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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
7/233

04 転移

2018/12/24 見直し済み


 周囲からは怪訝な視線を向けられ、後方からは、親友の何処に行くのだという叫び声が聞こえてくる。

 だが、こうなったら後には引けない。

 それが、例え遅刻する事になろうとも、親友から訝しげな視線を向けられようとも、間違いなく職員室に呼ばれる事になろうともだ。

 拓哉にとっては、クラリッサのことが気になって仕方ないのだ。

 別に惚れたとか、好きになったとか、そんなロマンティックな話ではない。

 ただ、拓哉は無性に心をざわつかせていた。


 ――それにしても、どこに行くつもりだ?


 直走るクラリッサは、目的地もなく闇雲に走っていた。

 単に、ゆっくり話のできる場所を求めていた。

 それを察したのか、拓哉は足を止めて彼女に話しかける。


「話があるのなら、近くに公園があるから、そこの方がいいんじゃないか?」


 拓哉が足を止めたことで、怪訝な表情をみせたクラリッサだが、その言葉を聞いてコクリと頷いた。


「分ったわ。そこで話しましょう」


 クラリッサの返事で、拓哉は確信する。そう、彼女の言葉と口の動きが一致していないことを。


 ――やっぱりだ。どうなってんだ? 話している言葉は日本語に聞こえるんだが、口の動きがおかしいよな。まさか、なんとかコンニャクじゃないだろうし……


 全く見当もつかず、ついバカな考えを浮かべてしまい、思考のを止めてしまう。

 悩んでも意味がない。彼女に直接尋ねた方が早いのだ。

 そんな訳で、今度は拓哉が彼女の手を引き、近くの公園へと誘ったのだが、それが騒動の始まりになるとは思ってもいなかった。






 学校から一番近い公園は、歩いて三百メートルくらいのところにある。

 その途中は、ビルと呼んで良いのか疑問が残る三、四階建ての建物が並び、民家よりも事務所が多い街並みとなっている。

 そんな道を、拓哉に手を引かれて歩いていたクラリッサの脚が止まった。

 その反応に、疑問を持つことももない。なぜなら、地面が揺れはじめたからだ。


「また地震かよ……」


 そう、地震だった。東京では然して珍しくもない現象なのだが、クラリッサにとっては違ったらしい。


「えっ、なにこれ、地面が揺れているわ。何が起こるの?」


「ん? 地震だよ」


 疑問を抱きつつも、地震慣れしている拓哉が、慌てふためく彼女にサラリと答えた。

 ところが、彼女は更に驚いた表情で、拓哉を見詰める。


「なに、地震って……どうしてそんなに冷静でいられるの。地面が揺れているのよ?」


 クラリッサは地震を知らなかった。

 これだけ日本語が話せて地震を知らないというのは、その時点でかなり異質だ。


 ――いや、それよりも、この地震の方が異質かも……


「やばっ、これはデカいのがきたみたいだ」


 揺れ始めて暫くすると、一際大きな揺れに変わった。

 その異様な揺れは、地震に慣れている拓哉にとっても、さすがに初めての体験だった。

 しかし、地震大国日本の真骨頂はここで発揮される。

 慌てることなく、直ぐに安全な場所を視認し、彼女をそこまで連れて行くことを判断する。


「こっちだ」


 そう言うが早いか、彼女の手を引いて脚を踏みだす。いや、そうしようとした時だった。


「ダメ!」


 クラリッサの手に引っ張られてしまう。

 その力は、とても少女の力だとは思えないもので、拓哉を簡単に引き寄せるものだった。

 その時の拓哉は、火事場のバカ力だとばかりに思っていたのだが、それは将来的に誤解だと知ることになるのだが、現在の問題は、彼女が目の当たりにした巨大な看板だ。


挿絵(By みてみん)



