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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
72/233

69 未来の旦那様

2019/1/15 見直し済み


 クラリッサとの幸せなひと時が、一瞬にして失われた。

 ラブシーンをデバガメ隊から阻止そしされたあと、公認の二人はしばらいさかいを起していたのだが、拓哉は他人の振りをして、遅れてやってきたリディアルに声をかけた。


「悪かったな。話の最中に」


 クラリッサを追いかけて出て行ったことを詫びるのだが、リディアルは申し訳なさそうな表情で頬をきつつ、逆に謝ってきた。


「いや、オレ達の方こそ、黙っていてすまん」


 その言葉で、彼等がミクストルのメンバだったことを思い出す。


 ――そういえば、その辺りの話を全く聞いてなかったな。この際だから聞いてみるか。


 彼等が黙っていたことに対して、怒りや反感を持った訳ではない。少なからず不満を感じたものの、容易く他人に話せる話でないことも理解していた。

 ただ、ここまでくれば、何も知らないのはさすがに気持ちが悪かった。

 リディアルもいまさら隠す必要がなくなったのか、スラスラと話し始めた。


「オレ達が同じ施設からきてるのは本当だし、生まれ育った故郷も同じなのは嘘じゃないんだ。オレ達は全員が近所に住んでいた幼馴染でな。オレ達の住んでいた街が襲われた時、保育施設に居たお蔭で運良く助かったんだ――」


 リディアルは事の起こりから細かに話してくれた。

 彼等のいた街は、校長となる前のキャリック駐在していた街だった。ヒュームの襲撃の際にキャリックが指揮する隊によって彼等は助けられた。

 ただ、残念なことに、その街には、既に守り切ることができるほどの戦力が残っておらず、む無く撤退となったのだ。

 その際に、キャリックから色々と便宜べんぎを図ってもらっていた。

 それ故に、彼等はキャリックに恩義を感じているし、力になりたいと考えていた。

 リディアルが懇切丁寧に事情を話していると、途中からキャスリンが話に割って入る。


「クラリッサ。あの~、少し、少しでいいから、あたしの話を聞いて欲しいんです」


 キャスリンが真剣な表情でそういうと、カティーシャと未だいがみ合っていたクラリッサが、視線を彼女に向けて頷いた。


「いいわよ。それで話とは?」


 カティーシャに向けていた般若の形相を仕舞い込み、キャスリンに優しくそう言う。

 しかし、先程までの烈火の様相を思い起こしたのか、キャスリンは恐る恐る話し始めた。


「じ、実を言うと、あたしも大好きだった両親を奪ったヒュームが憎かった。殺せるものなら皆殺しにしたいと思ってたの……でも、あたし達を助けてくれたのもヒュームだったの……」


 始めは冷静に聞いていたクラリッサも、ヒュームに助けられたと聞いて瞳を大きく見開いた。

 ただ、その経緯が理解できなかったのか、ゆっくりと目を細めた。


「そ、それは、どういうことかしら」


 キャスリンは一つ頷いてから話を続ける。


「あたし達が預けられていた保育所は、沢山のヒュームが保育士として勤めていたのよ。でも、あの戦いで彼女達はあたし達を助けるために命を落としてしまった。きっと、彼女達が居なければ、今のあたし達はなかったと思う。だから、憎もうにも憎めないの」


 ヒュームが悪い訳ではなく、人間であろうがヒュームであろうが、それにかかわらず、悪は悪だし、善は善だと、彼女はそう言いたいのだ。


 ――そんな裏話があったとは知らなかったな。それが本当なら、校長の考えに賛同してもおかしくはない。


 拓哉は納得したのか、直ぐに頷きそうになるが、視線をこっそりとクラリッサに向けた。

 キャスリンの話を聞き終わり、クラリッサは物思いにふけっていた。

 しかし、続けざまにメイファが話し始めた。


「それで、あとから教えてもらったんや。うち達の都市の情報を流したのが、あの純潔の絆だって。うちはヒュームより奴等が許せへんのや」


 ――ん? そ、それはどういうことだ? まさか、人間同士の策略も起こっているということか?


 拓哉はメイファの話に疑問を抱く。クラリッサも同じ気持ちだったのか、すぐさまそれに付いて言及する。


「それはどういうことなの? なぜ、純潔の絆がそんなことを? 人間同士が争っている場合ではないはずよ?」


 まるで、拓哉の気持ちを代弁するかのようなクラリッサの質問に、普段とは違って真面目な表情となったトルドが答える。


「オレ等の街は、旧ミドラア国の主要都市にあったからな。奴等からすると目の上のコブだったのだろうさ。当時はそんなことなんて、思いもしなかったけどな」


 途中から顔をしかめたトルドが吐き捨てる。その態度が気に入らないのか、レスガルは顔を顰めるが、淡々と想いを口にした。


「後で聞いた話ですが、実は亡くなった多くの人々は、ヒュームではなく、同じ人間によって殺されたらしいです。特に特権階級の人間は根絶やしにされたとのことでした。結局、純潔の絆は、建前上、ヒュームを根絶やしにするとうたってますが、自分達がこの世界を支配するために、ヒュームの反乱を利用しているとしか思えないのです。なぜなら、確かにヒュームは我々よりも頭脳明晰ずのうめいせきで判断力があり、運動能力や身体能力が高いですが、その絶対数が少な過ぎるが故に、人類側が総力戦をかければ負けるはずがないのです。ですが、この国はそうしない。グズグズと無駄な消耗戦のみを行い、ヒュームに対して決定打を与えようとしないのです」


