな言葉遣いでたしめた。


「なにおろおろしてんだ。胸を張ってろ!」


「ちょっ、ちょっと、それって嫌味なの!」


 どうやら、その台詞はキャスリンのかんさわったらしい。

 なんてったって、男勝りな割にはティートの胸が大きく、キャスリンは……お察しだ。

 胸に劣等感を持っているキャスリンが憤慨するのも当然だろう。

 すると、それを聞いていたメイファが、呆れた顔で鋭い指摘を入れる。


「そないな話をしとると、貧乳が噂になんで」


「ちょっ! メイまでなによ! あなただって似たようなものじゃない」


 慌てて胸を抑えながら、キャスリンが食って掛かるが、横から眠そうにしながらも食事をしていたルーミーがダメ出しを入れる。


「だって、事実だもの」


 そう、寝る子は育つのか、幼女ぽい容姿をしているものの、ルーミーの胸は大きかった。









 結局の処、選抜のメンバーについては校長の思惑通りに進んでいる。

 というのも、噂話にもなっていた反乱分子の捕獲が拓哉達の手によるもの。という事実と、選抜戦における拓哉達の戦いぶりが突出していたという理由からだ。


 そういえば、あのラッセルの事件だが、その後はサラッと解決した。

 なにしろ、拓哉が展開した――してしまった障壁。それと、その産物――サイキック防止システム故障のお蔭で、向こうの銃弾は届かず、こちらからの攻撃はやりたい放題となってしまったのだ。

 ラッセルを始めとして、拓哉達を半円状に囲んでいた兵士達は、誰もが痛い想いをしたはずだ。

 というのも、拓哉以外の面々が喜々として宙に浮いた弾丸を、容赦なく撃ち返していたからだ。

 その光景たるや、蹂躙と呼んで差し支えないほどだった。

 ララカリアなんて、「ひゃっは~」と言わんばかりの勢いで、射ち捲っていた。

 さすがにその蹂躙劇があまりにも哀れで、思わず「もうやめたげて~!」と言いたくなるほどだったが、それを実際に口にする頃には、終焉が訪れていた。

 という訳で、あっという間の逆転劇が終了した。

 片付けについても、目の前に転がって呻く兵士を横目にしつつ、キャリックが衛兵を呼び出すと、すみやかに全員が連行されていった。

 実際、恐ろしいほどの蹂躙劇だったが、死人は出ていない。

 奴等が身につけていた戦闘服には、当然ながら防弾機能が備わっているのだ。

 それに、奴等を打倒した者達も、命を取ることまでは考えなかったのだろう。血を流している者もいたが、大した怪我ではないだろう。

 ただ、そんな中、最後まで抵抗していたラッセルが、拓哉に向かってわめき散らしていた。


「お前はいったい何なんだ! 悪魔か! それとも疫病神か!」


 その言葉を聞いた途端、不満を抱く拓哉を差し置き、クラリッサが激高してリカルラ張りの辛辣しんらつな言葉を投げつけた。


「自分が愚かなだけなのに、他人の所為にするなんて、知性の欠片もないのですね。というか、よくそんな知能でこれまで副校長なんてできたものです。でもまあ、好きに呼ぶといいでしょう。彼は私にとっての救世主であり、あなたにとっては終焉を呼ぶ者なのですから。ただ、それもそれほど長いことでないと思います」


「くそっ! 地獄に落ちろ!」


 クラリッサが毒を浴びせつつも、暗に命が長くないことを告げると、ボーアンが罵声を吐く。

 次の瞬間、奴の首が吹き飛ぶかのように跳ね上がる。


「ぐがっ!」


「お前が地獄に落ちろよ! くそゴミが!」


 どうやったかは知らないが、ララカリアのサイキックが炸裂したのだ。

 まるで強烈な蹴りを食らったかのように、奴は気を失って白目をいていた。どうやら、その攻撃で意識を手離したようだ。

 すると、慌てたキャリックがララカリアを窘める。


「お、おい! 殺していないだろうな! 奴にはまだ聞くことが沢山あるんだ」


「大丈夫、大丈夫! ちゃんと手を抜いてるよ」


 彼女は手をヒラヒラと振りながら軽く応対するのだが、今度はキャリックが違う話を持ちだした。


「さて、これから忙しくなるぞ。ララ、例の奴が明日には届くからな。頼むぞ」


 ――ん? 例の奴? それってなんだろ……なんか気になる。


 それが何の話かは、さっぱりだったのだが、ララカリアは直ぐにすっ惚けていた表情を真剣なものにかえた。


「どっちだ?」


 キャリックは、肩を竦めつつ頬を掻きながら口を開く。


「量産」


「ちっ! もっと頑張らせろよ」


 キャリックの言葉を聞いて、ララカリアが毒づくと、なぜかクーガーが頭をさげた。


「すみません。色々と込み合っていて」


 ララカリアはもう一度舌打ちをすると、嘆息たんそくしつつも頷いた。


「しゃ~ね~な。解ったよ。任せな。完璧に仕上げてやる。その代わり、例のも急げよ!」


 拓哉を含め一回生の誰もがその会話に首を傾げる中、ララカリアから発せられた不気味な笑い声が、空気を締め出すかのように校長室を満たしたのだった。



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