「えっ!?」


 クラリッサの視線を辿った拓哉が顔を引き攣らせる。

 二人の頭上に巨大な看板が降ってきたのだ。

 それはビルの屋上に建てられたものだが、予想以上の地震の揺れで倒壊したのだ。


「ぐあっ、これは……」


 それはデカいのだ。何処へ逃げ出そうとしても、このタイミングでは間に合わないと思えるほどにデカいのだ。

 逃げ場がないと感じた途端、拓哉の感覚が研ぎ澄まされる。

 まるで時が止まったかのような感覚だ。

 この最悪の状況を、どうすれば回避できるのかを瞬時に理解する。


「きゃっ」


 すぐさまクラリッサを抱き上げ、頭に浮かんだ通りの行動を執る。

 恐怖に凍り付いていた彼女は、抱き上げられたことで可愛い悲鳴をあげる。

 ただ、その紫の瞳は、看板ではなく拓哉に向けられている。しかし、今の拓哉にそれを気にする余裕はない。

 即座にアスファルトを蹴り、看板を紙一重で避ける動作を執ったのだが……


「強制帰還!」


 胸に抱くクラリッサが意味の解らない言葉を発した。

 次の瞬間には視界が歪み始める。


 ――なんだ、これ……


 何が起こったのかすら解らない状況で、全ての景色がネジ曲がって見えた。

 目に映るものが歪んでいくと、拓哉の精神が悲鳴を上げ始める。いや、精神だけではない。身体も異常を訴え始める。

 目からは涙が流れ、胃からは姉が作ってくれた朝食が込み上がってくる。

 そんな不快感に耐えられず、思わず膝を突いてしまう。


 ――何が起こってるんだ? 地震で看板が落ちてきただけだったはずだが……


 看板が落ちてくることが、「だけ」と言えるかどうかは疑問だが、地震と看板ではこんな異常が起こるはずがない。

 疑問を抱きながらも、目の前に倒れているクラリッサに視線を向ける。彼女も同じように苦しみもがいている。

 その時、彼女の言葉が少しだけ聞こえてきたような気がする。


「ご、ご、ごめ、ん、んなさい」


 既にアスファルトですらない地面をのたうち回りながら、彼女は謝罪の言葉を口にしたのだ。

 そして、それを最後に、拓哉の意識が遠退いていく。

 最後に、以前にも起きた事があるような不快な感覚を不思議に感じながら、拓哉は意識を手放した。







 どれくらい意識を失っていたのだろうか。

 覚醒した拓哉が目にしたのは、巨大な看板が落ちた光景でもなければ、アスファルトで固められた地面でもなかった。

 ややくすんだ白い床にグレーの壁。様々な機器が並び、ケーブルが床を縦横無尽に這っていた。

 壁の一辺には巨大なガラスが設置され、その向こうにも部屋があるようだ。人の姿もチラホラと見える。

 そんな世界を透明のカプセルの中から眺めているような状況だった。


 ――ここは……ここはどこだ?


 現在の状況を疑問に思う気持ちに続き、頭が冷静に判断しはじめる。

 少しでも己の置かれた状況を分析しようと、視線を近くに向ける。

 ただ、目で見る情報よりも、肌で感じた現状が思考に入り込む。

 そう、拓哉のすぐそばに紫髪の少女がいた。

 自分の胸を見ると、彼女が撒き散らしたと思われる吐しゃ物や吐血で汚れており、カプセルの中はその臭いが充満しているような気がする。


 ――まさか……生きているみたいだな……良かった。それにしても、これは……


 一瞬、嫌な予感に襲われた拓哉だったが、クラリッサの肌の温もりと鼓動を感じて安堵の息を吐く。

 安堵した拓哉は、カプセルの中から外を見るこの光景に既視感を覚えいた。

 それが何かは思い出せない。ただ、そこでカプセル内の空気が変わるのを感じ取った。

 彼の直感が、それは薬だと告げる。しかし、この状況では逃げ場もなければ、避けることもできない。

 さすがに、異常ともいえる拓哉の頭脳をもってしても、これには諸手を上げてしまう。

 それ故に、甘んじて受け入れるほかなかった。

 こうして全く知らない場所で、拓哉は再び意識を手離すことになった。


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