 レスガルの固く握られた拳がワナワナと震える。

 そんなレスガルの肩を、ティートがタッチ交代と言わんばかりに叩く。


「軍の上層部でごねてる奴がいるのさ。どの派閥かなんて言わなくても分かるだろ? そうさ、旧ビトニア連邦の派閥だ。奴等はわざと長引かせたいんだ。その間にラルカスやミドラアの要人を始末したいのさ。いや、始末させたいのさ。ヒュームの手によってな」


 ここまで聞いて、呆れずにはいられなかった。

 自分の聞いていた話とは、全く違ったからだ。

 拓哉の知っている話では、ヒュームが自分達の世界を作るために、この世界の人間を滅亡させようとしているという話だった。ところが、ふたを開けてみれば、結局は人間同士の争いということなのだ。

 その想いは、クラリッサも同様だったようだ。ただ、彼女には彼女の想いがある。


「そんなことがあり得るの? でも、私の両親はヒュームに殺されたわ。それも朱い死神の手によって。それも人間側の策略だというの?」


 やや感情的になったクラリッサがそう吐き出すと、カティーシャがあたかも調べ尽くしたかのように説明を始めた。


「クラリッサの住んでいた街は、確かティノアだよね。旧ラルカス連合国の三大都市の一つだね。そこには何があったのかな? 確か科学研究所と防衛拠点、十大財閥の一つであるメッスルの本拠。メッスル財閥はラルカス連合の中枢だった。父からは、それがターゲットだったのではいかと聞いているよ」


 クラリッサの表情を凍り付く。

 凍り付きもするだろう。彼女にとって、それは衝撃的な事実だった。

 そう考えると、カティーシャの物言いは、いささか冷たいような気がするが、いまさらそれを言っても手遅れだ。

 拓哉は一瞬だけカティーシャに不満げな表情をむけるが、直ぐにクラリッサへと視線を移した。


「く、クラレ、大丈夫か?」


 カティーシャの冷血な態度に憤りを覚えながらも、衝撃の事実で固まっているクラリッサのそばに近寄る。

 すると、彼女は拓哉の上着に手を伸ばしてきた。


「こんなことって……こんなことってあり得るの? 酷すぎるわ……同じ人類の策略で都市を滅亡されたなんて……両親を殺されたなんて……」


 彼女は拓哉の上着を硬く握り締め、震える声でそう呟く。


 ――なんて答えれば良いのだろうか……口を開けば、また空気の読めない台詞が出てきそうだ。でも……放っても置けない……


 拓哉は悩んだ末に、地球での話を口にした。


「クラレ。俺は戦争で両親を亡くした訳ではないし、家族はみんな健在だ。だから、お前の気持ちが分るなんて到底言えない。ただ、俺の居た世界の話を少しだけ聞いてくれ」


 そこまで話してクラリッサを見詰める。

 彼女は神妙しんみょうな表情で黙ったまま頷いた。

 それを見て、拓哉も頷きを返した。


「俺の住んでいた日本という国は平和だった。それでも人間同士が争い、時として人が人を死に至らしめていたりしていた。その原因は、思想であったり、利益であったり、欲であったり、憎しみであったり、様々だ。結局、争いに種族の違いは関係ないんだろうな。って、こんな話がしたかった訳じゃなくて……えっと……俺が思うのは、憎しみは憎しみしか生まないということだ。誰かを殺せば、殺された人間を大切に想う者から怨まれるから……えっと……だから……要はあれだ、憎しみの気持ちで戦ってはダメなんだと思うんだ……」


 上手く想いを伝えることができずにヤキモキしていると、クラリッサはプフッと吹き出したかと思うと、クスクスと笑い始めた。


「ふふふっ。タクヤ、カッコ悪いわよ? そこはビシッと決めるところよ?」


「すまん……上手く言葉にできなくて……」


 笑顔を見せるクラリッサからのツッコミに、拓哉は頭を掻きながら謝る。

 しかし、彼女は首を横に振った。


「でも、タクヤの言いたいことは、なんとなく伝わったわ。そうね。人間が正義で、ヒュームだから悪なんてことはないわよね」


「そう、そうだな。そうだよ!」


 拓哉の言葉はお世辞にも分かりやすいものではなかった。いや、どちらかといえば稚拙だろう。

 それでも、クラリッサは理解したようだった。

 彼女の心情を考えると、そんなに簡単なことではないはずだ。しかし、彼女は拓哉に満面の笑みを向けた。

 それが嬉しくて、拓哉は思わず決意する。そう、彼女の笑顔を絶やさないためにも、自分にできることをやりたいと感じたのだ。


「よし、俺は決めたぞ。校長の手助けをするぞ。クラレやみんなのような悲しい人間を増やさないためにも、この世界のためになんて大仰なことは口にできないけど、なんでもいい。俺のできることをやる」


 拓哉はいま感じているありのままの気持ちを口にした。

 すると、クラリッサが嬉しそうに抱き着いた。


「仕方ないわね。未来の旦那様がそういうのなら、私も頑張るしかないわ」


 ――おっ! 旦那様だってよ~ん。ちょっと、いや、かなり嬉しいかも……


「ちょっ、ちょっと待ってよ! なに勝手に旦那様なんて呼んでるのさ! タクもなに鼻の下を伸ばしてるの!」


 自分の顔を見ることのできない拓哉は、猛然と苦言を吐き出すカティーシャを前にして、思わず鼻の下を指でなぞるのだった。


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